【急募】ここから助かる方法【死にそう】   作:ラグなロック

4 / 22
前日譚:決めること

あれから時間がさらに進み、季節は秋。

暦は十月に入り、隆文たち大学四年生組は就職活動真っ盛りだった。

これより十数年後。記録的な就職氷河期が訪れるが、今はまだ平穏なものだ。

 

そして。父の実家でついに魔術の手がかりを見つけた隆文は、時間の許す限り翻訳に努めていた。

 

……のだが。ここでまさかの事態が発生した。

 

見つけたときは興奮で細部をよく読んでいなかったが、これらの紙に書かれている言語がロシア語だけではなかった。

ロシア語と分かっている部分なら翻訳は問題なく進んだのだが、書かれていることはほとんど隆文の知識で知っていることばかり。

重要そうなところは全て、隆文の知らない言語で書かれていた。

 

「あーもう! 頼むから言語は統一してくれよご先祖様よぉ!!」

 

自室で椅子に全力で体を預けながら天井を仰ぎ見る隆文。

紙の中には英霊召喚の魔法陣もあったので、これで最低限――の中の最低限――は準備が揃った。

 

あとやるべきは、

 

 

 

1・魔術回路の開放

 

2・触媒の入手

 

3・魔術の習得

 

 

 

大体この3つである。

最初の1については、この未知の言語が解読できればおそらく達成できるだろうという確信がある。

何故なら解読できているロシア語の部分に「魔術の手ほどきをする」というニュアンスの文章が書かれていたから。

ロシア語を使っているということはおそらく公用語にロシア語が入っている可能性が高い。総当たりしていけば聖杯戦争までには間に合うだろう。

 

次に2。これが問題だ。

何しろ今まで一般人として過ごしていて、その手の伝手などまずない。

聖杯の泥を浄化することも考えると、最低でも神代の魔術師クラスの実力者が必要となってくる。

が、そのレベルにもなると触媒無しでの召喚――原作で龍之介が行っていた俗にいう縁召喚で来る確率は極めて低い。

 

そして最後3の魔術の習得だが、これは2が達成されればおそらく自動的にクリアされる。

呼び出したサーヴァント本人に教えを請えばいいのだ。

 

本来魔術は他者に教えるものではない。が、それは西暦以降の魔術師の考え方。

 

神代や西暦以前となるとその考えは薄く。普通に弟子を取る魔術師も少なくない。

勿論現代でもいなくはないだろうが、神秘の濃い時代と比べるとその数は激減する。

 

……というより。教えてもらわないと碌に魔術が使えない魔術師という矛盾塊のような存在が出来上がるだけ。

 

「もー。今から遠坂家に弟子入りでもしてやろうかな」

 

ありえないことを呟きつつ、改めて紙の束に向き直る。

 

「……でもようやく見つけた手掛かりなんだよな」

 

せめてこの言語が何かが分かれば……

 

この時代にはもうインターネットが普及している。

当然。隆文の部屋にもあるが、入力ができないのであれば調べようがない。

部屋で一人唸っていると、あることを思い出す。

 

「ッ、親父の書斎!」

 

部屋から飛び出し、一階にある父親の書斎に一目散に駆けていった。

 

隆文の両親は国外を飛び回っており、ほとんど家にいることはなかった。

幼いころはどちらか片方がいたものだが、中学に上がるころにはそれもめっきり減り身の回りのことは一通りできるようになった。

そのせいか。特に父親の書斎には海外の書物が置かれることが増えていった。

 

もしかしたらその中にこの言語を使っている国があるかもしれない。

 

そう淡い期待を抱いて書斎の扉を半ば強引に開け、中の本片っ端から確認していく。

 

「オーストリア……ルーマニア……いや違う。もっと北だ。ロシア語使ってるならその近郊の国のはず」

 

ロシア語を公用語として使っている国は10ほど存在しており、その中にさらにそれぞれの母国語があるといった具合だ。

そしてそのどれもがロシアと近い。

ならば近隣の国を当たっていけばどこかにあるだろうと踏んだ隆文。

 

「ベラルーシ……ウクライナ……あ、アゼルバイジャンもそうなのか……」

 

いやそんなことはどうでもよくて。

ロシア語を公用語としている国々を全て調べたが、肝心の謎の言語については何も出てこなかった。

万策尽きたか、と思ったが。よくよく考えれば語学の教師くらい大学にいるだろうということを思い出す。

 

……が。即座に断念した。

 

何が書かれているかは分からないが、魔術に関することは間違いない。

そうなれば、神秘の秘匿を第一にしている魔術師たちのお膝元で堂々と神秘漏洩の可能性をしてしまうのはよろしくない。

下手すれば自分諸共。関わった人間が何されるか分かったものではない。

 

「くっそぉ……あと少しだってのに……」

 

まだ一年ある、と捉えるか。もう一年しかないと捉えるべきか。

紙の枚数もそれなりにある。翻訳には時間がかかるだろう。

 

一番確実なのは遠坂か間桐の家に行くことだろう。

特に間桐はキエフ、現在のウクライナ周辺の出身であることが示唆されている。

おそらくこの言語についても何かわかるだろう。

遠坂についても、あれだけ優秀なのだ。何かしらの手がかりが掴めるだろう。

 

……問題は、この二家も聖杯戦争の参加者であり。ほぼ間違いなくこちらが圧倒的な不利になるだろうが。

 

というか間桐の家には死んでも行きたくない。何されるか分かったものじゃない。

 

……せめてアルファベットの読み方が分かればPCで検索かけて一発なのに。

 

嘆いたところで事態は好転しない。

 

「……いや待てよ? アルファベットの一文字くらいなら別に大丈夫、か?」

 

それなら別に見せても問題ない。

紙に同じように写し、それを語学の堪能な教授にでも見せれば何語かわかる。

 

光明得たり、とばかりに早速メモ帳を取り。魔術書を開く。

 

だが、そこには白紙が広がっていた。

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

「はぁっ!?」

 

次のページをめくる。

が、そこにも白紙。

 

白紙、白紙、白紙。

全ての紙が白紙になっていた。

 

「ど、どういうことだ!? だって、さっきまでちゃんと……」

 

書かれていたはず。

それなのに、今は真っ新な状態になっている。

 

……え、これってもしかして……

 

「じ、時限式で消えるとかそういうオチなのか!?」

 

マズイ。隆文は焦る。

流石に内容までは全部覚えきれていない。日本語ならいざ知らず、さほど翻訳されていない外国語の文章、しかもあの量を数か月で全部覚えるのは骨だ。

 

終わった……隆文は床にへたり込む。

 

……マジで、ラストチャンスだったのによお……

 

何でこんな面倒くさいことしてんだよ。ってか日本に来てるんなら日本語に変換しておけよ。

先祖への恨み辛みが口から流れ出てくる。

 

しばらく呆然としている。

それもそうだ。隆文にとってこの魔術書はある意味万能の願望器たる聖杯に等しいものだったのだ。

それが目の前で喪失したとあっては、味わう絶望も計り知れない。

 

深く、長い溜息をつく。

だが時間は待ってはくれない。

震えそうになる膝にどうにか力を入れて立ち上がり、机を見る。

 

「……んぇあ?」

 

我ながら間抜けな声が出た。

 

そこには、あの魔術書が文字がしっかりと書かれた状態でそこにあった。

 

「…………どういうことだってばよ?」

 

手で持ち上げてみても文字が消える様子はない。

捲っても、振り回してみても。依然としてそこに魔術書として存在していた。

 

…………んー? これは。

 

隆文は未だ魔術についてはよくわからない。何なら神秘の気配とかも全く読めない。

だが、この魔術書には何かしらの魔術がかけられていることだけはわかる。

 

おそらく何かしらの意図をもってこの魔術書に触れると文字が消えるようになっているのだろう。

隆文の勘では――そんなものがあるとするならだが――隠蔽系の魔術の一つ。

 

さて。では自分は文字が消える前に何をしようとしていたのか。

 

……えーと。確か書いてある読めないアルファベットを写し取ろうとして……

 

そう考えながら、再び魔術書に触れる。

 

それと同時に、文字が再び消えた。

 

「……うぉい!!」

 

一度手を離すと、再び文字が浮かび上がる。

 

この魔術書。要するに複写などの方法で別の媒体に内容を記そうとすると文字が見えなくなる術式がかけられているようだった。

 

他者を頼ることなく自力で切り開け、ということなのだろうか。

 

「そりゃないぜご先祖様よ……」

 

ある意味魔術師として自己の神秘の秘匿をしているといえばそうなのだが。

ともかくこれで誰かに見せて翻訳という手段は取れなくなった。

 

……まあ。下手に他人を巻き込むよりかはいいか。

 

もうしばらく父の書斎でヒントを探した方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

あれから一気に夜になる。

父親の書斎で片端から海外の言語で書かれた本を見ていったが、結局見つからなかった。

 

「……親父。まだ行ったことがない国だったかな」

 

魔術書で翻訳できたところは魔術師としての心構えだったり、魔術とはどういうものだったりと基本的なことしか書いておらず、魔術回路の開き方やどういった魔術が使えるだとかの実践的なものは分からずじまい。

 

これ以上探しても何も見つからないし、隆文の体は空腹を訴えていた。

 

「……飯、食うか」

 

適度に本を片付けて、書斎を後にする。

 

 

 

その瞬間。家のインターフォンが鳴る。

 

 

 

「……ッ!」

 

一気に体が強張る。静かに息を吐く。

最近はずっとこうだ。

 

外に出れば人の視線を過敏に感じてしまう。

 

あらゆる音を聞き逃さないように神経を尖らせる。

 

家ではカギを全て閉め、一歩も出ないこともザラになってきている。

流石に気にしすぎ、と思うだろうが。命を狙われているという状況下では隆文の反応もむべなるかなという具合だ。

 

ゆっくりと玄関に向かいながら時間を確認する。

 

……夜八時。こんな時間に誰だ?

 

大学の友人たちかと思ったが、それならそれで連絡の一つくらい寄越すはず。

そうでないなら、いったい誰が――――

 

 

 

『……あれ? もしかして寝てるのか? おーい隆文。開けておくれー』

 

 

 

そんな声が玄関から聞こえてきた。それと同時に、滅茶苦茶リズミカルにインターフォンを連打し始めた。

それと同時に、全身の力が抜けてきた。

 

隆文は頭を掻きながら玄関に駆け寄りカギとチェーンを外して外にいるであろう人物を迎え入れる。

 

「お、なーんだ起きてるじゃないか」

「帰ってくるときは連絡くれよ――親父」

 

そこにいたのは、やや派手めのスーツを着て笑顔で隆文に手を振る実父。間宮幸太郎がいた。

 

中に入ると――無論カギはかける――急いで幸太郎はリビングへと向かい、ソファにどっかりと腰を下ろした。

 

「いやあ疲れた疲れた! 今回は季節もあって寒かったなあ!!」

「スーツケースに未だに溶けない霜が降りてるのは気のせいか?」

「ああ。今回は陸路帰りだからね。北を経由して帰ってきたんだ」

 

だからって霜が溶けてないのはおかしいだろ。

疑問に思う隆文だったが、いつも通りかと考えることを辞めた。

 

何しろ昔から色々とおかしいのだ。

 

仕事でアメリカにいると言った次の日にはエジプトで交渉をしていると言っていたり。

 

未開のジャングルで謎の獣と闘い、勝利したと思ったら一か月ほど謎の部族の長になっていたとか。

 

イギリスで商談があると電話越しに話していたらテロに巻き込まれて、なぜか無事に商談を成立させていたり。

 

正直。魔術師なんじゃないかと最近は疑っているが、真相は分からないままだ。

 

当の幸太郎はスーツケースの中身を出して隆文に渡していた。

 

「ほい。これお土産」

 

缶詰だった。

海外産なのは言うまでもないが、海外の言葉に疎い隆文でもわかる。

 

「シュールストレミングなんか持って帰ってくるんじゃねえよ!? よく税関通ったな!?」

「ハッハッハッ。何言ってる。だから陸路で帰ってきたんじゃないか」

「まさかこれのためだけに!? 空路捨ててまで!?」

「息子への愛だ!!」

 

テロの間違いだろ。

ちなみにこのシュールストレミングという缶詰。缶に詰められた状態でも発酵が進むとかいう噂があり、今にもはちきれんばかりに膨れ上がっている。

そして一度ついた臭いは落とすのが非常に困難でもある。

ちなみに味はマズイ。

 

「それならほら。これはどうだ? サルミアッキだ!」

「さては俺を芸人か何かと勘違いしてやがるな?」

「何を言うか。現地では通貨の代わりにもなるんだぞ」

「秒ももたない嘘つくの止めろ」

「ならこれはどうだ? 謎の石碑にパワーストーンに……」

「ああもうまた変なの掴まされたな……ってかこの石碑は持ち出していいやつなのかよ。ってかいくらだこれ」

「さあ? 確か日本円で300万とか言っていたかな」

「選べ。買った国の大使館に連絡されるか、母さんに今すぐ謝るか」

 

言うが早いか、幸太郎は即座に電話に向かう。

 

「あ、もしもし弓子さん! うんこっちは元気一杯さ! 隆文も元気でね。それでさー聞いてよ。隆文へのお土産に300万相当の石碑を買ってきたら怒られちゃって。え? 〆るから今すぐカナダに来い? もー寂しがり屋さんなんだから弓子さんは!!」

 

何だこの親無敵か?

おそらくカナダに渡った後の折檻を考えると合掌くらいはしておくかとも思うが、よくよく考えなくても自分で蒔いた種だから別にいっか。

電話が終わると幸太郎はいそいそと荷物を纏める。

 

「っというわけで! 弓子さんが寂しくて寂しくてもう私SHOW・天しちゃう! って言ってたからもう行くよ」

「ゴメン親父一度脳外科か耳鼻科受けてくれ」

「心配してくれるのかい? フッ。だが問題ない! 何故なら私は無敵の大黒柱だから!!」

「ああそうだったな。親父の体見せられるとか拷問でしかないものな」

「羨ましいかい? 父さんの肉体がっ!」

 

冬木の新聞の一面を飾りそうになるのを必死でこらえる。

 

慌ただしくスーツケースに荷物を詰めている父親を見ていると、中からいくつかの本が落ちてきた。

 

……なんだこれ?

 

現地の言葉ばかりで内容はよくわからないが、表紙の絵を見るにおそらく絵本か何かだろう。

 

ふと。その中の一冊に目を惹かれる。

 

そこには、あの魔術書と同じ言語が書かれていたからだ。

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

……これはっ。

 

「親父! この本だけど――」

「お、どうした? 昔父さんが書いたポエム集が欲しくなった?」

「一銭の価値もねえゴミを押し付けてくるな」

 

そうじゃなくて、と幸太郎に本を見せる。

 

「これ、どこで買った本だ?」

「んー…………ああそれか。確かスウェーデン辺りだったかで買ったな。中身は神話だか英雄譚だかを子供の絵本に落とし込んだ奴だ」

「スウェーデン?」

 

うんスウェーデン。

荷物を纏めながら幸太郎は言う。

対して隆文はそれを見ながら思考を纏める。

 

……スウェーデンってロシア語使わない、よな?

 

スウェーデンの公用語はスウェーデン語。

だが近年ではロシア語やウクライナ語を使う者も増えてきている。

流石に隆文もそこまでは知らなかったようだ。

 

と、ここで自分の父が先祖について知っているかどうか試しに聞いてみるかと、隆文は幸太郎に質問する。

 

「そういやさ。今大学の課題で自分の先祖だかについて調べてるんだけどさ。親父のとこのご先祖様ってどっから来たとか分かる?」

「あー。私も昔似たような課題やったなあ」

「え、そうなん? で、ど、どうだった?」

 

んー? といいながらいったん荷物を動かす手を止める。

 

「確か。元々はもっと北の方の土地に住んでたけど、時代が進むにつれて移動していったって話さ」

「何そのキャラバンみたいな生き方……」

 

ビックリだよネ! と陽気に笑いながら幸太郎は話す。

一方で隆文は自分の先祖がそんな渡り鳥のような経緯でこの日本までやってきたことに驚いていた。

 

「明治だか大正の頃……まあ私のお祖母さんの頃にはもう日本の冬木にはいたって話だよ」

「結構、長い歴史があるんだな」

 

隆文は、少しだけ高揚する。

 

魔術というのは年月をかけた分だけ強力になる。

古代の神秘や英霊が強力と言われる所以がそこにある。

 

当然。魔術師も代を重ねた家系が強くなる。

 

もし。自分の中に魔術回路が眠っているなら。例え魔術回路を増やすことを怠っていたとしても、そこそこに強力なものにはなるのではないだろうか。

 

少なくとも。自分の目的である生存と、「冬木の大災害」を食い止めるということを達成できそうなほどに。

 

……希望が見えてきた。

 

あの魔術書の言語の正体もわかった。聖杯戦争まで一年ある。

まだ何とかなる。あの地獄を回避できる。

 

「ああそうだ隆文」

 

私たちと一緒に海外に来ないか?

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

一瞬。隆文の動きが止まる。

 

「……なんでさ?」

 

未来におけるどこかの主人公のような口癖が出てしまった。

幸太郎は何、と話し始める。

 

「お前も来年卒業だろ? 単位は問題ないって聞くし、進路のことも考えるといいんじゃないかなって思ってな」

「あー……実はまだ進路決まってないんだが」

 

本来ならもう決まって動き出している。何なら遅いくらいだ。

現に隆文の友人たちの何人かは既に就職先が決まっているものもいるくらいだ。

 

「うん。まあ正直な話。私も、弓子さんもだけど。かなり自由にやってる。隆文が子供のころからずっとな……まあだからってわけじゃないが。別に、この国に拘らなくていいってことを伝えたかったんだ」

 

働くだけなら他の国でもできるしな。そういって立ち上がり、隆文に向き直る。

 

「私たちは大人で、子供を守ってやらなくちゃいけなかった。だけど、まあ、その……仕事でそういうの放っておいてしまったからな。お前自身、我儘を言う子じゃなかったから」

「そこは別に、気にしてねえよ。生活費送金してくれてるだけでありがたいし」

「ハハハ。まあ、なんだ。将来の選択肢を増やす手伝いがしたい、と受け取ってくれればいいんだ」

 

それと、

 

「別に。世間一般の言う労働に従事することもないぞ」

「親が子供に働くなって言ってるの初めて見たわ」

「働くなとは言ってない。ただ無理な労働はするなというだけさ」

 

さて、と。幸太郎はスーツケースを持つ。

 

「どうする? 今度はカナダまで行くけど。隆文、英語は得意だったろ?」

「まあ、それなりには」

 

幸太郎は、隆文の答えを待っている。

 

おそらく最初からこれが目的で帰国してきたのだろう。

 

はっきり言って、逃げたい。

 

誰だって命懸けの状況から逃げたいものだ。隆文もその例に漏れない。

 

だが、それは最初の頃の話だ。

 

今は――――

 

「あー、悪い親父。もうちょいこっちでやりたいことがあってさ。それが終わるまではこの国からは出られない」

「…………ん、そうか。分かった。まあいつでも連絡してきてくれ」

 

そういうと、スーツケースを持ち玄関へと向かう。

 

「ああそうだ。悪いんだが、私も母さんもあと一年ほどはこっちに帰れそうにないんだ」

「別にいいよ。いつものことだ。もう寂しがる歳でもないしな」

「なあんだ。お父さんちょっと悲しいぞー」

 

そういうと、隆文の頭を優しく撫でる。

 

「じゃ、行ってくる」

「ん、行ってらっしゃい」

 

短い挨拶。だが、今の隆文にはそれで十分だった。

 

閉められる扉。

 

しばらくして、隆文は自分の拳と拳をぶつける。

 

「っし。やるか」

 

聖杯戦争まで、あと一年。




サルミアッキって食べたことないけどそんなにマズイのかな?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。