【急募】ここから助かる方法【死にそう】   作:ラグなロック

5 / 22
前日譚:呼び出すこと

突然だが、魔術師も人間だ。

 

睡眠を取る必要も出てくるし、食事も欠かすことはできない。

無論、それらは魔術である程度カバーができるとはいえ限度がある。というか今日日睡眠も食事も魔術で代用という魔術師は珍しいほどだ。

……中には魔術の探求に没頭したいがために人間を辞めるものもいるが。

 

何が言いたいかというと、彼ら彼女ら魔術師も人間で。普段の生活もあるということだ。

 

純正の魔術師でこれなのだから、つい先日まで一般人だった隆文など言わずもがな。

 

「はー。ごっそさん」

 

律儀に手を合わせて礼をし、食器を下げる。

最近はめっきり外で食べる機会が減ったため、家での自炊が日常になっていた。

 

だが、悲しいかな。せっかく料理の腕が上がってもそれを披露する相手もいなければ身近な親ですら仕事でいないという状況。

まあ大学の友人たちには好評だったのでよしとする。

というより大学を卒業してもなお、たまに(飯をたかりに)くる友人たちは何なんだと、隆文は疑問に思う。

 

食器を洗い終えると、ソファにもたれかかる。

ふと。カレンダーを見る。

 

1995年9月10日。

 

既に聖杯戦争まで二か月を切った。

あの後。徹夜でスウェーデン語を翻訳し、ようやく魔術を習得する段階にまでこぎつけた。

 

初めに魔術回路の有無だったが、こちらは問題なく存在していた。

回路の数は不明だが、もうこの際気にしないことにした。

そもそも回路数が9と明言されているウェイバーでさえ――十全とは言えないが――第四次聖杯戦争を戦い抜けるだけの魔力があったのだ。多少少なくても問題ない。というか文句は言えない。

あるだけ僥倖、というものだ。

 

翻訳し、魔術の習得を始めてからは毎日が魔術の修行だった。

 

魔術回路を励起させ、魔力を生成すると人体には反発により痛みが生じる。

どの程度の痛みなのか不明だったため、正直大分へっぴり腰的な状態で魔術回路を開いたが。

 

……痛み、っつーよりダルさみたいだな。

 

倦怠感のようなものが全身を覆っていた。

勿論ある種の痛覚ではあるのだろうが、この状況でこの程度の痛みで根を上げてはいられなかった。

 

そこからは怒涛の勢いで学んでいった。

 

魔術の知識や基礎的な部分はもちろんのこと。自分の属性や特性。自分の一族が何を得意としてきたか。何をもって根源を目指そうとしていたか。

魔術書を翻訳し、全てを知った隆文。

 

魔術の修練は思いのほか順調だった。

 

翻訳出来てから約半年。魔術の修練で一日の大半を費やした。

おかげで今では大分心に余裕ができていた。

大学も無事に卒業でき、今は市内の飲食店でアルバイトをしながら生活している。

 

残る問題は――――

 

「触媒、どうすっかなあ……」

 

サーヴァントを召喚するための触媒。

現状、それが唯一隆文にはないものだった。

 

今まで一般家庭で過ごしてきた隆文では、過去の偉人や英雄に関連する聖遺物など手に入れる術はない。

よしんばあったとして、それを手に入れるための金銭を揃える手段がない。

 

何しろ魔術世界ではそういった聖遺物は大変貴重な資料でもあり、一つ数百万という単位で取引される。

西暦以前、神代ともなれば下手すれば数億にはなりそうな代物なのだ。伝手があっても簡単に手に入れられるものではない。

 

そう考えると、ギルガメッシュの聖遺物を手に入れた遠坂時臣は伝手も金銭も潤沢にあったのだなと思い知らされる。

時計塔講師であるケイネスも、本来はイスカンダルを召喚する予定だったのをランサー、ディルムッド・オディナに変更した。

どちらも西暦以前の英雄であり、聖遺物一つ手に入れるのも容易ではないだろう。

それをすぐに用意できるあたり、彼の人脈の広さと巨額の資金を伺わせられる。

 

閑話休題(それはさておき)

 

正直な話。触媒無しで挑むには聖杯戦争は厳しすぎる。

なまじ誰が参戦するかを知っているからこそ頭を抱える。

 

 

セイバー。アーサー王伝説の象徴である、アーサー王その人。

 

ランサー。フィオナ騎士団随一の騎士、ディルムッド・オディナ。

 

アーチャー。古代ウルクの王にして世界最古の英雄、ギルガメッシュ。

 

ライダー。マケドニアの征服王、イスカンダル。

 

バーサーカー。同じくアーサー王伝説。円卓の騎士の一人。ランスロット。

 

アサシン。『山の翁』ハサン・サッバーハ。

 

 

全員が全員。世界に名立たる大英雄たちである。(アサシンはその特性上、あまり名が知られてはいけないが)

これら全員を相手にしながら、自身の命を守り、かつ冬木の大災害を起こさないために聖杯を浄化することのできる、魔術師の逸話を持つ英霊を召喚しなければならない。

 

ハッキリ言って可能性はほぼ無いも同然である。

 

……いや。一応考えがあるにはあるけどさあ。

 

隆文は、自分の考えている聖遺物の使用について思う。

 

喚びたい英霊と縁の深いものが聖遺物ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アーサー王ならマーリンやモルガン。ディルムッドならおそらく騎士団団長のフィン・マックールが来ることだろう。

だが、まず自分の敵を増やすようなことなど如何に騎士道精神旺盛のこの二人とはいえ、看過できるはずもないだろう。

 

加えて言えば、アーサー王が呼び出せる魔術師筆頭であるこの二人。

前者は死んでおらず、後者に至っては確実に地雷であることが分かっているため、召喚=死。もしくは傀儡化である。

ディルムッドにしても、生前の因縁がある人物を呼びたくはないだろう。というよりマスターが許さない。

 

ただ。一人だけ可能性がある。

 

ライダー。イスカンダルである。

豪放磊落で、細かいことを気にしない性格の彼ならば協力してくれる可能性も無きにしも非ずだろう。

生前の縁で、かつての部下を呼べるかもしれない。

ただ、

 

……多分。来るのヘファイスティオンだろうなあ。

 

彼の影武者として動いていたといわれている魔術師。ヘファイスティオン。

ただこれには少々問題が存在しており、下手をすれば一気に臨戦状態になる。

ギルガメッシュは端から論外だ。

 

結論として、自前で触媒を用意する必要が出てくる。

 

「いや無理ゲーじゃね?」

 

何だこのご丁寧に全ての道を封殺されている感じ。

隆文は床に寝転がりながら唸る。

 

あと二か月。それで、生死を賭けた戦いが始まってしまう。

 

隆文が召喚する予定のキャスタークラスは、言うなれば事前準備が必須なクラスでもある。

前準備の時間が取れれば取れるほど、対魔力を持った三騎士クラスなどにも対抗できるのだ。

逆に言えば、時間がなければただ蹂躙されるだけのクラスとなる。

多少の例外は存在するが、この際無視する。

 

マジでどうする……? 隆文は悩む。

一応縁召喚で来る可能性に賭けることも吝かではない。が、もし万が一本来のキャスターであるジル・ド・レェ、もしくはそれに近い性格の人物が来たらどうしようかと葛藤している。

だがこのままでは徒に時間だけが過ぎていく。行動は早く起こした方がいい。

 

あれこれ悩んでいると、隆文は徐に立ち上がる。

 

「……倉庫、行くか」

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

隆文は庭にある倉庫に来ていた。

 

倉庫、とは言うが。大きさは最早陶芸家の工房と言っていいだろう。

この中には隆文の両親が世界各地で買ってきた土産物が並べられていた。

 

ありきたりな壺や人形。何処かの部族のものと思わしき仮面。果ては確実にこれ歴史的な遺物では? と思うものまである。

 

……我が親ながら一体何をしているのやら。

 

以前父と母に聞いたことがあるが父の場合は、

 

「ハッハッハッ! 実は父さん。国連の調停員でね。世界各地を飛び回って大戦争を未然に防いでいる正義のヒーローなのさ!! え、具体的には? 駄目だ! 機関に消されてしまうぞ!!」

 

とか言っていた。

 

いや。もうちょっと設定捻れよ。聞いたの中学生くらいだけど流石に嘘だってわかったぞ。というか国連の調停員がアロハシャツで仕事に行くな。

母の場合は、

 

「フッフッフッ。実は母さん、スカウトマンならぬスカウトレディなのよ! 優秀な人材を見つけては私の会社に紹介しているの。え、どんな会社か? 駄目よ! 機関に消されてしまうわ!!」

 

とか言っていた。

 

いや。もうちょっと設定捻れよ。聞いたの高校生くらいだけど流石に嘘だってわかったぞ。というかジャージやスウェットで仕事に行こうとするな。もうちょっとマシな服はないのか。

 

似たもの同士。いやもうあれ性別反転した鏡像か何かだろう。

親の奇天烈な言動を思い返してややげんなりする隆文だったが、歩みは変わらず倉庫の奥へ。

 

通路を抜けた突き当りには、やや広い空きの空間が存在していた。

元々はここにも土産物を飾っておく棚を置く予定だったが、二人の仕事も忙しく。隆文が不要になった土産物を近くのフリーマーケットだったり、バザーだったりに出品していて数も減ったため何も置かれていない空間が誕生したのだ。

 

隆文はその場所を指さし確認をしながら念入りに見ていく。

 

「……よし。スペースは十分。あとは……」

 

タイミングか。

隆文は、この場所で英霊召喚を行おうと考えていた。

 

理由は二つ。

 

一つは、十分なスペースが確保できているということだ。

それならリビングでテーブルなどをどかせばいいだろうが、二つ目の理由のために断念した。

 

二つ目の理由。それは、この所狭しと並べられた土産物だ。

胡散臭いものから、歴史的価値があるのでは? と疑ってしまうほどに古びたものまである。

ここで召喚すれば、何か一つは聖遺物としての役割を果たしてくれるのではという淡い期待だ。

 

……とはいっても。所詮は「無理だろうけど、何かの間違いでワンチャンなってくれないかなー」程度のものなので、本当に隆文の気分を落ち着ける程度のものでしかない。

 

だが心配事が一つある。

 

それは召喚するタイミングだ。

おそらくこの段階で召喚されているのはアサシンだけで、他のクラスは空席のままだろう。

だから早い段階で召喚すると、下手をするとキャスター以外のクラスを呼んでしまう可能性がある。

 

それだけは避けなければならない。

冬木の大災害を防ぐことも重要だが、何より自分の命が優先だ。

自分の知っている知識から外れることは極力避けたい。

 

ただ逆にメリットも存在する。

 

もしキャスタークラスを呼べたのなら、準備期間が与えられることだ。

キャスターのクラスは、いわば待ちの戦術。

時間をかけて自分の陣地を強固なものにしていき、万全の態勢が整ったところで仕掛ける。

陣地戦において、圧倒的なアドバンテージを持つクラス。

例え並のキャスターを召喚したとしても、二か月もあれば相当強固な工房が完成することだろう。

 

隆文は時計を見る。

時刻は午後八時十四分。

 

隆文は、まだ迷っている。

 

もし、キャスター以外が来てしまったら。

 

もし、キャスターが来ても目的を果たせなかったら。

 

様々なもしも(イフ)を考えてしまう。

 

術式もわかっている。召喚陣も覚えた。魔力もある。

けれど……と考えていると、隆文のポケベルが鳴った。

 

「うぉぉい!? な、なんだよ……」

 

完全にビビりすぎである。

そのことを友人たちからも指摘されて、お化け屋敷に連れていかれそうになったこともあるくらい。

断っておくと。隆文は別に怖がりというわけではない。

ホラーはホラーと完全に割り切っているため、その手のおどかしに怯むことはない。

だが自分の命を狙われているとなれば話は別である。

 

ポケットからポケベルを取り出し、内容を確認する。

それは、友人からのメッセージだった。

 

『来週 カラオケ 行こう』

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

「――――――」

 

なんてことはない、友人からの遊びの誘い。

気のいい大学の友人たち。今では社会人だったり実家を継いだり進路が分かれてしまっているが、こうして。時々連絡をくれる。

 

……ああ、クソッ。

 

隆文も、友人に連絡を返す。

 

『しばらく 忙しい また 会おう』

 

ポケベルをポケットにしまう。

 

またこうして、馬鹿話をしたり遊んだりをしながら、穏やかに過ごしていきたい。

そのためにも――――今、自分がやらなくてどうするか。

 

……万が一他のクラスが来たら、その時考えよう。

 

難しいことを考えるより先に、やる。

でなければ待っているのは、ただの地獄だ。

 

隆文は、持っているチョークで英霊召喚の陣を描き始める。

 

本来なら魔術的要素のあるもの――血液や、鋳溶かした宝石。水銀など――で陣を描くのが一般的だが、そんなもの大量に手に入らないのが一般家庭。

血液なら自分の血を増やす魔術を使えばどうにかなりそうだったが、生憎。そんな魔術は覚えていない。

 

それなりに時間をかけて、召喚陣を描き終えた。

 

……大丈夫。召喚の文言も覚えてる。

 

魔力も十分。触媒は……この中のどれかがヒットしてくれることを祈るしかない。

そして、例えどんな英霊が来たとしても。隆文は常に最善を尽くすつもりだ。

 

全ては――――己の世界を守るために。

 

陣の前に立ち、手を伸ばす。

 

覚悟は、もう決まっていた。

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

 

 

――――素に銀と鉄 礎に石と契約の大公

 

 

 

実のところ。英霊召喚にさほど魔力はいらない。

実際に召喚を行うのは大聖杯であり、彼らマスターはサーヴァントがこの現世にいるための要石であればいいのだから。

 

 

 

――――降り立つ風には壁を

 

 

 

魔力が生成され、鈍い痛みが走る。

それと同時に召喚陣が淡く光りだした。

まず、第一段階は成功だろう。

隆文は、続けて詠唱を唱える。

 

 

 

――――四方の門は閉じ 王冠より出で 王国に至る三叉路は循環せよ

 

 

 

光が、さらに強くなる。

 

 

 

――――閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 

 

完全に窓も締め切っているのに、風が吹いてきた。

隆文は気を張りなおす。

 

 

 

――――繰り返す都度に五度 ただ 満たされる刻を破却する

 

 

 

――――告げる

 

 

 

――――汝の身は我が下に 我が命運は汝の剣に

 

 

 

――――聖杯の寄る辺に従い この意 この理に 従うならば応えよ

 

 

 

風がさらに荒々しく吹き、召喚陣の光が眩しく周囲を照らす。

 

 

 

――――誓いを此処に

 

 

 

――――我は常世総ての善と成る者

 

 

 

――――我は常世総ての悪を敷く者

 

 

 

魔力が徐々に持っていかれる。

だが、隆文は決意の篭った瞳で最後の詠唱を唱える。

 

 

 

――――汝 三大の言霊を纏う七天

 

 

 

――――抑止の輪より来たれ 天秤の守り手よ

 

 

 

次の瞬間。召喚陣から目も眩むほどの光と暴風が巻き起こった。

 

 

 

 

 

■■■■■□□□□□

 

白煙が室内に立ち込める。

隆文は若干の虚脱感に全身を襲われながらも、自分の召喚が成功したことを理解した。

これで第二段階も終了。

 

あとは……

 

……頼む。できれば神代系の魔術師であってくれ……!

 

「――――まさか。このような形でこの世に呼ばれることがあろうとは」

 

声が聞こえた。

凛としていて、それでいて涼やか。

カツ、カツ、と靴音を鳴らしながら、隆文近づいてくる。

 

それは、少女だった。

 

全身が真っ白。純白と言っていいほどに、その存在は穢れなき白をしていた。

白の衣を身に纏い、白銀の髪が揺らめく姿はまさに芸術品の様相を呈していた。

唯一色の違うのは、その瞳。

 

黄金の双眸を持った少女は、隆文をしっかりと見据えていた。

 

……綺麗だ。

 

隆文は、思わず聖杯戦争のことを忘れてしまうほどに。目の前の少女に見惚れていた。

 

「――――あの。聞こえていますか?」

「……へぁ? あ、ああスマン! えと……」

 

少女が隆文に近づき問うと、隆文はやっと我に返り、しどろもどろになりながら少女の質問に答える。

 

それが十分だったのかわからないが、少女は一度頷く。

 

「大丈夫です。きちんと魔力経路(パス)は繋がっています」

「そ、そっか……えーっと。君は……?」

「真名は黙秘します。クラスは、キャスターです」

 

少女は淡々と答える。

 

キャスタークラス。

どうやら、お目当てのクラスを引き当てられたようだ。

 

隆文は、緊張の糸が切れたのか。床にへたり込む。

 

……よかったぁ。

 

最終段階もどうやら成功したようだ。

 

少女は、隆文を見下ろしながら再び問う。

 

 

 

 

 

「では改めて――――貴方が、私を召喚した召喚者(マスター)ですか?」

 

ここに。聖杯戦争への参加が完了した。




やあ読者の諸君。私だよ。
皆元気でやってるかい? 

私は最近親知らずが横向きに生えてて絶賛口の中が大激痛の状態だよクソが!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。