ああ他愛なし
他愛なし
冬木市内でサーヴァントが四騎召喚されてから四日が経った。
今日は魔術の特訓は休みにして、夜。隆文とキャスターは自宅のリビングで話し合いをしていた。
その内容は、昨日起こった出来事だ。
遠坂邸にアサシンが侵入し、それをアーチャーが撃退しアサシンが敗退したということについて。
聖杯戦争に早速動きがあったのだ。それも、マスターが一番警戒すべきクラスであるアサシンが一番先に敗けたのだ。
これを機に暗殺を警戒していたマスターたちも一気に動きが活発になるだろう。
……というのは、おそらく使い魔でその光景を見ていた他陣営のマスターたちの考え。
隆文、というより。キャスターの評価は――――
「三文芝居ですね」
一蹴である。
その評価を聞いて苦笑しかできなかった隆文。
それと同時に隆文は
アサシンのクラススキルは「気配遮断」で、それもAランクある。
このスキルを発動させていると、例えサーヴァントでもアサシンを感知するのは困難を極める。
流石のアーチャー……英雄王といえど、その気配を察知するのは難しいはずなのだ。
にも関わらず。アサシンが結界内に入り込んで幾らも経たないうちにアーチャーが出現。これを撃破。
いくら何でも速すぎる。それが隆文とキャスターが抱いた感想だった。
もしこれが邸内侵入だったら分からなかっただろう。だが、あまりにもアサシンがやられるスピードが速すぎる。
とはいえ。これでライダーとランサーの陣営は騙せているのだからある意味有効ではあったのだろう。
「おそらくはアサシンのスキルか宝具……個人的には宝具の方だとは思いますが」
「だろうな。問題は……」
「ええ。まだ暗殺の脅威は去ってないということです」
ただ、
「これでアーチャーとアサシンのマスターが手を組んでいるという線は濃厚ですね。わざとアサシンの一人を失うことで脱落したように見せかけ、アサシンのマスターは教会の保護の中。自由に諜報活動を。そしてその情報はアーチャーのマスターのところに行く」
「他からしたらたまったものじゃないな。前も後ろも同時に警戒しなきゃならないなんてな」
「私からしたら力任せに来る敵の方が好印象ですし対処も楽なんですけどね」
「それはもう
お前本当にキャスターか?
隆文が疑問に思うと、キャスターは目を細めて反論してくる。
「マスター。確かに今回私はキャスターとして呼ばれましたが、本来のクラスは違うものなのですよ」
「あ、そうなの?」
そうです。となぜか胸を張るキャスター。
「魔術も使えなくはないです。何ならそこら辺の魔術師英霊よりずっと高度なものですよ」
「そりゃあ神性入ってるから神代系の魔術なんだろうけど……」
「でもやっぱり白兵戦こそ戦の華です」
「お前やっぱスパルタ人とかだろ」
違います。そう答えるキャスターと同時に、隆文の腹の音が響く。
……そういや今日はまだ飯食ってなかったな。
「飯作るか。キャスターも何か食べるか?」
思わずそう聞いてしまった隆文。
キャスターは怪訝な表情で問う。
「マスター。サーヴァントに食事は不要ですが」
「あー……そりゃそうだけど」
言ってから気づき、そして予想できた答えではある。
別に隆文は食事を摂ってほしいわけではない。ただ、こうして一緒にいるのだから食事も共に取れたらと思っているだけ。
「まああれだ。一人だけ飯食ってるのも落ち着かないから。一緒に食べれくれるとありがたい」
「……まあ、別に減るものではないですから」
そういって隆文と共にキッチンに立つ。
「え、お前料理作れるの?」
「いえ初めてですが?」
ですが、といってキャスターはどこから出したのか。隆文が使っている調理本を取り出す。
「この本に書かれている通りにすればいいのでしょう? 簡単なことです」
「いやまあ確かにその通りなんだけどさ……」
「心配無いですよマスター。給仕の経験はありますので」
ドヤ顔でキャスターは言うが、
……給仕って料理も含まれるんだっけ?
一抹の不安を胸に抱えながら調理を進めていく。
手際よく食材を切りながら、隆文は今後のことを考える。
……最優先は、勿論無事に生き残ることだけど。
自分が生き残りながら、全てのサーヴァントを倒し、そのうえで聖杯を浄化して冬木の大災害を未然に防ぐ。
我ながら何とも無茶なことを考えていると思う。
何しろサーヴァントの中には、全ての英霊に対して弱点をつける宝具を所持しているギルガメッシュがいるのだ。
千里眼、無限の宝具、対界宝具、神性を縛り上げる鎖。
特にこの神性を縛り上げる鎖……『
この鎖に囚われたら最後。令呪による空間転移すらも効かなくなる。
出来ればギルガメッシュはバーサーカー、ランスロットと戦わせて退場を願いたい。
つまり現状優先すべきはバーサーカーの保護。
そのためには――――
……間桐雁夜との接触、かあ。
気が進まない。心の底から隆文はそう思う。
何しろ「あの」間桐だ。
蟲使いの一族であり、御三家の一角。
令呪のシステムを開発した魔術師であるマキリ・ゾォルケン……間桐臟硯が支配している一族だ。
臟硯自身。今回の聖杯戦争に関しては静観を決め込んでいたが、遠坂家から養子に出された桜の救出と聖杯の交換条件を雁夜から提示されてこれを承諾する。
これだけであれば、特に何もしてこないだろうが。如何せん臟硯は身内からして妖怪などと呼ばれるほどに老獪で残忍だ。
こちらから接触するとなれば、間違いなく何かしら手を出してくるだろう。
そうなれば、高々一年程度の修行しかしていない隆文では手も足も出ないだろう。
キャスターに頼るという方法もあるが、その場合。隆文自身が無防備になってしまう。
最善の策としては、こちらから接触はしないでおき。バーサーカー(もしくは雁夜)が無駄な消耗をしそうになったらキャスターに指示を出して上手く撤退してもらうといった方法だろう。
上手くいくだろうか。いや多分何処かしらで何かミスりそう。
それに、考えることはまだある。
自分がキャスターをジル・ド・レェ以外で召喚したということは、未遠川の決戦が行われないということ。
それはつまり。イスカンダルは固有結界を発動せず、ディルムッドの宝具『
つまりセイバー陣営は片手のハンデを背負ったまま戦いを続行しなければならなくなっている。
さらに本来であればジル・ド・レェとそのマスターが凶行を繰り返すことによって、一時戦闘の中断が為されキャスター討伐の命が監督役から下される。
その際に、令呪の一角が褒賞として受け取れる。
その褒賞を受け取りに行ったケイネスが、監督役であり言峰璃正を射殺する。
璃正は最後に、息子である言峰綺礼に預託令呪を託して死亡するが、当の本人はこの後自分の本質に真っ向から向き合い、受け入れ。セイバーのマスターである衛宮切嗣との死合でその令呪をバンバン使うのだ。
ある程度の予想はできるが、おそらく途中から隆文の知識は指標程度にしかならなくなるだろう。
問題が山積みだ。少なくとも。隆文のような一般人上がりの魔術師もどきには荷が重すぎる。
やはりキャスターに頼るほかないか。
「……なあキャスター。今の俺って、魔術師的にはどのくらい出来ると思う?」
「この時代の魔術師の指標が分からないので何とも言えませんが。戦闘、という面で見ればそれほど悪くないかと」
「え、マジで?」
はい。と頷くキャスター。
意外と悪くない評価だった。
とはいえ。ケイネスや時臣のような一流の魔術師には通じないだろうが。
「特に、マスターの魔術特性は面白いですね」
「あー。まあ、俺は正直どう扱えばいいか分かりかねる代物だと思ってるよ」
そういいながら野菜を切る。
隆文の魔術特性は『調和』というものだった。
いやだから何? と思わなくもないが、正直今更特性を把握したところでということである。
というか調和ってなんだ。どういうことなんだ。
ただ魔術属性は中々レアなものを引き当てた。
魔術属性『風』
希少な属性で俗にノウブルとも呼ばれている。
……でも現状。持て余している感じなんだよなあ。
「マスターのここ最近の伸び具合を見ていると、結構いい線行くと思いますよ」
「まあ、俺自身が戦うことになったらそりゃ腹括るしかないけどさあ……」
「大丈夫です。その時は私は後ろから応援していますね」
「ゴメンその時は応援じゃなくて魔術的な支援が欲しい」
我儘ですね?
普通のことですよ?
漫才のようなことを言い合いながら、調理は進んでいった。
出来上がった料理は普通に食べられるものだった。
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料理を食べ終えると、キャスターは話し始める。
「一先ずマスター。今後の方針を」
「あーうん」
とりあえず、
「……いのちだいじに、かな?」
「は――――」
「た、ため息つかれたぞ!? しかも割と長めの!」
冗談です。キャスターは少し笑いながら言う。
「まあ今のマスターでは英霊はおろか他の魔術師にすら勝てませんからね。一般人くらいでしょうか?」
「ぐっ。事実だけどやっぱ心に刺さる……」
それでも。
「鍛錬を止めない姿には、素直に好感が持てます」
「……その、なんだ。落としてから上げるっての止めてくれ。こっちの感情がぐちゃぐちゃになりそう」
そういって机に突っ伏す隆文。
「……正直言って。俺は弱い。キャスターはまあ、殴り合いでも割と行けるかもしれないけど」
「まあ今の私はキャスタークラスということで筋力のステータスが一つ落ちてますから」
「ってことは本来はBランクなのかよ……」
「ええまあ」
とはいえ。とキャスターは立ち上がり窓の近くまで歩く。
今は完全に陽が落ちていて月が明るく辺りを照らしている。
「マスター。本当に
魔術師というのは、自宅=工房である。
工房は自身の魔術の研究の集大成が詰まっており、簡単に外からの侵入を許さない造りになっている。
事実。遠坂邸の魔術結界はアサシンでなければおそらく誰も突破はできないだろうし。ケイネスに至っては最早魔術要塞と言っていいレベルのものを仕立て上げられる。
キャスタークラスのクラススキルに『陣地作成』というものがある。
文字通り。自陣に有利な効果を齎す工房を作ることが出来る。
キャスターの『陣地作成』スキルのランクはA-で、多少のムラっけはあるものの。工房より一回り上の「神殿」クラスのものが作成可能なほどだ。
最も。キャスター曰く「そこまで上等なものは作れない」とのこと。
工房以上神殿未満、といったところだ。
だから自宅に工房を構えない時点で、隆文はほぼ無防備な状態を常に晒しているといっても過言ではない。
だが隆文は頷く。
「ああ。正直この家を工房化したところで他の陣営に目を付けられるだけだし。だったら工房を作らないでおいて、別の場所を「場」として整える時間に充てた方がいい」
「ですが。それだとマスターが危険になりますが」
「あー……そこはそれだ」
今後のことを考えればあの場所に注力したい。隆文はそう考えている。
だが今はキャスターには細かく伝えないでおく。
というより。おそらく言っても信じないだろう。
「それに。あえて工房を作ってないおかげか、アサシンたちもこの場所をスルーしているみたいだしな」
「まあ確かに。魔術師は工房を作るもの、という先入観は中々外せないみたいですからね」
ちなみにこの聖杯戦争中もう一人。資金が足りずに一般人に暗示をかけて泊まり込んでいる魔術師もいるが、割愛する。
とにかく、と隆文は立ち上がる。
「危険は承知。だけどなるべく命は大事に、だ」
「成程。分かりました。そういうことなら、私もとやかく言いません」
ですが、とキャスターは隆文を振り返り、虚空から自身の得物を取り出す。
それは、光り輝く杖のようだった。
「今のままではいけません。せめて魔術師一人に勝つくらいはしてもらいたいものです」
「げっ、今日は休みじゃなかったのかよ……!」
「何言ってるんですか。休んでいる暇はないでしょう?」
「そりゃまあ……あー、分かったよ。どの道時間はいくらあっても足りないんだ」
そういって、隆文とキャスターは魔術の鍛錬に移っていった。
心なしか、二人の表情は笑っていた。
調べたけどこれ赤目の方がいいかもしれない……うーん悩む。
今回は幕間の話みたいな感じで。
それと歯痛くなくなったよ! 親知らずの一つ手前の歯が虫歯になっててそれが痛んでたみたい! 削り取ったら痛みが失せたよチクショウ!!