間桐雁夜は第四次聖杯戦争に参加している魔術師の中では、下から数えた方が早い程の実力しか持ち合わせていない。
間桐の魔術は『蟲』を使い魔として大量に操る使い魔使役の一種。
戦いは数を地で行く。
その蟲も種類は多岐に渡り、偵察用から戦闘用まで幅は広い。
だが雁夜は一年前まで海外を転々とし、フリーのルポライターとして活動していた。
理由は明白。間桐の魔術を心底毛嫌いしているからだ。
己の身を蟲に食わせる。そうすることで、蟲使いの術は手に入る。
だがそれは、彼自身の父であり、五百年の時を生きる妖怪。間桐臟硯の傀儡になることを指していた。
使えなくなった身内は蟲に食わせ、己の糧とする。
現に雁夜の母親も、蟲に食われている。
雁夜は魔術師の家系に生まれながら、その感性は一般人であったのも災いした。
身の毛もよだつほどの悍ましい魔術。それが嫌で兄の鶴野に家督を押し付け出奔。
だが。それでも雁夜は戻った。
理由は明白。養子として、遠坂家の次女である桜を迎え入れたからだ。
かつて雁夜には想い人がいた。
それが今の遠坂時臣の妻である葵。
本当なら彼女に自分の想いを伝えたかったが、己の家に伝わる魔術から彼女を遠ざけるため。そして、自分とは違う生粋の貴族である時臣なら彼女を幸福にできるという、ある種の信頼を寄せて黙って身を引いた。
だが蓋を開けてみればこれだった。
かつて二人で笑い合っていた姉妹は一人欠けてしまった。
故に雁夜は戻ってきた。
あれほど忌み嫌っていた自分の生家に。
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「ハッ……ハァッ……」
雁夜は現在。下水道を通って間桐邸に戻ろうとしていた。
一年前から蟲蔵にて、地獄の責め苦のような調教に耐えてきた精神力だが。如何せん肉体の方が朽ちかけている。
左目はほぼ失明状態。半身は麻痺しているのか、完全に引き摺っている。
だが、それでもこの男は生きていた。
全ては桜と、彼女を地獄に送った遠坂時臣の復讐のために。
(まさかアーサー王がいるとはな。執着があるかもとは思っていたが……)
ここまでとはな。雁夜は一人ごちる。
先ほどの戦い。雁夜は時臣のアーチャーに対してバーサーカーをぶつけた。
結果としては。アーチャーに撤退をさせた。
それもおそらく時臣が令呪を使用して、だ。
雁夜からしてみれば、この状況は上々の戦果だった。
だがここで問題が発生した。
自分のバーサーカー。ランスロットがセイバーを視界に入れた途端、制御を失い襲い掛かろうとしたのだ。
流石にこれ以上の消耗は避けたい雁夜。だが、彼の能力ではバーサーカーを完全に制御することは不可能だった。
故に彼は躊躇いなく令呪を使った。
三回限りの絶対命令権。それが令呪。
それをこの序盤で一画失ってしまうことに悔しさを感じる――――
「……
わけではなかった。
雁夜は割と直線的な性格だ。
ある意味で、間桐の家だと思わせるような性格も度々顔を覗かせる。
だが決して馬鹿ではない。
『呵々。随分な有様よなあ。雁夜よ』
しゃがれた、しかし恐ろしい程の圧を持った声が響いた。
雁夜の目の前に蟲の大群が湧いてきて、一つの人型を象った。
「……何の用だ。臟硯」
それは老人だった。
小さく、痩せぎすの老人で。風が吹けば倒れてしまうのではないかと思うくらいに弱弱しい外見をしていた。
だがその内面は違う。
蟲だ。
間桐臟硯の体は蟲でできている。
体を替えつつ五百年。間桐家の当主として君臨し続けている。
臟硯は軽く笑う。
「おおなんじゃ。可愛い我が子を心配することがそんなに不思議かの?」
「ぬかせ爺。そんなタマじゃないだろうが」
息荒く壁に寄り掛かりながら雁夜は吐き捨てる。
臟硯はそれを聞いて相も変わらず軽く笑う。
「ハッ。碌に己の手駒すら扱いきれぬ未熟者が、よくもまあそこまで吠えられたものよ」
しかも。
「貴重な令呪を一画消費して、のぉ」
「うるさい。これでいいんだよ」
長く息を吐く雁夜。
その右手の令呪は、確かに一画なくなっていた。
だが雁夜は別段焦った様子も、逆上することもなく。たださも当然のように受け入れていた。
「あるんだから使わないと損だろ。それに、アーチャー相手にバーサーカーが有用なのは分かったからな」
「成程な。いや、貴様が遠坂の小倅に挑むと言ったときは修行のしすぎで遂に頭が沸いたかと思ったわい」
「湧くのは蟲だけにしとけ爺。俺の頭は茹だっちゃいない」
本来の歴史の彼であれば、憎悪と贖罪を求めて彷徨う亡霊のような存在になっていただろう。
だが、ここは既に正史とは違う歴史になっている。
間桐雁夜は間桐邸に戻る直前。冷静に自分の状況と今後を分析していた。
臟硯の欲しがるのは聖杯。だがそれには自分はあまりにも無力。
蟲を操れるようになったからといって、その力は臟硯の一割にも及ばないだろう。
ならばと雁夜は、聖杯戦争で桜と引き換えに聖杯を手に入れるために
これには流石に臟硯も驚いた。
だが雁夜の提示したプランにもある一定のメリットがあった。
普段は雁夜がバーサーカーの魔力を消費する。そして、聖杯戦争が終わりそうになった段階で臟硯にその役割を渡す。
臟硯と雁夜では魔力量の差は歴然。最初からバーサーカーの権利を臟硯に渡せば済む話。
雁夜はこれを序盤と中盤まで自分が引き受ける代わりに、臟硯は終盤に向けて魔力を貯蔵しておくことが出来る。
本来なら臟硯は今回の聖杯戦争は見送る予定だった。
何しろ前回の聖杯戦争でアインツベルンが何かやらかしたことを察して、それを見極めるためである。
しかし雁夜は臟硯の聖杯に対する執念も知っていた。
だからこそ雁夜は、臟件の取引の際にこう告げた。
「必ず聖杯を持って帰ってきてやる。だから臟硯。お前も手伝え」
最初は何か馬鹿なと渋っていた臟硯だったが、思いのほか冷静な雁夜を前にして臟硯もいつもの邪悪な笑みをおさめた。
臟硯は過去三回の聖杯戦争に関しては己の準備不足が敗因と考えていた。
事実。最初と二回目は、細かいルール制定や令呪というシステムの開発にかかりきりになったため、碌な事前準備がなされないまま始めてしまったのが原因。
三回目はまだ悪くない方だったが、それでも準備を怠ったと感じる。
故に参加すると決めた四回目である今回は入念に準備を進めていた。
意外にも雁夜自身がバーサーカーを望んだ。
理由としては「デメリットがあるがいざとなれば令呪もある」とのこと。
そして、その令呪についても考えていた。
むしろこれにより、臟硯は今回の参加と雁夜への協力を決めたというほどだ。
雁夜は臟硯に令呪の刻まれた右手を差し出す。
臟硯もまた無言でその手の上に己の手のひらをかざす。
すると。
間桐は令呪のシステムを考案した一族。
ならば。
雁夜はそう考え、臟硯に話を持ち掛けた。
結果は成功。
一年で臟硯が生み出すことに成功した令呪は全部で三画も存在していた。
これで雁夜たち間桐陣営は、他の陣営よりも多くの令呪を有し、戦いを圧倒的に有利に進められることになった。
臟硯は感心したように言う。
「まさか令呪を増やすとはのお。考えおったな雁夜」
「むしろアンタが今まで試さなかったのが驚きだよ。歳食ってボケたか?」
「フンッ。減らず口を叩ける余裕があるなら問題なさそうじゃの」
手にしていた杖で雁夜の脇腹を小突く。
ただそれだけで、雁夜は苦しそうな呻き声を上げる。
雁夜の体は最早子供にすら力で負けるであろう程に弱っている。
だが、そんなことはお構いなしとばかりに臟硯を睨みつける。
「グッ…………それで。これからのことだが」
「しばし様子見でよかろうて。特にセイバーは左手を負傷しておる。今下手にランサーを倒せば万全の状態のセイバーを相手にしなければならぬ」
「それは避けたいところだな……かといってライダー。あれはバーサーカーじゃあどうにもならん。正面から轢き逃げよろしく倒される」
他の陣営を充てるか。
冷静に、雁夜は先ほどの戦場の分析をしていた。
そこに臟硯が問いを挟む。
「時に雁夜よ。未だ姿を見せていないキャスターはどうする? 時間をかければ厄介じゃぞ」
「冬木市のどこかには必ずいるだろ。いない場合は地下に潜っている可能性がある。蟲ならではの物量作戦で探し当てればいい」
雑じゃのう、とある意味では正しい蟲使いの方法に臟硯は若干呆れも混じる。
……まあ、今のところは雁夜の好きにさせるか。
臟硯は内心ほくそ笑む。
臟硯は雁夜の勝利を微塵も信じてはいなかった。
だが雁夜の言うことには確かに一理あったし、今回のことを試金石として色々試してみるのも悪くはなかった。
結果として、令呪の増産というルール違反紛いのことをやってのけた臟硯。
もしこれで負けたとしても、次の聖杯戦争に賭ければいい。
なればこそ。臟硯は今回の第四次聖杯戦争に参加する気になったのだ。
ふと。臟硯は何かの気配を察知したのか、明後日の方向を向く。
「……? どうした臟硯」
「……いや。まあよいわ」
「何がだよ……」
「何。向こうから干渉するならこちらも手を出すが、何もせぬなら態々動くこともないというだけの話じゃ」
何を言っているのか雁夜には分からなかったが、臟硯は相変わらず不敵に笑う。
「
「わかってる。もういい。さっさと帰って寝てろよ」
「おお何という無体な言葉よ。これからが老人の楽しみだというのに」
「……そう思うんなら真っ当な人間として過ごせよ」
返事を待たずに臟硯は消えた。
残された雁夜はしばらく壁にもたれかかっていた。
……時臣。
思い浮かべるは、桜の実の父親である遠坂時臣。
奥歯を噛みしめ拳を握る。
「絶対に……俺が、勝つ……!」
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衛宮切嗣は歴戦の傭兵だ。殺し屋、と言い換えてもいい。
彼は魔術師を専門にして依頼を請け負っている。
その成功率は驚異の100%を誇り、彼の魔の手から逃れた魔術師は一人もいない。
彼は魔術使い。即ち、魔術を根源へと到達ではなく自身の目的のために振るう道具として認識している。
魔術師というものは魔術を至高とするあまり、現代的なものを忌避する傾向が強い。
彼らからしてみれば、有象無象の一般大衆の使う機械などは低俗で。使えばそれは己のレベルの低さを暴露しているようなものである。
だが。衛宮切嗣はそこに付け込む。
彼に魔術師としてのプライドはなく、現代兵器を容赦なく投入する。
魔術でも出来ることは科学でも同じことが再現可能だ。しかも魔術を使用するより遥かにコストパフォーマンス面で優れている。
切嗣は、魔術至上主義の魔術師たちにとっては脅威の存在だ。
何しろ現代兵器を魔術で防ぐには相当のコストがかかる上に、術者自身の力量も高くなくては防げないものが多い。
そして、彼の切り札たる礼装もまた。魔術師相手には最悪の一言だった。
彼は今。冬木のとあるホテルの前にいた。
ホテルの周辺には、ホテルに宿泊していたであろう客が大勢おり。皆一様に不安の表情を浮かべている。
それは、切嗣がホテルマンを暗示にかけて流した「このホテルから火災が発生した」という情報のせいだ。
無論。実際に火災が起きているわけではなく、ただ一般人をホテルから逃がしただけ。
切嗣は、煙草を咥えて火をつける。
煙を燻らせながら、ホテルの上層階を見上げる。
そこには。自分と同じ聖杯戦争の参加者にして、セイバーの左手に治癒不可能の傷をつけたランサー陣営がいる。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。時計塔ではトップクラスの実力者であり、神童と謳われている。
事前情報で彼がホテルのワンフロアを貸し切っていることは把握済み。
おそらく今は、彼の手により要塞の如き魔術工房が完成していることだろう。
だがそれも切嗣の手にかかれば紙屑同然のものだった。
切嗣は持っていた携帯をかける。
相手は、自分の
「舞弥。相手は?」
『三十二階から動きは全くありません。おそらく切嗣の予想通り。こちらが攻め込むものと思って籠城しているようです』
「そうか。分かった」
通話を切る。
人混みから離れて、今度は懐にある別の携帯電話を取り出す。
それは、通常の用途とは違っていて。通話ボタンを押すだけでホテルに仕掛けられた爆弾が一斉起爆する。
いつもと同じだ。切嗣はそう思いながら通話ボタンに手を伸ばす。
『ソレデイイノカ? エミヤキリツグ』
そんな声が聞こえた。
「ッ!?」
瞬時に振り返りながら、魔術による身体強化をかけその場を離れる。
振り返ったその先に人はいない。
切嗣は思考を切り替え、周囲を警戒すると同時に舞弥に再び通話をかける。
「舞弥。そちらに異常はあるか?」
『いいえ。こちらは何も』
「……そうか。舞弥。このままの状態を維持。何かあればすぐに連絡を」
舞弥が了承し通話状態が保たれる。
……おそらく今のは倉庫でケイネスが行っていた声の反響。それを自分にだけ集中させたのか。
それとおそらく変声の魔術。
切嗣は冷静に状況を分析する。
反響のせいで位置の特定は不可能。周囲の人間に聞こえた様子がないことから自分だけを狙っている。
問題は、こちらを見ているのが肉眼なのか。それとも使い魔や遠見の魔術をしようしたものなのかが分からない。
何より、
……まさか。ケイネスは自分の婚約者以外にも協力者を……?
やろうと思えばできるだろう。
彼の生家であるアーチボルト家は九代を継ぐ魔術の名門。伝手はいくらでもあるだろう。
しかし切嗣は、その可能性は低いと考えた。
それはケイネスの性格の問題でもあった。
天才で、幼いころからできないことはなかった。その自負が、一種の傲慢ともいえるほどに肥大化してしまった。
自分ならできる。否、他の者では為し得ない。そう考えているだろう。
婚約者であるソラウを連れてきたのは、おそらく自分と同じだろう。サーヴァントの魔力供給係だ。
このことから、ケイネスの協力者はいない線が濃厚。
では他の陣営か……? 切嗣が思考の海に埋没しかけていると、手に持った起爆用の携帯を何者かに掠め取られた。
「ッ、しまった!」
それは烏だった。
大きな黒い烏は携帯を嘴に咥えながら、切嗣の手の届かないところまで飛んで行ってしまった。
おそらく、他の陣営の使い魔。
ここでようやく切嗣は、ケイネス陣営に味方する別の陣営があるということに思い立った。
アサシンとアーチャーは違う。未だ推測だが、おそらくこの二つは組んでいる。
ライダーも違う。倉庫でのやり取りを見るに、互いに殺し合ってもおかしくないだろう。
バーサーカーは不明。だが間桐雁夜がケイネスに肩入れする事情は薄いだろう。
となると。
……キャスターか。
未だ姿が見えないキャスター陣営。
あらゆる情報網を駆使しても誰がマスターか突き止めることは出来なかった。可能性としては高いだろう。
正面切っての戦闘が苦手故、三騎士クラスは天敵と言える。
だが、その一角であるセイバーは左手を治癒不能にされている。
このまま他の陣営と争わせて最優と呼ばれるセイバーの脱落を狙っているなら、成程。ランサー陣営に味方するのも納得だ。
切嗣はため息をつきながら、舞弥に話しかけようとしたが。先に向こうから話しかけてきた。
『切嗣。申し訳ありません。予備の爆弾のリモコンを烏に奪われました。おそらく使い魔の類かと』
「何? ……いや。そうか」
切嗣は一瞬動揺したが、先ほどの自分の結論から考えてすぐに冷静さを取り戻す。
「おそらくキャスターのものだろう。セイバーの負傷状態を少しでも長く続けさせたいんだろう」
『では我々の位置も?』
「間違いなく把握しているだろうな。舞弥。
了解という言葉を最後に通話が切られた。
……まさかこの方法を使うことになるとは。
煙草を吸い、その煙を吐き出す。
この動作が、切嗣の乱れ切った思考回路を正してくれる。
それと同時に魔術回路を開き、とある魔術を発動する。
瞬間。ホテルに仕掛けていた爆薬が、切嗣の魔力に充てられ一斉に起爆した。
ホテルはすぐに崩壊し、瓦礫の山と化すだろう。
切嗣はその様を見ることなく、無駄だろうと思いながらも。キャスターの目から逃れるために隠蔽に気を使いながらアインツベルンの森へと向かっていった。
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その様子を、ホテルから少し離れたところにある喫茶店の二階席から見ていた隆文はホテルが崩れる様子を見て驚く。
……マジかよ。
隆文は夕方頃からこの近辺で勉強している大学生のように演じ、夜になると同時に使い魔である烏を飛ばし喫茶店の中から様子を窺っていた。
結果として切嗣を見つけられたのでよかったが、起爆スイッチらしきものを押す直前だったので慌てて含みを持たせたようなセリフを遠隔で烏を介して聞かせた。
案の定切嗣は周囲への警戒を最優先にして、起爆スイッチからは手を離した。その隙に烏にリモコンを奪わせる。
問題なのは、もう一羽。周囲の監視用として捕獲しておいた烏だ。
幸か不幸か。舞弥を発見。それと同時に、舞弥の手元に、明らかに連絡用ではない携帯電話が握られていた。
もう一基あったのかと、慌ててその烏にも命じてリモコンの奪取に成功。
これでホテルの爆破は防げた――――と思っていた。
……まさか魔術で遠隔起動するとは思わなかった。
切嗣は現代兵器を使うという思い込みが仇となった。
彼も一応は魔術を習得しているのだ。ならば手段として惜しみなく使うのも当たり前だ。
結果として、ホテルは爆破されてしまった。
隆文的に言えば、ホテルは別になくなっても構わない。
宿泊客は全員無事であることは確認していたし、何ならリスクしかない今回の行動。
それでも隆文を動かしたのは理由がある。
……余計な犠牲は避けたいんだけどな。
別に隆文はケイネスの味方をしているわけではない。
だが同時に。別に死ななくてもいいだろうとも考えている。
彼はこのホテル爆破が原因で、持ってきていた数多の礼装の殆どを失った。
それが原因で彼の家は彼の死後、莫大な負債を背負うことになる。
もっと言えば。ここが無くならなければ、彼がアインツベルンの城に攻め込むこともなかっただろう。
そこで彼は致命的な一撃を受けてしまう。
魔術師としても人間としても。
だが、結局ホテルは爆破され。本来の歴史を辿る事になってしまうだろう。
ここで隆文が出来ることはもうない。
多少の悔しさを胸に抱えながら、隆文は会計を済ませ店を出る。
「……ハァ」
思わずため息が出る。
季節は冬。吐く息も白くなって、空気中に消えていく。
夜道を歩く。
この時期のことを考えると危険極まりないだろうが、本来のキャスター枠が消えているためいくらか余裕を持って外の街を歩くことが出来る。
現に。パトカーや警官の姿はそこまで見かけていない。
先ほどの爆破で何台かすれ違ったりしたが、巡回に出ている車は見かけていない。
「……ん?」
違和感を感じ、ふと足が止まる。
……なんだ? 何を忘れている?
あまりに自然すぎて、何かを見落としている。
喉元まで出ているのに、出てこない。そんなもどかしさを感じる。
……落ち着け。多分、原作関連だ。
努めて冷静に、現状を分析する。
アサシン? いや。確かに脅威ではあるが、今の隆文を見ても一般人にしか見えない。
アーチャー? これも脅威だ。だがそうじゃない。
ランサーやセイバーは違う。ライダーも同じだ。
バーサーカー? 確かに間桐の家に目を付けられるのは厄介だが、そうじゃない。
何か、もっと別の…………
「――――ッ!?」
直後。隆文はその場を飛びのいた。
すると、地面に三本のナイフが刺さった。
「ッ、誰だ!?」
ナイフの飛んできたであろう方向を見る。
すると。
「あれ。おっかしいなあ。絶対にバレないと思ったんだけどなあ。折角
残念。と闇夜の向こう側から誰かが話しながら近づいてくる。
それは軽薄なようで思慮深く。浅薄なようで狡猾な口調だった。
それと同時に。隆文は忘れていた違和感を思い出した。
……ああ、そうだった。
隆文はキャスターを召喚した。
そこはいい。これでジル・ド・レェが召喚され、子供たちの犠牲は減ったのだから。
「ねえねえ。そこのお兄さんもさ。俺と
闇から人が出てきた。
ラフな格好をした、今どきの若者といった具合の風貌。
話し方は飄々としている癖に、肉食獣を思わせる気配。
そして…………隆文と同じ、魔力の気配を感じる。
……何でコイツが魔術使えてるんだよ……!
「だからさ――――ちょっと
笑みを浮かべ大きく腕を広げながら、雨生龍之介は暗闇から姿を現した。
抜歯した後の穴に、食べかすをシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
超! エキサイティンッ!!