仮面ライダー獄王・外伝   作:アカミツ書庫

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 祭囃子に誘われ 君の揺れる髪を追う

 その先にあるのが 夢の先だと信じて

 ※2024年7月に投稿した話の再投稿になります。


夕景の祭

「夏祭り、ですか?」

 

 日課のトレーニングを終えて家に戻ってきた桜井カズキが、そう聞く。

 ソファに座っている東堂健児は一つ頷いてから答える。

 

「ああ、この近くで小さい規模のやつが一つ、少し離れたところで大きめの規模のやつが一つある。どちらもこの週末にやるから、早苗と一緒に行ってくると良い」

「そうだったんですか。去年もやってたのかな」

「一応毎年やってるぞ。まあ、その時のお前は戦いに集中してたから気付かなかったし、俺達も余計なことは言わない方が良いと思って言わなかった」

「なるほど」

 

 カズキはタオルで汗を拭き、キッチンにいる早苗の方を見る。今日は早苗が料理当番の日だった。

 

「なら誘ってみます。おやっさんは行きますか?」

「いや、俺は良いよ。この歳だと人混みに入るだけで参ってしまうからな」

 

 そう言って笑う健児。カズキも軽く笑い返して、キッチンへと向かった。

 キッチンでは東堂早苗が料理に勤しんでいた。香ばしい肉の香りが辺りに広がる。

 その香りを嗅ぎながら、カズキは早苗に声をかける。

 

「ただいま、早苗」

「おかえり、カズキ。夕飯ならまだ出来てないから、先にお風呂済ましちゃって」

「ああ、そうするよ。――それでちょっと話があるんだけど」

「ん、何?」

 

 早苗は手を止めてカズキの方に向き直る。長い髪をポニーテールにまとめて薄いピンクのエプロンを付けている。

 

「さっきおやっさんから聞いたんだけど、週末に夏祭りがあるらしいんだ。良ければ一緒に行かないか?」

「……それって駅前でやってるやつ?」

「そうなのか? そこまでは聞いてなかった」

「…………」

「……早苗?」

 

 早苗は急に無言で黙り込む。カズキは訳が分からず困惑する。

 しばらくすると、早苗は微笑を浮かべて。

 

「――うん、良いわ。一緒に行きましょう。昔行ったことがあるから、色々教えてあげられると思う」

「本当か? 良かった。なら色々レクチャーを頼む」

 

 カズキは笑いながらそう返して、風呂場へと向かっていった。

 その背中を見守ってから、早苗は小さく呟いた。

 

「そろそろちゃんと乗り越えなきゃいけないわよね――」

 

 ★

 

 週末、土曜日。

 雑貨屋『東堂』から程近い場所にある駅前で、年に一度の夏祭りが開かれていた。

 大きな道路の両脇に出店が立ち並び、多くの人々が行き交い、賑わっていた。

 カズキはその道路の入り口、交差点の近くで一人で立っていた。

 道行く人達の邪魔にならないようにしながら、カズキは手に持ったスマホに目を落とす。

 

『浴衣用意して行くから、先に出て待ってて』

『あと少しで着くと思う』

 

 早苗からのメッセージを再確認して、カズキはスマホをしまう。

 カズキも近所でレンタルした黒の浴衣を着ている。だが、早苗は家で用意すると言って、カズキを先に送り出していた。

 壁に背を預けて空を見上げる。夏の夕暮れは淡く橙と水色に染まり、独特の雰囲気を醸し出していた。

 

「カズキ」

 

 右側から声をかけられ、視線を下ろす。

 そこには、緑色の浴衣を身に纏った早苗が立っていた。

 いつもは下ろしている髪は団子に纏めて、口元には目立ちすぎない赤色のリップが塗られている。

 浴衣の方は緑色が主役で、朝顔の柄が散りばめられている。帯は肌色と黄色の間くらいの柔らかい印象を与える。

 手にはカゴ風に作られた小さめの鞄を持ち、指先には桃色のネイルが付けられている。

 普段と異なるその姿は、より一層早苗の持つ美しさを引き立てていると言えるだろう。

 カズキは思わず見惚れて、声も出せなくなった。

 

「……ちょっと、何か言いなさいよ」

 

 目の前まで近付いてきた早苗にそう言われ、カズキは我に返り、慌てて口を開く。

 

「ご、ごめん。その、なんていうか……めちゃくちゃ綺麗で見惚れてた。凄く似合ってるよ」

「……ッ!」

 

 頬を赤くして照れながら言うカズキ。

 その言葉を受けて、早苗も驚いて頬を染める。

 しばらく無言で佇んでいたが、早苗が先に口を開いた。

 

「さ、さあ! 祭りを楽しみに行きましょう! 早くしないと終わっちゃうから!」

「あ、ああ! そうだな!」

 

 そう言うと、二人は並んで会場へと歩き出した。

 

 ★

 

 夏祭り会場は、駅まで続く普通の道路を利用している。

 普段は多くの車両が行き交う道路を通路とし、それを挟む両脇の歩道に様々な出店が並んでいた。一人で来る者、友人で集まる者、家族や恋人と来る者など、多くの人々が集まり、賑わっていた。

 カズキと早苗は、その人混みの中をゆっくりと歩いて行く。

 

「意外と賑わってるんだな」

「この辺りで祭りやってるのが、ここしか無いからね。もう一つの祭りは隣町まで行かないといけないから、ちょっと面倒なのよ」

「そうなのか、規模はそっちの方がデカいから、人も多そうだもんな」

「そうね、こっちの3倍くらいはいるんじゃないかしら。子供の頃に一度だけ連れてってもらったけど、凄い人混みだった記憶だわ」

 

 そんな会話をしながら、二人は歩き続ける。

 特に目的を定めず、人混みを遮らない程度に進んでいく。

 

「やっぱり、子供の頃はよく来てたのか?」

「そうね、母さんが生きてた頃には、三人で毎年来てたかな」

 

 その言葉を聞いて、カズキは思わず立ち止まった。

 早苗は少し寂しそうな表情を浮かべて、話を続ける。

 

「十年前に母さんが死んでからは、こういう行事とかに参加するのも嫌になってた。母さんとの思い出がある所だと、寂しさを抑えきれないような気がして」

 

 そう言いながら、早苗は数歩先に歩く。そしてそこで振り返ると、笑顔を浮かべる。

 

「でも今は、それを乗り越えられる気がする。アンタと出会ってから、色んなことに希望が持てるようになった。それはアンタが、アタシのことを想って支えてくれたから。アンタがアタシの心を救ってくれたから。アンタの戦う姿が、アタシにとっては希望になった」

 

 そこまで言うと、早苗はカズキの元へと戻り、左手を差し出す。

 

「だから、これからもよろしくね。アタシのヒーローさん」

「――それはこっちの台詞だよ、早苗。君のおかげで俺はここまで来れたんだから」

 

 そう言って、カズキは右手でその手を取る。

 二人は手を繋ぎながら、並んで歩き始めた。

 

 ★

 

 夏祭りに立ち並ぶ出店の数々を、二人は満喫していた。

 射的屋では、カズキが戦いで鍛えられた能力を活かして、次から次へと景品を撃ち落としていく。その光景を見て、周りの人々が歓声を上げる。

 金魚すくいでは、早苗が器用に網を使いこなし、金魚を大量にすくっていく。隣のカズキはあっさり網を破ってしまい、意気消沈していた。すくった金魚達は、その場にいた子供達に分け与えて事なきを得た。

 並び立つ食べ物の誘惑には抗えず、お好み焼きやたこ焼き、りんご飴にわたあめ等、多くの食べ物に手を伸ばす。もちろん、二人で分け合ってである。

 そうこうしているうちに、適当なベンチに腰掛けて休憩に入る。それぞれの手には、かき氷が握られていた。

 

「いや~、久々に来ると加減が効かなくなるわね。年甲斐もなくはしゃいじゃったわ」

 

 笑顔を浮かべて早苗は言う。かき氷の味はメロン味だった。

 

「そうだな、こんなにお祭りを楽しんだのは、子供の頃以来かもな」

 

 隣に座るカズキも笑って返す。かき氷の味は黒蜜味だった。

 

「そういえば、その浴衣はどうしたんだ? 元から持ってたの?」

「ええ、母さんの形見なの。ずっと仕舞ってたんだけど、せっかくだから今日着てみた。これまではずっと避けてたけど、こうして着る機会が出来て良かったわ」

「そうだな、きっと早苗のお母さんも喜んでると思う。凄く似合ってるからな」

 

 そう会話を交わして、二人は笑い合う。

 

「そういえば、今何時だったかしら」

 

 早苗はカバンの中からスマホを取り出し、時間を確認する。

 現在時刻は19時45分を示していた。

 

「あら、あと15分しかないわね。カズキ、ちょっと移動するわよ」

「えっ? 良いけどどこに?」

「良いところよ。とりあえずついて来て」

 

 そう言うと早苗は立ち上がり、スタスタと歩き出す。カズキは慌ててその後をついて行く。

 人混みを掻い潜り、祭りの会場からも抜け出し、上り坂になっている道を歩く。10分ほど歩くと街を見下ろせる展望台に行き着いた。

 

「こんなところに展望台があったのか」

「ええ、街の人間にはちょっとした穴場扱いされてるのよ」

 

 カズキが柵まで歩み寄ると、早苗がその隣で答える。

 カズキが周囲を見回してみると、チラホラと家族連れやカップルの姿が見えた。

 

「でも、ここに何があるんだ? 夜景が綺麗って訳でも無さそうだけど」

「まあ見てなさいって。あと1分もないから」

 

 不思議に思うカズキを抑えて、早苗は意味深な笑みを浮かべる。

 カズキが首をかしげていると、街の方から一つの光が空へと打ち上がる。

 それは、色鮮やかな光と轟音を放出して空に炸裂する――大きな花火であった。

 

「花火……! もしかしてアレって……!」

「そう、隣町でやってる花火大会。ここからだとこっちの街に居ても花火が見られるのよ」

「だから街の人間にとっての穴場ってことか。確かにこれは良いな」

「でしょ? 昔は家族でここから花火を見るのが決まりだった。久しぶりだけど、変わらないものが見られて良かったわ」

 

 二人が話している間にも、花火は次々と打ち上がる。夜闇の中で色鮮やかに輝く花火は、強い美しさを感じさせる。

 それを見たカズキの胸中には、一種の感動が広がっていた。

 

「――本当に良いものだな、こういうのは」

「そう?」

「ああ、穏やかな世界の中だからこそ、こうした平和な行事が行えるんだ。俺達が守ってるのは、こういう世界なんだよな」

 

 花火を真っ直ぐ見つめながら、カズキは語る。その表情は真剣なものになり、己が背負っているものを改めて実感している。

 早苗はそれを横から見て、同じく真剣な表情になる。

 

「こういう当たり前のものを守るためにも、俺はこれからも戦い続けるよ。だから――」

 

 そこまで言うと、カズキは早苗の方へと向き直る。正面から彼女を見据えて、ゆっくりと口を開く。

 

「――これからも一緒に戦って欲しい。君と一緒なら、どんな苦境も乗り越えられるから」

「――ええ。言われなくてもずっと側に居るわよ。それがアタシの役目だからね」

 

 花火の光に照らされながら、二人は改めて誓う。全てが終わる時まで、共に在ることを。

 しばらくお互いに笑顔で見つめ合うが、やがて早苗がスマホを取り出して言う。

 

「せっかくだから、花火を背景に写真撮りましょ。ほらこっちに――」

 

 そう言いながら動き出した途端、早苗の手からスマホが滑り落ちる。

 かき氷で湿っていたせいか、地面に向かって落ちて行く。

 

「「あっ」」

 

 思わず声を出しながら、二人は同時にスマホを掴もうと動き出す。咄嗟の判断で身体が勝手に動いていた。

 幸い、地面に激突する前にスマホを掴むことが出来た。二人の手が重なり、クッション代わりにスマホを受け止めていた。

 

「「ふう、危なかっ――」」

 

 そうして、お互いに顔を見合わせてから、ようやく気付く。

 咄嗟にしゃがみ込んで手を伸ばしたことで、互いの顔が非常に近くに寄っていたことを。

 それはまるで、これから唇が触れ合うかのようで――。

 

「「~~~~ッ!!」」

 

 そこまで気付いた瞬間、二人は勢い良く距離を取った。

 カズキは腕で顔の下半分を隠すようにして、早苗は両手で口元を覆った。

 両者共、顔だけでなく耳の先まで真っ赤になるほどに動揺しているのが見て取れる。

 しばらく互いに何も言えず、花火の音だけが周囲に響く。やがて、カズキの方から口を開く。

 

「と、とりあえず、写真撮るか!」

「そ、そうね!」

 

 先程までの恥ずかしさを誤魔化すように声を出し、改めて並び直す二人。

 多少ギクシャクしながらも、なんとか写真を撮るために、四苦八苦するのだった。

 

 ★

 

 そんな二人の様子を、物陰から見ている人影が三つ存在した。

 

「なんだよ、あそこまで行ってキスしねえのか。情けないねぇ」

「そういうのは野暮って言うんじゃないですかね」

「まあまあ、あんまり騒ぐとバレちゃうよ」

 

 赤獅子ダイヤ、レイ・キリエ、南文香が縦に並んでそう話す。

 二人が夏祭りに行くと聞いて、こっそりついて来ていたのだ。特に展望台に来てからの様子は全て見ていた。

 

「男なら、あそこで勢い任せに行っちまっても良かったと思うがね。お互い好きなんだし」

「分かってませんねぇ、女にとってファーストキスは特別なんですよ? 好きな人とするなら、ちゃんとしたシチュエーションでロマンチックにして欲しいものですよ」

「えっ、そうなの?」

「まあ、私はアレはアレで良かったんですけどね」

「なんだよ、ビビらせやがってさぁ」

「急に二人でイチャつくのやめてくれない?」

 

 ダイヤとレイの惚気にツッコミを入れつつ、文香はカズキ達に視線を戻す。

 視線の先の二人は、多少のぎこちなさはあれど、楽しく笑い合っていた。

 その様子を見て、文香も笑顔を浮かべる。

 

「あの二人は、今はあのままで良いんじゃないかな。あれがあの二人の愛の形なんでしょう」

「そういうもんか、ならそれで良いのかね」

「そうですね、そういうことにしておきましょう」

 

 そんなことを話しながら、文香達は二人のことを見守る。

 夜空に瞬く花火も、彼らの未来を祝福するかのように、何度も咲き乱れるのだった。

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