愛しさと優しさとあと一つ
ホワイトデー。日本においてはバレンタインのお返しをする日とされる。
雑貨屋《東堂》においても、ホワイトデーに向けて準備をしている男達がいた。
「ああ〜! やってられるか!」
リビングで騒いでいるのは、赤獅子ダイヤ。彼はソファに座り込むと、五体を投げ出す。
「なんだよこりゃ。ホワイトデーのお返しになんでこんなに意味があんだよ! しかもあれこれ好き勝手に書きやがって! もう訳わかんねえ!」
そう叫び、ダイヤは手に持っていたスマホを放り投げて、ソファにもたれかかる。
宙を舞ったスマホは、そのまま垂直に落下し、ダイヤの額にぶつかる。
短くうめいた後、ダイヤは額をさすりながらスマホを拾った。
「何をそんなに騒いでるんだ?」
そう言って奥から出てきたのは、桜井カズキ。その顔には呆れたような表情を浮かべていた。
ダイヤはソファに座り直すと、ふてくされたような表情でそれに答える。
「ホワイトデーの贈り物について調べてたら、いろんな意味が書いてたんだよ。それがなんかムカついたからキレてた。なんなんだよアレは」
「ああ、最近よく聞くな。でもあんなどこの誰が決めたかも分からないものなんて、気にするだけ無駄じゃないか? 大体昔はマシュマロが良いとか言われてたのに、いきなりそれがダメになるような決まりなんて、アテにならないだろう」
「そうなんだけどよ、やっぱりなんかムカつくぜ」
頬杖をついてふてくされるダイヤ。それを見てカズキは苦笑しながら、向かい側のソファに腰掛ける。
「それにしても、お前もホワイトデーを意識することがあるんだな。てっきりそういうことはしない奴だと思ってたよ」
「失礼なこと言うんじゃねえよ。まあ確かに、アメリカではあんまりこういう催しは無かったけど、今オレがいるのは日本だ。ならその風習に合わせるのが筋ってもんだろ」
「変なところで真面目だな。まあ別にいいけど」
そんな話をしていると、部屋の奥から東堂健児が現れる。
カズキは健児に声をかけた。
「お疲れ様です、おやっさん」
「ああ、お疲れ。なんの話をしていたんだ?」
「今度のホワイトデーに何を返そうかって話です」
「そうそう、それで変な意味を付けられた物が多くて面倒くせえって言ってたんだよ」
カズキとダイヤがそう答えると、健児も納得したように頷いた。
「なるほど、確かに近年はそういう話を聞くこともあるな」
「ええ、なんだか急に増えてきた感じですよね。それが商売になるとか、そんな事情なんでしょうけど」
「そんなところだろうな」
カズキと健児は苦笑を浮かべて、そう言い合う。
やがて健児は、ふと窓の外に目を向けながら、こう答えた。
「まあ、結局こういう行事で一番大事なのは、相手を思いやる心だろうな。どんな物を渡すにしても、他人が決めた意味よりも、自分がどんな思いで渡すのか。それをちゃんと伝えれば、何を送ろうと問題はない――そう思うけどな、俺は」
穏やかな笑みを浮かべながら、健児はそう言った。
それを聞いていたカズキは、感心したように息を吐き、ダイヤも身体を戻して黙って聞いていた。
その様子を見て、健児は照れくさそうに頬を掻く。
「悪い、少し説教臭かったな」
「いや、そんなことはないですよ。確かにおやっさんの言うとおりだと思います」
「そうだな、大事なのはどんな思いを伝えるかどうか、か。良いこと言うな、オッサン」
「そうか? まあお前達の参考になったのなら何よりだ」
二人にそう言われて、健児も少し驚く。
そのまま三人は、何を渡すのかを話し合うのだった。
★
3月14日、ホワイトデー。
普段通りの仕事を終えて、カズキ達はリビングに集まっていた。
「早苗、文香さん、レイさん。ハッピーホワイトデー」
カズキがそう言うと、ラッピングされた箱を一つずつ渡していく。
それを受け取った東堂早苗、南文香、レイ・キリエは、笑顔を浮かべる。
「ありがとう、カズキ。開けてみても良い?」
「ああ、もちろんだよ」
そう言われて、早苗は包みを開けていく。
中から現れたのは、バウムクーヘンだった。
「俺とおやっさん、それにダイヤで選んでみたんだ。かなり良いところのバウムクーヘンだから、美味しいはずだよ」
「へえ〜、良いじゃない。ありがとう、カズキ、父さん」
「うんうん、凄く嬉しいな。ありがとう、カズキ君、健児さん」
「ありがとうございます、お二人とも。ダイヤさんもね」
三人が喜び、感謝を示す。それを見て、カズキはホッとする。健児とダイヤも同様である。
「喜んでもらえて良かった。実は他にも色々用意してあるんだ。みんなで食べないか?」
「そうしようぜ、パーティータイムだ!」
カズキとダイヤがそう言うと、様々なお菓子が入った皿を持ち出してきた。
多種多様なお菓子を食べながら、楽しい時間が過ぎていくのだった。
★
パーティーが終わり、夕食も済ませた余暇の時間。
カズキと早苗は、ダイニングで向かい合って座り、共に過ごしていた。
「先月もそうだったけど、こうしてみんなでワイワイやるのって楽しいわね。最近までずっと忘れてたわ」
「そうだな、俺も楽しかった。早苗も楽しんでくれて良かったよ」
「これもアンタのおかげね、ありがとう」
「大したことはしてないよ。それに、まだ渡すものがあるしね」
そう言うと、カズキは一度立ち上がり、二階の自室へと向かう。
数分で戻ってくると、その手には一つの紙袋が握られていた。
カズキは椅子に座ると、紙袋の中から小さな箱を取り出した。
「改めて、ハッピーホワイトデー早苗。日頃の感謝と、俺なりの気持ちを込めて選んだんだ。受け取って欲しい」
「……もう、先月のアタシと同じやり方じゃない。仕方ないヤツね、ホントに」
早苗はうっすら頬を赤らめて、苦笑する。そして、差し出された箱を受け取り、蓋を開ける。
中に入っていたのは、三つのカップケーキだった。非常に小綺麗に作られており、職人のこだわりを感じられた。
「これ、もしかしてあの有名スイーツ店のやつ? よく買えたわね、凄い行列だったと思うけど?」
「ああ、ダイヤにも手伝わせてなんとか買えたよ。早苗には良いものを渡したくて、頑張ってきた」
「そういうことなら、しっかり味わって食べないとね」
早苗はカップケーキを一つ取り出すと、それを両手で掴んで口に含む。
小さな口で少しずつ、ゆっくりと味わうように食べていく。
その様子を、カズキは頬杖をついて微笑を浮かべて眺めている。
「……なによ、アタシの顔に何か付いてる?」
「いや、そうじゃないよ。ただ早苗が美味しそうに食べているのを見たいだけだよ」
「アンタ、本当そういうことをサラッと言うわよね。聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ」
「そう? 別に何か意識してるわけじゃないんだけどな。ただ本当にそう思ってるだけで」
「ああもう分かってるわよ。嫌なわけじゃないから、好きにしなさい」
そう言うと、早苗はカップケーキを食べることを再開する。その耳は真っ赤に染まっていた。
カズキはそんな彼女を眺めながら、共に時間を過ごしていくのだった。
★
ダイヤとレイは、拠点にしているホテルの部屋まで戻っていた。
テーブルを挟んで、向かい合ってソファに座っていると、ダイヤが口を開いた。
「実はお前に渡したい物があるんだよ」
「あら、それは楽しみですね」
「少しは驚いてくれよ」
ダイヤは苦笑しながら、懐から小袋を取り出し、テーブルの上に置く。
レイはそれを手に取り、まじまじと眺める。
「開けてみてくれよ」
ダイヤに言われて、レイは袋の口を開く。
袋の中には瓶が入っており、その瓶の中には色鮮やかなトゲトゲの菓子が入っていた。
「これは?」
「コンペイトーって言うらしいぜ。まあ砂糖菓子の一種だな。お前こういうの好きそうだと思ったんだけど、どうだ?」
「確かに可愛くて好みですね。一ついただきます」
レイは瓶の蓋を開けて、金平糖を一粒口に含む。
すると、目を見開き感激したように息を吐く。
「美味しいですね、これ。甘くてコリコリした食感が、クセになりそうです」
「やっぱりか。店で食ったときに美味いと思ったんだよ。お前なら気に入るともな。選んで良かったぜ」
「ええ、ありがとうございます。あなたが考えて選んでくれたってことが、何よりも嬉しいですよ」
そう言うと、レイは椅子から立ち上がり、ダイヤの元まで歩み寄る。
そして、ダイヤの膝の上に座ると、至近距離で向かい合う形になり、金平糖を唇で挟む。
「おいおい、今日は随分と積極的だな。そんなに興奮したか?」
「前にあなたにされたことのお返しです。それに私だって攻めたくなる時もあるんですよ?」
レイは金平糖を口に挟んだまま、顔を近づけて口づけをする。金平糖が互いの口の中で溶け合い、甘い液体となって広がっていく。
しばらくそのままで味を堪能する二人。やがてレイの方からゆっくりと口を離した。
「どうですか、お味の方は?」
「――最高だな」
そう言い合うと、二人は続きを始める。
その後のことは、一晩中続けられたという。
今回もお読みくださり、ありがとうございます。
前回、バレンタインネタを投稿したので今回もホワイトデーネタを投稿しました。内容はそこまで詰められませんでしたが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
今後も季節ネタとか、何かしら思いついたらこちらで投稿していきたいと思います。
それでは、次回もお楽しみに。