四月のある日。
桜井カズキは、とある準備に勤しんでいた。
それは恋人である東堂早苗の誕生日。付き合いが始まってから初となる大事なイベントに、いつも以上の気合いが入っていた。
「う〜ん、一体何をプレゼントするべきか。それが問題だ」
雑貨屋《東堂》奥のリビング。机の上に広げたカタログ、開かれたノートパソコンに表示された通販サイト、更には自分で人に聞いてまとめたメモ書き。
それらを前にして、カズキは腕を組んで悩んでいた。
そんな彼の元に、赤獅子ダイヤがやって来る。
「よう、カズキ。何してんだ?」
「ダイヤか。早苗の誕生日がもうすぐだから、プレゼント選びに悩んでるんだよ」
「プレゼント? そんなの割とパッと選んじまっても良いんじゃねえの?」
「そういうわけにもいかないだろう。大切な人の大切な日だ。適当なことは出来ないよ」
「そういうもんか、なるほどなぁ」
そんな会話を交わしながら、ダイヤは向かいのソファに座る。
カズキはそちらに視線を向けて、質問する。
「お前は何か考えたりしないのか? レイさんの誕生日に」
「アイツはオレが渡すもんなら、なんでも喜んじまうからなぁ。もちろんそれなりに考えて渡すが、フィーリングでもなんとかなっちまうよ」
「そうなのか、それはまあ、良いことだな」
「まあ悪いことじゃねえよ、多分」
そう言ってダイヤは笑う。カズキも釣られて軽く笑いながら、目の前の資料に視線を戻す。
最新の化粧品、人気のぬいぐるみ、ブランド物の衣服、雑誌で紹介される香水、行列必至のスイーツ。
そのどれもが魅力的であり、早苗に渡したいと思える。だがどれを選ぶべきか、それが決められない。
「難しいな……どれを選べば良いんだ?」
「なんだなんだ、選ぶのに困ってんのか?」
カズキが呟くと、ダイヤがこちら側に歩いてきてパソコンの画面を覗く。
そして、カズキの肩を抱きながらダイヤは言う。
「そんなの簡単じゃねえか、全部買っちまえよ」
「はあ? 無茶言うなよお前」
「いやいや、全部良いと思えるなら、とりあえず全部買っちまうのもアリじゃね? それだけプレゼントしたい物があるってのは、悪くないと思うぜ」
「それはさすがにーーいや、待てよ」
カズキは視線を正面に戻して、顎に指を添えて考える。その表情は真剣そのものであった。
「あれ、カズキ? 大丈夫か?」
「悪い、ダイヤ。少し出掛けてくる。留守番頼んだ」
「えっ、あっオイ!」
カズキは勢いよく立ち上がると、すぐさま部屋を飛び出して玄関から外に出て行った。
一人残されたダイヤは、思わず呆気に取られてしまう。
「……もしかして余計なこと言ったか、オレは?」
思わずそう呟くが、それに答える者は誰もいなかった。
★
四月十五日。
早苗の誕生日当日。この日は雑貨屋《東堂》のリビングで、パーティが開かれていた。
「誕生日おめでとう、早苗ちゃん!」
クラッカーを鳴らしながらそう言うのは、南文香。その隣にはレイ・キリエとダイヤも座っており、同じくクラッカーを鳴らす。
その向かい側にはカズキと東堂健児が座り、拍手を送る。
家族と仲間から祝われて、早苗も嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ありがとう、みんな。こんな風に祝われるなんて久しぶりだわ」
「俺もこうしてまたお祝いが出来て嬉しいよ。おめでとう早苗」
早苗の言葉に、健児もまた嬉しそうに答える。
その光景を見て、文香達もまた喜ばしく思った。
「さあ、みんなでケーキ食べよう! 私切り分けるね!」
「私も手伝いますね」
文香とレイがケーキを切り分ける用意を始める。
その時、家のインターホンが鳴り響き、全員の動きが止まる。
その中でカズキだけが、すぐに椅子から立ち上がった。
「おっ、どうやら届いたみたいだ」
そう言うと、カズキはリビングから出て玄関へと向かう。
何事かと、早苗達もその後に続く。
「なっ……何よそれ!?」
そして、玄関に広がった光景に、早苗は思わず声を荒げた。
そこには、無数のダンボール箱が天井に届く程に積み上げられていた。しかもその山は一つや二つではなく、複数個存在している、
廊下を埋め尽くさんばかりの箱の存在に、ダイヤや健児も驚いている。
「おいおい、マジかよ……」
「これは……一体どうしたんだ?」
すると、箱を一つずつ下ろしているカズキが口を開いた。
「実は、早苗の誕生日プレゼントに何を選ぶか凄く悩んでしまって。その時にダイヤに『全部買えば良い』と言われまして。思い切って良さそうな物を全部買っておいたんです。さすがに数が多いから、郵送してもらったんですけどね」
笑顔でそう言うカズキの言葉を聞いて、全員の視線がダイヤに集まる。
これにはダイヤも思わず焦ってしまう。
「いやいや、確かに言ったけどさ。まさか本当に全部買うなんて思わねえって!」
「大丈夫、本当の意味で全部を買ったわけじゃない。自分の貯金で買える範囲には抑えておいた」
「だとしてもこの数は大概だろうよ!?」
ダイヤの言葉に、レイと文香も頷く。目の前にある光景は、それほど強烈なものであった。
そんな気持ちもどこ吹く風で、カズキは早苗の元へと歩み寄る。
「というわけで、早苗。誕生日おめでとう。これ全部が君へのプレゼントだよ」
「……アンタ、限度ってものを知らないの?」
呆れ半分、嬉しさ半分という表情で、早苗はそう呟く。
それを見て、カズキは少しだけ表情を暗くする。
「……そうか、せっかくの誕生日だから、盛大に祝おうと思ったんだけど、確かによく考えたらこんなにあっても邪魔になるか。ごめん、早苗」
「……ああっもう!」
捨てられた子犬のような寂しそうな顔を見せるカズキを見て、早苗は頭を掻き、仕方ないと言わんばかりに大きな声を出す。
「別に良いわよ、いくらでも持ってきなさい! 全部貰ってあげるから! ただし、アンタが全部運びなさいよ、アタシの部屋まで!」
そう言うと、早苗は振り返って階段へと歩き出す。そのまま階段を登り、自室へと向かっていく。
その頬は、愛されている嬉しさからか、赤く染まっていた。
「ーーっ! 分かったよ、すぐに持っていく!」
カズキも早苗の言葉に喜びを感じて、笑顔で箱を抱えて着いて行く。
その光景を見せられて、ダイヤ達はなんとも言えない気持ちになった。
「……なんつうか、カズキって早苗ちゃんのことになるとバカになるんだなぁ」
「いやぁ、愛が重いですね。ものすごく」
「えっ、レイちゃんがそれを言うの?」
「ーー何はともあれ、早苗が愛されていることは間違いない。父親として、嬉しく思うよ」
そんなことを言われていることも知らず、カズキと早苗は歩いて行く。
一つ確かなことは、彼らが幸せであるということである。
どうも、アーニャです。
今回は獄王メインヒロインである早苗の誕生日回でした。本日4月15日が誕生日という設定です。
内容はかなり甘い物になっていたかと思います。愛って多分こんなもの。読んだ人にもそう思ってもらえれば幸いです。
それでは今回はこの辺で。
次回もお楽しみに。