今年の父の日作品です。
どうぞ、御覧ください。
六月の第三日曜日。
世間的には『父の日』と呼ばれる日である。
そんな日に、雑貨屋『東堂』でも催しが行われていた。
「父さん、父の日のお祝いよ。受け取ってくれる?」
一人娘の東堂早苗が、父親の東堂健児に向かって小包を差し出す。
健児はそれを、笑顔を浮かべて受け取った。
「今年もありがとう、早苗。いつも嬉しいよ」
「当然じゃない、アタシは父さんの娘なんだから」
健児のお礼に、早苗も笑顔を浮かべて答える。
健児はソファに座ると、小包の包装を剥がして、中身を取り出す。
箱の中に入っていたのは、一つのグラスだった。
「お酒のグラスよ。父さん、お酒が好きだから、色々使えそうなやつにしたの」
「確かに、これは良さそうだ。ありがとうな」
「まあ、いつもカズキのことで頑張ってくれてるから、これくらいはしないとね」
そう言うと、早苗も向かい側のソファに座ると、日頃の礼を伝える。
娘が優しい人間に育ったことに、健児は誇らしい気持ちになった。
二人がそんな話をしていると、リビングに誰かがやってくる。
それは、桜井カズキだった。カズキは両手に細長い包みを持っていた。
「おっ、もう渡したのか。早いな」
「準備はできてたからね。アンタもできた?」
「もちろん、ご覧の通りさ」
カズキは包みをテーブルの上に置き、健児の方へと差し出した。
「俺からもプレゼントです、おやっさん。どうぞ開けてみてください」
これには健児も少し驚いて、目を見開いた。
「まさかカズキからも貰えるとはな。ありがとう、開けさせてもらうよ」
そう言って健児は包みを開く。
中から現れたのは、日本酒の瓶であった。
「これは――かなり良い酒じゃないか。悪いな、高かったろう?」
「いや、そんなことはないですよ。おやっさんに世話になってることを思えば、これくらい安いもんです」
喜ぶ健児を見て、カズキも微笑を浮かべる。
そして、照れくさそうに頬を掻いた。
「まあ、俺はおやっさんの子供ってわけじゃないですから、父の日のプレゼントってのも変な話かもしれませんけど」
それを聞いて、健児は穏やかな笑みを浮かべて、答える。
「そんなことはない。俺はお前のことも、息子のように思っている。俺の跡を継いで戦ってくれているんだ、当然だろう?」
「おやっさん……」
健児の言葉に、カズキは感銘を受ける。隣に座っている早苗も、嬉しそうに微笑む。
「それに、いつか本当に、俺の息子になるかもしれないしな」
続けて健児が言った言葉を聞いて、カズキと早苗は顔を見合わせる。
やがて、その言葉の意味することに気付き、二人揃って顔を赤くした。
「な、何言ってるんですか!? まだ俺達はそこまで行ってないというか、気が早いというか!!」
「そ、そうよ! 急に変なこと言わないでよ!! というか、娘がそうなっても別に良いわけ!?」
「早苗のことは大切に思ってる。だが、それはそれとして良い人と結ばれてくれるなら、それもまた良いと思っているよ。娘の幸せを願うのは、父親なら当然だろう?」
「それはそうかもしれませんけど……!」
「もう、父さんったら……」
大きく動揺する二人を見て、健児は微笑ましく思う。
そうして、しばらく騒がしい時間が過ぎていった。
★
その日の夜、健児は自室に一人で居た。
机に向かうと、カズキ達から貰った酒とグラスを置く。そして、酒をグラスに注いでから、机の上にある写真立てに目を向ける。
その写真は、健児の妻のものであった。死ぬ直前に撮った、笑顔の写真。
彼女の命が奪われる前に残った、最後の思い出だった。
健児は酒の入ったグラスを写真に向けて、一人呟く。
「今日は早苗とカズキが、プレゼントをくれたよ。父の日だったからな」
写真に向かって語りかけながら、健児は酒を一口飲む。
口の中にほのかに広がるコクが、酒の味をより深いものにしていた。
「うん、美味いな。酒も良いが、このグラスも良い。二人が選んでくれたから、余計にそう感じる。お前にも味わって欲しかったな」
健児はそう言うと、またグラスを写真の前に置く。
そして、写真を手に取ると、妻の笑顔をしばし眺める。
「俺の復讐に、あいつらを巻き込んでしまったことを、少し後悔し始めてる。早苗もカズキも、戦いとは無縁な人生を送ることだってできた。それを俺が阻んでしまった」
健児の顔に、暗い影がかかる。それは己の行いを後悔している人間の表情だった。
しばし沈黙するが、顔を上げると写真を元に戻し、酒のグラスを手に取った。
「だけど、あいつらはちゃんと自分の道を歩んでいる。俺一人が落ち込んでいることなど、無意味かもしれないな。お前が生きていたら、なんて言うだろう?」
そう言って、健児は酒を飲み干す。その後すぐに、新しい酒を瓶から継ぎ足す。
そうやって酒を飲みながら、夜は更けていくのだった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
今回は父の日ということで、獄王のおやっさんである東堂健児の話にしてみました。
ちなみに健児の誕生日は、6月7日です。決して忘れていたために父の日で代用したわけではないです、いいね?
それでは今回はこの辺で。
次回もお楽しみに。