今回は南文香の誕生日回です。
ぜひご覧ください。
南
それは、仲間達の様子がおかしい事だった。
「最近、なんだか妙に余所余所しいというか、距離を置かれてる感じがするなぁ。何かあったのかな?」
借りているマンションの自室で、文香はそう呟いた。
これまで紆余曲折あって仲が深まってきたと思っていたが、ここに来て様子がおかしくなっていることに気付いた。
カズキと早苗は、文香が近付くと挙動不審になって距離を取ろうとする。
レイに関しては、何かあったのかと聞いても笑顔で誤魔化される。
ダイヤはいつもと変わらず、おちゃらけている。
そんなわけで、一体何が起こっているのか文香には分からずにいた。
「う~ん、みんなどうしちゃったんだろう」
文香が悩んでいると、テーブルの上に置いていたスマホが鳴り響く。
画面を見ると、東堂健児の名が表示されていた。
文香はスマホを手に取り、通話ボタンを押した。
「もしもし、南ですけど」
『やあ、南くん。今大丈夫かな?』
「ええ、今日は非番なので。どうしました?」
『少し話したいことがあるから、今からウチに来てくれないか? できるだけ早く来てもらえると助かる』
「話ですか? まあ、分かりました。すぐに向かいます」
通話を切ると、文香はすぐに身支度を整える。記者という仕事上、急に飛び出すことには慣れていた。
最後に鏡で服装をチェックして、家を飛び出すのだった。
★
しばらく経って、文香は雑貨屋『東堂』の裏にある、玄関の前に立っていた。
最早通い慣れた場所として、ドアを開けて中に入る。
すると、突然何かが弾ける音と、細長い色付きの紙が目の前に広がり、文香は驚いて身体を震わせる。
『誕生日おめでとう!』
その声を聞いて正面に向き直ると、カズキ達が並んでこちらにクラッカーを向けていた。頭から被った色とりどりの紙は、クラッカーの中身らしい。
しばらくそのまま呆けていたが、状況を飲み込めたことでようやく口を開いた。
「……あっ、そうか。今日は私の誕生日か」
「覚えてなかったんですか?」
「うん、最近色々あり過ぎて、忘れちゃってた」
恥ずかしそうに頭を掻く文香。
そんな彼女を見て、カズキは苦笑を浮かべながら、廊下の奥を示す。
「とりあえず中に入っちゃってください。もう色々準備はしてあるんで」
「分かった、お邪魔します」
家に上がり、リビングまで進む。
そこは飾り付けが施されて、誕生日を祝う準備が整っていた。
テーブルの上には様々な料理や、ケーキが揃えられており、派手な様相となっていた。
その光景に、文香は圧倒された。
「凄いね、ここまで派手にお祝いしてもらえるなんて思わなかったよ」
「俺や早苗の時も、色々やってもらいましたからね。お返しみたいなものです」
「そうそう。だからありがたく受け取ってよね」
カズキと早苗からそう言われて、文香は暖かいものが込み上げてくるのを感じた。
そうこうしているうちに、皆でテーブルを囲み、食事が始まる。
しばらく飲んだり食べたりしていると、カズキが一つの包みを持ってきた。
「文香さん、これ俺と早苗で選んだプレゼントです」
「わあ! 嬉しい、ありがとう!」
文香は包みを受け取ると、ゆっくりと開けて中身を取り出す。
現れたのは、薄桃色の手袋とマフラーであった。
「これから寒くなるし、文香さんにはよく外で動いてもらってますから。少しでも役に立てるようにって」
「ありがとう、絶対使わせてもらうよ」
「良かったです、早苗も真剣に選んでたんですよ」
カズキがそう言うと、文香は早苗の方を見る。
早苗は腕を組んでそっぽを向くが、その頬には赤色が差していた。
「……アンタにはいつも世話になってるから、ちゃんとした物選ばないとダメでしょ。ただそれだけよ」
「嬉しいよ、ありがとう、早苗ちゃん。そういうところが可愛いね」
「そういうこと言うんじゃないわよ……!」
必死に反論する早苗を見て、文香は笑う。
カズキや早苗が、自分のために色々考えてくれたことが嬉しかった。
まるで、大きな弟や妹ができたように思える。
「みんな、祝ってくれてありがとう。おかげで良い誕生日になったよ」
文香が礼を言うと、カズキ達も嬉しそうに笑う。
賑やかな誕生日は、そうやって穏やかに過ぎていった。
★
帰り道、文香は一人で歩いて行く。
カズキは送ろうとしてくれたが、そこまでさせるのは気が引けたので、断ってきた。
プレゼントの袋を片手に、軽快な足取りで帰路につく中、文香はあることを考えていた。
「凄く良かったなぁ。まるでカズキ君達が弟妹みたいで。私ってお姉さんだったんだ」
一人っ子として育った文香は、兄弟姉妹というものをよく知らない。
もし自分に弟妹が居たら、こんな感じなのかと考える。
そして、自分の中にある姉気質のような物にも気付いた。
「もしかしたら、あの人のことを気にしてるのも、それのせいなのかな」
そう呟いて、頭に浮かぶのは、月道シノブの存在。
彼を初めて見た時、傷付いていることとは別に、放っておけない物を感じ取った。
今思えばそれは、自分よりも幼い者を心配する、姉気質のような物のせいだったのかもしれない。
あの時見た男からは、幼い子供に近い何かを感じ取ったのだ。
「ーーまだ何も分からないけど、なんだか放っておけないな。もしまた会えたら、ちゃんと話をしなくちゃね」
そう考えて、文香は真っ直ぐ帰路につく。
この思いが何かを変えるのか、それはまだ誰にも分からない。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
サブヒロイン、みんなのお姉さん的存在の南文香、その誕生日でした。
正直な話、こういうなんでもない話を書くのは、中々難しいですね。
ちゃんと面白く書ける方を尊敬します。
とはいえ、今回は本編に関する布石も入れたので、少しはマシになってると言いたいです。
文香とシノブ、この二人が一体どうなるのか。
ぜひ本編もお楽しみいただければと思います。
それでは、今回はこの辺で。
次回もお楽しみに。