祟り神の暴虐ライフ。 作:八尺様
「ちょっとトイレ行ってくる」
「は〜い」
サービスエリアにて、休憩をとっていたカップル。
深夜という時間帯もあって、サービスエリアには彼らの乗ってきた軽自動車しか駐まっていなかった。
「・・・
スマホをいじっていた女は、彼氏が帰ってこないことを不審に思った。
30分経っても帰ってこない上に、メッセージを送っても既読がつかない。
「何してんだろ・・・あっ」
辺りを見回すと、ふらふらとどこかへ歩いて行く彼氏の姿が、暗がりの中でうっすらと見えた。
「ちょっと弘樹、どこ行くの?」
窓を開けて呼びかけるも、返答はない。
車に背を向けたまま、建物の陰へと消えていく。
「もう、何してんのアイツ」
無視されたことに軽く苛立ちを覚えながら、彼女は車から降りた。
「ひろきー、何してんのー!」
スマホのライトを頼りに、真っ暗な闇の中を進む。
空は曇っていて、ライトなしではほとんど何も見えない。
「ひろ・・・えっ?」
弘樹が姿を消した建物の陰。
そこまで辿り着いた彼女は言葉を失った。
そこにあったのは、小さな社。
元はお稲荷さんだったのだろうが、全体的に色が落ち、雑草が生えたまま放置されていた。
その不気味な見た目もさることながら、彼女を困惑させたのは、そこに彼氏が居なかったことである。
お稲荷さんの周りは、正面以外フェンスに囲まれていた。
そして彼女は、ここから弘樹が出てくるのを見ていない。
フェンスを無理矢理乗り越えたのでもなければ、彼氏はここにいるはずなのだ。
(・・・い)
「え?」
彼女の脳内に、弘樹の声が聞こえてくる。
弘樹の個性は『囁き』。
自分の声だけを相手に脳内に届ける、一方通行のテレパシーである。
彼がこの個性を使うことは滅多になく、彼女が使ったのを見るのはこれで2回目だった。
(██い。こ██。███・・・)
「何、なんなのよ!」
聞こえてくる声にはノイズがかかっているが、どうも同じ言葉をずっと繰り返しているらしい。
カタッ
「!」
困惑する彼女の前で、お稲荷さんの社の扉が少し開いた。
それと同時に、脳内に響く弘樹の声が鮮明になる。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
「ひっ・・・」
壊れた機械のように繰り返される音声に、彼女は思わず腰を抜かす。
『囁き』は壁など障害物を通り抜けると、ノイズが混ざるようになる。
社の扉が開いたと同時に、ノイズが消えた。
つまり──
「ひ、ひろき?」
脳内に響く声がピタリと止む。
それと同時に、社の扉が完全に開いていく。
「あ、あぁ・・・」
扉の向こうには、2つの瞳が爛々と輝いている。
腰を抜かし、地面に座り込む彼女の脳内に、馬鹿にしたような少女の声が響いた。
(ねぇ、怖い?怖い?)
(あはははははっ!)
社から伸びた腕が彼女を掴み、一瞬で中まで引きずり込んだ。
公安委員会が保管している、『タタリガミ』に関する文書。
その一つである以下の文書は、旧〇〇村の住人に行った聞き取り調査の記録である。
『・・・あの子は、
『他の人同士を喧嘩させるのが好きで、自分以外は玩具か何かだと思ってるみたいでした』
『だから、
『・・・“巫女“は、その・・・言ってしまえば、生贄です』
『10年ごとに、7歳の女の子を崖から投げ捨てるんです。山の神様に捧げるために』
『あの子は皆に嫌われてて、でも頭が良かったから誰もあの子に太刀打ちできなくて。やっとあの子がいなくなるって、同年代の子達はみんな喜んだんです』
『・・・でも、あの子は死ななかった。帰ってきたんです、カミサマになって』
『頭から血を流して、蛇になった下半身を私に巻きつけて、言ったんです・・・』
『“ワタシが死んで嬉しかった?楽しかった?ざまあみろって思った?“って・・・』
『そんなことないって、私は言いました。でも、あの子はにっこり笑って言ったんですよ』
『“嘘だねぇ。喜んでんじゃん、分かってるじゃん、人の不幸を笑う気持ち!“』
『皆死にました。私の前で、中身を全部引きずり出されて』
『無理矢理私の目を開かせて、全部見せて、気持ち悪くなって吐いた私を見て笑ってたんです』
『・・・時々、誰かに笑われてる気がするんです。誰かの不幸を見るたび、聞くたび、あの子が耳元で囁いてるんです』
『“ほぉら、また喜んでる。うふふふっ・・・“』
「久し振りだね、鏡華」
「えぇ。アナタも元気そうで何よりですよ、
月光に照らされた廃神社。
その境内に高級感のあるテーブルが設置され、2人の巨悪がディナーを楽しんでいた。
「ガキの育成は上手くいってるんですか?」
深紅の瞳の瞳孔は縦に裂け、真っ白な髪は腰まであり、下半身は蛇。
明らかな異形ながらどこか神々しさを感じさせるその少女こそ、『タタリガミ』こと
「もちろんだとも。残虐に、好戦的に、幼稚に・・・僕が仕向けた通りに育っている」
ワインを飲み、顔に笑みを浮かべる白い髪の
彼の正体は、社会を裏から支配する魔王、
「うふふふっ・・・なかなか大掛かりな計画になりましたからねぇ。手間をかけた分、いい喜劇になると思いますよ・・・」
「ははは・・・そうだね。八木俊典と『
オールマイトによって死の淵に追いやられた彼は、旧知の友であった鏡華の助けで蘇った。
代償として莫大な量の生贄が必要だったが、AFOにとって千人程度を用意するのは造作でもなかった。
「ねぇ死柄木くん。晴れと雨ならどっちが好きですか?」
「ふむ・・・雨かな」
「そうですかぁ。じゃあ雨降らしましょう」
後日、日本各地で2週間以上豪雨が続き、過去最悪規模の被害が出ることになる。
鏡華は何か目的があった訳ではなく、ただその場で思いついたから質問し、行動に移した。
理由もなく人を殺す、真正の怪物である。
彼らは
侵す者、奪う者、殺す者。
魔王は支配を目的とするが、祟り神は支配に興味がない。
理由なく壊し、奪い、悲劇に打ちひしがれる人々を嘲笑するのだ。
「では、オールマイトには
「ふふふ・・・楽しみだ」
魔王と祟り神の描く悲劇は、既に幕を開けている。
鏡華ちゃんはナチュラルボーン畜生。
個性『祟り神』の秘密その1
・一応神様的な感じで、怪我を治すとか誰かを呪うとかの願いを叶える力がある。ただし、尋常じゃないレベルの生贄が必要となるため注意。
・生贄を用意できない場合、友人、家族の順で次々と人が死ぬ。