SCP-816-Ψ 斉木楠雄   作:きのこの

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補遺816-Ψ-01 斉木楠雄のSCP難

このようなタイトルの小説のリンクを踏む読者のことだ、散々原作でも二次創作でも僕の自己紹介を聞いてきたことだろう。

とはいえこれはクロスオーバー小説である。聞き飽きているファンには申し訳ないが、scpのタイトルにつられてやってきた読者の中には僕を知らない人も当然いる。なによりこれは僕が登場する作品に共通する様式美だ。

 

僕の名前は斉木楠雄。超能力者である。

 

超能力といえば君は何を思い浮かべる?

テレパシー、サイコキネシス、透視、予知、瞬間移動、千里眼、etc…莫大な富や名声をもたらす超常な力。どんな能力でも一つあれば使い方次第で他人よりも優位に立てるだろう力。

例えばテレパシーが使えるなら『テレパシスト』。サイコキネシスなら『サイコキネシスト』。超能力者のなかにも何ができるかで呼び方もまた変わるだろう。

 

じゃあ、僕がどの能力を使えるかというと…全部だ。

スプーンを曲げることも、裏返したカードの柄を見透すことも、地球の反対側に一瞬で行くことも、大抵のことはなんでもできる。

 

…ああ、君が今考えている現実改変能力とやらは使えない。試したこともないし、その能力に関しては試すつもりもない。

なんのことだと思う読者もいるだろうがこの力についてはまた後で説明しよう。

 

閑話休題。

僕が望めば富も名誉もいくらでも手に入る。まさに夢のような人生…

 

 

だと思ったら大間違いだ!!この力のせいで僕の人生はめちゃくちゃだ!

 

僕の超能力にはそれぞれの力に大きなデメリットがある。詳しく書こうとすると原作のコピペになってしまうので詳細には書かないがーー詳しく知りたい読者はネト〇リか『斉木楠雄のΨ難』を読むかネットで検索してくれーー例えば…

 

テレパシー…常時on、半径200m内の人間の心の声が常に聞こえる。

サイコキネシス…強すぎて加減が難しい。

透視…常時on、視界に映る人物は3秒で筋肉むき出しの人体模型のようになる。

予知…発動を制御できない。見る映像も断片的で場合によっては推理が必要。

 

僕の超能力はまだまだあるが、たった4つあげただけでもこれだ。超能力なんてあったところで何の役にも立たない。

それに、たとえ超能力で富や名誉を手に入れたところで意味がない。そういうわけで、僕はこの力を私欲の為に使うことはない。他人に迷惑をかけることもしない。

 

…デメリットがあろうと大きな力に変わりない?信用できない?

そうだな、君がそう思うのも頷ける。力を得た常人というのは、どんなに崇高な願いを掲げていようと、えてして歪んでいくものだ。

 

私欲というのは不平不満から生まれるものだ。パズルは欠けているからこそ埋めることができる。欠けを埋めるために人は欲をかく。

僕は今まで生きてきた16年間、超能力を徹底して隠して生きてきた。学校の成績は常に平均、他人との関わりを持たず、目立たず、道端の電柱のような生き方を心がけてきた。

だが僕は現状に何一つ不満なんてない。むしろ、何事もない平穏な人生を歩むことこそが僕の望みだ。

 

とはいえ、何もしないことが信用に繋がるわけじゃない。動物園のライオンはどれだけ温厚な性格でも、鎖につながれ、管理された檻の中で一生を過ごす。

『できる』という事実で警戒、排除の理由になりうるのだ。

 

人類はそうして超常現象を表舞台から排除することで正常な世界を保ってきた。4000年間、ずっと。

まるで僕のような普通じゃない力を持った存在が複数いるかのような言い方だが…いる。

この世界には僕以外にも人間には想像もつかないような異常や、常識を超えた存在が堂々と日の下を跋扈している。

常人が忘れているだけで、条理を超えた存在は生活のすぐそばに佇んでいる。

 

 

現に……

 

 

道を歩く僕の行く先、暖かで幸せそうな心の声に包み込まれていた喫茶店は、次の瞬間、性と金の粘つくような欲望に満ちた風俗店になった。

テレパシーが一つの声を拾い上げる。

 

(おれは選ばれた人間なんだ!!この力で好き勝手生きてやる!)

店の前に立つ男の心の声が聞こえる。

 

 

 

***

 

 

 

数日前、僕は新聞の広告の中で衝撃的な出会いを果たした。

 

『期間限定コラボ!!あの有名店の最高級コーヒーゼリーが特盛パフェになって登場!喫茶アールグレイで最高のひと時を!』

 

アンティーク調で書かれた文字の横には宝石の如く輝くコーヒーゼリーをこれでもかと詰め込んだ、究極のパフェが載せられていた。

値段は4000円。こんなのを食べに行くやつは馬鹿かと思うほどの値段である。しかし、その価格が霞むほどにそのパフェは余りにも魅惑的で、あまりにも美しく、夜も眠れなくなるほどに、僕の視線を釘付けにした。

 

すぐにでも食べに行きたかったが、僕のひと月のお小遣いは3000円。既に2000円使っていたので、先月の貯金を含めても税抜き価格にすら届かなかった。

一昨日、昨日と地道な家の手伝いでお小遣いを貰い、付き纏う燃堂、海藤(バカ)を撒いて、やっと来れたのが今日、金曜日の放課後だった。

 

 

それが、いまや『喫茶アールグレイ』は『キッス♡Rグレイの館』という名前の風俗店になってしまった。

店の前に立ち、未だ下品な妄想に顔を歪めている男によって、全て書き換えられた。

 

そう、この男、普通の人間じゃない。

超能力者である僕にははっきりと分かる、こいつは現実改変能力者だ。

 

現実改変能力とは「今ある現実を自分の考える『理想』に塗り替えてしまう」こと(ニコニコ大百科参照)。より簡単に言うと、もしもボックスのような力だ。

 

時を経てくすんだ白い壁に木製の扉、ツタや色鮮やかな花に包まれていた喫茶店。

あの男のイメージする風俗店に置き換わった今、店の外形は逆さまの人間の下肢が地面から生えているようなデザインになり、外壁のすべてが目に刺さるような蛍光ピンク一色に塗り替えられ、屋根には大量にハート形の飾りがおかれている。

きもちわるい。欲望丸出しの、センスの欠片もない見た目だ。

 

聞こえてくる周囲の人間の心の声も…

(店員さんのおすすめしてたセットおいしかったなぁ!また行きたい!)

店内でお会計をしていた、甘いもの好きなおじさんが、

(ボーイのおすすめしてた子えっちだったなぁ!また行きたい!)

好きなものを別の現実に塗りつぶされ。

 

(お客様がこんなにたくさん…喜んでもらえてうれしいな)

お客さんの笑顔を心から喜んでいた心優しい店長は、

(金づるがこんなにたくさん…金がもらえてうれしいな)

心根を捻じ曲げられ。

 

(ただテーブル拭いたり配膳したり、接客業って本当に大変なんだなぁ)

初めてのバイトに緊張する女子高生が

(ただおっさんと話したりお酌したり、風俗業って本当に大変なんだなぁ)

人生を狂わされている。

 

だが、誰も変わったことに違和感を持っていない。見た目が、趣味が、心が、人生が、どれだけとってかわった歪なものでも…誰もそれを覚えている者はいない。

 

僕が気づけるのは、そもそも僕が現実改変能力による改変の影響を受けないからだ。理由は分からないが、その所為でこうして改変前と直後を観測することができる。

周囲の人間が分からなくても、僕だけは何が変わったのか、誰が変えたのか、はっきりと分かる。

 

店の前に立っている男が諸悪の根源だということがはっきりわかる。

喫茶店が風俗店に変わる直前、こんなことを男は心の中で考えていた。

 

(おれが我慢するなんておかしい、俺は選ばれたんだ!特別な人間だ!周りの奴なんかとは違う!!誰があんな奴の言うことなんか聞くか!!”この店は風俗店だ!!!!”)

 

心の中で叫ぶごとに大きくなっていく怒りの感情、爆発した憤怒はそのままの勢いで男の力となって喫茶店に降りかかったのだ。

 

 

 

こうして、僕が食べたかったコーヒーゼリーパフェは低俗かつ自分本位な現実に呑まれて消えてしまったわけだが…さて、この男、どうしてくれようか。

僕は自然な動作で近くの路地に入り、通行人からは見えないよう壁に背をつけて立ち止まった。気配を極限まで消して、自身の存在を隠す。

 

…超能力も現実改変能力も、どちらも人知を超えた力だが、能力者からすればそれは自分の一部である。常人が才能を使って自身の夢を叶えるように、能力者もその力を好きにつかって生きればいい。

僕は自分の望みを叶えるために能力を使ったりなんかしないが…他人の能力の使い方を制限するつもりはない。どう使おうがその人の勝手だ。

この男がどれだけ他人の心を踏みにじろうと、

人生を歪めようと、

どうしようもないクズであろうと、他人には関係ないことだ。

 

だから、僕がこれからこの男に制裁を加えようとも、他人である男には関係ないことだ。

 

おっと、勘違いをするな。僕はコーヒーゼリーパフェを食べられなかった鬱憤を晴らそうとしているだけだ。3日前から楽しみにしていたんだ。期待が大きかった分楽しみを奪われた怒りも大きい。

決して喫茶店や喫茶店にいる人々の心が創り変えられた事に憤ったわけでも、彼らの為でもない。

まあ、私欲のために他者を犠牲にするようなクズだからな、どれだけ怒りをぶつけても心が痛まないのは都合がいい。

 

ーコーヒーゼリーを奪われた怒り、思い知れ!!

 

僕は超能力の狙いを男に定め、その力を解放した。

 

 

 

***

 

 

 

ーああ、やっぱりおれは特別な人間だったんだ!

 

晴れ晴れとした空の下。

目の前の喫茶店が男の想像したままの姿の風俗店になったことで、男の心は歓喜した。自分が特別で、選ばれた人間であることを確信したのだ。

 

男がこの力に目覚めたのはつい先日のことだった。

力の発現に驚き、何が起きているか分からぬうちは力を隠していた。暴発し、上司に怒鳴られたり、周囲の人間が自身を冷ややかな目で見るのを、黙って怒りを飲み込むこと数日。

自身が作り変えた現実の素晴らしさに、酔いしれた。

 

もう誰にも舐められない。もう誰にも見下されない。

男を馬鹿にして、影で笑っていた連中の忌まわしい顔を思い浮かべる。それらの顔が苦痛に歪むさまを想像して口角が自然と吊り上がった。

続いて自身を怒鳴ったくそ女や、嘲笑しているアバズレどもの下肢を割開いて泣いて縋りついてくる姿を想像した。

 

「グフ、フフフ…ヒヒヒヒヒヒヒヒ…。」

 

こらえきれなかった笑い声が漏れた。口の中にたまったよだれを飲み込み、男は空を見上げた。

 

特別になった男の門出を祝うように空は晴れわたり…

 

はれわたり……

 

はれ…わたっていない????

 

ハッと気がつき周囲を見渡す。

つい先ほどまで快晴だった空模様は、いつの間にか見渡す限りどす黒く分厚い雲におおわれていた。時々ゴロゴロと鳴り響く音とともに、雲間が赤く輝いている。

路地の隙間の暗闇からは、生ぬるい風がビュービューと吹きすさび、枯葉を巻き上げながら男の服を揺らした。

 

嫌な汗が背中をつたう。男は首を横にぶんぶんとふった。

 

ーおれは特別になった。怖いものなんて何もない。

 

その時、男の目の前を見知らぬ女が通った。女は男を一瞥もすることなく、早足で通り過ぎている。

自身に欠片の興味を示さないばかりか、まるで男を警戒するかのように早足で通り過ぎていく姿に、喜悦も周囲への不安も一瞬にして吹き飛んだ。

 

ーおれのことを馬鹿にしやがって!!!

 

再び心のうちから怒りが沸き起こってくる。特別な!自分を!こき下ろした女に復讐するべく、男は通り過ぎた女の肩を後ろから掴み、無理やり振り向かせた。

 

 

 

そこには、

 

真っ赤な顔、鋭く吊り上がった目、血走った赤い瞳、口から除く恐ろしく鋭い牙、そして額には2本の角。

恐ろしい形相でこちらをねめつける『鬼』が、そこにはいた。

 

「うわああああああああ!!!」

 

腰から力が抜け、尻もちをついた。必死に後ずさる男の様子に、鬼は首を傾げながら一歩こちらに踏み込んできた。

 

「ああああ!!”近寄るなぁああ!!!”」

 

咄嗟に力を使う。

明確に脳内でイメージすることなく発動させたため、大した力はなかったが、効果はあった。

鬼は再び首を傾げながらも、それ以上踏み込むことなく、男に興味をなくしたかのように歩き去った。

ホッとしたのもつかの間、グルルルルルという低い獣のような唸り声とともに、横から生ぬるい風が男の横顔に吹きあたった。

 

何かがいる。横に。すぐそばに。

 

口の中にたまった唾を飲み込む。

言うことを聞かない体をどうにか動かし、震えながら、風が吹いてきた方を見た。

見てしまった。

 

横には男が先ほど書き換えたばかりの風俗店があった。

いや、『風俗店だったもの』があった。

 

空に向かって高くそびえていた女性の太もも型の建物は、灰色の小鬼が這いずり回る真黒な2対の角に。

蛍光ピンクに塗られた店の正面には扉や窓の代わりに、横幅10mにも及ぶ鬼の顔が、先ほどと全く同じ形相でこちらを真っすぐに睨みつけていた。

 

「なん、なんなんだ!なんなんだよ!!これは!!!」

 

恐ろしさに震える声で叫んだ。どうにか逃げようと手足に力をこめるが、地面の上を這いずるばかりで立つことができない。

自分が力を使った訳でもないのに、あまりにも劇的に塗り替わった現実に、思考が回らない。

とにかく自身の望む現実に戻りたい一心で、力を使おうとした、その時。

 

(かえせ…)

 

突如頭の中に誰かの声が響く。

 

(かえせ、かえせ、かえせ)

 

声は徐々に大きくなっていき、ついには男の脳内を埋め尽くした。

 

(かえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせかえせカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセ)

 

何者かの声に思考を支配される中、逃げることもできずただ鬼を見上げる男の視界に、鬼の目が映った、腰がぬけてへたりこみ、顔は青ざめ、体は生まれたての子犬のごとくぶるぶると震えている自身の姿が見えた。

唐突に理解した。この声は、鬼の声だと。

 

(カエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセ)

 

ーこ、こんなのカエセカエセカエセだ!”消えカエセ”、”カエセえろ”!”消えカエセカエセカエセぉお!!!!!”

 

鳴り響く鬼の声に、思考が侵食されている。鬼を消そうと脳内でイメージを固めたそばから大音量の恨みで思考が散り散りになる。

ヒッ、ヒッと恐怖から浅い呼吸を繰り返す男を見ていた鬼は、ふいにぐるりと瞳ごと顔を横に傾けた。

ぐるり、ぐるり、ぐるり。右に、左に、右に。傾けるごとに鬼の顔は徐々に大きくなっていく。見開かれた瞳の奥から、怒りの炎が燃えているのが見える。

 

ぐるり、ぐるり、ぐるり

 

そのしぐさに何の意図があるのかなんて分からなかったが、回数を重ねるごとに嫌な予感が膨れ上がっていく。焦燥感に駆られて、男はとにかく自身の身の安全のために声をはりあげた。

 

「わ、わかった!!なんでもカエセカエセする!!!カエセならなんでもカエセカエセ!!!」

 

ぐるり、ぐるり、ぐるり

 

「お、おれは特別なカエセ間なんだぞ?!!おれカエセカエセ使ってカエセカエセカエセいいだろ?!!!!」

 

ぐるり、ぐるり、ぐるり

 

「たすけカエセカエセやめ、やめカエセカエセカエセカエセカエセ」

 

ぐるり、ぐるり、ぐるり

 

鬼の顔はついに男の足元にせまるほどに巨大になった。瞳の奥で燃え盛っていた炎は、とうとう瞳の奥から飛び出して、鬼の目を物理的に焼いている。

鬼はこらえきれないとばかりに歯を食いしばり、口の隙間から炎を噴出した。一瞬動きをとめ、男をちらりと一瞥したのち、ゆっくりと、ゆっくりと瞳と顔を傾け始めた。

 

ぐるり

 

埋め尽くされ、鈍くから回るばかりだった思考でようやく、鬼のしぐさの意図を悟った。

押しつぶされる、押しつぶされる!!!!!

男は声にならない悲鳴をあげた。

 

「わかカエセカエセました!もとにカエセもとにカエセカエセカエセします!!もう、ゆるカエセして、カエセカエセカエセ」

 

ぐるり

 

「もうにどとカエセカエセカエセません!!!もう2度としませんから!!!全部もとに戻します!!!!!」

 

男が心から泣き叫んだそのとき、頭の中いっぱいに響いていた鬼の声が止み、鬼の動きもぴたりと止まった。

突然の静寂に困惑し、固まっていた男が、助かった、とひとごこちついた。

その瞬間。

 

鬼はパカリと口を大きく開いて、男を丸のみにした。

視界の全てが闇に包まれる刹那

 

「うわああああああああああ!!」

 

ー”もとにもどれ!!!!!”

 

悲鳴とともに発せられた力は、確かに現実を塗り替えて、男の意識は闇に閉ざされた。

 

 

 

***

 

 

 

白目をむき、泡を吹いて気絶した男を壁越しに見ていた僕は、使っていた超能力を解除した。

晴れ晴れとした空の下。喫茶店の前で突然わけのわからないことを叫んで気絶した男を、周囲の人間は心配そうに、あるいは面白げに、あるいは気味が悪そうにスマホ越しに眺めたり、通報を行ったりしている。

 

先ほど男が見ていた『鬼』。これはもちろん、現実に起こった出来事でも、男が白昼夢を見たわけでもない。

僕の超能力のうちの1つ、『催眠』によるものだ。

 

【催眠】

姿を別の人間だと周囲に思い込ます能力。自分には使えない。(原作より引用)

 

空模様、通りかかった女性の顔、風俗店の外観。催眠によって男にしか変化しているように見えていない。

…原作の説明では人間にしか使えないかのように説明しているが、7巻第64χのお祭りの中で鬼の面の角が伸びたりより恐ろしい形相に変化する描写があったので、そういう応用の仕方もある…ということで君も納得してほしい。

 

他にも雰囲気を出すために『テレパシー』を使って、脳内に大量のテレパシーを送ったり*1、『サイコキネシス』を使って風をおこしたり*2していた。

これだけの目に合えば、二度と他人に対して力を使おうとは思わないだろう。

 

通行人が呼んだ救急車とパトカーが大通りに止まっているのが見える。こんなことのためにわざわざ来ていただいて申し訳ないが、気絶させてしまった以上仕方ない。

どうやら男は過去に薬物を摂取していたようなので、その副作用で幻覚を見たことにしておこう。

 

担架に乗せられている男をしり目に、僕は後ろの壁の方に振り向いて、喫茶店をみ透視た。

どうやら男は気を失う間際、現実改変能力で風俗店を喫茶店に戻したようだ。

瞬きをしないように意識しながら、周囲の心の声に耳を傾ける。

 

時を経てくすんだ白い壁に木製の扉、ツタや色鮮やかな花に包まれていた喫茶店の姿。

 

(来週は妻や子どもたちと一緒にこの店を訪れよう。あの子たちの喜ぶ顔が目に浮かぶな。)

甘いもの好きなおじさんの声。

 

(あのお客さん、本当に幸せそうだ。この年になって、こんなに幸せに働けるなんて思ってなかった…。喫茶店を開いて本当に良かった。)

心優しい店長の声。

 

(うわコーヒーゼリーパフェ、注文した人初めて見た…おいしそうだけど高いし、今度友達と来て食べよっかな。)

初めてのバイトに緊張していた女子高生の声。

 

最初に視て聞いた通りの元の姿になったことを確認し、ほっと息をつく。

別にあの男が元に戻さなくても、僕の超能力で元に戻せたが、少々大掛かりになってしまうので、ちょうどよかった。

 

さて、コーヒーゼリーパフェを食べに行くか。

 

そう思い、路地から出ようと右足を1歩踏み出した、その瞬間。

テレパシーが拾い上げた1つの声に、僕はその場でぴたりと止まった。

パトカーの中、助手席に乗る人物を視る。

 

(内部ヒューム値がこんなに高く…財団に、報告を…)

 

その警察官の服を透視して、胸ポケット内部に、それはあった。

 

…やれやれ、コーヒーゼリーパフェはまた今度だな。

 

僕はくるりと踵を返すと、路地の更に奥、人目につかない場所を目指して歩き始めた。

 

胸ポケットの中、円と3つの矢印がついた盾のロゴ。それに背を向けて、僕は瞬間移動でその場を離れた。

 

 

 

 

to be continued

 

*1
テレパシー一斉送信

*2
不穏な風

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