SCP-816-Ψ 斉木楠雄   作:きのこの

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補遺816-Ψ-02 能力者の多いメイド喫茶

補遺816-Ψ-02

2015年██月██日 ██県██市左脇腹町

 

 

僕がその組織の存在を知ったのは、4歳の頃だ。

僕が住む町周辺を調べて回る怪しいテレパシーを耳にした。

 

(対象は、おそらく人型実体。異常性は不明、痕跡もなし、目撃情報が一つあるのみ。詳細は不明だが、間違いなく強力で危険なオブジェクトだ。)

 

(絶対に探し出して見せる。)

 

普段なら妄想癖か、中二病か判断してスルーするような心の声だが、当時某国の諜報機関に追われたばかりだった僕は、追手の可能性を考えて少しでも怪しいテレパシーはすべて超能力を駆使して調べまわっていた。

 

そして彼らの正体を知った。

 

『財団』。

円と3つの矢印がついた盾のロゴを掲げるその組織は、普通とは違う存在…超常現象を引き起こせる物や人物、現象を封じ込め、表社会から排除することで世界の正常を維持しようとしている秘密結社だった。

 

例えば、前回登場した現実を塗り替えてしまう現実改変能力者。視界から外れた瞬間背後をとって首の骨を折る(ヘッドロック)彫刻。某青狸の秘密道具のごとく無限に増殖するケーキ。

これらのような異常な存在の特性を研究し、人類の為に閉じ込めや無力化を行う。それが財団という組織だ。

 

また世界各国の政府との繋がりもあり、行政などのサービス機関に潜伏し異常を発見するべく諜報活動を行っている。

世界中に財団の調査員を潜ませることができるだけの資金、人員、規模、歴史。真正面から相手すれば僕も苦戦を強いられることになるだろう。

 

 

「いや~~~でも斉木さんなら余裕でぶっ潰せるでしょ?本拠地丸ごと派手に吹っ飛ばせばいいんじゃないっスか?」

 

「やべーやつなのは分かったけどさ、クスオやられるとか想像できないんですけど。」

 

ーやるとかやられるとかそういう話じゃないんだが。

 

ハートの刺繍が入ったテーブルクロスがかかった4人掛けのテーブル。僕は目の前のハート形の椅子に座り平然とのたまう鳥束と相卜の姿にため息を吐いた。

 

 

 

***

 

 

 

月曜日、放課後。学校が終わった僕はテレパシーで相卜を呼び出し、途中でなぜかひっついてきた鳥束を伴って『ハートフルカフェ』という名前のメイド喫茶にやってきていた。

 

 

>>>説明しよう!<<<

相卜。本名『相卜 命』。占い師であり、優れた予知能力の持ち主である!特に他人のことならリスクなしでなんでも占うことができるぞ!

 

鳥束。本名『鳥束 零太』。澄んだ目をしたクズであり、霊を視たり自身の体に憑依させられる霊能力者である!それだけなので大したことないぞ!*1

 

霊能力者、鳥束零太。占い師、相卜命。超能力者、斉木楠雄。私立PK学園の3人の能力者がこの場に集まっている。

つまり!!PK学園サイキッカーズの集結である!!!

 

 

なんでそんなにのりのりなんだ…。

 

僕は手持無沙汰に手をおしぼりで拭いた。

メイド喫茶に入店し、注文してから5分ほどたったがお冷がやってくる気配はない。どうやらキッチンで問題が起きているようだった。

 

ーそもそも、鳥束、お前はなんでここにいるんだ?お前に用はないんだが。

 

最後の授業後、テレパシーで呼び出したのは相卜だけだった。二人で帰るなどすれば目立つことこの上ないので、適当な繁華街で待ち合わせを行っていたのだが、店内に入ろうとした時に鳥束がやってきたのだ。

 

「マジそれな?クスオが用あんのはアタシだけ♡デートするんだから邪魔すんな。」

 

ーしない。話があるだけだ。

 

「はあ!?オレもPK学園秘密結社、サイキッカーズの一員っスよ!?パイねえがよくてなんでオレだけダメなんスか!!」

 

鳥束はダンと机に両手をついて立ち上がり、相卜を指さした。

胸元を指さすな。あと、そんな組織作った覚えも入った覚えもないぞ。

 

「というか、普段メイド喫茶なんて全然興味なさそうな人が、嬉々として入って行ったら気になるでしょ?店員さんが言ってた『コーヒーゼリーパフェを提供できる』ていうのが理由だと思うんスけど…それって女の子に話題の『喫茶アールグレイ』のっスよね?そっちの店じゃなくて、なんでこの店なんですか?」

 

経緯の説明ご苦労。

 

鳥束の言うように、この店には最初から約束してやってきたわけじゃなかった。繁華街を歩いていると、ビルの前にいたメイドが話しかけてきたのだ。

彼女はそのビルの2階にある『ハートフルカフェ』というメイド喫茶の店員だった。

 

『お帰りなさいませご主人様、お嬢様!当店ではちょぉ新鮮、ほやほやお料理をご提供しております!なんといまなら限定、コーヒーゼリーパフェもご用意できますよっ!』

 

そんな言葉につられて、僕たちは入る予定ではなかったこの店に入った。

 

鳥束の疑問ももっともだ。確かにコーヒーゼリーパフェの言葉に惹かれて入店したが、別にこの店を選ばなくてもいい、例の『喫茶アールグレイ』にいけばいい。

今回は話しをすることが目的のため、ハートフルカフェは他に客がいない*2為、話すには最適ではあるが、別にわざわざ選ぶ程でもない。閑古鳥が鳴いている点では、『純喫茶魔美』*3も同様である。

 

しかし、僕にはどうしてもコーヒーゼリーパフェに惹かれてしまう理由があった。『喫茶アールグレイ』に行くことができないのだ。

厳密に言えば行くことはできる。だが、いけない原因が喫茶の近くを張っている。

 

金曜日、パトカー内にいた警察官の内、運転席に座る男。彼の胸ポケットの中に円と3つの矢印がついた盾のロゴが入っていた。そう、彼はお察しの通り財団の諜報員である。

真面目で志に熱心である彼のおかげで、あれから1時間もしない内に現実改変能力者の男の処遇もこの事件の管轄も財団に委任され、おかげであの日から店の周りを財団職員が監視しているのだ。

コーヒーゼリーパフェは期間限定メニューの為、期間の間に財団の調査が終わらなければ、僕はあの艶やかなコーヒーゼリーがこれでもかと盛られたパフェを食べる機会を永遠に失ってしまう。

 

僕は財団とは対立するつもりもないし、わざわざ監視されている中を訪れて能力発覚のリスクを背負おうとも思わない。彼らの行動に対する僕のスタンスは『関わらない』、これにつきる。

まして相卜やら鳥束やらうっかりで能力を暴露しそうな奴らを連れて、彼らにわざわざ首を差し出しに行くなんてもってのほかだろう。

 

そういうことで、例え魑魅魍魎の店だろうがロボットの店だろうがコーヒーゼリーパフェが食べられるなら少々リスクがあっても釣られてしまうのだ。

 

 

と、ここまでの僕のモノローグと、あの店で起きたことを二人にかいつまんで伝えた。

説明の間もう一度椅子に座った鳥束と相卜は、心得たとばかりに腕を組んで頷いた。

 

「たしかにさすがのアタシも監視されながらは落ち着かないわ。ガン萎えだわ。てゆかその現実?改変?したとかいうやつもきっも…。」

 

監視されながらお茶をするさまを想像し、相卜は顔を顰めた。さらに現実改変能力者の(クズ)のことを考えてドン引きしている。

続けるように、真剣な表情で鳥束が言った。

 

「その辺の女の子をオレだけの言うことを聞くようにできるとか最高っスね!」

(そんな非道なことが起きてたなんて許せないっスね!)

 

ー建前と本音が逆だぞ。

 

そうだった、こいつもクズだ。

僕と相卜から冷めた目を向けられた鳥束は誤魔化すように「いやいやいや」と両手を左右に振った。

 

「いやでも、なんで斉木さんがオレたちを呼び出したか分かりましたよ。」

 

ー何度もいうがお前は呼んでないな。

 

「コイツに乗るのチョベリバ*4だけど、アタシも分かったよ。アタシと『だぁ』*5のLL*6コンビで解決できるってこともね!」

 

ー解決しないぞ。

 

相卜は学生カバンからラインストーンやらシールやらで過度にデコられたガラス玉を取り出し、片手に持つと真っすぐに掲げ、反対の手を目元にあててピースをした。

なんだその決めポーズ。

 

「はあ!?何言ってんスか!?オレもやるに決まってるじゃないっスか!PK学園サイキッカーズ、出動っスよ!!」

 

ー出動しないぞ。

 

鳥束は左手を中腰に構え、右手を左前方に真っすぐ伸ばして、顔をキリリと引き締めた。

だから、なんだその決めポーズは。

 

ーそもそも本当に理解してるのか。僕が呼び出した理由を。

 

「もち!ずばり、クスオが呼び出した理由は…」

 

 

「「財団をぶっ潰すことっしょ!/ですよね!」」

 

 

ーチガウ

 

やっぱり全然理解していなかった。

財団の話をした時点で、やるとかやられないとか潰すとか吹っ飛ばすとか思考が物騒だった時点で想像はできていたが。

 

「えぇ!?違うの!??」

 

「オレらで力を合わせるって話じゃないんスか!??」

 

ーそんなこと一言も話してないだろ。

 

二人は一瞬驚きで固まった後、決めポーズを解いて、そろって机越しに僕の方に顔を寄せてきた。近い、寄るな触るな近づくな。

 

ー僕は財団とは関わりたくない。相卜、お前を呼び出したのは『忠告』するためだ。

 

「『忠告』~?」

 

相卜は訝し気に眉を顰め、首を傾げた。

 

ーーきっきも言ったように、財団は超常存在を、封じ込めなど様々な手段を用いて無力化を行っている。その対象には先の現実改変能力者だけではなく…相卜のような予知能力者も、僕のような超能力者も含まれている。

下手に関わってやつらに感づかれれば、二度と表社会に出られなくなるどころか、この世からお前という存在の記憶をすべて消し去られる可能性もある。

 

僕が伝えたテレパシーに、相卜は緊張で顔をこわばらせた。

幼少期から色々狙われてきた僕と違って、相卜は力を狙われるような危機には瀕したことがないようだった。そんなことあるはずがないと楽観する気持ちと多少の恐怖が混ざって僕の脳内に聴こえてくる。

怯えさせるのは本望じゃない。だが、知らなければ警戒することすらもできない。

 

ーこの一件で財団をこの町に呼び込む要因を作ったのは僕だ。お前を巻き込んで借りを作るのもごめんだ。別に能力を使うな、というわけじゃないが…財団がいる間はあの喫茶周辺は不用意に近づかない方がいい。

 

そう締めくくって、目を閉じた。話はこれで終わりだ。

…ところでだいぶ時間がたったのにお冷どころかコーヒーゼリーパフェさえくる気配がないが、まだなのだろうか?

 

僕の言葉に恐怖やら不安やら渦巻いていた相卜の心は、数瞬考え込んで、一つにまとまったようだった。

つまり、とその口火を開いた。

 

「クスオ…アタシのこと心配してくれてるの?」

 

ーチガウ

 

頬をピンクに色づかせながら言う相卜に、僕は目を開けて、首を横に振った。

僕は僕が引き起こしたことに他人を巻き込みたくないだけだ。

 

「ま、まあ、クスオがそこまで言うなら警戒しとくわ♡」

(アタシが襲われたら助けてくれるかな。「俺の女に手を出すな!」的な!!)

 

僕のテレパシーに、財団職員と思わしきスーツに身を包んだ男達に囲まれた僕と相卜が、抱きしめあいながら財団職員を睨む、などというなんとも不愉快な妄想が流れてきた。

忠告するのやめときゃよかった。

 

そこで、相卜と同様にまるで自分ごとのように僕の話に緊張を漂わせていた鳥束が、口を開いた。

 

「…それ、オレも関係あるじゃないっスか?オレも能力狙われて危ない目にあわないっスか?」

 

いや、若干嬉しそうだ。

 

ーまあお前は大丈夫だろ。

 

「いやなんでぇ!??オレ霊能力者っスよ!?狙われるには十分でしょ!???」

 

ーお前の力を野放しにして世界が滅ぶなんて思えないからな、財団も確保しようなんて思わないんじゃないか?

 

「はああ!!??オレだって能力者の端くれ!!!世界の一つや二つ滅ぼして見せますけど!??」

 

ー滅ぼしちゃダメだろ。

 

鳥束は叫んで再び机越しに顔を寄せてくる。

自分でいうのもなんだが、僕は十分財団にとって脅威足りうるし、相卜の占いは高精度かつ広範囲だ。その点鳥束は基本的には無害かつ、霊を観測できる機械でもない限りその能力を証明されることはない。財団の標的にはならないだろう。

 

狙われないならそれに越したことはないだろうに、いまだに喚く鳥束を絞めて落ち着かせようか考えていると、ふとこちらに二人の店員がやってきた。

ようやく料理が完成したようだ…!

 

喜んだのもつかの間、店員の様子がおかしいことに気が付く。

眉をハの字に下げて、少し下を俯いて、いかにも悲し気に…申し訳なさそうに料理を運んでくる。

店員に気づいた鳥束と相卜も動きをとめて、彼らの方を見つめる。

 

「お待たせいたしました、ご主人様、お嬢様…。」

 

入店時よりも明らかにテンションが下がった声音で、しかし無理やり口角を引き上げながら彼らは鳥束の前に『サンドイッチ』を、相卜の前に『オムライス』を置いた。

……僕のコーヒーゼリーパフェは?

 

「申し訳ありません、ご主人様。ご主人様のお料理、素材がなくて作れなかったです…」

 

あひゅう…

 

体を直角に曲げて謝罪する彼らに、僕は呆然とするしかなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「ん~~~~うっっっま!!!」

 

ケチャップで猫が描かれたオムライスの一角を切り崩して、一口食べた瞬間、相卜はあまりの美味しさに周囲を顧みずに声を上げた。

まじうま!鬼うまいんですけど!!という幸せそうなテレパシーが聴こえてくる。

 

「は~~~~こんなうまい料理を食べられないなんて斉木さんどんまいっスね~~」

 

なるほど死にたいらしい。

調子に乗って僕を煽る鳥束に殺気をあてながら、右手を握りしめて左手で包み込み、胸の前で骨を鳴らしてやる。やっぱり絞めるか。

 

鳥束は途端に蒼ざめて「じょ、冗談っスよ!」と口でも心でも弁明し、サンドイッチにかじりついている。食べた瞬間うま!まじでうま!と幸せそうなテレパシーになったが。

 

というかこいつらさっきから「うま!」くらいしか味の感想がない。馬なの??

僕が食べてない以上、こいつらの語彙の低い感想しか味をお伝えすることができないので、読者は今まで食べた中で一番おいしい料理の味を想像しながら読み進めてほしい。

 

それにしてもなぜ僕だけ料理がこないのだろうか。

机に肘をついて、二人が食べている様子を眺める。二人は食べることに集中しているようで、言葉を発する時間さえも惜しみ、ただひたすらパクパクと料理を口にしている。

正直、すごくおいしそうだ…。ああ、僕のコーヒーゼリーパフェ…。

 

あのあと店員に、それならばとコーヒーを注文しようとしたが、それもできない、と更に謝られた。どうやら店側もお詫びにケーキやジュース、オムライスなどを無償で提供しようとしていたらしいのだが…

 

『申し訳ありません、妖精さんのハートフル魔法ではご主人様のお料理をご用意することができませんでした…。』

 

店員は更に深々と頭を下げながらそう言っていた。

『妖精さんのハートフル魔法』がなんなのかは分からないが、どうやら相卜や鳥束に対しては何でも提供できるようだったが、僕に対してのみコーヒーもサンドイッチもオムライスも提供できないみたいだ。

いやなんでだ、同じ材料じゃないのか。新手のいじめ?

 

相卜や鳥束には用意できて、僕には用意できないか…

幸せそうに料理を頬張る鳥束と相卜を尻目に、芽生えた疑心から、キッチンの方を見た。

話の最中でも、キッチンの方角も視界に入っていたから、透視でおおよその調理風景が僕には見えていた。

 

注文を受けた彼らは、特に何かを切ったり用意することもなく、暫く何もせず待ってから、冷蔵庫から完成した料理を取り出していた。

あらかじめ作ってから冷蔵しているのかと思ったが、取り出した料理をレンジなどで温める様子もない。冷蔵庫から取り出したそのままの状態で提供している。

にも関わらず、料理はまるで今作られたかのように、暖かな状態で運ばれてきた。

 

それに、それよりももっと前、料理を持ってきてすぐの店員の言葉も気になるところがあった。『”素材”がなくて作れなかった』と店員は話していたが、普通”材料”という言い方のほうが正しい。

 

彼らは料理に通常の材料を用いるのではなく、なんらかの素材を使い、彼らの言う『妖精さんのハートフル魔法』…超常的な手段を用いて料理を用意しているのではないだろうか?

それも、鳥束や相卜には用意できて、僕には用意できない何かを使って。

 

キッチン内にある冷蔵庫に焦点をあわせて透視しようと見つめていると、ふと、目の前にスプーンが差し出された。

正面を向くと、相卜が自身のオムライスを一口スプーンにのせて僕に差し出していた。

 

「はいクスオ、あ~~~ん♡」

 

ー………。

 

「そんな嫌そうな顔しなくても…」

 

相卜は残念そうに「ちぇ~~」と言いながら差し出していたスプーンを口にした。

 

そういえば、こいつらは平然と食べているが、何か異変は起きていないのだろうか。

なんとなしに鳥束のサンドイッチを視る。

透視で見ても、特に料理の中に何かが仕込まれているようには見受けられない。大きな肉の具がたっぷり入ったサンドイッチには、何の肉なのかよく分からない問題を除けば、特におかしな点はない。

 

そのまま見つめていると、時間経過でどんどん強力になる透視が、視線の先にあるものを透かしていく。

皿が透けて、

机が透けて、

視すぎてしまったせいで鳥束の服が透けて不愉快な物が視えかけたので視線をそらし……

ん??

 

ーあっ

 

「なんすか斉木さん、サンドイッチはあげないっスよ?」

 

ーそうじゃない。それよりお前、大変なことになってるぞ。

 

皿ごとサンドイッチを持ち上げて遠ざけた鳥束のほうを向きながら、机の下を指さして、下を見るように促す。

訝しがりながらも、鳥束はサンドイッチを置いて、机の下を覗き込んだ。

 

「??大変って、なんにもないっスけど?」

 

ーいや、そっちじゃない。自分の体を触ってみろ。

 

「オレの体を?セクハラっスか?」

 

ー話進まないからはよ確認しろ。

 

(なに考えてんだこの人)

 

鳥束は不審がりながらも、自身の体を上から下まで適当にぺたぺたと触っている。

しかし、鳥束の手がある一点に到達したとき、彼は驚愕に目を見開き、一気に顔を蒼ざめさせた。

パっと下を見たかと思うと、その一点を数度触って確かめる。

 

「は?食事中にどこ触ってんの、こいつマジできも…」

 

相卜が軽蔑した目で鳥束を見る。

確かに絵面は最悪だが男としての尊厳がかかっているから見逃してやれ。

鳥束はそんな相卜の言葉を気にする余裕もなく、顔をあげると絶叫した。

 

「あああああオレのち〇こがああああ!!!!」

 

そう、鳥束の下半身からは本来あるべき男の象徴がなくなってしまっていた。

 

 

 

***

 

 

 

「さ、斉木さん!いくらなんでも煽っただけでち〇ことるなんて酷いっスよ!??オレの息子返してくださいよ!!」

 

ー僕がそんなことするわけないだろ。

 

「ぶっはwwwwまじ、うwwけwwるwwwwっっwwwwっっ!」

 

立ち上がって僕に掴みかかり、涙目で訴える鳥束。腹を抱えて爆笑しすぎて、ついに呼吸困難に陥りかけている相卜。メイド喫茶内は混沌を極めていた。

 

「でもち〇こぶんどるなんて真似、斉木さん以外誰が出来るんすか!?あんたしかありえないでしょ!??」

 

「カヒュっっっっwwwwwwっっwwww!!!」

 

ー別に僕以外にもできる奴はいくらでもいるだろ。第一、そんなものとったところで不愉快なだけだ、超能力でも触りたくない。相卜はいい加減落ち着け、死ぬぞ。

 

掴みかかっていた鳥束の手を外し、興奮によって頬を赤く染め上げながら、呼吸がままならず蒼ざめている二色の顔色をした相卜を超能力で助けた。

 

 

さて、僕以外にも鳥束のあそこを物理的に切除できる奴は他にもいる。人外やら意志をもつ事象やら超常存在がそこかしこに跋扈している世界線だからな。

だが僕が言いたいのはそんな広大な範囲の話じゃない。『この世界に』ではなく、『今この場に』鳥束のち〇こ泥棒が存在する。

 

もちろん被害者である鳥束は違う。相卜は能力的に無理だし、僕も生理的に無理だ。

 

「じゃあなんスか?この店にはオレ達には視えない第三者がいて、そいつがオレのち〇こを盗んでいったんスか?」

 

鳥束は両手を股に添え足を内股に寄せながら、辺りをキョロキョロと見渡した。

さっきも言ったが、この世界には様々な超常存在がいる。僕でさえも観測できない力で反応できない速度で他者のち〇こをえぐり取ってくるような強い存在がいるかもしれない、ということは否定できない。

 

「や~でもそんなにやべー力あってもこんなチ〇ポオーラのナンパやろうのち〇ことるために使うのはしょーもなくね?」

 

相卜の言う通りだ。

そんな存在がいるにしても、力の使いどころが局所的すぎる。世界中の雄とされる生物から生殖器を盗んで種の衰退ひいては生物の絶滅を引き起こす、みたいな存在でもない限りそんな使い方しなさそうだ。

…その場合、僕からもなくなってそうだが、特に何の変化もない。

 

そこまでテレパシーで伝えてから、一息つく。

僕は超能力者であって探偵じゃない。わざわざ分かりやすく犯行の道筋を教えるなんて面倒だ。ずばり、と答えを告げる。

 

ーち〇こ泥棒はこの店、そのものだ。

 

予想外の方向から犯人を出され、目を丸くしてこちらを見ている二人に、今まで考えていたことを伝える。

 

冷蔵庫から取り出してそのまま提供される料理。

相卜と鳥束には用意できて、僕にはない妖精さんのハートフル魔法に使う素材。

ち〇こをとられた鳥束と何の異変もない僕の体。

 

つまり、

 

ーこの店は、注文した人物の体の一部分を何らかの方法で取り出して、対価あるいは用いることで料理を提供しているんだろう。

 

 

暫くの沈黙。

 

呆然とし思考を固まらせていた二人だが、ハッと我に返った相卜が、食事中邪魔だからと鞄にしまっていたガラス玉を取り出し、それをじっと覗き込みだした。

5秒ほど見つめた後に、「うわまじか」とげんなりとした顔で鳥束を見た。

 

「こいつのチ〇ポがどこにあるのか視たんだけどさ、その、サンドイッチが視えたんですけど…。」

 

「え、つまり、このサンドイッチって……オレのち〇こ…?」

 

ーそういうことになるな。

 

「おろろろろろろろろろ」

 

鳥束は真っ青になりながら、隣の相卜と反対方向に顔を背けて、机の下側に顔が隠れるように伏せた。

うん…なんというか、その…きっとまた生えてくるから元気出せ…。

 

「生えてこないっスよ!!びっくり人間じゃあるまいしぃ!!」

 

ガバリと上半身ごと顔をあげて、鳥束は口元を拭いながら叫んだ。

相卜は鳥束のことに続けて、自分の注文したオムライスの正体について占ったらしい。脳内に肝臓のイメージが浮かび上がった瞬間、相卜は顔を青ざめさせた。

 

「このオムライスも…アタシの体?マジ…?」

 

相卜はそう言って、片腕を机につき口元を手で覆った。

あれほど馬うまと夢中になって食べていた暖かな料理はすっかり冷え切り、彼らの食欲も失くなってしまったようだった。

当然だな。人肉嗜食(カニバリズム)なんて冗談でも笑えない。

 

「ひどいっス…オレ一生女の子にエッチなことできないんスか。」

 

ーお前の普段の嫌がられっぷりを見るに、なくてもあってもそんな機会こなさそうだがな。

 

鳥束は目に涙をにじませながらガクリと肩を落とした。

 

やれやれ、仕方ない。

僕は膝の上に置いていた右手を机の上に、机が壊れないようそっと置いた。そしてもう片方の手は、親指に中指をひっかけるように構え、鳥束の額の前に移動させ…

 

バッチ――ン!!!!

 

力を解放しながらデコピンを繰り出した。

 

「いっっっっ!!!たくない!!」

 

おっと、少々強すぎたらしい。衝撃で椅子ごと後ろに倒れかかって、鳥束は慌てて机を両手でひっつかみ、おきあがりこぼしの様に体制を立て直した。

 

「え、なんスか今の、なんかしました?」

 

ー『復元』だ。お前らの体を一日前に戻した。

 

【復元】

ものの時間を一日前に戻す能力。同じ対象には一日一度しか使うことができない。また、死者を蘇らすことはできない。

 

デコピンと同時に、机と鳥束に復元能力を使ったのだ。

僕の復元能力は能力の対象の近くにあるものも巻き込んで発動する。机に肘をついていた相卜は机の復元に巻き込んで、そうじゃなかった鳥束には直接、能力を使った。

 

鳥束は目を見開いた後、すぐに自身の股に両手を当てた。

 

「も、戻ってる!オレのち〇こ!!」

 

「あ!オムライスもサンドイッチも皿からなくなってるよ!」

 

どうやら、復元したことで料理になっていた二人の体の一部も元の場所に戻ったらしい。料理は影すら残さずその存在が消え、皿は天井からの明かりを反射して清潔そうに光っている。

二人は先ほどの暗い雰囲気から一転して笑顔で皿を持ち上げたり、ガッツポーズをしたり、大喜びで騒ぎ始めた。

だが、その喜びも長く続かなかった。

 

「ご主人様、お嬢様、何かございましたか?」

 

幼げなかわいらしい声が真隣から聞こえてきて、鳥束と相卜はピタリと動きをとめた。ギギギと錆びついたロボットのように声がした方を向くと、そこには満面の笑みで立つメイドの姿。

二人はヒッと小さく悲鳴をあげた。

 

「イぃいいいや、な、なんでもないナンデモナイ…料理うまかったから、マジで、激やばかったから。」

 

「喜んでいただけて嬉しいですっ!ご主人様、お嬢様!」

 

相卜の声は緊張と恐れからか震え、ひっくり返っている。鳥束も相卜の後ろで身を縮こまらせながら、こくこくと首を縦に振り続けている。

さて、料理は皿からなくなった。話も終わった。注文するものももうない。

 

帰るか。

 

僕が椅子の横に置いていた学生カバンを肩にかけながら立ち上がると、それに気づいたメイドが、計算されつくしたかのような完璧な笑顔で答えた。

 

「お出かけですね!ご主人様!」

 

「いってらっしゃいませ!」

 

 

 

***

 

 

 

「いや~、ま~じで疲れたっス。」

 

鳥束は大きくため息を吐き、しなびれた顔で空を見上げた。

何事もなく店を出た僕たちは、夕日に染まる街を背景に、ゆったりと帰路を歩いている。

自分の体の一部が料理にされて出されて、しかも食べてしまったからな。精神的疲労も大きくなる。

 

「結局、あの子達もアタシらと同じ能力者だったわけっしょ?こんな普通にいるなんて知らなかったわ。」

 

ーいや、彼らは能力者じゃないぞ。なんなら人間ですらない。

 

「えっ。」

 

手を後頭部で組み、夕日を見ていた相卜は、僕の言葉にバッとこちらを振り向いた。

 

そう、彼ら…あの店には僕たち以外に一人として人間はいなかった。僕がスムーズに犯人を見つけることができたのは、『透視』で早々に彼らの正体を知っていたことによる部分が大きい。

あの店は、そうだな、端的に表すなら人外が経営している店だったのだ。

 

そして、確かに彼らは人間じゃなかったが、人外が店を開いていること自体は別に対して珍しいことじゃない。そうそうないことではあるが、特筆して騒ぎ立てることでもないのだ。

 

超常的な能力を持っていたとしても、心から善意で常人を助けたり、もてなすような存在もいる。

だから、『例え魑魅魍魎の店だろうがロボットの店だろうが』僕は僕に火の粉が降りかからない限り、何か行動を起こすことはしない。

 

僕のテレパシーを聞いた二人はツッコミしたそうに、いや心の中では(人外の店が普通のことなわけないでしょ)とツッコミながら黙っている。

普通とは言ってないだろ。普通であってたまるか。

 

そこで相卜が「でもさ」と、

 

「あの店、放っといたら他の人もアタシらみたいな目にあうんじゃね?それはやばくね。なんとかした方がいいっしょ。」

 

そうだな、今日は僕がいたから気が付けたが、常人は運ばれた料理が自身の肉なんて普通思わないしな。

相卜は脳内で、どうやって店員にやめるよう伝えようか、警察に通報した方がいいのか悩んでいるが…どちらにせよ、伝わるか分からないからやめておいた方がいいだろう。

 

ー通報するなら消費者庁にしろ。その方が自然に伝えやすい。

 

ハートフルカフェの店で食べたら気分が悪くなった、と伝えればあとは様子を見に行ったり指導が入るかなんとかなるだろう。

そう伝えると、「あ~たしかに。」と呟いてスマホをタプタプと押し始めた。いまここで連絡するの?

 

「それなら、最初斉木さんが言ってた、『財団』ってやつらに押し付けちゃえばいいんじゃないっスか?そしたら普通の店に戻してくれるかもしれないですし。」

 

鳥束が名案とばかりに自信満々で話しているが、それはやめておいたほうがいいだろう。

 

財団は正義じゃない。

この店のことを話したところで、あの店が地下世界にでも出店して二度と日の目をみなくなるか…もしくは潰れるだけだ。

 

鳥束は「へ~」とどうでもよさげに薄く反応し、家に帰ったら何のエロ本を読むかに思考を向け始めた。

 

なぜか電話越しの相手と仲良くなって「マジでバイブスあがるんですけど!」と嬉々として話す相卜の言葉をBGMに、僕たちは人通りの少ない繁華街を歩いて、日常に戻った。

 

 

 

 

二週間後、『喫茶アールグレイ』の財団による監視が終わった頃にはコーヒーゼリーパフェは販売を終了し、僕はコーヒーゼリーパフェを食べられる機会を永遠に失った。

 

*1
ちょっと!オレだけ説明がひどくないっスか!?

*2
どうやら開店したばかりのようだ

*3
斉木が頻繁に訪れている喫茶店、コーヒーの味が格別

*4
マジ最悪の意

*5
恋人や夫の意

*6
ラブラブの意




SCP-173 彫刻
http://scp-jp.wikidot.com/scp-173

SCP-871 景気のいいケーキ
http://scp-jp.wikidot.com/scp-871

SCP-122-JP 問題の多いメイド喫茶
http://scp-jp.wikidot.com/scp-122-jp

tale メイド喫茶レビューブログ「メイド喫茶探索記」:ハートフルカフェご帰宅レポ
http://scp-jp.wikidot.com/report-of-the-heartfulcafe



メイド喫茶の料理が体組織を使ってるみたいなので超斜め上解釈をしてこんな形にしました!下品にして大変申し訳ございませんでした…!問題あれば直します!!


~ここから本作の時間軸について説明~
お気づきの方もいるかもしれませんが、本作ではサイキッカーズにまだ明智が加わっていません。
これは平行世界だから、というわけではなくまだそこまで時間が進んでないからですね。
本編の2行目に書いたように、1,2話時点では2015年…明智が引っ越してくるのは原作で2016年なので、この時点ではまだいません。
ちなみに、原作で相卜は予知能力を狙われた話がありますが、それも22巻(2017年)なのでまだです。
このあたりの時系列はwikiにすごくわかりやすく書いてあったのでそれを見るとわかりやすいかもですね。

で、この話以降の話になるのですが、今話のように2行目に年や日付(分かりにくければ斉木の年齢)などの情報をのせたうえで、時系列順不同で思いついた話から書いていこうと思います。時系列が書いてないものは特に時間の指定がないものになります。
〈例〉補遺1 2014年
   補遺2 2011年
時間がいったりきたり分かりづらくなるかもしれませんが、お付き合いいただけたら嬉しいです。


最後に、前回感想やお気に入り等、読んでくださってありがとうございます。舞い上がってます。教えていただいたSCPもしっかり読み込みつつ、斉木と絡ませていきます。

今後も週1更新目指して書いていきますね!
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