SCP-816-Ψ 斉木楠雄   作:きのこの

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大大大遅刻!!長らくお待たせしました!!
時間かかるとは思ってましたがまさか2か月かかるとは…


補遺816-Ψ-05-1 死出の旅路

補遺816-Ψ-05-1

2015年██月██日

 

 

私立PK学園 3階 2年巛組

 

昼休み。

午前中の間硬い椅子に座り続けていた生徒たちは、長い緊張状態が終わったことに安堵のため息を吐きながら、各々の自由な時間を過ごし始めた。

あるものは食堂に向かい、あるものは教室で弁当を広げ、あるものは友人とともに行動をともにし、あるものは狂ったように「お?ラーメン食いに行こうぜ。」と連呼する。

 

クラスの半分以上の生徒が教室を離れる中、僕も昼食をとるべくいつものように母さんが作ってくれた弁当を取り出そうとして…そこで今日は購買か食堂で食べるために昼食代をもらっていたことを思い出した。

 

『いまから明日のお昼まで出かけるからね。明日の朝の分は作り置きしてるから食べるのよ。』

 

『うううママ~、寂しいよ~!僕を置いていかないで~!!』

 

『大丈夫よパパ。明日の昼には必ず帰ってくるから。だから待ってて♡』

 

『ママ…分かった、必ずここでまた会おう。どんなに時がたって、どんなに遠くに行くことになっても、絶対にまた会おう。約束だ…。きみを愛している。』

 

『パパ…♡』

 

『ママ…♡』

 

昨夜、まるで今生の別れのように互いに涙を流しながら抱きしめあっていた父さんと母さんの姿を思い出し、密かにため息を吐いた。

二人そろって大げさすぎる。どうせ明日家に帰ってくる頃にはまた会えるのに、なぜそこまで心動かして本気で約束なんてするのだろうか。

 

『は~楠雄はまだまだ子どもだな~。また会う約束をしてもまた会える保証なんてどこにもないだろう?そりゃ僕とママは運命の赤い糸で結ばれてるけど、それで今までずっと一緒に生きてこられたなんて、世の中の不幸を思えば本当に奇跡のようだ。

後悔しないように、僕は僕の思いを、全てママに伝えたいんだ。』

 

と、得意げな顔でさも当たり前かのようにそんなことを語る父のことまでも思い出しかけて、首を横に振って脳内に浮かび上がっていたその映像を散らした。

大げさすぎることに突っ込んだだけなのに、話がズレたままどや顔で諭そうとしてくるところがイラっとする。

 

昨夜の記憶を思い起こすことをやめて現実に目を向けると、ちょうど目の前で燃堂と海藤、それに窪谷須が机を移動させて、いつものように僕の机にくっつけているところだった。

 

…言っておくが、僕は別にこいつらと一緒に昼食を食べているわけでも、はたまたそういった約束をしたわけでもない。

高校2年生に上がったばかりの頃に、ある日唐突に燃堂が一人で食べている僕の机の近くに、僕の隣の席のやつの机ごと寄ってきて、一切無視する僕を気にも止めずにべちゃくちゃと話しかけてきながら、そこで勝手に食べ始めたのだ。

最初は燃堂一人だったそれは、いつの間にか海藤が加わり、海藤と仲良くなった窪谷須が頻繁に加わり、極まれに灰呂が混ざり…というように僕が全てをスルーするのをスルーして勝手に集まっている。

 

何度も場所を変えることでこいつらを回避しようと思ったことはあるが、回避のために屋上に上がった日には、何故か既に屋上で揃って弁当を広げており、「おうおせーぞ相棒!」と声をかけられ、逃げることもできずそのままそこで食べた。

 

ならばとこいつらがやってくる前に中庭のベンチに移動した日には、ついてきていないことを超能力を使って確認し、ホッと一息ついてベンチに腰をおろした瞬間に後ろから肩をポンと叩かれ、「おう相棒!」と満面の笑みを向けられた。そして後からやってきた海藤とともに3人並んでベンチに座って食べる羽目になった。

 

こうなったら便所飯しかないと弁当を持って席を立った日には、こいつらも弁当をもって、やれジ〇ンプ最強の主人公は孫〇空だいいやル〇ィだア〇レちゃんだΨ難だらけの超能力者だと話しながら永遠と僕の後ろをついてまわってきた。生まれたてのひよこか何かか?

その所為で不自然に弁当を持ったままトイレに入ることもできず、結局食堂に行って食べることになった。

 

なんなんだこいつら。実は現実改変能力者だったりする?下手な能力者なんかよりもこいつらの方がよっぽど怖いんだが。

 

無限について回り、回避したところで先回りをしてくるこいつらに、早々抵抗を諦めた僕は、こうして勝手に机をくっつけて勝手に僕の周囲で食べるこの状況を黙って眺めているのだった。

 

やれやれ…ひとまず、購買で何か適当に買って来よう。

 

鞄から取り出した財布をポケットにしまいながら立ち上がると、丁度弁当をもってきた窪谷須が意外な様子で話しかけてきた。

 

「斉木、今日は弁当じゃねえんだな。」

 

「購買に買いに行くのか?じゃあ斉木が帰ってくるまで待っとくか。」

 

弁当を広げかけていた海藤もそう言ってその手を止める。

待たなくていい。別に一緒に食べてるわけじゃないし、先に食べてろ。

 

…ちなみに、もしここで食堂で一人で食べようとしている場合、「お、今日は食堂で食べるのか?」と言いながらついてくる。

なんで分かるんだ。実は予知能力者だったりする?恐ろしいやつらだ…

 

週刊少年コニャックで最強の主人公は誰かの論争を始めた三人を尻目に、僕は教室を後にした。

 

 

 

***

 

 

 

私立PK学園 2階 階段踊り場

 

3階の廊下を抜けて、2階に向けて階段をゆっくりと降りているときだった。

 

「斉木さんーー!」

 

後ろから何者かが声をかけながら、僕の横をすり抜けて、正面に回り込んできた。

まあ、僕は呼ばれる前からテレパシーでこいつがいることに気が付いていたが。

 

紫の髪に用途不明の白いバンダナ。花〇夏樹と同じ声帯をもつ霊能力者*1、鳥束零太は僕の前にやってくると、ガバリと勢いよく頭を下げた。

 

「斉木さん!お願いします!!力を貸してくださいっス!!」

 

ー消えな。

 

一言テレパシーを返し、そのまま脇を通って階段を降りる。

さて、今日の購買では何を買おうか。

うちの高校ではごくまれに購買でコーヒーゼリーを置いていることがある。なんでも、仕入れをしている職員の一人がコーヒーゼリーのことが好きなようで、その職員がメインで仕入れをする日には高い確率でコーヒーゼリーが置かれているのだ。

今日はその職員が仕入れをする日である。どうせ購買に行くからと千里眼を使った購買の確認は行っていなかったが、今日はあるーーー

 

「っていやいやいや!待ってくださいよ!」

 

勢いよく頭を上げた鳥束が、今まさに踊り場を抜けて階段の一段目を降りようとしている僕の肩をガシリと掴んだ。

 

なんだ鳥束。僕はいまから購買に行ってコーヒーゼリーの有無を確認しなきゃならないんだが。お前に構ってる余裕はない。

 

「構わなくていいっスから、せめて話くらい聞いてくださいよ!何もしてないのにその反応はひどいっス!!」

 

普段の自分の言動を省みてから言うんだな。お前の頼み事なんて、大体は女にモテたいとかその発端に下心があるものか、ほとんど全て女絡みのことだろう。

どうせ今回もそうなんじゃないのか。

 

テレパシーでそう伝えると、鳥束は「えっと、まあ、確かに、そうなんスけど…」と図星をつかれたからか、目を逸らしながら口をもごもごと動かし、誤魔化しの言葉がないか思案を始めた。

 

正直なやつだ。それじゃ。

 

肩を掴む鳥束を無視して階段を降りていく。

 

「あーーーもう!!!確かに下心はあるっスよ!?あわよくば恩を売って仲良くなりたいっスけど!!

でもそれだけじゃないんスよ!!前メイド喫茶で起きたみたいな、奇妙な事が起きてるんスよ!!」

 

瞬間、テレパシーを介してつい先日人外のやってるメイド喫茶で大事なモノを奪われた鳥束の記憶が流れこんでくる。*2

 

ー奇妙なこと…?

 

その言葉にもう一段階段を下ろうとしていた足をピタリと止め、僕は鳥束の方に振り返った。

 

鳥束はホッと息を吐きながら、真剣な表情で言った。

 

「誘拐事件っス。それもただの誘拐じゃない。

 

…幽霊の誘拐事件です。」

 

 

 

***

 

 

 

15時32分 左脇腹公園

 

平日だからだろう、ひと一人いない閑散とした公園内に、僕と鳥束は学校から帰ってきたそのままの姿でやってきた。

あの後「詳しくは本人から話を聞いた方が早いっスよ!」と説明を投げた鳥束によって、こうしてわざわざ放課後まで待ってから、事件を目撃した霊に話を聞くことになったのだ。

 

「そんじゃ斉木さん。視てください。」

 

鳥束の言葉に、僕は無言で普段右手につけている透明かつ極薄の手袋を外しながら、こちらに背を向けて立つ鳥束の左肩に右手を置いた。

 

手袋によって阻害されていた『サイコメトリー』が自動で発動する。

 

【サイコメトリー】

手で触れるだけで物体の残留思念を読み取ることができる能力。モノによっては精神的苦痛を受けることがある。(例 トイレの便座、不特定多数の人間が使う皿、タオルなど)

思念を発し続ける人間に触れるとその人物の五感全てをそのまま体験できる。

 

透視の所為で際限なく周囲の物体を透かし続けていた視界が、突如として物体をはっきりと認識できるようになり、同時に誰もいなかった公園いっぱいに多数の人間を認識できるようになった。

静寂に満ちていた公園内は一気に小規模な地下アイドルのライブ会場のような人口密度となり…

 

っていや、まて。霊が多すぎないか!?

 

公園内は、老若男女年齢を問わず、およそ100人以上の霊が公園内の上空地上問わずそこかしこにひしめきあっていた。

 

僕が鳥束をサイコメトリーすることなんてほとんどない。初めて家にやってきたときや、音楽室の幽霊退治のために深夜の学校に行ったとき*3など、片手で数えるほどしか視ていない。

だが、僕の家にいた15人ほどの霊をもって「普通の家よりはずっと多い」と発言していたことがある。

霊の人数は数いれど、ひとつの場所に大量の幽霊が密集することなどほとんどないだろう。楽しいものでもない限り。

 

それが、どういうわけか多少の遊具しかない公園という狭い空間にこれだけの霊が密集している。

屋外と屋内では多少数に違いはあるだろうが、ここまで大量の数が集まっているのは明らかに異常だ。

 

驚きで目を軽く見開きながら鳥束の方を見ると、鳥束は「いや~」と言いながら僕の方を半身で振り返った。

 

「今日俺が事件を解決する!って言いふらしてたら、見に行きたいって霊が集まってきちゃいまして…」

 

鳥束はそういって頬をほのかに赤く染めながら照れくさそうに、あるいは誇らしげに鼻の下を擦った。

 

お前が原因かよ。見世物じゃないんだぞ。

それにこんなに霊がいたら目撃霊だって話をしづらいだろう。

 

「そこは大丈夫っス!本人も了承しましたんで!むしろ嬉々として円陣を組みましょう!って提案してました。」

 

鳥束の脳内に、100人以上の幽霊が公園で巨大な円陣を組んで、『絶対解決するぞー!』という掛け声に『おー!』と一斉に声をあげる記憶(映像)が流れてきた。

 

運動部か?

しかも、目撃霊と鳥束はまあわかるが、他の霊は全く事件解決と関わりなくない?

 

呆れて、半目になってジッと鳥束の方を見るが、鳥束はそんな僕の視線を気にした様子もなく、まあ、と話を続けた。

 

「今回の被害者は人間じゃなくて霊っスから。霊の世界では、悪人なんていないですし、普段そんなこと起きないし…それで不安な気持ちもあるんですよ。だから大目にみてくださいっス。」

 

鳥束はそういって、霊の集団の中に向かって「おーい、こっち出てきてくださいー。」と今回の事件の目撃霊を呼んでいる。

 

…幽霊には実体がない。霊体である彼らは、この世のものには干渉できないが、反対にこの世のものも彼らに干渉することはできない。

加えて、霊には基本的に生前の記憶がない。自身の名前も見た目も、生前のしがらみの全てから解放されている彼らには、執着するものも欲もない。故に、生きている人間に干渉しようとなにか行動を起こすものもいないし、悪事さえ働く理由がない。

 

自身と物理的に接触できる霊は悪事を働く者がおらず、そのうえ悪事を働けるほど欲がある人間は彼らに触るどころか見ることすらできない。

鳥束曰く、幽霊は一日中お花を眺めてるような奴らばかりらしい。

彼らが生きている世界というのは、よほど平和な世界なのだろう。

 

そう考えると、なるほど、確かに霊たちが不安がる気持ちも分らないでもない。

…それにしては円陣を組んだり公園に大挙したり、ずいぶんと陽気な気もするが。

 

思案している間にも鳥束は、霊の集団にもみくちゃにされてなかなか出てこない事件の目撃者に焦れて、先頭の老人の霊に「ちょっとそこのおじいちゃん!後ろ詰まってるから避けて!」と両手を使って指示し始めた。

 

暫くして、霊の集団の中から一人の女性の霊が現れた。

年は20代頃だろうか。こげ茶色の長髪に優しそうなたれ目が印象的だ。

 

「それじゃあ、何があったのかもっかい話してくださいッス。」

 

鳥束が促すと彼女はコクリと一つ頷くと、静かな語り口で話し始めた。

 

『数か月前の事です。』

 

 

 

***

 

 

 

その日私は大通りを行く通行人の頭を覗き込み、10円ハゲが合計でいくつあるのか朝から数えていた。

ストレスの多そうなサラリーマンを中心に覗き込んでいたがなかなか見つからず、念のため数えていた隠れハゲ*4の数が2桁に達したころ、最近この大通りで仲良くなった友人霊のこんにゃくちゃんとばったり出くわした。

 

『こんにゃくちゃん、久しぶり!』

 

『あ!いつも10円ハゲ探してる人、久しぶりだね!』

 

こんにゃくちゃんはそう言ってにこりと微笑んだ。

 

こんにゃくちゃんという名前は、彼女がとある東京の八王子にあるお化け屋敷のこんにゃくだけに触れることから、私がつけたあだ名だった。

霊は、同じ霊体同士なら触れあうこともできるが、現実世界の物に触れることはできない。

ただし、生前自身が使っていた物や思い入れの強い物に対してだけは触ることができる。こんにゃくちゃんは特にこのお化け屋敷のこんにゃくに対して強い思い入れがあるようで、その事実を知ってからは、よくお化け屋敷を訪れるお客さんの首元に向けてそのこんにゃくを擦りつけたり投げつけたり、驚かしているようだった。

生前はお化け屋敷の店員だったのかもしれない。なかなかにお茶目な性格である。

 

ちなみに、私のあだ名は彼女がつけてくれた。『いつも10円ハゲ探してる人』だ。

暇さえあれば10円ハゲを探していることからつけたらしい。

探してる人、まで含めての名だ。センスがないあだ名である。

 

やることも特にないので、10円ハゲ数えを一旦やめて、二人で他愛もない雑談をすることにした。

 

その話の最中、事件は起きた。

 

ここ一週間の10円ハゲの増加傾向の話が終わり、お化け屋敷でのこんにゃく芸に対するお客さんの様子を、こんにゃくちゃんが話しかけたその時、彼女は突如目を見開くとバッと空を見上げた。

 

『どうしたの?空にこんにゃくでもとんでるの?』

 

彼女の真似をして空を見てみるが、特になにもおかしな物はない。しいて言えばおじさんの霊がきりもみ回転しながらとんびのように空をぐるぐると回転しているくらいだ。

それ楽しいのだろうか?今度試してみようかな。

 

『…呼んでる。』

 

彼女は楽し気な空飛ぶおっさんを一瞥もすることなく、虚空を見つめながら、呆然と呟いた。

 

『私、私のこと…私のこと呼んでる。』

 

『?こんにゃくちゃんどういうこと?誰が呼んでるの?』

 

訳が分からず聞き返すと、彼女は相変わらず空の彼方を見ながら『ちがう』と首を横に振った。

 

『ちがう、ちがう、私こんにゃくじゃない。…ああ!思い出した!!』

 

彼女は自身の頭に両手を添えると、髪の毛ごと強く握りこんだ。そして、普段の穏やかな声音からは考えられないほど切羽詰まった激しい声音で叫んだ。

 

『こうやくんが私のこと呼んでる!私に会いたいって!』

 

『待って、呼んでるって、どうやって?その「こうやくん」って誰!?』

 

明らかに様子がおかしい彼女に感化されて、私もつい強気で叫ぶと、こんにゃくちゃんは虚空を見上げるのをやめて、私の方を見た。

勢いよく私の両肩を掴み、その必死な様子に後ずさった私を気にもとめず、こんにゃくちゃんは言った。

 

『こうやくんは私が生きてた時に一番大事だった人だよ。私、あの人と死に別れしたんだ。』

 

『生きてた時…死に別れ…?ねえ、それってまさか…!』

 

まさか、生きてた時のことを思い出したのだろうか!?

 

驚きのあまりに思考が固まる。

幽霊の中で生前のことを思い出した人なんて…少なくとも、私は一度も遭遇したことなんてない。

 

私が困惑している間にも、こんにゃくちゃんは私の方に向き直っていた体を再び空に向けて、それからほのかに体を発光させながら、ふわりと浮き上がった。

ぎょっとしてもう一歩後ずさりながら彼女の顔を見ると…彼女も私同様に驚いた様子で自身の体を見つめている。

 

『!?いつも10円ハゲ探してる人!!』

 

彼女が私に手を伸ばした。

 

『!こんにゃくちゃん!!』

 

私も彼女に手を伸ばして、その腕を掴み…

 

掴もうとして、私の掌は彼女の体をすり抜けた。

 

『えっ…?』

 

唖然として、自身の手を見つめる。

そうしている間にも、彼女の体はどんどんと浮き上がる。同時に、それに応じて体が足の先から徐々に空に溶けていくように消えていく。

 

『…ああ…もう… い か な い と 。』

 

こんにゃくちゃんの声も徐々に弱くなり、囁くような空気を含んだ声音になる。

 

『こんにゃくちゃん!!』

 

『じ ゃ あ ね 。い つ も 10 円 ハ … …』

 

ついに丸い光の塊になった彼女は、南東に向かって彗星のように尾を引きながら飛び、最後には空の彼方に消えていった。

 

 

 

***

 

 

 

『その日から、暇なときは彼女のことを探すようにしてるんですけど…いつも彼女がいたお化け屋敷にも、大通りにも、心当たりある場所にはどこにもいないんです。』

 

彼女はそう言って、話の途中から顰めていた眉を、今度はハの字に下げた。

こんにゃくちゃんと呼んでいるその霊のことが本当に心配なのだろう、肩を落とし俯いている。

 

「ちなみに斉木さん。こんにゃくちゃんは高校生の美人さんらしいっスよ!いや~こんなに無害で優しいいい子を誘拐するなんて許せないっスね!!」

(助け出して恩を売って…うへへへへへ…)

 

きもいし、心底どうでもいい補足である。せっかくの真面目な雰囲気が台無しだろ。

あと、人の首筋にこんにゃくを擦り付けて、しかもそれを何人もの人間に洗うこともせずに使いまわしてる霊に対して優しいいい子は過大評価が過ぎる。害あるだろ、精神的に。

 

真剣な顔を作ろうと眉を引き締め、口を閉じようとして、しかし興奮からか鼻の穴が膨らんで口もだらしなく開いてしまっている鳥束(〈ルビ〉変態)に冷ややかな目を向けた。

 

「まあそういうことなんで、斉木さんあとはオナシャース!!」

 

鳥束は軽い調子でそう言うと同時に、勢いよく僕の方に向かって頭を下げた。

 

ーいや、何をだ。

 

主語をいれろ、主語を。

僕は、既に解決したつもりになって(こんにゃくちゃんとお家デート…うへへへへへ)というテレパシーに不埒な妄想を垂れ流す鳥束をジト目で見ながら、尋ねた。

 

「何をって決まってるじゃないっスか~~。その『こうやくん』とかいうやつを見つけ出してぶっ飛ばしに行くんスよ。」

 

「超能力でサクッと見つけてサクッとやっちゃいましょう!」と言いながら握りこぶしを作って両腕を振るい、殴るしぐさをする鳥束に、今度こそため息を吐く。

 

鳥束は既に『こうやくん』なる人物を犯人だと決めつけているようだが…別にその人物が犯人と決まったわけじゃないだろう。

まあ単純に推測するなら、彼の存在が登場してから不思議なことが一気に起こっている次点でだいぶ怪しいが。声だけなら僕のような能力者に限らず、普通の人間にだって簡単に声質を変化させることだってできる。

『こうやくん』とはまた別の人物、あるいは現象が、その声を聞いた人物にとって最も親しみを持つ声に聞こえるように意識を操作している可能性だってあるだろう。彼が重要参考人であるのは確かに間違いないが、犯人だと決めつけるのは少々早計過ぎる。

 

ーそれに、人探しなら僕よりも相卜の方が適格なんじゃないか?

 

僕の超能力は一度見たことがあるものに対してなら千里眼でも瞬間移動でも居場所を簡単に知ることができるが、全く情報がないものを探そうとすると、完全に無力という訳ではないが少々手間がかかる。

その点、相卜の能力なら全く情報がない状態からでもその人物の居場所も容姿も簡単に特定することができる。予知に関してなら彼女の能力は僕よりも優秀だ。

僕に頼むよりも相卜に頼んだ方が確実なんじゃないか?

 

テレパシーで尋ねると、鳥束は両腕を下ろし「あーそのことなんスけど」と多少憤慨した様子で、眉をハの字に顰めながら言った。

 

「確かに協力を頼んだんスけど、断られたんですよ!?ひどくないっスか!?」

 

頼み込んだ時の状況を思い出したのか、鳥束の脳内で当時の状況が鮮明に回想され始めた。

 

相卜を中庭に呼び出した鳥束は開口一番、

「お願いします!おっぱい揉ませてくださいっス!!」と相卜に土下座をしていた。

 

 

全然そんなことなかった。

 

何やってんの?そんなの話を聞く前に断られるに決まってるだろ。本当に頼む気ある?

 

「いや~実はその時女の子に振られて傷心中だったんでついつい頼んじゃいました。」

 

鳥束は片手で後頭部を掻きながら照れくさそうに頬を緩ませた。

 

ついついで頼むことじゃないだろ。そんなセクハラ発言かましておいてよくビンタされなかったな。

 

「まあおっぱいはダメ元で頼んだだけだったんで。その後犯人だけでも、ってお願いしたら一応占ってはくれたんスよ。

 

でも何回やっても金髪で天然パーマの、白い服のガキの姿しか映らないで、しかも名前も居場所も何回やっても不明なんで、煽ったら追い返されました。」

 

鳥束のテレパシーから、『お願いします!霊を消した犯人だけでも!!』と地に頭をめり込まんばかりに再び土下座している鳥束の姿と、『やーいお前の占いへっぽこ~』と相卜を指さし煽る鳥束の姿、それに切れて鳥束に全力でビンタをかます相卜の姿が視えた。

 

お前解決する気ないだろ。

 

自らトドメを刺されにいく鳥束に呆れて、わざと聞こえるようにため息を吐いた。

それでそれ以上手がかりもないから僕のところに来たわけか。今更ながら、あの時こいつの話に耳を傾けるんじゃなかった。

 

 

 

***

 

 

 

さて、話が何度も脱線するせいでここまで説明するのに随分長くなってしまったな。いい加減しつこく思っているだろう読者のためにも、さっさと事件を解決しよう。

 

こんにゃくさんの話に出てきた『こうやくん』と呼ばれる人物。相卜の占いによれば犯人像は『金髪で天然パーマ、白い服の子ども』らしいが、これが『こうやくん』であるという占い結果は出ていない。

犯人の名前も所在も全くの不明である理由は分からないが、いずれにせよ、この2人の人物について超能力で探るべきだろう。

 

先程も言ったように、僕の超能力は見たことないものにほとんど力を発揮できないが、見たことも聞いたことも無くても手がかりを得ることができる超能力がある。

 

その超能力を発動させるにあたり、僕と鳥束は幽霊で溢れかえった公園から場所を移し、僕の部屋へとやって来ていた。

 

別に公園でも発動できないことはないが、たとえ見えずとも100人以上の幽霊がいる空間、というだけで集中力が削がれる。

それに、何より超能力を使うなら外ではなく屋内などの他人の目につかない場所の方が良い。

 

正直鳥束なんぞをわざわざ家に招きたくなんて無かったが、ここまで話を聞いてしまった以上放置するのも目覚めが悪い。

仕方なく、本当に仕方なく、僕は鳥束を家にあげた。

 

部屋に入ると、僕は机から適当なA4サイズの紙を取り出すと、椅子に腰かけた。

 

ー集中するから黙ってろ。

 

部屋に入ってすぐに床に正座をした鳥束に一言釘を刺し、僕は手に持った紙をジッと見つめ、それから集中できるように目を閉じて、超能力を解放した。

 

『念写』。

 

【念写】

思い浮かべるだけで風景や物や生物を紙に転写する事が出来る能力。*5

 

この能力によって僕は、現在起きている全ての出来事を知ることができる。全く見知らぬおじさんでも、頑丈な金庫の中にある暗号でも、100億光年離れた星の様子でも。

 

だが、発動には念写したいものを1分間の間イメージし続ける必要がある。その間ほんの一瞬でも別のことを考えてしまうとそれが優先的に念写されてしまう欠点もある。

 

今回の念写では一先ず『こうやくん』について情報を得る為、ひたすら脳内で『こうやくん』のことについて考え続ける必要があるのだ。

 

ー『こうやくん』...『こうやくん』...『こうやくん』...『こうやくん』......

 

(斉木さんまだっスかねぇ??オレ早くこんにゃくちゃんに会いたいっス~。)

 

ー『こう...』...こんにゃくちゃんのネーミングセンスも無いな......

 

集中すること1分間。

念じ終えた僕が目を開くと、真っ白な紙の下方から上方にかけて、まるで波のように黒いインクが押し寄せて、僕が念じた内容を写し出す。

 

そこには...暗がりの中、微かな光に照らされてぬらりと輝く真四角のこんにゃくが描かれていた。

 

失敗である。

 

僕は鳥束に素早く組み付くと、右手を引っ張り、両足をそれぞれ首と胸ともにかけ、腕ひしぎ十字固めで締め上げた。

 

「あいたたたたたた!!!なんで絞めるんスか!?オレ言われた通り黙ってましたけど!!?」

 

ー思考がうるさい。何も考えるな。

 

「いや無理ですけど!!?」

 

ーうるさい、なんとかしろ。

 

そうテレパシーで伝えながら更に締め上げると、「ちょギブギブさいきさ、いたたたた」と鳥束はつぶれたヒキガエルのような声で悲鳴をあげた。

 

まあ本当の意味で頭の中を空っぽにできる人間なんてそれこそ燃堂のようなバカくらいか。

何も考えるなとはもう言わないが、少なくとも『こうやくん』のこと以外のことを考えるのを止めろ。

 

そう伝えながら絞め技を解き、再び椅子に腰かけた。

右腕をさすりながら「腕もげるかと思った…」と一人ごちる鳥束を尻目に、もう一度『念写』を発動させる。

 

ー『こうやくん』...『こうやくん』...『こうやくん』...『こうやくん』......

 

…相卜が視たという犯人はこうやくんなのだろうか…

 

ー『こうやくん』...『こうやくん』...『こうやくん』...『こうやくん』......

 

1分後。

 

念じ終えた僕が目を開くと、真っ白な紙の下方から上方にかけて、まるで波のように黒いインクが押し寄せて、僕が念じた内容を写し出す。

 

そこには...金髪の天然パーマに白い服、どこかの踏切を背景に満面の笑みでこちらを見つめる子どもの姿が描かれていた。

 

…失敗といえば失敗だが…まあ、成功といえば成功か…?

 

念写の途中で相卜の占いに浮かび上がった犯人のことを考えてしまったため、そちらが優先されて念写されてしまったのだろう。鳥束の話で聞いていた特徴と一致した人物が白紙だった紙に鮮明に写し出されている。

 

『こうやくん』ではないかもしれないが、重要な手がかりであることには変わりない。

僕は犯人像の描かれた紙を後ろにある机の上にソッと置くと、新しい紙を取り出して今度こそ念写を成功させるために意識を集中させた。

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

その後失敗し、あるいは鳥束の妨害テレパシーによって別の物が写し出されてアイアンクローを決めること複数回。

数十分ほど時間をかけて、ようやく『こうやくん』の姿を写し出すことができた。

 

やれやれ、こんなに失敗することになるとは。やっぱり鳥束は公園に置いてくるべきだったな。

 

度重なるアイアンクローによってまだ痛みが尾を引いているのか、「わ、われるっス…」と頭を抱えながら地面をのたうっている鳥束を無視して、僕は紙の下方から上方に、波のように押し寄せる黒いインクを眺めた。

 

インクは紺色の学生服を形作りながら上へ上へと登り、『天下一本 八王子店』と書かれた看板を背景に、泣きほくろが特徴的なスパイキーショートの黒髪の男性を描ききると動きを止めた。

 

ーなるほど、これが『こうやくん』か。

 

「えっ!出てきたんスか!?」

 

先ほどまで痛みでのたうっていたのは何だったのか、元気よく立ち上がった鳥束が横から念写された紙を覗き込んできた。

 

「へ~~、へ~~…大したことなさそうな奴っスね~~」

(オレの方がイケてるっスね!)

 

鳥束はそう言って小ばかにするように顔を歪めながらフッと右頬を吊り上げた。

『こうやくん』なる人物のことは知らないが、少なくとも性格的にはお前よりよっぽどイケてると思うぞ。

 

ひとまず、これで『こうやくん』がどんな人間なのか見た目と、ついでに相卜が言っていた犯人の姿が判明したな。

念写に写った人物の背景から居場所を特定するのは基本的に困難だが、今回は都合がよいことに分かりやすく『天下一本 八王子店』と写っている。この店自体には行ったことはないが、近くを通ったことがあるから瞬間移動で近くに移動もできる。

 

早速行くとしよう。

 

僕は鳥束の首根っこを引っ掴む*6と、コンマ数秒の間に千里眼で移動先の安全を確認し、瞬間移動で鳥束もろともその場から消えた。

 

 

 

***

 

 

 

東京都 八王子市 『LOVELOVEカフェ』横の路地

 

大通りの喧騒と打って変わって薄暗い路地の中。

猫が一匹換気扇の上で寛いでいたまさにその横に、何の前触れも音もなく僕たちはその場に現れた。

 

「ギニャアアアアア‼‼」

 

突然の来訪に、猫は尻を高くつきあげながら跳び上がり、耳を後ろに倒すと同時に、周囲にあった空き缶を蹴り飛ばしながら脱兎のごとく走り去った。

 

一連の動きを何をするでもなく見送った僕は、右手に引っ掴んでいた鳥束から手を離し、路地から大通りを見た。

 

「斉木さん、瞬間移動するなら一言声かけてくださいよ~。びっくりするじゃないっスか。それに外に行くなら靴を履かないと……

 

ってもう履いてる!?」

 

鳥束が首元に手をやりながら僕の隣に並ぶために一歩踏み出し、その踏み出した足が靴を履いている事実に驚き目を見開いている。

 

外まで移動するのに靴を履いていないなんてそんな目立つようなへまを僕がするはずがないだろ。千里眼を済ませると同時にサイコキネシスで引き寄せて履かせたからな。

 

と、そんなことより。

 

路地の壁に左手を軽く添えながら大通りの方を見ていた僕は、くるりと振り返り、僕が立つ場所から3歩分後ろに下がった位置にいる鳥束の方に振り返った。

 

ー言っておくがここからは僕の超能力はほとんど使わずに、地道に『こうやくん』を探すことになるからな。

 

テレパシーでそう伝えた瞬間、鳥束は「ええ~~~~~…」と嫌そうに顔を大きく歪ませた。

僕の超能力を使えば楽に見つかると思っていたらしい。(パイねえにもっと真面目に頼んどけばよかったっス…)と後悔する鳥束の心の声が聞こえてくる。

 

だがその残念そうな顔もつかの間、なにかに気づいたらしく、一瞬真剣な表情で考え込んだかと思うと、

 

「...いや、待ってください...地道に探すってことは...オレの霊能力の出番じゃないっスか!!」

 

と言いながら気色満面と言わんばかりに表情を綻ばせ始めた。

どうやら霊に協力を頼むことに思い至ったらしい。

 

「斉木さんはそこで待っててください!オレの霊能力であの野郎を探して見せますんで!!」

 

鳥束はそう言うと同時に、僕の横をすり抜け、大通りに出るべく路地の出口に向かって駆け出した。

 

よし、帰ろう。

 

こいつが探すなら僕がここにいて探す必要もないだろう。帰ってコーヒーゼリーでも食べよう。

 

「こうや~どこっスか~~」と恥ずかしげもなく大通りで叫んで周囲の人間から奇異の目で見られている鳥束を背後に、踵を返そうとした

 

瞬間。

 

(こうや…?こうやって、俺の名前と一緒じゃないか。まさか俺のことを呼んでる?

ってそんなわけないか。あんな変な知り合いいないし…。)

 

一つの心の声がテレパシーを介して僕の脳内に響き渡った。

 

咄嗟に声が聞こえたほうに振り向く。自動で発動する透視に身を任せて大通りで視透すと、学生服姿の男性が、立ち止まってわずかに鳥束の方に意識を向けていた。

 

泣きほくろが特徴的なスパイキーショートの黒髪。その姿は先ほど念写した『こうやくん』の人物像と完全に一致していた。

 

「あーーー!!!いたー!!!!!」

 

「えっ…?」

 

鳥束も丁度『こうやくん』を見つけたらしい。指をさして叫んだ。

 

やれやれ、まだ帰れそうにないな。

 

路地の奥側に行こうとしていた足を反転させ、大通りに僅かに覗いた。

 

 

 

 

「斉木さん、こうやいましたよ!!!あんたこんにゃくちゃんをどこにやったんスか!?」

 

「なんだおまえ!!!?」

 

いや、やっぱり関わりたくないな。

 

こうやくんの肩を必死の形相で鷲掴み、本気で怯えられ通報されかけている鳥束から目を逸らし、僕は再び路地に姿を隠した。

 

 

*1
原作者、声優公認のクズ

*2
2話 能力者の多いメイド喫茶 より

*3
14巻142χ 静寂切りΨた音楽室の幽霊

*4
かつらを被ったハゲのこと

*5
第4χ 三人の男と幼女と警官とあと犬 より抜粋

*6
「ングェッ!」




次も遅くなります。



何のSCPかぜひ予想してみてね!
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