擦れたプロデューサーがリーリヤに脳を焼かれ焼き返す話 作:ああああああ
カクテルライトの光が、向いているステージの上で、1人の人影が歌い踊っている。
初星学園のアイドルの一人。今年の一番星と目されている少女だ。ソロで活動しておりユニットを組んでいないのにも関わらず、その人気は会場を犇めくペンライトの海が物語る。
レベルが違う。歌も踊りも見せ方も、何もかもが。
「私の新曲、『クロッカス』でした。ありがとうございました!」
会場が爆発した。そう錯覚するほどの大歓声。もはや数多の人間が興奮しているということしかわからないこれら大気の振動も、ただただ耳障りだ。
ああ、自分の担当しているアイドルが負けたなと思う。数字で見れば検討したが、そんな慰めは価値がない。頂点との絶対的な差を感じていることだろう。
青年には、昔から不思議な力があった。それは、アイドルの力を数字として捉える力である。まるで超能力のようにゲームのようなステータスが見えるのだ。加えて、青年はプロデューサー科の3年生になってから1年をループしていた。このループはすでに3回目である。
それ故、その能力に疑いを持たず、自身の持ち得るものをフル活用してプロデューサー科で2年を過ごした。入学3ヵ月で担当を持ち半年でそれなりのステージに立たせた。2年という歳月の中で3人の担当を持ち、周囲からの賞賛を欲しいままにしてそして………最後の担当から平手を食らって出て行かれた。
調子に乗っていたのだ。自分なら何でもできると思っていた…実際、彼は担当のアイドルをそれなりのレベルまでには押し上げることができた。しかし、能力が見えるが故に彼の指導は合理的であっても 最適なものとは言えずアイドルを信じるなどということはなかった。
数字には見えない能力があることも分かっていたし、それによってひっくり返る勝負を見たこともある。
だけれども、彼は勝てる勝負で勝たせることに執着した。挑戦を望まなかった。だって、この世界は才能の世界で結果はだいたい初めに決まっている。どれだけ頑張ったとしても、トップになれるのはただ1人だけで、生まれた時点で能力の上限だったり、適正だったりというものがはっきり出る。
そういったものを全て見れる青年としては、無謀な挑戦をさせずに無理な練習をさせずに適正な状態を保ち、勝てる舞台で輝かせることがすべてだと思っていた。
今に思えば何と傲慢で独り善がりなのか。確かに彼は優秀なプロデューサーではあった。しかし致命的に担当アイドルという10代の少女の心に寄り添えていなかった。そのことを初めて持ったアイドルから指摘を受け、青年は揺らいだ。自分の行いについて振り返った。
意見は変わらない。才能が絶対。だから才能がないアイドルに高望みはしない。させない。そう、思っていたのだが一人の少女に縋りつかれた。絶対にアイドルになりたいから、自分を担当してくれと。青年は迷った末に了承した。どこまでやれるのか、数字を覆せるのか興味があった。
大して才能のない少女だったが、1年後にはそれなりの舞台には立てると思った。結果は想像以上で、青年の予想を半年で超えた。驚くべきことである。青年は驚愕と共に期待をした。それだけならまだよかった。だがそれでは終わらず、数字を過信し理論上はギリギリ勝てると踏んだ舞台に担当アイドルを出させた。一番星を決めるステージへ。
結果、悲劇が起こった。
この世界はゲームなどではない。メンタル面が与える影響も大きい。彼女は早熟だっただけ。中々結果が出ない日が続いた。
『惜しかった。ダンスの練習を少し増やそう』
オーバーワークが増える。
『もう少しだった。ほぼ誤差だな』
心が削れる。
『次は勝てる。確実に成長を感じる』
期待が重い。
『今日の練習はここまでにしよう』
もう踊りたくない。
『本番まであと少しだ。最終調整を』
吐きそうだ。
『■■。大丈夫だ。一番星には―――』
この結果は必然だった。
『いい加減にしてよ!』
今でも平手打ちの感覚が残っている。
『勝てる?いい感じ?次は大丈夫?いったい誰を見ているんですか!?プロデューサー』
一番星を目指すのは容易じゃない。この結末はわかっていた。
『貴方は私のことを見ていないじゃない!貴方を担当に選んだのが間違いだった!!!!!』
彼女とは以来一度も会っていないが、青年の心に深い深い傷跡を残している。そして3年に上がり、青年のループは始まった。
何をどうやっても1年間をループする。
趣向を変えよう、プロデューサー科を止めればループから抜け出せるのではないかと思い、彼は他の大学に編入するつもりだった。
だから、スカウトなどする気はなかったし、すぐに帰るつもりだった。
そこで出会った。
綺麗な銀髪に自信なさげな青い垂れ目の少女に。
「……ど、どうしよう」
「………流石にスルーはよくないか。お嬢さん、どうかされましたか?」
「あ、え、えっと………」
「失礼。私の名前はリオン。プロデューサー科の生徒です」
「か、葛城リーリヤです。驚いてしまってごめんなさい」
オドオドとした少女だが、妙に目が離せず問答を続ける。
「いえ、この学園はプロデューサー科以外は女子高状態ですからね。驚くのも無理はない」
「あ、あの!礼拝室の場所を教えていただけませんか」
「あー、新入生の方ですか。私が案内しましょうか。無駄に広いですからね、ここ」
歩いている間、リオンはリーリヤの話を聞いていた。
友人と2人で見た初星学園のライブを見てアイドルを目指すようになり、いつか一緒にステージに立つ約束をしていること。日本人の父とスウェーデン人の母を持つハーフであること、日本語に不安があること。
「………アイドルになるために、この世界に入る子は多いけど海外から来る子は珍しいですね」
「ライブを見たんです。この学園で。友達と一緒に。本当に、素敵でした。だから―――わたしもあんな風になりたい」
今までで一番力強い言葉だった。
「もちろん、おこがましいとは思っています。私は不器用だし、ダンスもやったことはないし、特別可愛いわけでもない。だけど、それでも―――」
「………この世界はかなり才能がものを言う世界です。憧れだけで戦えるほど甘いくはない」
「でも、アイドルになりたいんです」
リーリヤの青い瞳と青年の光のない暗い瞳が交差する。そして、リオンは溜息を吐いて続ける。
「アイドルにとって一番大切なものは才能です。ですが、何の才能かどうかは議論が分かれる。個人的には君に可能性がないとは思いませんが………おっと、礼拝堂はここです。では頑張ってください」
彼はそう言ってその場を後にしようと振り返った瞬間、腕を掴まれた。その意志の強さが、その目が過去に少しだけ関わったアイドルと重なる。
「どうしてもなりたいんです。あの日、憧れた―――アイドルに」
リオンは考える。どうせループから抜け出せないのであれば、気まぐれで担当してみるものいいのではないかと。もしかすれば、彼女を勝たせられれば何かが変わる気がして。
「………わかりました。一月全力でサポートします、プロデュースするに足ると証明してください」