【完結】えっ、ここからでも入れる保険があるんですか??? 作:らいらいてー
追記 誤字脱字報告ありがとうございます。
『モルガン』と名付けられたビーム砲が機体上部に搭載されたセイバーフィッシュが空を駆ける、セタ川沿いに展開され、制空権を奪おうとする航空隊めがけて花火を打ち上げて来るジオン軍陣地めがけて急降下、曇天を切り裂いてゆく。
凄まじいGが襲い掛かるが怯むことはない。急降下し加速してゆきながらバレルロール。途中で切り上げて背面飛行状態となりながら狙いを連装型の対空機関砲に定めて引き金を引く。
弾薬に引火。陣地ごと吹き飛んで爆炎が上がり、セタ川の水面に侵略者達の命によって作り出される花火を映し出していく。
地面から凡そ数十メートルの高さまで降下した後に爆炎を突っ切りながらロールして背面飛行状態から回復、こちらが切り込みを入れた対空陣地の隙間めがけてライラ中尉の機体を先頭に飛び込んでゆき、戦果を拡大。
翼下に搭載された無誘導弾を後続達は陣地めがけて投下してゆき、陸上部隊が突破するための穴を開けてゆく。
『敵の対空砲火が激しい、落とされるなよっ』
リボンのマークが描かれた主翼を相手に見せつけるかのようにアフターバーナーを吹かせてゆきながらバレルロールしながら急上昇。
どうやら俺の首には多額の懸賞金でも懸けられているらしく、リボンのマークを撃ち抜こうと下から凄まじい弾幕が浴びせられて行く、が、甘い。
その程度の狙いではこの首を取らせてやることは出来んな。
『クソっ! なんて機動だ、あれがリボン付きの死神か!』『増援を要請してくれ、陣地が次々と堕ちてる!』『弾幕をもっと張れ! 砲兵陣地に絶対に近づけるな!』
ミノフスキー粒子によって発生した混線によって敵の悲鳴のような声が聞こえてくる。
そちらがこちらの事を死神と言うのならば死神らしく振舞ってやるとしよう。
セタ川に架橋を行おうとしている工兵隊めがけてシュツルムファウストが装填された発射管を何本も束ねた物を搭載しているトラックを捕捉。
現場で砲兵火力を補うために作ったのであろうカチューシャもどきめがけて急降下、架橋車両だけはやらせはしない、この河川を渡るための要だ。
25mm機関砲弾が発射管を貫き、爆散させて再び巨大な花火をセタ川沿いに生み出してゆく。
その隙に架橋戦車が向こう岸に橋をかけてゆき、作り出された橋めがけて戦車隊が先鋒となり突破を開始。
敵の第一次防衛ラインであるセタラインを突破するのは時間の問題だろう。
……しかし、敵の航空戦力が今の所殆ど出てきてないな、嫌な予感がする。
『各機、警戒を厳にしろ。ここまで制空権を取って好き放題してるのに敵の航空戦力が出てきてないのはおかし――』
そう言いかけた所で、地上からの対空砲火がピタリと止む。嫌な予感がして咄嗟に急旋回、そして斜め横方向に機首を向けてスプリットSのマニューバで回避機動を取る。
先ほどまで自機が展開していた所にこちらを死へと誘う弾丸が空を切る。
周囲を見回してみると、恐らくはバンカーに今まで隠されていたのであろうドップが、姿勢制御スラスターによって空を飛ぶ地上におけるジオン軍の防空の要が幹線道路から次々と飛び立ち、こちらの航空隊へと襲い掛かろうとしていた。
今にも降り出しそうな雲から姿を現し、こちらの機体へと奇襲を仕掛けてきた敵機へと視線を向ける。プロペラントタンクを外して身軽になった敵機の塗装は見たことがある。
オキナワで交戦した【クメールの嵐】かっ!
『以前の意趣返しだ、今度は一対一で戦うとしよう!』
『フランシス大尉か、壮健そうで何よりだっ』
ドッグファイトの性能に勝るドップを駆るエース相手に重しを付けたままでの戦いは困難だ、自爆装置を作動させて『モルガン』を切り離す。
後で整備長に怒られるだろうが致し方あるまい。
こちらの頭の上を取って急降下し、重力の助けも借りて襲い掛かる敵機の弾幕をバレルロールを七回連続で繰り返して回避、何とか回避行動が間に合った所から察するに『モルガン』を搭載したままだったらやられていただろう。
『大尉、援護しますっ』
オメガ機のセイバーフィッシュが果敢にフランシス大尉の機体を押さえようとする、その隙にこちらはインメルマンターンの要領で高度を回復して仕切りなおしたが、次の瞬間にはオメガ機が撃墜されるのを確認。
今回もオメガは無事に脱出したようだ、が。敵陣地の方に落ちて行ったのは大丈夫だろうか?
オメガの身を案じながらもすぐに切り替えて、敵機へと機首を向けてヘッドオンする形で正面から加速しつつ突っ込み、機関砲の弾幕を浴びせる。
敵機も負けじとランチャーからミサイルも放ち、こちらの機体を撃墜しようとするが、操縦桿を強烈なG覚悟で上に引いて急上昇することで回避、敵機もこちらの機関砲を回避するために直撃する寸前で機首を下げて回避したようだ。
『やはりできるな! リボン付きの死神!』
今度はこちらが上を取る形になりながらも、相手は怯むことは無い。
ライラ機、ララァ機にも地上から上がって来たドップが襲い掛かってきているようだ、地上攻撃の為に弾薬をかなり使ってしまった上に四機一組で行動し巧みな連携を取ってくる敵航空隊には苦戦を強いられてるようだ、助けに行きたいがこちらも手一杯か。
航空戦の基本である連携を徹底的に叩きこまれてるあたり、北米から移動してきたという精鋭部隊だろうか? 二人の奮戦を信じるしかないな。
『貴様に構ってる暇は無い、堕ちろ!』
再びダイブ、敵機が存在している地面スレスレまで降下。セイバーフィッシュの機体が空中分解する寸前まで加速して狙いを定める、まずはあえて狙いを外して相手の前方に放つ。
……ああ、エースならばそう動くよな。横方向へのバレルロール、それを狙っていた!
すぐさま機首を横にずらしてロールした方向めがけて機関砲弾を放つ、エンジン部に命中。爆炎をあげながら敵機は琵琶湖の方へと突っ込んでいった。巨大な水柱が上がるが、寸前で敵パイロットは脱出したようだな。
兎も角、敵機が民家に堕ちなくて良かった。早く二人の救援に――。
『貰ったぞ、リボン付きの死神っ』
機首を上げようとしたその直後に、俺の愛機の主翼がオレンジ色の塗装が目立つ敵機によって撃ち抜かれた。
◇◆◇◆◇◆
――セタ川沿いに構築された防衛ラインは、敵の航空隊の攻撃を誘引するための囮だ。
――どんなに優秀なパイロットだとしても、疲労は必ず蓄積するし、戦闘機自体の弾も切れる。
――敵を疲弊させ、そのタイミングで温存していたドップ隊をぶつけて制空権を確保する、重要な役割だ、ガルマ大佐、指揮を頼んでもいいか?
――制空権を確保し、空の安全を確保した後に虎の子であるドダイを装備したザクにビワコを渡らせて対岸の連邦軍基地に降下、セタ川と言うルビコンを渡った敵軍の側面を突いて包囲し、撃滅する。
『これで、囮を務めてくれた勇士達に面目が立ちそうです。オカムラ大佐』
極東の死神とも言っていいリボン付きのセイバーフィッシュ機の主翼は貫かれた。
トドメを刺すべく、ガルマが駆る特別塗装の機体は、主翼から爆炎をあげながら空を飛ぶ敵機に機首を向けて機関砲を叩き込もうとする。これで終わりだ、あの状態で無理な機動をしようものならば、羽は折れて結局墜落することになるだろう。
死神のコックピットめがけてトリガーを引こうとした所で、翼から断末魔のような音が響いてゆきながら敵機の機首が斜め上を向き、無理矢理こちらへと向けられた。
『なにっ! まだ動くのか!?』『無茶な機動だが今ここでやらねば、あの二人がやられるかもしれないだろっ、堕ちろっ』
咄嗟に回避機動を取ったおかげでコックピット狙いの攻撃を回避してゆくが、エンジン部に被弾、どんどん高度が堕ちてゆく。
『ちぃっ、化け物め! だが貴様も堕ちるぞっ』
悪態をつきながらドップを減速させて、コックピットから緊急脱出、ランドムーバーを使って減速しながら地上へと降下してゆく、が。
降下時に勢いが付きすぎていたせいか着地しそこねてガルマの足からボキリと嫌な音が響き、その次の瞬間に田んぼのど真ん中からザビ家の御曹司の悲鳴が響いた。
◇◆◇◆◇◆
『ええいっ、クソっ! 一時後退する!』『大尉、援護する!』『守りますから早く後退を!』
撃ち抜かれた主翼の一部が脱落して田んぼに堕ちてゆくのを確認できるが今はそんな事を気にしてる場合じゃない、バランスを何とか取りながらキョウトの空軍基地を目指す。
味方の陸上部隊がこのままだと空からの攻撃に晒されるって言うのに、こんな大切な場面でしくじったか!
空軍基地が見えてくる、ランディングギアを降ろして操縦性が最悪になった機体を何とか滑走路へと下ろしてゆく、冷や汗が滲み生きた心地はしなかったが何とか着陸に成功。
「ピクトン大尉! 大丈夫か!?」「俺の事は良い、ライラ機とララァ機に補給を! それと、今すぐ出せる機体はあるか!?」
コックピットから出て、第二、第三滑走路へと着陸してくる二人の機体を眺めてゆきながら消火車両と共にやってきた整備士へと声をかける。俺の愛機が消火剤によって泡塗れになるが仕方ない事だろう、爆発したら洒落にならないし。
ルウム以来からの相棒であったが、彼とはここでお別れかもしれない、さらば俺の愛機よ。でも愛着があるし今度ケストレルに運び込めないかカニンガン少将に相談してみるか。
「さっきジャブローから届いたのがあるにはあるが……まだ大尉向けに調整してない機体だぞ? 飛ばせるか?」
不安そうな顔で整備士がこちらに声をかけて来るが、ここはエースらしく振舞うとしよう。
正直言って自信は無いが、そんな事は表情に出す事もなく、胸を張って不敵に。
「俺を誰だと思っている、お嬢さん方には引率が必要だろう?」
◇◆◇◆◇◆
「落とされたパイロットたちの回収は済んだか?」「ええ、ガルマ大佐とフランシス大尉も収容しました、ですが、二人とも重傷を負っているようでして……」「昇進はもう無理だな、まぁ今更か」
航空隊の奮戦によって、一時的に制空権を確保した、既にドダイ付きザク達にはビワコを渡らせて対岸の基地へと降下させている。
後は槍の矛先となり、セタ川を突破しヤス川の第二次防衛ラインに到達しつつある敵軍の側面を強襲、殲滅すれば今回の作戦は完了するだろう。
だが、勝ったところでどうする? 例えこの土地で局地的な勝利を収めたとしても、中国大陸とアメリカを繋ぐ重要拠点であるこの場所を守り抜いたとしても、既に敵軍にはモビルスーツが揃いつつあるという情報もある。
ここで勝利した所で、ジオンの敗北は目に見えてるというのに、勝ってどうするんだ?
そもそも、コロニー落としを実行した時点で、ジオンの敗北はもはや決定づけられていたのだとオカムラ大佐は思うが、それを口に出す事はしない。
「……戦況はどうだ? 制空権を確保し続けられているのか?」「ええ、確保しております、が……」「なんだ、言ってみろ」
言い澱んでいる参謀の一人に、次の発言を促す。
「そ、それが……前線の陣地の幾つかが空から降下して来たパイロットによって次々と制圧されて行ってるらしいのです、しかも相手は単独らしくて……誤報ですかね?」「誤報だろ常識的に考えて」
と、そんな会話をしていると、戦況を確認していた司令部要員の一人が司令部へと血相変えた様子で飛び込んで、こう叫んだ。
「た、た、大変です! オオツ方面で戦っていた戦闘機部隊からの連絡が次々と途絶しております!」
◇◆◇◆◇◆
コア・ブースターと呼ばれる最新鋭機が敵機へと襲い掛かる。セイバーフィッシュよりも良好な加速力だ、すぐに敵機へと距離を詰めて機関砲を叩き込む事が出来る。
また一機撃墜、空にジオン兵による命の輝きを生み出す。
『なんだこいつ!』『敵の新型か! おい、司令部に伝え――』『誰か助け――』
編隊機が撃墜されていっても怯まずに果敢に機関砲を放とうとしてきた敵機のコックピットめがけてメガ粒子砲を照射、花火に変えてゆく。
四機の小隊が二機の分隊に変えられてもなお果敢に側面へと回り込もうとしてきた敵機には、機首を横に振って機関砲を連射、エンジン部を貫いて爆散させる。
残りの一機は背中を向けて逃走しようとするが、この状況で背中を向けるのは良くないな。ララァ機が背面から敵エンジンを貫いてゆく。敵のパイロットは脱出したようだが、機体はセタ川の水面へと突っ込んでいって巨大な水柱を作り出していった。
『大尉、どうだ? 新鋭機の乗り心地は』『ん、まだ手に馴染んでるとは言い難いが悪くは無いな』
元々ニホン駐留の連邦軍駐屯地であった場所に降下し、南下を開始したザク小隊へと機首を向ける。急降下して来るこちらの機体に敵はザクマシンガンを向けて弾幕を放ってくるが遅い。
このコア・ブースターを貫くには弾幕があまりにも薄すぎる、メガ粒子砲を連射、一機、また一機とザクをスクラップに変えてゆく。
この機体に乗ってて思うが、やっぱりあの対地攻撃するために背面飛行しないと行けなかった『モルガン』は欠陥兵器だと思う。いやまぁあの時点で用意できる最大火力の兵器だったのは分かるんだけどな。
ザク一個小隊が一瞬で溶かされて動揺した他のザクめがけてライラ機とララァ機が降下、無誘導爆弾を足元に叩きつけて爆散させ、敵機を転倒させる。
転倒させられて動きが鈍った敵機めがけて機体下部の爆弾倉を開いて無誘導爆弾を投下。コックピットを精密に爆撃し、一つ目巨人のスクラップが一つ出来上がった。
◇◆◇◆◇◆
「……オオツ駐屯地に上陸させたザク一個中隊からの連絡が途絶しました」
その報告を聞き、ふぅむ、とオカムラ大佐は唸り声を漏らして。
「第二次攻撃隊の出撃を取りやめろ。砲兵陣地から人員を退避、装備は放棄して良い。集結地点はナゴヤ市とする。残存のザク部隊はヤス川に展開、敵軍の進撃を食い止める殿の役割を担うように。包囲された場合は降伏を許可する」
ツルガ、シガラキ方面から突破を図ろうとしてきた敵の鹵獲陸戦型ザクを中心としたモビルスーツ部隊によってこちらへの包囲網は成りつつある。ここで粘ろうとすればするほど損害は増えることになるだろう。そう判断し、撤退を指示した指揮官に参謀は食い下がる。
「しかし、ここで撤退すれば敵軍を撃滅する機会を失う事になります! ヤス川に進出していた敵機甲戦力の攻勢はロケット砲兵によって打ち砕きました! 予備戦力としていた第二次、第三次攻撃隊を対岸に渡らせて側面攻撃を続ければ敵の戦力にさらなる打撃を与える事も不可能ではありません!」
「だからこそだよ、敵の攻勢が一時的に止んでるうちに後退する。まだ対空要塞であるギャロップ・ウォーワゴンはコナン周辺に展開してるだろう? それを対空の要にしながらナゴヤ方面へと後退し、戦力を再編する。戦いには負けるかもしれないが、せめて傷は少しでも減らすべきだ」
後にオオツ会戦と呼ばれることになる戦いは地球連邦軍の勝利と言う形で幕を閉じることになった。
先鋒となりヤス川へと迫った機甲部隊も、そして先遣隊として敵陣地の攻撃の役割を担う事になった航空隊の損害も大きかったものの、激戦の末、交通の要衝を押さえることに成功したのである。
しかしながらも、ジオン軍側はオカムラ大佐の迅速な判断により野戦砲などの重装備は放棄することになったものの、殿として残ったザクを除き大半の兵員のナゴヤへの脱出に成功。
東海道を渡り、東ニホンへの後退に成功する。
ガルマ大佐は負傷し、本国に移送されることになった。リボン付きの死神の羽を奪った英雄としてデギン・ザビから直々に勲章を授与されたものの、その表情は明るいものでは無かった。
オオツ会戦での連邦軍の勝利の報告を聞き、ニホン各地に潜んでいたレジスタンスによるジオン軍への抵抗運動は加速することになる。
もはや、ニホンに残されたジオン軍は風前の灯火であった。
因みにオメガ中尉は降下後にジオン軍陣地を単独で四つ陥落させて、ヤス川で足止めされてロケット砲で車両を吹き飛ばされることになった戦車兵達を陥落させた陣地で収容し、後続がやってくるまで持ちこたえさせることに成功して勲章をもらったそうです。