【完結】えっ、ここからでも入れる保険があるんですか???   作:らいらいてー

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何時も誤字脱字報告ありがとうございます、助かっております


機神の刃

 ――ナリタ空港、臨時HLV打ち上げ施設。

 

 タネガシマ宇宙港が地球連邦によって破壊された際に、代替として設置されたナリタ空港のHLV打ち上げ施設がニホンに残されたジオン軍最後の希望となっていた。

 

 周辺には信頼のおける兵士たちによる警戒網が設置され、捕虜交換によって返還されることになった捕虜や、この土地から地球連邦支配下の地域へと疎開させることになった地域住民達にはこの土地でジオン軍が決戦を行うつもりである欺瞞情報を教えている。

 

 既にドズル中将への個人的なコネを使ってニホンから撤退する兵士たちの保護を要請している。情に篤い彼の事だ、必ず保護してくれるだろう。

 

 総帥府からはニホンでの徹底抗戦を命じられてはいるが、オカムラ大佐はその命令に従うつもりは無かった。

 

 あの【リボン付きの死神】と呼ばれたエースパイロット、それに従う【連邦のシヴァ】に【ルナツーの狂犬】、そして極めつけには何度撃墜しても戻ってくる【不死身の男】。

 彼らの活動によって航空戦力は無視できないほどの損害を受けてしまう事になった。せめて制空部隊がまだ健在であるのならば戦いようはあったが、半壊した現状ではこの土地の維持は難しい。その状況で死守命令を実行しようものならば結果は見えている。

 

 空での戦い、特に爆撃機の数と質ならば連邦に分があるのだ。制空権が取られた状態での戦闘ともなれば陸戦の王者となったザクでも苦戦は免れないだろう。事実、プサンで包囲されている部隊は制空権が取られた上に爆撃によって戦力は削られてゆき、降伏寸前であるという。

 

 ナリタ空港に設置された臨時の指揮所から、夜間作業用にライトアップされた空港で作業を行う整備士達の姿を見つつ、ふぅ、と溜息を一つ吐く。近づいてくる人の気配にすっ、と表情を引き締めて指揮官としての威厳を保とうとする。

 

「オカムラ大佐、最後の避難民と連邦捕虜を載せたファットアンクルがナゴヤ方面へと向かうのを確認しました。ジオン軍捕虜を載せたミデアもナラシノ基地への着陸を確認しております。……明日の昼には停戦が明けますね」

 

「フランシス大尉、哨戒ご苦労だった。対空メガ粒子砲である【エクスキャリバー】が健在である状況で、敵の航空隊が仕掛けて来ることは無いだろうが、万が一の可能性もある。信頼できる君にしか任せられない事なのだ」

 

 そう言いながら、空を見上げる。かつて競馬場が存在した場所には、こちらの命綱とも言っていい防空の要が存在した。天高く聳え立つ巨大な塔を見上げつつ、頼もしさを覚える。それと同時に、それでも連邦軍が本腰を入れて攻め込んできた場合は相手に出血を強いる事は出来ても最終的には負けてしまうだろうな、とも思った。

 

「……輸送機を見送っている最中に、海に沈んだ遊園地の廃墟が目に入りました。……コロニーが落とされた際に発生した海面上昇によって、殆どが海に沈んでしまったその土地を」

 

「……ここからはジオン軍大佐としての発言ではなく、ムンゾの市民としての意見であるが」

 

「コロニー落としにかかわった人間は皆、地獄行きだろうな。どんな綺麗事を並べた所で我々が行ったのは虐殺だ」

 

「……」

 

 自販機で購入した苦いコーヒーをゆっくりとオカムラ大佐は飲み干してゆき、スチール缶を掌で握りつぶしてゆく。変形したスチールによって手が痛むが、それを気にすることは無い。

 

「だからこそだ、だからこそ、今回の戦争の悲惨さを一人でも語り継ぐ人間が必要なのだよ。未来ある若者が、次の世代、そしてまた次の世代に地獄を語り継いでゆく。そうすることで、人の過ちを少しでも減らす事が出来るはずだ。……私は、そう信じたい」

 

 人は過ちを繰り返す、でも、それでもオカムラは信じたかった。人の過ちを次の世代に語り継ぐことで、子供達が過ちを繰り返さないようにしてくれると。

 

「……心中お察しします」

 

「フランシス大尉。君に頼みたいことがある。サイド3に家族が残されているのだが、あの子達をサイド6に亡命させてやってくれ、頼もしい協力者も居るが、君も、協力してくれると助かる。教官としての願いだ、聞いてくれるな?」

 

 自らの恩師であるオカムラ大佐と共にこの地に残り、味方を逃すための殿になるつもりであったフランシス大尉は一瞬言葉を失った。しかし、少しの逡巡の後に頷いて、了承の意を示す。

 

「うむ、ありがとう……君もこの戦争を生き残り、ザビ家が犯した過ちを後世に語り継いでくれ。そうする事が、先に死んでいった者達へのせめてもの贖いになるだろう」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻腔をくすぐる濃厚なミソソースの香り! やはりナゴヤと言えばこの料理だな、味噌カツ!

 

 トウキョウでの任務を終えた俺達は久々の休暇を与えられて市街地へと繰り出して、食欲をくすぐる香りに誘われて飯屋へと足を運んでいた。

 

 夜という事もあってこの土地へと進駐することになった連邦兵を中心に客が沢山入っていて賑やかだな、俺も飯が来るまでの間、陸軍の兵士からサインねだられちゃったし。

 

 ま、人の死によって有名になったって事で少し複雑な気持ちにはなるが、こうやって英雄扱いされるのも悪くは無いな。一度味わったらもうそれで十分だが。

 

「大尉、これ物凄く味が濃いぞ! おいしーっ!」「おお……サクサクした衣にミソソースがよく合いますね……ご飯が進みます」

 

 俺は前世が日本出身だから何度か食べたことはあるが、ライラ中尉とララァは初めて食べるナゴヤ料理をすっかり気に入ったようだ。

 まぁ二人ともまだ若いというより幼いし、兵隊の仕事はなんだかんだ言って体力仕事だから、こういう味の濃い料理の方が好みだろう。

 

「いやー、こういう時にアルコール飲めないのはパイロット特有の欠点っすねぇ、隊長」

 

 と言いながらオメガは俺のグラスにノンアルコールビールを注いでゆきながら土手煮を突いている、やっぱりこう言う味の濃い料理を食べる時は酒を飲みたくなるが、スクランブルに備えて酒を飲むわけにはいかない。

 

 パイロットの辛い所だな、まぁ戦時中だし仕方ない。

 

「ま、戦争が終わったら浴びるように酒を飲むことぐらいは出来るだろうさ」

 

 オメガのグラスにもこちらからノンアルを注いでゆき、かつん、と相手のグラスに合わせて乾杯した後にゆっくりと飲み干してゆく。

 

「戦争ですかぁ、泥沼化しないと良いんですけどね。極東の一部では戦局は優勢になりましたが、全体で見ればやはり劣勢ですし。早い所モビルスーツを大量生産して前線に配備して欲しい物ですよ」

 

 カニンガン少将が指揮を執っているプサン攻囲戦は予想以上の相手の抵抗によって攻略が難航していたものの、度重なる爆撃によってついに敵が音をあげ始めた。一週間以内には向こうも白旗を掲げることになるだろう。

 

 ニホンでの戦いは航空隊の活躍と各地のレジスタンスの活動もあって、ジオンの守備隊は敗走を続けてチバに集結しつつある。

 情報部もフナバシの前線に敵の兵器が集積されつつあるという情報を掴んでおり、チバで決戦を行うつもりなのは間違いないだろう。

 

 で、メビウス小隊に与えられる役割は今回も他の隊では行えないような無茶なものになるだろうな、まぁ一番生存率が高いし任務の成功率も高いから難易度の高いミッションを与えられるのは仕方ないんだ、が。

 

 味噌カツを無我夢中で頬張る子供二人へと視線を向ける。この子達が健やかに育つ事が出来るような時代になって欲しいんだがね。口に出したら子ども扱いすんなって怒られそうだから言わないが。

 

 と思っていたがララァからジト目で睨まれた、すまん。でも俺からすればお前らはやっぱり守るべき子供なんだわ、過保護すぎるかなぁ。

 

「戦争なんてさっさと終わった方がいいに決まってるさ。その為にも次の任務も生き残るとしよう。まぁお前は死なないと思うが」

 

「俺への扱い酷くないですか!?」

 

「信用してるのさ」

 

 そう言いつつ、子供達から窓の方へと視線を向ける。ジオン軍が疎開させた市民達が列を作り、連邦が急造したプレハブの避難所へと向かっていた。

 中には当然、子供や老人も居た。歩く事さえもままならない老婆が子供の肩を借りながら避難所へと向かおうとしていた。

 

 ああ、やはり戦争と言うのはクソだな。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 前衛の偵察機から敵航空機捕捉の報を受けたポイント05Aの対空陣地はにわかに騒がしくなり始めた。

 

 時刻は昼、既に停戦期間は終了しており、敵が早速こちらへの攻撃を仕掛けてきた形になる。

 

 前線の物資集積所に集められた宇宙へと上げる事は出来ないと判断されたザクに仕掛けられた爆薬が工作班によって作動させられたのか、数百メートルほど離れた位置に存在するこの場所からでも聞こえるほどの爆発音が響いてゆく。

 

「折角のザクが勿体ないですな、隊長」「鹵獲されるよりかはマシだ、ヒヨッコ共が宇宙に上がるまでこの陣地を固守するぞ、敵を通すな」

 

 対空砲の安全装置を外し、指揮官が双眼鏡で空を見張り敵影を確認しようとする。既に負傷兵を中心としてHLVに兵員を搭載しており、打ち上げの準備は整いつつある。

 

 ここに残ったのは時間稼ぎの決死隊のみ、その決死隊もHLVの打ち上げが完了次第降伏する手筈になっている。だが、この対空砲陣地は味方部隊の撤退が完了するまでは堕ちないだろうなと隊長であるムハール少尉は判断していた。

 

 詰めている兵員は歩兵と言えども死地を潜り抜けて来た精鋭ばかり、その上、【エクスキャリバー】の支援も存在している。

 航空機への備えは万全と言えるだろう、少なくとも味方が撤退するまでに敵に多大な出血を与えられるだろうと判断していた。

 

 していたの、だが。

 

『こちらポイント01A! り、【リボン付きの死神】だ、ガルマ様が倒したはずじゃ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』『地点01Cより救援要請! あいつは……主翼に【シヴァ】のシンボルマーク! あいつにこちらの対空砲は全てやられた、死傷者多数!』『地点01D! 被害甚大、狂犬だ! 【ルナツーの狂犬】が出て来た!』

 

 空を【エクスキャリバー】の光線が引き裂いてゆき、たった四機と言う少数でこちらの対空砲陣地を潰している敵編隊を貫こうとするが、当たらない。

 特に、主翼にリボンが描かれた、あの最新鋭機は回避行動を取って【エクスキャリバー】の刃を回避しながら急降下し、ビルの合間に設置された対空砲を潰していく有様。

 

 今まさに陣地へと襲い掛かろうとしている敵機。

 その主翼には艦船やガウ、ザクなど大物の撃墜数を示す三十五の星が煌めく。

 下には航空機を撃墜した事を示す百五十四の星。そしてリボンのペイント。

 

『り、リボン付きだ! ひぃぃぃぃぃぃぃぃ! 誰かたすけ――』

 

 すぐ近くの対空砲陣地が【死神】の鎌と化したメガ粒子砲の一撃を集積された弾薬に叩き込まれて木っ端微塵に吹き飛んでゆく。

 【エクスキャリバー】も死神の首を取るべく光線の剣を振り下ろそうとするが、超低空飛行で飛ぶ目標に放つのは味方陣地を巻き込みかねない為、撃てないようだ。

 

『ここを抜かれたらまだ積み終わってないHLVがやられるぞ、何としても死守しろ!』

 

 対空火器を満載した、ギャロップ・ウォーワゴンが前線に出て必死の防空弾幕を放っていくが、【死神】を貫くには至らない。

 そのままウォーワゴンの直上へと上がったかと思うと、背面急降下を開始、弾幕を急降下しつつバレルロールで回避していきながら突っ込んでいく。風を切り迫る戦闘機の飛翔音はまるでラッパのようであった。

 ジェリコのラッパが吹き鳴らされながら一トン級の大型爆弾が投下され、爆発音が響く。どうやら弾薬庫に引火したようでその次の瞬間に先ほどの爆発以上の大爆発が起こり、破片があたりに巻き散らかされてゆく。

 

 弾薬の誘爆によって巻き起こった爆炎を切り裂き、ジオン兵の【死神】が駆ける。

 

 すぐ傍の対空砲陣地の兵員は片翼が血のような赤で塗られた【死神】の機体に恐れをなして、泣き叫びながらどこかへと逃げ去っていき、空になった対空砲陣地めがけて再度爆弾が投下されて火柱が上がる。

 

「化け物がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ポイント05Aの対空陣地からも対空機関砲や有線式のミサイルが弾幕のように放たれていき、【死神】に精一杯の抵抗をしようとするが、対空機関砲は180度ロールからの背面急降下によって避けられ、その避けた先に置かれるように放たれた対空ミサイルも地面へと突っ込むかのようにアフターバーナーを吹かせることによって敵機が加速した事で回避されてしまう。

 そしてそのまま地面スレスレ、高度10mまで急降下した敵機がこちらに機首を向けて迫る。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ、堕ちろ! 堕ちろぉぉおぉぉぉぉぉ!」

 

 陣地に展開した歩兵たちが持ちうるあらゆる火力を持って【死神】を粉砕しようとする。無誘導式のロケット弾、或いは設置式の重機関銃、更にはアサルトライフル、拳銃までも用いて半狂乱になりながら向かってくる【死】へと抵抗しようとしてくる。

 

 だが、その抵抗も無意味であった。陣地に到達する寸前で機首を上に上げて急上昇して攻撃を回避したかと思うと、そのまま180度ロールしたかと思うと、こちら目掛けて急降下。

 

 迫り来る敵機から爆弾が投下されていくのが、ポイント05A守備隊が見た最後の光景であった。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

『対空砲陣地の沈黙を確認、粗方片付いたな、各機、損害状況を報告せよ」

 

『こちらライラ機、主翼を一発敵の機関砲弾が掠めたぐらいだな』『ララァ機、問題ありません』『オメガ機、どうやら無茶な機動しすぎたみたいっす。エンジンの調子がさっきから悪いので、ベイルアウトしていいですか?』

 

 こいつまたかよ、いや今回は被弾してないみたいだが。そう言う運命的なモノでもあるのか?

 

『分かった、ベイルアウトして歩兵として適当に暴れて来い』

 

 オメガ機の機首が攻撃目標(対空メガ粒子砲)の近くに存在する護衛の対空要塞ギャロップに向けられてアフターバーナーが吹かされて突っ込んでゆくと同時に、オメガが空中へと脱出、何時ものように敵地へと降下していく。最初は驚いたがもはや見慣れた風物詩みたいな光景だ。

 

 いやまぁ慣れたらダメなんだが。

 

『よし、後は俺達だけでやるぞ』『何時もの事だな』『何時もの事ですね』

 

 機首をさっきからこちらめがけてバカスカとメガ粒子砲を放っているバカでかい塔へと向ける。元々は地球連邦の高射砲塔だったってのにジオン軍の奴ら魔改造しやがって、破壊してやる。

 

『ライラ機とララァ機は周辺の取り巻きを頼む、俺があの攻撃目標(対空メガ粒子砲)をやろう』

 

 彼女達の機体がハリネズミと化したギャロップへと突っ込んでゆき、手慣れた様子で対空砲の弾幕をかい潜りながら敵火点を潰してゆく。

 今更ながら、対地目標に攻撃するならばどう考えてもフライマンタの方が良さそうな気がするが、今回は対空砲陣地に飛び込んで後続の航空隊の為に攻撃目標(対空メガ粒子砲)を破壊するのが仕事だから攻撃に当たらないように制空戦闘機で来るしか無かったんだよな。

 

 ……四機でガチガチに固められた対空砲陣地に空から切り込みを入れるって懲罰部隊でもやらされなさそうなことをやらされてる気がするな。

 

 戻ったら上に危険行為手当としてボーナスを請求するとしよう。

 

 目標目がけて加速。接敵まで残り五秒。メガ粒子砲が放たれていくが、敵の照準を予想して大ぶりなバレルロールを行い回避、護衛の対空砲は味方が引き付けてくれてるから楽だな。

 

 接敵、敵まで400mほどの至近距離で塔の真ん中めがけてメガ粒子砲を連射。

 一発、ニ発、それでも足りないならば三発、四発と叩き込んでゆく。

 

 メガ粒子砲の連続射撃によって破損した箇所目がけて最後の一トン爆弾を叩きつけるかのように投射、命中、炸裂。

 

 断末魔のような音を響かせながら、敵の塔が攻撃を受けた個所からへし折れてゆき、地面へと落下。

 

 競馬場跡地に、ジオン兵の墓標のように突き刺さった。

 

『【エクスキャリバー】がこんなにもあっさりと抜かれるのか!? だが、既に兵員の搭載は完了した、搭載予定だった兵器はその場に捨て置け、人員だけでも脱出しろ!』

 

 敵の司令官らしい男の声が通信機越しに聞こえてくる。……なるほど、人員が妙に少ないと思ったが、決戦を行うという情報は欺瞞だったか。

 

『司令部に通達。攻撃目標の沈黙を確認。すぐさま待機させていた航空隊を突っ込ませてくれ、敵が逃げるぞ』

 

 ナリタ方面から次々と打ち上げられていくHLVへと機首を向ける、降伏しないならば容赦はしないというか、出来ない。軍人として始末させて貰うとしよう。

 

 が、HLVの打ち上げが行われると同時に、護衛目標が沈黙したというのに残存の対空要塞と化したギャロップからの弾幕射撃がより一層強まってゆく、ち、厄介な。

 

『こちらオメガ! 敵のギャロップを一台鹵獲しました! 敵乗組員もほぼ無力化しています、すぐに合流しますね!』

 

 何時もの事だがこいつ本当に人間なのか? 

 

 まぁ良い、好都合だ。

 

『了解! ライラ機とララァ機も敵部隊の抵抗で苦戦してるようだ、お嬢さんたちを助けてやってくれ』

 

 了解、と言うオメガの返答を聞きつつ、HLVめがけてこちらの機体を加速させて接近しよう――。

 

 とした所でナリタから上がってくる敵のドップを捕捉。相手は一機か。

 

『貴殿がリボン付きの死神か。一曲お相手できませんか?(Shall We Dance?)

 

 ――敵機が鋭い軌跡を描きながらこちらへと向かう、重力に縛られない自由な機動。なるほど、俺と同じ元宇宙戦闘機乗り。

 

 鋭い軌跡を描いていきながら襲い掛かって来た敵機の攻撃をエンジンの大推力を活かしてあえて上方向ではなく下方向に向けてダイブ。寸前で回避する。

 

 地面スレスレまで急降下した後に、そのまま落下時の運動エネルギーを活かして急上昇、こちら目掛けて急降下してゆきながらヘッドオンする形となった敵機のパイロットと目線が合う。

 

 敵機からミサイル投射、無誘導ミサイルを凄まじいGを出来る限り無視しながらバレルロールで回避、反撃とばかりに機関砲を連射。

 

 相手はミサイル発射時の反動を活かし、一瞬だけエンジンを切る。一瞬だけ速度を落として俺の目測を外しながら、上方向にわずかに機首を向けて潜り抜けるようにして弾幕をスレスレで回避、同時にこちら目掛けて機関砲を放つ。

 

 尾翼を掠める、それでも勢いを殺さずに突っ込む。

 

 敵機と交錯する、胸が高鳴る、これほどの腕前の戦闘機乗りがジオンに居たとは!

 

『やるな、元ガトル乗りと言った所か!?』

 

『AMBACに馴染めずに戦闘機を乗り続けている時代に取り残された老兵さ。オカムラと言う名のな』

 

 今度はこちらが敵機の頭上を取る。相手を無視してHLVを狙いに行くのは……出来そうにないな!

 

『よそ見をしている場合か? 私と踊ってもらうぞ』

 

『野郎と踊る趣味は無いんだがね』

 

 ドップ特有の凄まじい運動性によって鋭い軌跡を描きながらインメルマンターンの空戦機動を取り高度を回復。そしてそのままこちらの背面を取ろうとしてゆく。

 

 背面を取られるのは戦闘機乗りとして致命的だが……ここはぶっつけ本番になるがアレを試すしかないか。

 

 敵の機関砲が放たれる寸前に操縦桿を上に倒して急激にピッチアップ、90度上を向く形になる、ストール寸前の急減速と凄まじいGがこちらに襲いかかりながらも、目測を見誤った敵機がこちらの下を通り抜けてゆく。

 そしてそのまま水平姿勢に戻り、ストール寸前まで減速した機体を無理やり加速させて速度を回復する、敵の背後を取った。コブラ機動と呼ばれる空戦機動だが何とか土壇場で成功。

 

『――いいダンスだったぞ、死神。だが、私の勝ちだ』

 

 敵機の背面を取りながらメガ粒子砲を放つ、爆発音。

 

 ジオンの戦闘機乗りの機体は空中で燃え尽き、空に散ってゆく。

 

 その言葉に気が付き、空を見上げる、HLVは既にこちらの機体では追いつけない距離にいた。

 

『こちらオメガ、激しい抵抗を見せていた敵部隊が一斉に白旗を掲げ始めました、一体なんだったんですかね?』

 

『こちらも、交戦中だったギャロップから白旗が上がるのを確認したぞ』『こちらもです、隊長』

 

『……老兵の意地が兵士達を逃した、か。まぁ、こちらの戦略目標は達成したし、仕事はしただろう。各員お疲れ様、後は後続に任せて基地に帰還するぞ』

 

 こうして、チバでの決戦は幕を閉じることになった。ニホンでの組織的なジオン軍による抵抗は終わりを迎え、再びこの土地に連邦の旗が翻る事になったのだ。

 

 ニホンでの決着が着くのとほぼ同時刻、プサンでもジオン軍が白旗を掲げて降伏を宣言。連邦軍の戦略規模での大勝利として大々的に報道される事となった。

 

 しかし、チバに集結したジオン軍は重装備の大半を放棄することになったものの、残存兵力の凡そ八割が宇宙に脱出に成功、ジオン軍側もまた、戦略的撤退の成功と主張することになるのであった。

 

 因みに俺の階級は功績が認められて少佐になってオメガとライラも大尉に、ララァにも特例で少尉の階級が与えられることになった。

 二十歳の若造に佐官の地位を与えるのは連邦軍の未来が不安になって仕方ないが、固辞することも出来ないので受けざるを得なかった。

 




個人的にはエース同士の戦いを描写出来て満足してます(自己満足)
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