【完結】えっ、ここからでも入れる保険があるんですか???   作:らいらいてー

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軌道上の死闘

 ――ケストレル艦内、第三ブリーフィングルーム。

 

 艦内に存在しているブリーフィングルームの一つが、カニンガン艦隊のモビルスーツ隊司令の役割を押しつ……任命された俺の執務室となっていた。

 司令の役割と言っても事務仕事が殆どだ。【ウヅキ】に属するジム小隊からビームスプレー・ガンの代わりにブルパップマシンガンを配備を望む書類。そんな要望書に俺の名で認可を出すのが司令の仕事だ。

 

「少佐、この書類にサインお願いするのです」

 

「ああ、ありがとう、フラン」

 

「先日のパトロール艦隊への攻撃で敵の新型を五機撃墜したエースと言えども、事務仕事はボクが居ないと成り立ちませんからね、頼りにしてくださいね」

 

「ララァの方が俺より四機多く撃墜してるさ」

 

 輸送艦隊への救援任務の後、ジオン側のパトロール艦隊を叩く任務に就くことになった、敵の戦力を削るいい機会だしな。

 ライトアーマーの操縦にも慣れてきて、リック・ドムを五機、撃墜した。モビルスーツでもエースと呼んで良いはずだろう。あくまで俺は戦闘機乗りだが。

 

 で、うちの小隊待望の事務担当がフラン・イーン曹長。元々は【ネレイド】の経理を担当してた子だ。

 俺の隊が事務担当を求めてると知って熱望し、うちの隊にやってきた。

 

 俺へのアプローチが激しい子だ。事務仕事の手際は良いので許せるが、勘弁してもらいたい物だ。

 まだこの子も若いんだし軍人なんて言う保険効かない仕事に就いてる奴じゃなくて一般の人を好きになれば良いのにな。

 

 アナハイムの社員とか優良物件だと思うぞ。

 

「ついでに婚姻届にもサイン書いて欲しいなー、なんて」

 

「軍人を結婚相手に選ぶな、いや本当に」

 

「フラン! まーた少佐に色目使って!」

 

「からかってるんじゃなくて本気で思ってるのが始末に負えないところですね」

 

 執務室に入ってきたライラ大尉とララァの視線がこちらに向けられる、ジト目だ。

 いやまぁ女の子に言い寄られるのは気分は悪くは無いんだけどね。

 あ、ララァがこちらを睨んできた、ごめん。

 

「いやでも、ピクトン少佐は本当に優良物件なのです。軍の有望株ですし、何より【ネレイド】を救ってくれたヒーローですからね」

 

 そうか、確かに二十歳で少佐の地位に就いたからそれ目当てで近づいてくる子も居るか。地位が高くなるのも考え物だな。

 この子の場合は命を助けられたから俺の事をヒーロー扱いしてきてるみたいだが。

 まぁ活躍したのは確かかもしれんが、結局俺が戦う理由は自分本意なものだからな。死にたくないのと子供に良い未来を残してやりたい、それだけだ。

 

 戦争が減れば俺の死ぬ可能性も減るし、子供も親を理不尽に敵兵に殺されてされて泣くことも無くなる、それが戦う理由だ。

 

 過度に英雄視されるのも困るんだよなあ本当。結局自己本位で戦ってるだけだし。

 

「……それで、隊長は誰を選ぶんだ?」

 

「女性に手を出さなすぎてオメガさんとデキてると言う話さえあるそうですよ」

 

 やめてやれよ、オメガにはタイワンに残してきた彼女がいるんだ。

 因みにすっげぇ美人だった。自立してそうな女性だったし女を選ぶ目は確かだな、アイツは。

 

「……君達が大人になって自立した女性になってから選ぶことにするよ」

 

「少佐って天才的な操縦技術を持ってる割には女の子の気持ち分かってくれないのです」「何時か刺されそうだよな」「これで誰も選ばないってなったら私が刺します」

 

 三人とも仲が良いのは結構だが、上官に対して随分な物言いでは無いかな?

 

「それで、二人とも何用でやってきたのかな?」

 

 コホン、と咳払いを一つ。注意を促しつつ、旗色が悪いと判断し話題を変えようとする。

 妙に察しのいい少女からジト目が向けられるが意図的に無視!

 

「ああ、カニンガン中将が次の作戦について隊長と相談したいだってさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【グワデン】の艦橋の窓から様子を伺う。北米から打ち上げられたシャトルは回収はほぼ完了していた。

 

 十二月に入ってから状況は加速度的に悪化している。

 

 ジャブローへの降下作戦は失敗し、北米の残存戦力は宇宙への撤退を開始。

 本来回収担当のパトロール艦隊は連邦軍の攻勢によって被害が増え、行動不能に陥った小艦隊が多数であるため、こうしてガルマ艦隊が上がってきた味方の回収作業を行っているのだ。

 

 海兵隊のムサイ級から兵員の収容を完了したと告げる発光信号を確認。

 その光景を見つつ、艦隊司令であるガルマは兄からの手紙を開いた。

 

「ふむ、ソロモンに送ったゲルググ。その感謝を伝える手紙か、ドズル兄さんらしいな」

 

 連邦軍の攻勢が来るとするならばソロモン。そう判断し、手勢のゲルググ一個中隊を派遣した。装備はMMP-78などの既存の装備だが、それでもジムに後れを取ることは無いだろう。

 

 シーマ艦隊がビーム兵器を装備していないゲルググの有用性を示した。

 ビームライフルの量産は捗っていないが、それでも機体だけはある。

 その機体を死蔵する余裕はもはやジオンには存在はしていなかった。

 ガルマ艦隊を中心に倉庫で埃を被っていたゲルググが配備され、地球各地から敗走していた戦力も吸収し、新たな派閥を作りつつある。

 

 既存の派閥とは敵対することもなく上手くやってはいるが、その規模は大きいとは言えなかった。

 それでもゲルググを何とか抽出して送ったが、結構な無茶をしている。

 

 今は間に合せで既存の兵装でゲルググを戦わせている、が。

 

 ビームライフルの数が揃えば戦争勝利する、とも言われている。

 

 が、その楽観的な意見はガルマは一切信じていなかった。

 

 新兵器があっても戦争に勝てる訳が無い。良いところ相手に打撃を与えて交渉のテーブルに着かせる事を早めるだけだろう。

 

 もはや重力戦線が総崩れとなっている現状では戦争の勝利ではなく、いかにこの戦争でジオンが負うダメージを少なくして軟着陸させるかが重要となる。

 

 重力戦線からの早期全面退却が一番傷を浅くする方法なのだが、地球連邦の全面攻勢によって被害は増え、連絡が途絶する部隊が後を絶たない。

 

 今回回収できた者達は運が良かったと言えた。

 

 大多数は地球という重力の檻によって捕らえられて、宇宙に戻ってこれないのだから。

 

 一刻も早く、兵士を帰りを待つ者たちの元へと返さねばならない。その為に出来る限りのことをせねば。

 

 そう考えを新たにして気合を入れようとした所で敵影発見の警報が鳴り響いた。

 

「敵襲か! 数は!?」

 

「こちらに近づいてくる熱源反応は三つ! 後方には連邦軍艦隊!」

 

「近づいてくるのはこちらの出方を探る為の揺さぶりか……こちらの任務は兵員の救助だ、すぐに後退を伝える発光信号を出せ!」

 

 ガルマの判断は迅速だった。本格的な交戦を避け、兵員の回収が完了した艦から撤収せよという指示を伝える発光信号が旗艦から出されていく。

 その命令に従って殆どの艦隊が逃げ去ろうとしてゆくが、一隻は逃げ遅れてしまった。

 

 逃げ遅れたムサイ級巡洋艦【アーガス】に直下から接近した敵戦闘機から大型カプセルが放たれ、船体へと張り付いてゆく。

 

 護衛のモビルスーツによって作られた弾幕の雨をかいくぐり巡洋艦に肉薄するあの戦闘機動、間違いない、あいつは……。

 

「【リボン付きの死神】か……!」

 

 ヒートホークを構えて戦闘機を迎え撃とうとしたザクがすれ違いざまにメガ粒子砲によって撃ち抜かれて、宇宙に爆炎の華を咲かせる。

 このままでは兵員を回収した艦にも計り知れない被害を受けてしまう。

 

 反転して敵部隊に集中砲火を行い殲滅する? 

 

 いや、その場合は短時間で相手を落としきれなかったら【リボン付きの死神】達の後ろにいる連邦軍艦隊が接敵してきて本格的な艦隊戦になる。

 

 勝てないことはない戦力はあるが、宇宙においても敵軍の大攻勢が近い内に行われる可能性が高い事を考えると、戦力は少しでも温存しなければならない。

 

 一瞬だけ【グワデン】を囮にして味方を逃そうと考えた所で通信が入った。

 

『こちらフランシス大尉、ビグロだ。ガルマ様、殿が必要でしょう? 私に残らせてください』

 

『こちら海兵隊第七小隊。コロニーに毒ガスを流し込んだ実行犯としてどこ行っても鼻つまみ者だった俺達を、仲間と呼んでくれたガルマ様に恩返しさせてください』

 

 後退を開始しようとしているモビルスーツ隊の中からゲルググが四機、そしてグワデンの直掩として残っているビグロが反転し、敵部隊に向かおうとしていく。

 

『……安全圏まで後退したら発光信号を出す! 場合によっては降伏してくれて構わん! 命は大切にしろ、君達は戦後のジオンに必要な人材だ!』

 

『倒してジオン十字勲章貰って良いんですよね』

 

『……ふっ、勿論だとも、全員戻ってくるんだぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわぁぁぁぁ、連邦軍兵が艦内を練り歩いてる!』『【プレデター】、【プレデター】がいるぅ!』『へ、連邦の犬の攻撃など掠りも……はぅ!』

 

 コア・ブースターから射出されたカプセルの中にはオメガと特殊作戦群の連中が入っていた、ミノフスキー粒子による発生した通信混線で聞き取れる敵の通信内容から察するに大暴れしてるみたいだな。

 

 サラミス後期型ではモビルスーツの運用能力が低いという事でムサイを鹵獲してきて欲しいってカニンガン中将が言ってきたときはこの人ついに発狂したのかと思ったが、上手く行ってそうで何よりだ。

 戦力が欲しかったら現地調達とかどこの海賊だよって突っ込みたくなったの内緒だ。

 

 今回は歩兵が満載されたカプセルを搭載するためにモビルスーツを運搬することさえも出来るコア・ブースターのペイロードが必要であったのでこれに乗ってきたが、やはり戦闘機は良い。

 

 手に馴染む。

 

 妙に敵が多いが、打ち上げられたジオン兵を回収し終わったらしく、後退し始めている。

 出来れば何隻か沈めたい。ここで敵を削れば削るほど、味方が後々有利になるだろう。

 機首をムサイ級へと向けていく。

 

『【プレデター】!? 地上部隊にとっての悪夢! たった一人で歩兵一個大隊に匹敵すると呼ばれたあの……!』『あまりにも荒唐無稽すぎてただの与太だと思ってたが本当にいるとは……!』『おい、絶対に敵を艦橋に上げるなよ、ここを死守しろ!』

 

『三十人ちょっとで俺達を止められると思ってるとか笑っちゃうんすよね』『特殊作戦群の力を見せてやれ!』『この緑の女は今日から連邦の女になるんださっさと退きやがれ!』

 

 あいつ、ジオンからそんな風に呼ばれてたのか。

 

 さり気なく人間扱いじゃなくて化け物扱いされてて笑ってしまう。

 

 が、あいつの戦闘能力なら【プレデター】と言う二つ名もぴったりかもしれない。

 

 こちらも負けてられないな、と思いながら逃げようとしている敵艦に接敵。メインブースターに狙いを定める。

 

『やらせるか、味方を! 贖いきれない罪を犯してしまった! だからせめて味方の命は――』

 

『一機撃墜です、隊長』

 

 こちらに近づいてきたゲルググ二機、その内一機がララァ機の狙撃をコックピットに受けて沈黙。

 もう一機はライラ機の狙撃銃による銃撃を脚に受けてバランスが崩れた所にララァの一撃が胴体を貫いて、その直後に爆発四散。

 

 ……思うところはあるが、これも戦争だ、容赦は出来ない、と言うか容赦したら味方の誰かが死ぬかもしれない。

 ゲルググ達が守ろうとしたムサイのブースターにメガ粒子砲を放とうとした所で、太陽の光が何かに遮られる。

 

 操縦桿を握りしめている手がほぼ反射的に体に染み付いた空戦機動を、左斜め下へのバレルロールを行わせていた。

 

 直後、こちら目掛けて凄まじい推力に任せて急降下してくる敵機を確認。こいつはデカイな、大物だ。

 

『久しいな! 【リボン付き】! 元気そうで何よりだ!』

 

『その声、フランシス大尉か!』

 

『いかにも、オカムラ教官の意志を受け継いだ者だ。私の意地に付き合ってもらうぞ、連邦の犬!』

 

『面白い、ザビ家の兵隊共に犬の恐ろしさを思い知らせてやろう』

 

 上方向に急上昇、一旦敵機、ビグロから距離を離す。距離を離しながら相手の様子を伺う。

 ふむ、相手もこちらの動きに合わせて追うように機動しながら迫るか、推力に見合うだけの速さだ。

 凄まじいGが襲いかかってるだろうが、それでもこちらを一直線に迫ってくる。相手の卓越した技量を伺える、良い腕だ。

 

 出来れば平和な宇宙で会いたかったが、これも巡り合わせか。

 

 敵から熱源反応、メガ粒子砲か! 機体を右方向に急旋回して主翼を貫く寸前で回避して敵機の懐に潜り込む、すれ違いざまにこちらの主砲を発射、振り下ろされようとした腕の部分を貫いて使用不能にさせる。

 

 腕が吹き飛ばされて動きが鈍った所で反転、後方から敵機へと迫り、スラスター目掛けてメガ粒子砲を放つ。

 

 大出力のスラスターが主砲が放たれる度に破壊されていき、宇宙空間に敵機の部品がぶち撒けられる。

 

 それでも相手の意地を示すかのように増設されたと思わしきサブスラスターで姿勢を制御し、こちらに向き直ろうとするが一手遅い。

 そのまま出来る限りGを無視しようとしながらも胃の中が揺さぶられるような感覚を覚えつつ高速でインメルマンターン、敵機の頭上を取り急降下。

 狙いはコックピットと思わしき部分、一撃で仕留めて戦闘を終わらせる。

 

 が、敵機の頭上を取ってトドメを刺そうとした所で、敵艦隊からの発光信号を確認。

 

『……味方の退避には成功したか、ガルマ様、すいません。【リボン付きの死神】よ、降伏したい』

 

『ふむ? まぁ南極条約に従って身柄の安全は保証しよう、コックピットからパイロットは出てくれ、後で回収する』

 

 ビグロに肉薄していた機体を減速しつつ上昇させて、油断なく相手の出方を伺う。

 

 コックピットから出てくる人影を確認。

 少し、安心した自分がいた。無益な殺生を好む軍人は存在はしない、筈だ。

 それに、エースを失うのは世界の損失だ。彼とはまた平和な世界になれば翼を並べて飛びたいものだ。

 

『こちらオメガ! 艦橋の制圧に成功、損害は軽微! 敵は白旗を掲げました! 北米から回収されようとしていたジオン兵も捕虜にしましたよ!』

 

 どうやらオメガ達も任務に成功したようだ、さながら海賊のような戦法であるが、実際有用だからな。

 

『……隊長』

 

 作戦は成功したと言うのに、ララァの気分は優れないようだ。

 ……何かを感じ取ってしまったのかもしれないな。

 

『今日は敵機を四機、撃墜しました。彼等は、死ぬつもりだったみたいです。……味方の、為に』

 

『……思う所はあるだろうが、お前が罪悪感を感じるんだったらそれはこの隊の責任者である俺の責任でもある。一人で余り抱え込みすぎるな、大人を頼れ。お前の罪も俺が背負ってやるさ』

 

『……ありがとうございます、隊長』

 

 幼い少女を戦わせて、人殺しをさせる。そんな事をさせている俺も、連邦軍上層部も皆地獄行きだろうな。

 

 やはり戦争を早く終わらせなければならない、せめて、ララァのような人と少し変わった力を持つだけの子供が平和に暮らせるようにするために。

 

 味方艦隊が近づいてくる。捕虜の収容と鹵獲したムサイ級を曳航するために。

 

 作戦目標は達成、戦争終結に一歩近づいたと信じたい。




ゲルググはビームライフルは妥協して史実よりも一ヶ月早くガルマ艦隊を中心に前線部隊に行き渡り始めてます。
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