【完結】えっ、ここからでも入れる保険があるんですか???   作:らいらいてー

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 誤字脱字報告、何時も助かっております。
 それと、極東戦線についての詳細な情報については手持ちの資料には載ってませんでしたので、ここら辺は作者の想像で作ってます。


広州撤退戦

「よく来てくれたね、ピクトン大尉、そこに座ってくれたまえ」

 

「は、了解であります。カニンガン少将」

 

 椅子へと座りながら、周囲を見回す。

 

 カニンガン少将のルナツー基地内に存在する執務室。

 中を見回してみると荷物が詰められた段ボールが部屋の至る所に置かれていた、恐らくは何らかの辞令が下ってルナツーから別の戦線に回されることになるのだろう。

 

 ルナツー基地からも地球へと侵攻しているジオン軍へ度々攻撃を仕掛けてはいるが、状況は悪くなる一方だった。

 

 既に三度行われた降下作戦によってオデッサなどの資源地帯、更にはニューヤーク、キャリフォルニアなどの経済的にも軍事的にも重要な要衝は陥落。

 

 太平洋上の防衛の要とも言えるハワイも陥落したという噂もルナツーでは囁かれている程だ。

 

 優秀な指揮官はどこの戦線でも必要なのだろう、それに票田の関係で地球を優先して守らなければいけないという上の事情も垣間見える。

 ルナツーは確かに宇宙における防衛の要ではあるのだが、政治家に票を入れる人間は地球に住んでいるのだ。

 有権者の為の軍隊である地球連邦軍が、地球市民に被害が及びそうになればまずはそちらの防衛を優先しようとするのは当然と言えば当然だろう。

 

 まぁ露骨にジャブローから送られる機体と補充要員が少なくなったので、その戦力でやりくりする事を強いられているワッケイン司令の心労は計り知れないだろうが。

 

 彼の頭髪が本格的に心配になってきたが、今はカニンガン少将の話を聞くとしよう。

 

 彼が注いでくれた紅茶が入ったティーカップを受け取る、ふむ、香りから察するに新品のティーバッグを使ってくれたようだな、配慮痛み入る。

 

「本当はセイロンの茶葉を使いたかったんだがね、手持ちがそれしかなかったのさ」

 

「仕方ありませんよ、ジャブローからの補充も滞っておりますしね。嗜好品があるだけマシでしょう」

 

 そう、嗜好品があるだけマシだ、食料も配給制にはなったが一応は飢えてないのだし。

 一昨日は芋たっぷりのシチュー、昨日はマッシュポテトと合成肉のステーキ、そして今日は合成肉の肉じゃがと言う芋ばかりの食事であるが少なくとも胃は満たされている。

 

 こればかりはジャブローのモグラの代表格であるゴップ大将に感謝せねばならない。

 

「さて、本題に入ろう」

 

 少将は紅茶を一息に飲み干した後に、ティーカップを机の上に置いて、頭が痛そうにこめかみを指で押さえながらそう切り出す。

 これはもしかしてまた厄介ごとを俺に任せる気なんじゃないだろうか。

 

「君も既に知ってるだろうが、北京方面軍が危機的状況にある。と言うより極東に展開している連邦軍全体が壊滅の危機にあると言い換えて良いだろうな」

 

 既に韓国、ベトナム、タイ、フィリピン、シンガポールなどは陥落。

 ウラジオストクに配備されていた連邦海軍の残存も侵攻してきたジオン軍によって殲滅されることになった。

 

 前世の故国である日本では本州、四国、北海道は陥落し、熊本で行われた残存した連邦軍とジオン軍との会戦において陸軍は決定的な敗北を喫したという報告がつい最近もたらされたばかりだ。

 

 残った連邦軍拠点は台湾と中国であり、中国方面軍にはかなりの数の戦車師団が配備されていたのだが、状況は芳しくない。

 と言うより、既に中国方面軍は総崩れとなって北京方面ですり潰されるのを待っていると言って良いだろう。

 

 恐らく、中国が票田となっている政治家は次の選挙では勝てないだろうな。

 

「ええ、知っております。かなり状況が悪いようですが」

 

「うむ。正直、北京防衛指揮官のチェン少将には悪いが北京は助からないと思っている。が、だからと言って何もせずに中国、もっと言えば極東地域を引き渡すわけにはいかなくてね」

 

 地球連邦軍は良くも悪くも、民衆からの税金によって成り立っている軍隊だ。税金を納めている者達に対しての支援を行わなければ支持を失う。

 

 ……なるほど、これは厄介ごとを任せる気だな?

 

「そこでだ、君には極東地域への増援として編成されるカニンガン特務軍団の一員として加わって貰いたい」

 

「は、少将。質問が一つあります」

 

「なんだね」

 

「軍団、とのことですがその戦力はどれほどのもので?」

 

 どこの戦線も手いっぱいなのに、軍団を編成するだけの戦力はどこから抽出するのか気になるところだ。

 ルナツーからセイバーフィッシュを何機も引き抜いたらワッケイン少佐が心労で倒れちまうぞ。

 

「私、それと軍艦を失って遊兵になっている人員、それと君の分隊。総勢三千名ほどになるな。この戦力を以って広東地域に降下し、現地の残存師団を指揮下に置いてジオン軍の極東侵攻の意志を砕く」

 

 要するにルナツーに残っているルウムの敗残兵と中国方面で連敗を重ねている連邦地上軍の残存を集めて軍団を名乗ろうという訳か。

 

 俺の顔を見て何を考えているのか察した様子で、それ以上言うなと言わんばかりに手を上げて。

 

「君の言わんとすることは分かる。陸戦型ザクを擁するジオン軍相手にそれだけの戦力で降下しても死にに行くようなものだ、だろう? だがこれも政治なのだよ。中国を守る為に出来る限りの手を打ちましたという体面がジャブローには必要と言う訳だ」

 

 カニンガン少将はルウム戦役における英雄、そして俺も不本意ながらも戦果を挙げた事で名が知れた戦闘機パイロットとなった。

 ジャブローが欲しいのは、軍団の実情はどうであれ、ネームバリューのある英雄を派遣したことで最善を尽くしたという実績なのだろう。

 

 要するに欲しいのは、最善を尽くしましたよアピールをして民衆の納得を得る事なのだ。

 

「まぁ、そう悲観することは無いよ? 所属部隊が壊滅した敗残兵はうちの軍団に加えて好きなように再編して良いらしいからね。幸いな事に極東地域には敗残兵が腐るほどいるから、すぐに軍団の規模も大きくなるだろうさ」

 

 それって喜んでいい事なのか? と思いながらも、軍人である以上は命令に逆らう事は出来ない。

 

「極東地域に行くのは構いません、が。私とライラ中尉に広東料理を奢ってください、極東情勢が落ち着いてからで良いですので」

 

 俺の言葉を聞いて、カニンガン少将は驚いた様子で目を見開いた後に、すぐに満面の笑みを浮かべて。

 

「勿論だとも、ルナツーから極東に向かう事になる人員全員に、戦争が終わったら広東料理をご馳走する。だから、勝って、生き残るとしよう」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「『大尉、広東料理何時食べられるんだよ!?』」

 

「『極東で連邦軍が勝利を収めてからだ、今は口より先に手を動かせ! ライラ中尉、上方向から来てるぞ!』」

 

 ――中国、広州市上空。

 

 こちらに向かって果敢に格闘戦を挑もうとしてきたドップに対して優速を活かして距離を取り、機首を上に向けて急上昇、インメルマンターンの戦闘機動で敵機の上を取る。

 そして戦闘機動を途中で止めて、背面を向いた状態で敵機めがけて風を切る音を響かせて降下。

 敵機めがけて機関砲の弾幕を浴びせてゆくと、エンジンに被弾して爆炎を上げてゆきながら、天堂頂と言う山めがけて墜ちてゆく。

 

 ライラ中尉の方は……うん、上手くヘッドオンの形に持ち込んだ後にミサイルを叩き込んで撃墜したようだな。

 

 カニンガン特務軍団が広東地域に降下艇を使って降下、した所までは良かったのだが、そこからの戦いは地獄だった。

 

 中国各地から連邦の勢力圏である広東地域に敗残兵や難民が押し寄せることになり、その追撃としてやってきたジオン軍へ迎撃を行っていた。

 

 つい先日までは広州市を最終防衛線として戦線を安定させていたのだが、敵軍が移動基地とも言えるダブデ陸戦艇を投入し、陸戦艇による砲撃支援の元、ザクが突破を図り始めた。

 

 第一次防衛ラインとして定めていた市郊外のトーチカ群は陥落、第二次防衛ラインとして策定している市街地までザクと歩兵が浸透を開始している。

 

 制空権は極東各地から台湾に集結した連邦軍残存航空隊と俺たちで支えてはいるが、いかんせん敵の数が多い!

 

 今日だけでドップ十機は落としたのに相手は十一機目を用意してやがった。何としても中国から連邦軍を追い出す向こうのやる気を感じられるな。

 

 とは言え、制空部隊の奮戦もあって一時的に空域から敵の制空戦闘機の姿が見えなくなった、このタイミングだな。

 

「『こちらピクトン! 敵戦闘機が見えなくなった、すぐにミデアを出せ!』」

 

「『了解、制空部隊の支援に感謝する! 高雄でまた会おう!』」

 

「『中にいる負傷兵達を上手くエスコートしてやってくれ、良い空の旅を!』」

 

 空港に待機していた連邦軍の叡智の結晶たる高性能輸送機が、自由が取り戻された空へと羽ばたいてゆく。

 目的地は台湾、極東方面軍の最後の砦となるであろう場所だ。

 

 ミデアが飛び立つと同時に、空港からデプロッグ達も空へと上がってくる。

 おかしいな? 爆撃部隊はカニンガン少将の指示で全て台湾に撤退したものだと思っていたが。

 

「『こちら中国方面軍、第三十一戦略爆撃部隊。すまないな、今まで一度も命令無視はしたことが無いんだが、今回ばかりは無視させてくれ。――港に停泊している輸送艦に俺たちの家族が乗り込んでるんだ』」

 

 そう言いながら、空へと上がってきた連邦の矛と言える爆撃部隊は編隊を組み、既に敵の勢力下となった郊外へと機首を向ける。

 

「『陸戦艇の砲撃が輸送艦に向くと家族が危ない、すまないがダブデへの爆撃を支援してくれないか?』」

 

「『……生きて軍法会議を受けろよ、その為にエスコートしてやる』」

 

 市街地へと浸透したザク部隊を後方から高みの見物している敵の移動基地の砲撃が市街地ではなくて港湾施設へと向き始めている、このままだと残った兵員の家族を収容している輸送艦と、その護衛の駆逐艦も犠牲になりかねない。

 

「『既に勝った気になってるようだな、大尉』」

 

「『そのようだな、ライラ中尉。ザビ家の兵隊共に教育してやるとしよう』」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「後続の飛行隊はどうなっている?」

 

「武漢から派遣されているようですが、到着が遅れてるようですね」

 

 副官からの報告を聞いて、ミエル少佐は舌打ちを抑えることは出来なかった。

 

 そもそも、戦線を拡大しすぎなのだ、何とか戦力をやりくりして広東に追い詰めた連邦敗残兵にトドメを刺すべく攻撃を仕掛けているが、連戦に次ぐ連戦のせいで兵員の疲労も限界を迎えつつある。

 

 それに、ザクは地上では宇宙ほど万能ではない。

 対空も一応はこなせるが、フライマンタなどの攻撃機によって空襲されると撃破される、あるいは撃破されなくても損傷して修理せねばならないのだ。

 

 だからこそ、重力戦線においては制空権を確保する事が肝要であると少佐は考えていた、だというのに戦争初期の大勝利によってモビルスーツ万能論が蔓延るようになってしまったのだ。

 

 これはあまりにも圧倒的な成果を上げた弊害と言えるかもしれない、地上における空の重要性を総帥府は理解してないのだ。

 いや、理解はしてるだろうが他に優先順位が高いことが多すぎて後回しにせざるを得なかったと言うべきかもしれない。

 

 制空権を確保するための機体も作られた、先に述べておくがドップは悪い機体ではない。

 ドップ自体は運動性も高く、ミノフスキー粒子散布下における戦いならばフライマンタなどの爆撃機を撃墜することは容易であった。

 

 だが、この広大な重力戦線で活動するうえでは航続距離が短すぎたのだ。これはスペースノイドたるジオンが地球用の航空機を作り慣れてなかったという事情もあるのだろうが、現場ではあまりにも致命的過ぎた。

 

 ガウと組み合わせる事で航続距離は改善すると総帥府は考えているが、そもそも数を揃えられないと言うお寒い懐事情もある。

 そのため、戦力を広範囲に分散せねばならない中国戦線においては数少ないガウを空中の中継基地として運用し、陸上の航空基地に配備された機体が遠方へと向かう際には空中給油を行う任務に就かせざるを得なかった。

 

 武漢からこちらに向かっている航空隊も途中で空中給油を受けているため、到着が遅れているのだろう。

 

「ガウが増産されたらもう少し制空権の確保が容易に……いや、ならないか」

 

「ならないでしょうね。セイバーフィッシュ相手には厳しい戦いを強いられてますし」

 

 陸戦艇の近くに墜落したドップの残骸を眺めながら、少佐は頭を抱えそうになった。

 

 妙に動きの良い二機のセイバーフィッシュによって今日だけで戦闘機は十四機も落とされたのだ、向こうの練度が高いというのもあるだろうが、彼我の機体性能差は明白と言って良いだろう。

 

「……む? 妙に早い到着ですね、味方の航空隊のようです」

 

 副官が何となく空を見上げてみると、機影がこちらに近づいてくるのを確認した、それを味方だとまだ経験の浅い少尉は認識した、が。

 

「……! いや、あれは違う、敵だ! 総員、対空戦闘よーい!」

 

 その言葉が響くと同時に対空要員達が増設された銃座に付き、護衛のザクもマシンガンを空に向けてゆくが、二機の戦闘機が機首を陸戦艇へと向けて、弾幕を掻い潜りながら肉薄してくる。

 

 隊長機が弾幕を掻い潜りながら陸の王者に接触寸前まで肉薄したかと思うと機銃掃射が浴びせられ、対空要員達が殺傷されてゆく。対空弾幕が薄くなったところで僚機が突っ込んでいって翼下に搭載された八連装のロケットランチャーが火を噴く。

 

 次々とロケット弾が着弾してゆき、有線式の対空ミサイル発射管が破損、誘爆、一時的に空へと向けられる対空火力が減ることになる。

 

「……まずい、総員退艦! いそ――」

 

 その指令が発令されるよりも先に連邦の矛たる戦略爆撃機からザビ家の兵隊を貫く大型爆弾が投下されてゆき、降り注ぐ爆撃によってダブデは爆炎の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「『敵陸戦艇の撃破を確認! ざまぁ見やがれザビ家の兵隊共!』」

 

「『盛り上がっている所悪いが、さっさと台湾に向かうぞ、港に停泊していた輸送艦隊も出航するようだしな』」

 

 司令所であったダブデが破壊され、前線の部隊にも混乱が広がっているようだ。

 一時的に市内へと浸透した歩兵部隊が第二次防衛ラインを守っていた兵士たちによって押し返されてゆく。

 

 この隙を逃すまいと、港で出来る限り民間人や台湾へと運ぶ兵器を積み込んでいた輸送艦が駆逐艦のエスコートによって脱出を開始する、台湾海峡周辺には対潜哨戒機によって警戒網が構築されている。

 

 安全に台湾に向かう事が出来るだろう、後は俺たちが逃げないとな。

 

「『大尉、一つ気になったんだがいいか?』」

 

「『ライラ・ミラ・ライラ中尉、どうした?』

 

「『いや……まだ広州市内に残っている人員はどうするんだ?』」

 

「『……彼らは決死隊だ、志願して残った。最期まで戦い続けるだろうさ』」

 

 その言葉を聞いて、通信機越しに息を飲む音が聞こえてきたが、機体を旋回させて次の目的地である台湾へと向ける。

 

 俺たちが台湾へと到着してからも広州市内からはジオンに対する抵抗の銃声が響き続けて、完全にその音が止まるのにそこから数日かかることになった。




 ドップ関連は独自解釈が含まれます。
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