【完結】えっ、ここからでも入れる保険があるんですか???   作:らいらいてー

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今回もやりたい事をひたすら詰め込みました。


オオツ会戦前夜

 コックピットから地上へと視線を向ける。高度五千メートルから見るヤマグチ市内は豆粒のように見えた。

 旧自衛隊が保有していたT-4練習機の操縦桿を操り、左方向にロール、その次に右方向に回転。

 Gが俺の体に襲い掛かるが、それも心地よく感じた。

 

 圧力によって実感さえ覚える。ああ、俺は今空へと戻って来たんだなと。

 

 キュウシュウを解放した地球連邦軍はそのまま北上、カンモン海峡を渡りホンシュウへの上陸を果たした。

 各地でジオン軍歩兵によって構築された陣地が存在しており、ニホン特有の山がちな地形も相まって攻略には手間取ってはいるが、凡そ一週間ほどで連邦軍地上部隊はコウベにまで進出。

 

 前線司令部が設置されたキョウト、二条城へと迫りつつある。

 

 しかし、陣地を守る歩兵は兎も角として、歩兵を援護する砲兵、更にはマゼラアタックなどの機甲戦力、そしてジオン軍の絶対的な象徴であるザクとは司令部を目指して連邦軍は突き進んでるというのに殆ど遭遇していない。

 

 歩兵も陣地が包囲されるとさっさと降伏し、徹底抗戦の気概を感じる事が出来ない。

 降伏した捕虜に尋問を行った結果、ニホン方面軍司令官であるオカムラ大佐から敵軍の足止めを行った後に包囲された場合はすぐに降伏するようにと言う指示が出されてることも分かっている、が。

 

 肝心の敵機動戦力の大半が何処にいるかまでは、前線の敵兵士達には一切知らされていない。

 

 キュウシュウが陥落してからはピタリと敵の航空支援も止み、連邦軍優位で進んでるというのにジオン軍からは不気味な静けさを感じる。嵐の前の静けさだろう。

 

 敵の航空戦力と出くわすこともなく、前線はモビルスーツが出るまでもなく戦車連隊と歩兵連隊で十分であるため、このように俺は借りた練習機で空を楽しむ事が出来るという訳だ。

 ジオン軍のニホン侵攻によって空軍は壊滅的な損害を受けて、博物館で余生を過ごしていたものの、練習機として現役復帰したこの機体の乗り心地は良い、不思議と手に馴染んだ。

 

 やはり、空は良い。

 

 前世から空への憧れを抱いていた、自由の象徴、何処までも続く大空。

 更に上がれば闇が広がる。

 大気に覆われた大空も、そして全てを受け入れてくれる宇宙を、全速力で飛び回る。

 

 憧れの場所を飛ぶのは良い、心が躍る、血が滾る。

 

 戦闘機乗りと言うのはやはり、俺にとっては天職なんだろう。

 ある人は空が怖いと言うし、またある人は宇宙が怖いと言う。手が届かないからこそ理解出来ないとも言う人もいる。

 

 そんな場所を自由に飛び回る事が大好きな俺にとってはモビルスーツに乗るよりも戦闘機乗りの方が性に合ってるんだろう。

 

 エンジンを吹かせる、空に戦闘機の軌跡を描きながら加速、そのまま空中でインメルマンターンを一回、そして二回、三回、と繰り返していって高度を上げてゆく。

 

 そしてそのまま急降下、急降下しながらバレルロール、空戦機動をひたすら楽しむ。

 

 なお、基地へと戻った後に近隣住民から展示飛行が行われたのかと言う連絡が殺到することになり、事務官からお叱りの言葉を貰ったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 事務官からのお叱りの言葉を貰った後に、食堂のコックにコーヒーを淹れて貰った後に椅子へと座ると、ぼんやりとした様子でココアを飲むライラ中尉の姿が目に入った。

 

「ライラ中尉、君も休憩中か?」

 

「……っ! 大尉か、ちょっと驚いたぞ」

 

 と、俺が声をかけると、珍しく覇気が無い様子でこちらへと視線を向けて来る。ふむ……何か悩みでも抱えているのかもしれんな。

 

 椅子から立ち上がり、ライラ中尉の隣に座りなおしてコーヒーを一口。

 

「元気が取り柄なライラ中尉だというのに、今は元気が無さそうに見えるな。ララァと喧嘩でもしたのかな?」

 

「……いや……ララァは悪くないんだ、私が悪いんだよ」

 

 そう言った後に、ぽつぽつとライラ中尉が悩みを打ち明けてくれた。

 

 曰く、俺やオメガ、そしてララァと違って自分には特別な力は無いただのパイロットでしかないという事。

 

 曰く、先のソウル上陸作戦ではララァにフォローばかりして貰って、彼女の脚を引っ張ってしまったんじゃないか、という事。

 

 曰く、メビウス隊に自分は本当に必要なのか? と疑問に思い始めてきたという事。

 

 ふむ、なるほど、要するにオメガの不死身っぷりやララァや俺の活躍を見て自分の力不足を痛感させられたといった感じだろうか、だとするならばなんだろうな……。

 

 まだまだライラも子供という事なんだろうな。

 

「ライラ中尉。俺が常に言ってることは覚えてるよな?」

 

「空は一人で飛ぶものじゃない、だろう?」

 

「そう、君も欠けてはいけない戦力なんだよ。そして誰かを真似した所でその人になれる訳ではない」

 

 そうとも、他人を真似した所で出来るのはその人の劣化コピーでしかないんだから。

 

 結局、自分は自分にしかなれない、他者に憧れを抱き、妬みの感情や劣等感を刺激されるのも仕方ないかもしれない。

 

 でも、それをポジティブに捉えて前を見てほしい、自分の負の感情さえも糧にして前に進むことが一番大切なんだ。

 

「君がララァに複雑な感情を抱くのも分かる。オメガ? 元特殊部隊出身のゴリラになりたいか?」

 

「いや全然。ララァみたいに敵の後ろからの攻撃をまるで見えてるかのように避けられるようになりたいなーって思う事はあるけどな」

 

「ララァのようになることは難しいかもしれない、だが、君は自分の得意な分野を伸ばしてララァを超えることは出来るかもしれないんだ。他人と比べるのは止せ、自分の強みを活かせ」

 

 そう言いながら、コーヒーをもう一口飲む、その上で。

 

「君の強みはやはり、敢闘精神だな。戦闘機での戦いもモビルスーツでの戦いも闘争心が強い方が有利だ。俺やララァ以上の闘争心は君は持っている。相手に食らいついてゆくかのような戦い方を磨いていけば何時か得意分野ならばララァを上回る事が出来るさ」

 

 彼女の真っすぐな気質は、とても尊いものだと思う。うちの隊で一番勇敢に敵に食らいつくのはやはりライラ中尉だ。

 正直、モビルスーツ同士の格闘戦になればララァとライラ中尉との一騎打ちならばライラ中尉の方に分があると俺は思っている。

 

 是非とも彼女には他人と自分を比べるのではなくて、自分だけの強みを活かして欲しい物だ。

 

「……うん、私、ララァを超えられるように頑張る! ……オメガの方は超えられる気がしないし! ついでに大尉も超えて見せるから覚悟しておけよっ」

 

 どうやら心の中での蟠りに踏ん切りがついたようで、一つ頷いてこちらににかっと笑みを浮かべて来る。そんな彼女の姿を見て俺は思わず頬が緩んでしまって。

 

「ああ、俺を超えて見せろ。先人を超えて先へと進むのは若人の特権だ」

 

 彼女の目標で居続けられるように、ついでにまだ超えられないように俺ももっと腕を磨かないとな。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳でララァ! 私はパイロットとしてはまだお前には勝てないかもしれないけどぜーったいに超えて見せるから覚悟しておけよっ」

 

 突然呼び出されてライラから宣戦布告を受けたララァは、珍しく面食らったような表情を浮かべてゆく。

 心の中がある程度読めると言えども、実際に言葉に出されて宣戦布告をされるとやはり彼女でも驚くらしい。

 

「……えーっと」

 

「お姉ちゃんとしても、軍の先輩としてもっ、私はお前には負けないっ」

 

 言葉に迷ってる様子のララァに、あまりに真っすぐにライラはそう告げてゆく。

 そして、何度かララァは頷いた後に、思わず吹き出してしまった様子で笑い始めて。

 

「……こうも真っすぐ言われると少し驚いたよ。うん、私も負けないよ。ライラお姉ちゃん?」

 

 その宣戦布告を正面から受け止めてゆきながら、少女らしい屈託のない笑みを浮かべた。 

 

 切磋琢磨し競い合える環境と言うのはやはりいい物だろう、二人の教育にも良いし健全だ。

 

「で、何時まで二人の様子を窺ってるんですか? 大尉」

 

 物陰で二人の様子を窺っていた俺は後ろからかけられてきた声に思わず驚いて身を竦めてしまいながら、そちらへと視線を向ける。

 そこには特殊作戦群時代の同僚と訓練を行っていたのだろう、タンクトップとズボンだけのラフな姿のゴリラ、もといオメガが居た。

 

「過保護なのは良くないですよ、大尉。あの二人ならば関係が拗れることは無いって分かってるでしょう?」

 

「大人として二人が揉めそうになったら止めに入るべきだろう?」

 

 そう言う所が過保護なんですよ、とオメガは言いながら、真面目な顔になり。

 

「大尉、カニンガン少将からの増援は期待できそうにないです。プサンの攻略に手間取っているようでしてね。包囲網を狭めてはいるようですが、攻略には二週間はかかるでしょう」

 

「ジオンニホン方面軍との決戦は【ケストレル】無しで行う必要がありそう、か。次の戦いでは陸戦型ザクは側面攻撃に使用し、戦車隊と航空隊を主力として攻勢を仕掛けるとの事だが、ヤマシタ准将は俺達の事を戦闘機乗りとして使うだろう。オメガ、また整備長から怒られないようにセイバーフィッシュを落とすなよ」

 

 ジャブローから運び込まれたセイバーフィッシュが並んでいる区画へと視線を向ける、数は数十機。

 メビウス隊も次の作戦では航空隊として参加し、制空権は確保できるだろう。

 

 が、どうにも胸騒ぎがして仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二条城前線司令部、北米からの増援を率いてやってきたザビ家の末子、ガルマはニホン方面軍の指揮所を訪れていた。

 

「ガルマ大佐、増援を捻出してくれて感謝する」

 

「いえ、礼には及びませんよ。オカムラ教官」

 

「今は教官ではなく大佐と呼んでくれ」

 

 教え子の元気そうな様子に、オカムラ大佐は破顔した。

 彼自身はジオン国防隊からの古参で、ザビ家が権力を握ることに最後まで反対し続けた軍人の一人である。

 

 が、ザビ家に思う所はあってもガルマは大切な教え子であり、教え甲斐のある生徒なのだ。

 教え子の壮健な様子を見て笑みを浮かべるのは当然と言えるだろう。

 

 失礼しました、と返す若い軍人と世間話をしてゆきながら、会話が途切れた際に司令部の窓から見る事が出来る京都の街並みに視線を移す。

 無防備都市宣言を行い引き渡す予定のかつての古都の姿を、最後にしっかりと目に焼き付けてゆく。

 

「……オカムラ大佐、キョウトを無傷で引き渡すことについて、キシリア姉さんから小言を貰ったと風の噂で聞きましたが。何故この土地での決戦を行わなかったのか、その理由について聞かせて貰えませんか?」

 

「この土地は守るのに適した土地ではないというのが一つ。市街地が入り組んでおり、防衛の要になるであろう砲兵隊の有機的な機動を阻害することになる、と判断した」

 

 壁に立てかけられたキョウトの入り組んだ地形を指さしてゆきながら、砲兵の迅速な展開に適した場所が無い事を指摘してゆきつつ、一つ頷き。

 

「防空の要であるチバで組み立てているレーザー兵器も完成してない以上、砲兵に機動力が無ければ敵航空隊の的になりかねない。相手にはリボン付きの死神も居るから、ドップ隊の集中投入によって一時的に制空権は確保できるだろうが、基本的に空は敵と言って良いだろう……と言う理由も大きいが、一番は」

 

 ザビ家ではなく、ムンゾに忠誠を誓っているという自負を持ち、コロニー落としを行うという軍の方針には最後まで異を唱え続けていた気骨の人は椅子から立ち上がり、街並みを見ながら。

 

「地球に住む人々が生み出したこの美しい街並みを戦火によって失わせたく無かった」

 

 そう言って、教え子である若い軍人へと目線を向ける。

 

「ガルマ大佐。北米の統治は比較的上手く行ってるようだが、ニホンでの統治ははっきり言って上手く行ってない。親衛隊が各地で好き放題やっている」

 

 親衛隊の名を聞いて、ガルマの表情は強張った。

 ジオン軍の中でも思想的にも過激な連中が集っている派閥であるからだ。

 その名の通りギレン親衛隊である以上、地上に降下している者は少ないが、オカムラ大佐のザビ家への反乱を危惧して監視役として同行させた彼らがニホン統治において多大な悪影響を与えているのは想像に難くない。

 

「トウキョウの親衛隊司令部に君の名で抗議を入れておいてくれ、ザビ家である君から言えば考えも改めてくれるかもしれんからな」

 

「……親衛隊はギレン兄さんの兵隊です、私からの抗議が役に立つかどうかは……」

 

「少なくともザビ家に反抗的な私よりかは効果はあるだろう。文化財の保護を名目に略奪を行い、『宮』で『やんごとなきお方』を軟禁してるようなスペースノイドの面汚しを放置するわけにはいかん」

 

 ふぅ、と一つ溜息を吐いて。

 

「君の兄上にも君から一言入れておいてくれ。統治する気があるならばその土地の人間を尊重しろ、とな」

 

 その言葉に、彼は無言でうなずくしかなかった。

 アースノイドを見下し、ジオン国民こそが選ばれた優良種族であると声高に語る自らの兄の言葉は国民の団結を図るための方便でしかないだろう。

 

 しかし、団結を図るための方便を本気で信じ、アースノイドを虐げようとしている連中がいるのもまた確かなのだ。

 

「うむ、君はやはり素直だな。正直言って私はザビ家のやり方は嫌いだが、君とドズル中将だけは嫌いにはなれないよ」

 

「……決戦はシガ南部でしょうか? 次の戦い、私も参加させてください。腕の立つパイロットは一人でも多い方が良いでしょう?」

 

 ガルマの言葉を聞いて、今度はオカムラが驚く番だった。

 

 まさか北米方面軍の指揮官が自ら前線に出ようとするとは、正直言って前代未聞ではあるが、彼の行動的な部分は兵士達からは受けがいいというのもまた知っていた。

 

「……では、航空隊の指揮を任せたいと思う、大佐。それと、セタ川を中心に塹壕を構築している兵達の所に行って彼らを褒めてやってくれ。北米から引き抜かれてここに配置された兵達も多いからな、きっと士気が上がる」

 

「了解しました、詳細な作戦内容についての共有はミカミ山の臨時司令部についてから詰める方向で?」

 

「うむ、ここはそろそろ引き払わねばならないからな」

 

 数日後、オオサカへと突入した連邦軍先遣隊はジオン軍の軍使からキョウトの無防備都市宣言を聞き、ジオン軍が撤退しもぬけの殻となった二条城に今度は連邦軍の司令部が移動することになった。

 

 そこから翌日、オオツへと侵入した偵察部隊はセタ川沿いに展開された敵軍のトーチカ群を発見、ヤマシタ准将はこの土地でジオン軍が決戦を行うつもりであると判断。

 

 ツルガ、シガラキ方面に展開されている防衛戦力を食い破り側面を突こうと、少数のモビルスーツ隊による別動隊を派遣。

 

 自らはニホンに揚陸された戦車の九割を集結させて敵陣地の突破、及び殲滅を図る。

 

 航空戦力も今展開できるだけの総力が展開され、その中には当然のように『モルガン』を搭載したピクトン大尉機を中心とするメビウス隊の姿もあった。

 

 九月二十二日、後の世にニホン解放の雌雄を決する戦いとなったオオツ会戦が、セタ川へと迫る連邦軍先鋒へのジオン軍側の砲撃によって火蓋が切られることになるのであった。

 

 




今回はちょっと短め、次で戦闘の詳細について描写したいと思います。
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