The Witch Of Wish   作:びーびー

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 最初の野営地からしばらく北に行った地点。

 不知火が機関を止めないまま道の傍らに止まっており、その傍らに2輪車のようなものにまたがった少女がいた。

 不知火の中ではリンがいまだに騒いでいるらしいが、今のところハルが抑えているらしく大事には至っていない。

 

 「さて・・・」

 

 鬼が出るか、蛇が出るか。

 ユートは足元の拳銃を手に稲妻のハッチを開放する。

 ハッチが開く音に反応してこちらを見上げるフードの少女に向けて手に持った銃を向ける。

 

 「何者だ。こんな夜中に何をしている?」

 

 ユートの問いに少女は両手を挙げる。

 やはり並みの相手ではない。

 あんなに多くの魔物に追われていたにも関わらず、彼女は全くと言っていいほど動揺をあらわにしておらず、今もまた拳銃を向けられても彼女は落ち着き払っていた。

 そのことを裏付けるように彼女は上げていた両手をゆっくりと自身の顔を覆ていたフードに手をかける。

 

 「ソフィア、と言います」

 

 そう言いながら少女、ソフィアはフードを外す。

 どこまでも透き通るような銀色の髪は肩までで切りそろえられ、夜の風に揺れている。

 10人がいれば10人振り返るような美しい顔をしているが、ユートの向ける銃口は一切の揺るぎがない。

 

 「こんな夜中にフォレストコングの縄張りに入るなんて何を考えている?もう一度聞く。こんなところで何をしている」

 

 ユートの鋭い声の誰何に、ソフィアは困ったように微笑む。

 

 「彼らの縄張りに入ってしまったのは、手違いがありまして。ここに来てしまったの は、とある場所を目指しているのです」

 

 「とある場所・・・?」

 

 「はい。こちらではポイントゼロと呼ばれている場所です」

 

 ユートはその場所を知っていた。

 というか知らない方が珍しいだろう。

 

 ポイントゼロ。

 

 それはマナを運んできた隕石が落ちたとされている場所だからだ。

 ただポイントゼロはとある理由から近づくことを禁止されている。

 

 「ユート」

 

 つらつらと考えていたユートの思考を遮るようにあまりない声色でハルが割り込んでくる。

 眉をしかめつつ耳元のヘッドセットに手を当てる。

 

 「どうしたハル、今取り込み中だ」

 

 「そろそろリンが限界です」

 

 「何?何をそんなに騒いでるんだ」

 

 「実は、彼女の乗り物なんですが・・・」

 

 そうしてハルが告げたのは彼女のバイクのような乗り物が宙に浮いていたという話だった。

 

 「ホバーか何かか?」

 

 「それを調べたいとリンが騒いでいるのです。少なくとも我々の知る技術でホバーをあ のサイズまで小型化し、あそこまで高速で移動できるようにできたという話は聞きません」

 

 「あのなぁ、相手はどこの誰かもわからないんだぞ」

 

 そう言いながらソフィアを観察するも彼女はユートのぶしつけな視線に優しく微笑むのみでユートからすると少しばかり気が抜ける相手だった。

少なくとも今までユートが接してきた相手にこういった類の女性はいなかった。

ハルの持つデータベースは地球圏最大の企業体AstroErectronicsのものとリンクしているためハルが知らないということは、その技術はAstroErectronicsには、少なくとも表向きには存在しないということになる。

そんな技術が使われているかもしれない機械を乗り回す少女。

正直怪しさしか感じない状況であった。

 

 「ハル、スキャン結果は?」

 

 「特に何も出てきません。少なくとも金属類は最低限しか身に着けていないようです」

 

 その言葉に彼女を観察するが、何かバックのようなものを持っているようにも見えず、彼女は街も近くにないこんな場所を身一つでうろついていたことになる。

 

 「あ、えっとですね、乗り物が不調で彼らの縄張りに落ちてしまって」

 

 さらに不信の目を向けるユートにソフィアは困ったように言い訳する。

 そのあまりに純朴な様子に気を張っていた自分が馬鹿らしくなる。

 少なくとも遭難者は特段事情がなければ保護が推奨されていることもあり、このまま彼 女を放置することはさすがに後味が悪い。

 

 「足や食料が心もとないようなら近くの街までは乗せていこう。遭難者の救助は義務だからな。だが悪いがそこまでは軟禁状態になる。それでも良ければだが」

 

 「ありがとうございます。困っていたんです」

 

 気の抜けるような笑顔で答えるソフィアに、今日何度目かのため息をつく。

 ちらりと彼女に向けている拳銃に目をやる。

 彼女にはこれが何かわかっていないのか、そんなことまで思うほどにソフィアの態度には余裕というものが感じられた。

 

 「あー、悪いがまずは武装解除からだ」

 

 あまり人を脅しつけることは自分には向いていないのかと考えながらハルに出入口を開くように指示する。

 

 「リン、お客さんが行くから相手を頼む。まずは武装解除からだぞ」

 

 そう言ってユートはソフィアを開いたばかりの不知火の出入口ハッチに行くように促す。

 特に抵抗らしい抵抗もなく笑顔で歩き出そうとしたソフィアが何かに気づいたかのように振り向く。

 

 「そういえばお名前、伺っていませんでした」

 

 この非日常においてあまりにも日常的な言葉に一瞬言葉を失う。

 

 「失礼しました、レディ。私、この艦を任されております総合支援AIのハルと申します。家計簿からクルーの体調管理、車体制御から果ては射撃管制までこなすPerfectAIです。そしてこちらは我が主人でもある・・・」

 

 ソフィアの雰囲気にあてられたのかのんきな挨拶をするポンコツAIにあたまを抱える。

この事態にのんきに冗句を飛ばしだすあたり、このAIには緊迫感といったものが欠落している。

 後で作成者に文句の一つでも言わないとやってられない。そんなことを思いながらユートもソフィアに自己紹介をする。

 

 「…AstroErectronics所属のユート・ナルカミだ」

 

 「私ね、リン。リン・ナルカミ、よろしくソフィアちゃん」

 

 いつの間にかソフィアの後ろまでやってきていたリンがいつにないほど瞳を輝かせる。

その瞳の輝くを見た瞬間にユートを襲った嫌な予感は、すぐに現実のものとなる。

 

 「ソフィアちゃん、さっきのどうやって浮いてたの?っホバー?磁力?それともほかの何か?どうなってるの、それ!」

 

 リンの怒涛の質問にソフィアもその顔に苦笑いを浮かべる。

 それでも、自身の傍らにあるバイクを撫でながらソフィアはリンに答える。

 

 「この子はツインビーと言います」

 

 「ツインビー!どこの製品なの?ちょっといじってみてもいい?」

 

 「……リン、優先順位を考えろ」

 

 「こっちの方が優先に決まってるでっ」

 

 あまりにも止まらないリンにユートのげんこつが落ちる。

 彼女は育ての親に似て、優秀な技術者ではあるがダメなところも似てしまい、技術に対する執着がひどい時がある。

 そのたびにユートのげんこつが落ちているはずなのだが、彼女の悪癖は一向に収まることがない。

 

 「はいはいはいはい。わかりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」

 

 「よろしくお願いします」

 

 「オッケー、すぐに終わらせるね。まずは服の上から体を触るね」

 

 先ほどまでの技術に狂った様子もなく真面目にソフィアの身体検査を行うリン。

手慣れた様子で行っているそれは同姓だろうと抵抗があるもののはずだが、ソフィアは穏やかな笑みを浮かべて受け入れている。

 

 「身体検査ってそんなに協力的に受けるもんなのか?」

 

 「協力的なことはいいことではないですか」

 

 「まあそうなんだけどな」

 

 「お兄ちゃん、問題なし!オールオッケー!」

 

 輝く笑顔でそういうリンに片手をあげて答える。

やることさえやれば思う存分質問できると思ったのか、リンは笑顔でユートに振り返るが……

 

 「リン、彼女を客室に」

 

 「え・・・?」

 

 裏切られたかのような顔でユートを見るリンの顔を見ないように、ハルに客室のセキュリティを強化するように指示を出す。

 

 「先ほども言ったように、近くの街までは連れていくが、それまでは軟禁させてもらう。部屋にも外から鍵をつけさせてもらう」

 

 「はい、お手数をかけします}

 

 「あー、とりあえずそういうことだから。リン頼むぞ」

 

 そう言って恨めしそうに見るリンを促す。

 リンはユートの言葉を拒絶しているかのように固まったままユートを暗い目でじっと見つめる。

 

 「リン?」

 

 しばらく見つめあっていたがユートの答えが変わらないことを察したのか、リンは先ほどまでとは打って変わって死んだような顔で歩き始める。

 

 「ハル、よく見ておいてくれ。俺はナージャに報告を上げる」

 

 「わかりました。・・・お疲れ様です」

 

 ハルの言うお疲れさまはリンの対応についてか、それともこれから報告を上げることについてかそれとも両方についてなのか。

 いずれにせよこれから起こる報告とその後のリンの説得にユートは今日一番のため息をつく。

 

 「はぁ・・・」

 

 ねぎらうようなハルの声にこちらも妹と同じように疲れ果てた顔で通信室に消えるユート。

 この戦艦を支配するAIは何も言わず、その背中を見守っていた。

 

 

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