アニメドラゴンボールZ85話のカニが最強だったとする。 作:鵺崎ミル
(BGMスタート)
バビディの邪悪な野望、魔人ブウの復活は成功した。しかし、復活の一因となったベジータは責任を感じて魔人ブウと相対。互角の戦いを繰り広げる。
逃げたバビディはあのカニを手駒に加えようと洗脳魔術を使用した。
カニを引き連れ戦場に戻ったバビディ。だが、カニは洗脳魔術から脱していた。
気を大爆発させるカニ。悟空達の運命は──?
『悟空吠える!どっちが勝つの!?ブウとカニ!!』
「にっ逃げろ────っ!!!」
「「「「「!!?」」」」」
ピッコロが叫んだ直後、荒野を絶大なエネルギー波が埋め尽くした。岩山も、大地も、何もかも消しとばしていく。バビディが成した悪行の痕跡も、消滅した痕跡である大地の抉れも、宇宙船の残骸も消え失せた。
「うわぁー!?」
「界王神様ァ────!!」
「くぁあ……あッ……!!?」
「ぐっ……!!!」
範囲外への逃走が間に合うはずもなく、悟空達は回避行動も、踏ん張りすらできずに吹き飛ばされる。爆心地に近いブウは全身が千切れ飛び、唯一とっさに防御体勢をとれたベジータもやはり耐えきれず吹き飛び、あげく両腕に甚大なダメージを負ってしまった。
文字通り地球の軌道すら歪みかねない衝撃だった。
やっとエネルギーの放出が収まるころには、荒野だった土地は何もかもさっぱり消し飛んでいた。巨大なクレーターも形成されている。巨大隕石衝突や破局噴火のようなとんでもない爆発が起きたことだけ後の世に伝わっていくだろう、広大なすり鉢だった。今は弾かれた空気によって生じた突風が掃き掃除のごとく吹き荒れている。
この大惨事をやらかしたカニは、自ら作り出した巨大なクレーターの真ん中へぽとりと落ちていた。表情も何もあったものではないが、それはもうすっきりしたと言わんばかりの雰囲気を漂わせている。
元来であれば時間をかけて固まる甲羅も、爆発前に水より素晴らしいエネルギー*1を取り込んだからか、すっかり固まっており一安心だ。無論、何故なのかはまでは考えない*2。
落ち着く要素が取り揃い、カニはようやく周辺が酷い有様となっている事に気が付いた。だが、特に気にしてはいなかった。言語化するなら、縄張りじゃないならいいかという思考だ。まこと身勝手な甲殻類である。あちこちに散らばるピンク色の何かがうごうごしているのだけが疑問だったが。
ともあれ水も無ければ餌もないところに長居する気はない。よじよじとクレーターを登り、ようやく地平線を拝める位置まで辿り着く。
「ぐ……くそったれ……!!」
そして見つけた。見つけてしまった。
膝をつき、負傷した両腕で辛うじて地に臥すことを避けている生物を。
忘れもしない、2度も食べ損ねた餌だ。
寄生*3から脱する為、大分無茶をしていたカニは栄養を欲していた。人間的な感性を当てはめるならば、「なんてラッキー!」といった感情だろう。喜ぶように鋏を打ち鳴らす。
一方ベジータは、苦笑を浮かべるしかない。餌扱いされてる事までは気づかずとも、狙われているぐらいは理解していたからだ。
「ち、クソガニと戦う時はもっと万全で、カカロットを越えたと確信した時が良かったがな……」
気力をふるい、全身に喝を入れ立ち上がる。
ブウよりも絶望的な対峙だが、逃げることはサイヤ人のプライドが許さない。なお、このプライドは餌認識されていることに気が付いたら粉微塵になるのでどちらも大差ない。
「いずれ殺さなければならない相手が今来ただけだ……殺してやるぞカニ野郎!!」
気を滾らせ、吠えるベジータ。ぶくぶく泡を出すカニ。一触即発な1人と1匹だったが、その間に1人の男が空から舞い降りる。
「よせベジータ。魔人ブウとならともかく、そんな状態で無駄な戦いなんてするもんじゃねぇ」
「カカロット!?」
ベジータに背を向け、カニと相対する形で悟空が立っていた。無傷ではない。吹き飛ばされた影響で胴着もボロボロだが、それでもベジータほどでは無い。
「無駄とはなんだ……! そのクソガニは……!!」
「話せばわかるような奴じゃねぇのはわかってる。けど、自然に生きるもんのルールっちゅうんは無視しねぇはずだ」
突然増えた相手へ警戒するカニに対して、悟空が構えを取る。悟空が得意とする攻防一体の突撃姿勢ではなく、両の手を広げ威圧するような構えだ。
慣れない構えなど、武道家としては悪手同然。遠くで見守るピッコロ達もそう思うなか、カニは何かに気付いたように動きを止めた。
「ぐぁお!!」
「!?」
悟空が吠えた。気を昂らせるでもなく、気合を入れるでもなく、ただ吠えた。ベジータからすればあまりにも異様な行動だ。だと言うのに、カニは行動に移らない。迷う様にその場でゆらゆらしている。
(こういうのが通じる生き物かは賭けだったけど……よかった、通じたみてぇだ)
悟空が取った行動は単純明快、威嚇である。
自然界においてこれは極端な話、必要以上に争わないための行動だ。戦いたくはないが、そちらが領分を踏み越えるならば攻撃するという意思表示をしている。
そしてこのカニも、威嚇を用いる生態だった。故に本能が理解し、動きを止めている。
餌の横取りであれば、本能を荒ぶらせ突撃していた。
先に襲ってくれば、命を脅かす敵として対応していた。
「がぁ!! ぐおー!!」
「カ、カカロット……?」
だが悟空の行動は、背後のそれを守ろうとするものだ。あの餌はこいつの群れであり仲間なのだと乏しい知性でも理解できる。
カニは判断した。なくなく諦めた。
避けられる戦いは避ける。無駄な争いをなるべく取らないのは野生の不文律だ。
確かに2度も食い逃がしたこの餌は惜しい。自分の餌だという強い認識がある。だが餌が豊富なこの世界で、威嚇という対話を用いてきた個体と争ってまで襲う優先度は低い。この世界には、餌を分け与える存在すらいるのだから。
カニに知恵を巡らす頭脳はないが、本能とは合理的だ。
カニが鋏を降ろす。悟空も併せて両手を降ろす。野生における交渉成立の瞬間だった。
「よし、このまま縄張りに帰ってくれっと助かる。頼むよ」
カニは名残惜しそうに悟空の背後にいるベジータを見つめると、足に力を溜める。目指す方向は水がありそうなところだ。
だが、カニが超加速をしかけ戦場から離脱する数瞬前。
「オレふきとばしたの、おまえだな」
「げ!?」
再生した魔人ブウがカニを殴り飛ばすのだった。
◇
「うわ、まじかよ~……」
避けられたはずの戦いが始まってしまい、悟空は思わず顔をしかめてしまった。
魔人ブウが生きていたことも、カニに攻撃したことも想定外。今、悟空の心情は頭を抱えたい気持ちで埋まっている。唯一の救いは、カニのヘイトが完全にブウへ向けられている事か。
野生の世界は厳しい世界だ。不意打ち騙し討ちにケチはつけられない。だが、やられた側が素直に受け止めるわけもない。案の定キレたカニは、ブウに対し容赦ない斬撃を浴びせている。あの鋏から薄刃のように伸びた気がブウを地面ごと断ち切っているのだが、悟空には何故カニがそんな気の高等技術を用いているのかさっぱりわからない。
クリリンの気円斬より鋭くないかあれ。
「なんだこいつ、つよいな!」
普通ならば即死の攻撃のそれをまともに受けたブウは驚いた。しかしそれだけで深く気にはしない。自分自身という異常性の極みを自覚しているブウは、小さな生物が意味不明に強くてもそのまま受けとめるだけだ。悟空が常識に囚われている側にある理不尽がそこにある。
「ふふんっ、でも効かないよーん!」
13分割されながらも瞬時に癒着再生すると、ブウは再びカニへ殴りかかる。伸びたり軌道が変わる不規則なパンチにベジータは対応していたが、カニはあっさり直撃した。吹き飛んだところへ気弾を幾度も直撃させる。
「うわマジか。今のベジータの得意技だろ」
「チッ……」
戦った相手の技をあっさりモノにする、ブウが有する戦闘センスに悟空は驚くばかりだ。ベジータは当然面白くなく、こめかみに血管を浮かべ歯ぎしりしている。
「っと、離れるぞベジータ。ここだと巻き込まれっし、またカニが同じ爆発やってこられたら今のオラたちじゃ次は耐えられるかわからねぇ。せめて回復しねぇと」
「ああくそ、乱入する気力もわかねぇ自分にイライラするぜ……!!」
悟空が真っ先に飛び立ち離脱する。遅れてベジータもふらつきながら飛び去った。手を貸さない悟空が冷たいようだが寧ろ配慮である。他の連中ならいざ知らず、カカロットに支えられて逃げるなどすれば、怒りと悔しさで数日は重力室に引きこもる事だろう。
戦士たちが安全圏まで離脱しても戦いは終わらない。ブウからすれば報復から始めたとは言え、訳の分からない強さを持つ相手との戦いがだんだん面白くなっている。カニは生存本能が荒ぶり攻撃的だ。言語化するなら、さっさと仕留めて縄張りに帰りたいといったところだろう。
「お?」
ブウの右腕が千切れ飛ぶ。だが、ブウはその腕を掴むと鞭のように振り叩きつけた。あまりの衝撃にカニが地面へめり込む。そこへ容赦なく二撃、三撃と叩き込み、トドメとばかりに気弾が直撃。地面諸共爆発を起こす。
「へへっ、どうだ!」
腕を戻して得意げな魔人ブウ。返答は赤い弾丸だった。
地面が更に爆散すると同時に超高速で突撃したカニは、ブウの腹を容易く貫く。そのまま彼方へ飛んでいけばいいものを、カニは脚の各所から爆炎のように気を噴き出した。速度をそのままに軌道を変更、その無茶苦茶な修正を繰り返し、今度はブウの脳天から地面まで突き抜けた。
しかしブウは瞬時に再生。自ら地面にめり込んだカニを踏み潰そうと足を上げる。その前に地面が大きくうねり、大爆発を起こした。めり込んだまま、カニが照準も定めず気功波をぶっ放したのだ。衝撃がブウの全身を打ち、彼の肉体を吹き飛ばす。追撃をしようと爆炎と共に飛び出したカニ。その動きに合わせ、吹き飛んでいたブウが強引に反撃する。ゴムのように伸びた拳がカニのボディを完璧に捉えた。見事なカウンターが決まり、カニは荒れた地面をズタズタにしながら転がっていく。
もうめちゃくちゃな戦いだった。
相変わらずカニは規格外だが、魔人ブウも大概だ。一進一退な攻防なようでいて、お互い消耗やダメージを感じさせないのだから恐ろしい。
「あいつら地球を壊さないといいけど……」
「期待は持てんな。魔人ブウは星にこだわりはしないだろうし、カニに地球を守る意識や知識があるとは思えん」
観戦組は、より離れた位置で戦いを見守っていた。幸いにして全員無事だ。界王神は身体のあちこちが折れていたがキビトの復活パワーにより回復。ベジータはキビトの力は不要とばかりに仙豆を噛み砕いて復帰していた。
「み、皆さん……あれはなんなんですか?」
その復活した界王神が、わなわなと震えながらも問いただす。
いやまぁ当然かと悟空らも顔を見合わせるが、かと言って答えるのは難しい。
それでも知っていることは伝えようと、代表して悟空が答えた。
「あいつは、なんつったら言いんかな……ナメック星でフリーザを殺したカニで、今は何故か地球にいる。悔しいけど今この星で1番強ェ奴だ」
「いや、あの」
「信じられねぇのもわかるけど、本当なんだ。今のオラ達でもまだアイツには勝てねぇ……」
「いえ、あのですね」
「魔人ブウも決め手に欠けてるっぽいんだよなぁ、不死身前提な戦い方すっから参考にしにくいしよ〜〜〜」
「違うんです!!」
思わず叫んだ界王神。聞きたいことはカニのことじゃないのかと訝しみ、彼の様子がおかしい事に気が付いた。
額から汗がとめどなく流れ落ちている。
「あの生物……カニでしたか……いいですか、強いのはもういいんです。貴方達ですら私の力を大きく超えているのですから……ただ、あれが時折吹き出している気やエネルギー波はありえないものなんです」
「いや普通の生物が気のコントロールできてる時点でおかしいんだけど」
クリリンがつぶやくも、界王神はそれに返す余裕はない。
彼にとって、今根底がひっくり返るような事が起きているのだから。遥か昔にいた3人の界王神、大界王神、そして破壊神が脳裏から浮かんで消えない。
「あれは、あれはですね! “神の気”です!!」
界王神が吠える間も、不毛でしかない戦闘は続く。簡単に全回復するブウと、そもそもダメージを受けないカニがもたらす破壊のワルツ。犠牲になるのは戦場そのものだ。悟空達が懸念していた通り、このままではどちらかが地球を破壊してしまうことだろう。
しかしその前に事態が動く。
それはブウの自覚から始まった。
「?」
左半身が削ぎ落とされても構わずカニに回転蹴りを決めたブウだったが、再生すると同時に違和感を覚える。
再生速度に陰りはない。力は寧ろ増している。封印から鈍りが落ちたようで調子は抜群だ。
だが、歯に何か挟まるような、肉体のどこかに凝りが生じたような、違和感だけがあった。
「あそびすぎたか? はらもへったな」
この戦いを終わらせよう、ブウはそう判断した。違和感の正体がわからずとも、犯人は目の前のカニだろうと考えたからだ。
一瞬、ニヤリと笑みを浮かべ──ブウが、カニに急接近する。凄まじい移動速度。カニは咄嗟に反応するも、間に合わない。構えようとした鋏より早く、ブウの拳が甲殻を打ち抜く。ダメージはない。しかしカニは怯んだ。ブウはそれが欲しかった。
「クッキーになっちゃえ〜!!」
ブウの頭部にある1本の触角から怪しい光が飛び出す。避けることもできず、直撃したカニは光に飲まれた。
カニの甲殻が瞬く間に変質していく。キチン質(多分)が小麦粉と砂糖、バターに卵を混ぜた糖質と脂質の塊へと変貌し、あっという間にサクサクの食感が嬉しい、ジンジャーと甘い香り漂うカニデザインのクッキーが誕生した。
◇
観客席に衝撃が走る。あの最強のカニが、ブウの力でお菓子に変えられてしまったのだから。界王神が神の気とか叫んだばかりなだけに、その空気は気まずさも含んでいる。
「嘘だろ、カニが負けた!?」
「バカな……」
「……!!?」
色々な意味で絶望してるっぽい界王神はもはや声すら出せていない。彼らの視線の先ではウキウキとステップを刻んだ魔人ブウが、カニクッキーを拾いあげ。
大口を開けたところで全身が3分割されていた。
「は?」
「バカな……」
「……ッッ!!!?」
カニのクッキーが急回転する。凄まじい回転速度。ブウはとっさに反応できない。気の刃が嵐のように撒き散らされブウを刻んでいる。
「なんだあれどうなってやがる!?」
「今のカニ、クッキーだろあれ!」
「あんな変化しても強さは変わらねぇみてぇだな……さしずめ世界一強いクッキーか」
「悟空、なんでお前いつも落ち着いてんの?」
ブウの肉体が千切りになり崩れ落ちる。回転が収まり地面に落ちたカニのクッキー。
だがブウが復活の構えを見せると再び動き出す。気だけがまるで自我を有したようにカニの身体を操作していると悟空は気付いた。自律操気の技術を有するカニ、眩暈がしてくる。
よく見ると、決してハサミや脚が動いているわけではない。クッキーとして完全に固まっているようだ。ただ、尋常ではない密度の気が膜のように貼り付いている。加えて、クッキーのあちこちから棘のようなものが飛び出していた。回転するたびにあれを起点に膜の気が一部剥がれるように飛び出し、斬撃の気となってブウを襲っている。
甲殻の棘を再現しているようにも見えるそれ。視力にも優れるZ戦士達はあれが木の枝に近いとわかった。だが、クッキーに枝を使うなどありえないのでアレがなんなのかわからない。
唯一、クリリンが気付いた。
「あれひょっとしてジンジャーか?」
「えっ」
「いや、昔ジンジャークッキーを土産にもらってさ。齧ったら爪楊枝みたいなジンジャーがそのまま入ってて歯茎に突き刺さったんだよ。だからもしかしてってな」
「なんだその殺意しか感じない土産は。そんなのが実在してたまるか」
「実在したから言ってんだよベジータ……すりおろすとかパウダー使うとかじゃなく刻んだのが入ってたんだよ……」
うなだれるクリリンだが、ともあれ実在するならあり得るのかと皆は強引に飲み込んだ。純粋に食べても危険ということがわかったカニのクッキー。このまま理不尽の暴風雨を浴びせ続けるかと思いきや、唐突にカニは元の姿を取り戻した。
なんとか復活したブウが、半永続的に切り刻まれるのはごめんとばかりに元に戻したのだ。その表情は険しい。悔しさを隠さずカニを睨みつけている。
カニはと言えば、興奮状態が続いている。先程支配されたばかりなのに、また肉体を弄られるような不快感を味わわされ、あげく食われかけたのだから当然だろう。鋏を振りかざし、泡がぶくぶくと弾けている。
再開される肉弾戦。太ったピンクの魔人と赤いカニの殴り合いは、レベルが極めて高いにも関わらずあまり絵になっていなかった。Z戦士がぶつかり合う特有のBGMを流せど誤魔化せないだろう。かといって無視して帰るわけにもいかない現状に、ベジータはため息をついた。
「これで振り出しか。ブウかクソガニが何かやるまで殴り合いが続きそうだな」
「見守るだけでも危ないから困るよな。オレもう帰った方がいいんじゃねぇの。絶対場違いだぞ」
「それを言うなら私やキビトもですよ……地球へ来た当初はこんなことになるなんて夢にも……」
「いや……まずいな」
クッキーの衝撃のせいか空気が緩和してしまったベジータたちだったが、悟空は違った。汗を浮かべつつ、厳しい視線をカニ達へ向けている。
「何がだ悟空」
「ブウは余裕なくなってきたし、カニは怒りを収める様子もねぇ。ベジータの言う何かやるってのは割とすぐ来そうだぞ」
言われて一同は気を引き締め直して戦いを見つめる。すると悟空の懸念は間違いなさそうだった。ブウは歯を食いしばるようになっており、カニは全身がより赤く、そして時折銀色の気が吹き出し始めていた。あれではどちらも本当に何をしでかすかわからない。
「その時が地球の終わりか……くそっ、打つ手はないのか」
「せめて数日猶予があればあの方法が……いや、今からでも……しかし地球を見捨てるも同然……」
何をしでかすかわからずとも、どちらかが地球ごと相手を消し飛ばすのは明白。ピッコロが思わず歯噛みする。
界王神は、もうこうなったら今から界王神界へ皆を連れて飛び、『引き抜く者には最強に力を授ける』Zソードにチャレンジさせようかワンチャン地球残ってればいけるかも、と現実逃避と打算を始めていた。実際宇宙を守れる戦士達を救えれば宇宙全体としては利のある行為だ。さっさとそういう行動が取れないから未熟であり、同時に善い界王神でもあるのだろう。
そんななか、悟空はひとつ息を吐いた。気合と覚悟を決める一動作。
賭けであり、上手くいったところで後が怖いがやるしかないならやるべきだ。
「オラがいく」
「なに!?」
「オラが介入して、どちらかを一撃で消し飛ばすっきゃねぇ……カニは無理だが今のブウなら超サイヤ人3でいけるはずだ……」
「おいカカロット、3とはなんだ聞いてないぞ」
当然聞き逃さなかったベジータが苛立たしく問うも、悟空は既に意識の集中を始めていた。
時間をかけて注意がこちらに向いてはいけない以上、一瞬で変身すると同時にフルパワーでいくしかないのだから極限の集中力を要する。集中しつつ、警戒を引き寄せない為に脱力。
眼を閉じ、研ぎ澄まされていく悟空の集中。その集中の全てを己の内へ向けていく。元来なら溢れて昂る気も内へ、内へと沈め、溜め、圧縮していく。呼吸1つ重ねるごとに、悟空の気は静けさを増していった。カニが大爆発する前に見せた、あの気の濃縮。カニのクッキーが見せた超高密度の気。2つの事例を、悟空は見逃さなかった。
(よし……多分、いける)
自信の無さは、悟空としても未知の領域だからだろう。集中の使い方も、ここまで脱力を意識したもないのだから当然だ。しかも着想の大元があのカニなのだから猶更である。それでもここまでできてしまうのだから、彼の戦闘センスは図抜けている。ベジータのプライドがまたひび割れているが気にしてはいけない。
(あとはタイミングを見極めるためにもブウの気を……!?)
闇雲に飛び出すわけにもいかず、ここで初めて悟空は気を探った。ターゲットである魔人ブウの気。最初に感じ取った悍ましさすら覚えていたあの気は間違えようもない。
探り当てた瞬間、危うく積み上げた集中と脱力を失うところだった。
悟空が動揺したのも無理もない。
ブウの気は異常な変質を遂げていた。
界王神が神の気と称していた、カニの気がブウの内へと溜め込まれており、それにより圧迫された邪悪な気が今にも分離しそうな勢いで渦巻き集まっている。
(なんだ、ブウに何が起こっている……!?)
◇
「く、ぎいいいいいい!?」
ブウが突如苦しみだす。頭を押さえ、血管のようなものを浮きだたせながら震えていた。
そこへ容赦なくカニが気功波をぶっ放す。本当に容赦がないが、そこで手を止めるような理性も知性も有していないからしょうがない。
「ぎゅぎ!?」
あっさり腹部を貫かれるブウ。倒れ込み苦しみながらも再生に影響はないようで、その穴はあっさり塞がった。だが起き上がれず、ごろごろと地面を転がっていく。カニが追撃する。サイヤ人の方がまだ手心がある。
「ぎ……ぎいいいいいい……!! がぁあああああああああ!!!」
カニにより、幾度かの攻撃を受けたブウから勢いよく蒸気が吹き出した。ようやくカニの動きが止まる。別にやっと手心を意識したわけではなく、単に見えなくなったからだ。だがブウは別にそれを意図したわけではない。
噴き出した蒸気が、上空にてゆっくりと集まり変質していく。倒れこむブウだったものもまた、変化が訪れていた。
ちょっと膨らんだ穴でしかなかった耳がとがり、どこからともなく耳飾りがきらりと輝く。頭部の触手は紫のモヒカンヘアーへ、マントはそのままに、蒼い衣服を着込んだ姿へ。
「コヒュッ」
「界王神様!!?」
観客席ゾーンにいた界王神は、彼の正体に誰よりも早く気付くと同時、カニみたいな泡を吹いて倒れた。そこで倒れるな周囲に説明しろと突っ込める者はいない。
観客席が騒ぐ中、ブウだったはずの存在はにこやかな笑顔を浮かべて立ち上がった。じつにすっきりした様子だ。
「ふぅ……はじめましてだね。私は大界王神だ。君のおかげでどうにか分離できたよ。ありがとう」
ブウの悍ましい気が欠片もない、神々しい気を纏った男。大界王神を名乗る彼は、視界が晴れたカニへ、ぺこりと頭を下げた。カニからすれば意味不明だが、敵意がないことだけは理解できた。野生の本能は的確に判断する。先程迄戦っていたのとは違うらしい。じゃああれはどこだと視覚情報から懸命に探している。
「昔ブウに情けなくも吸収されてしまってね。君の持つ
丁寧に説明してくれる、この宇宙で一番偉い神様だが、カニにとっては理解できない音を口から発する二足歩行のヒトデと変わらない。それよりあの厄介な敵はどこなんだと複眼をぐるぐる動かしている。
大界王神は呑気に「君は宇宙の救世主だ」とか「おや、あそこにいるのはシン君かな。何故倒れているんだろう」とか述べ立てていたが、ようやくカニが自分の言葉を聞いていない事に気が付いたようだ。苦笑いを浮かべて頬を掻く。
「神の気をこれだけ有しているから、神の座にいると思っていたよ。一応はただの小動物みたいだね。色々気になるけれど、争う気がない事が伝わったならいいか。まだ問題は残っている事だし」
大界王神は、雲のように密集した蒸気を睨み上げる。ピンク色に変色し、気を増しながらもそれはより小さく形作っていく。魔人ブウは魔人ブウで、再生しようとしている証拠だった。
「分離に合わせて封印できないかと思っていたけど、動きを止めないあの様子だと失敗か」
完全に人型となった瞬間、現れたのは子供のようなサイズとなった魔人ブウだった。しかしそのピンクボディはスマートなものになっており、頭部の触手はより大きなものへとなっている。どうやら魔人ブウの太った要素は、完全に大界王神によるものだったようだ。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃおおおおおおおおお!!!!」
魔人ブウが吠えた。
当然、その咆哮の元へカニの注意は向けられる。
先程迄戦っていたピンク色と同色。判断は一瞬だった。
「ノ──────!!?」
カニの放った気功波が、新たな魔人ブウを飲み込んだ。
ラウンド2のゴングが鳴り響く。
流石に次回で決着つくと良いなぁ
・前書きのドラゴンボールZパロディ
尺稼ぎにしか見えない1分15秒ですが、あのボイスとテンポをイメージしながらSSのあらすじを収めるのって難しいですね。あとサブタイトル。Zのサブタイトルって割とハジけてるものだから、どこまで踏襲するべきか悩みどころでもある。
今回は『どっちが勝つの⁉善悪ブウブウ対決』などから拾いましたが、台詞的にこれ誰視点何だろうか。『勝つのはどちらだ⁉善悪ブウブウ対決』の方がしっくりくるんですけど。
・カニさん大爆発
「おまえなんてきらいだー!」とかベジータの自爆を代わりに引き受けた形。再現せんでいい原作要素は再現するカニさん。全身の一新化を図っての無茶な結果、神の気が一部弾けた。地球が無事だったのは、縄張り崩壊を恐れる本能による規模の収縮が一因だが、爆発規模の計算とかそういうのはしていない。カニなので。
・カニさん、悟空の威嚇で戦闘回避する
基本、本能で行動する甲殻類なので習性にとても忠実。餌が豊富という前提がある為、ここで拘って群れへ襲い掛かる判断は取らない。ただし、もしベジータが死亡していて、悟空が立ちふさがった場合はただの餌の横取りと見做される。ベジータが生きていても縄張り内だった場合は敵対行動と見做される。
縄張り外だったのと、カニ視点で海藻みたいなの身にまとった二足歩行のヒトデみたいな姿してるのはたまに餌くれる個体もいる認識してるのが幸いしている。
・魔人ブウ
今回の犠牲……になってない。けど分離した。純粋ブウ、復活である。
もともと無邪気ブウというのが大界王神吸収して弱体化してまで心と知性を得た状態、とされているので素の力は純粋ブウが上らしい。なんで弱体化してるのかは明言されていないが、多分大界王神が中で抵抗とかしてたんだと思う(メタ的には最終決戦がラスボス弱体化状態の印象与えない為。作中最強の敵は孫悟飯吸収した悪ブウだけど)。
アニメだと原作よりもちょっと強くなっており、悟空は下手すれば負けていた。
・界王神
散々な扱いだが、これでも原作よりはマシのつもりです(瀕死ではないし、カニの気の正体に近づいた)。アニメZでは黄金の気を溢れさせていたような気もするが、そこで初登場補正は終わってしまったらしい。
ブウ封印から500万年あったんだからもうちょっと成長してほしかったとはよく言われる。ドラゴンボール超では見習いから大界王神によって界王神へ引き上げられた過去や、複数の宇宙がある設定になった。その為、大界王神の教育が不十分であったことや、他宇宙の界王神からなんの教育や支援も受けられていないことが察せられる。未熟を自覚しながら善性溢れる良い神様なのに。力の大会でも、明らかに宇宙で生命有する星々を把握しきれていない台詞差し込まれてるのだが大丈夫か色々と。
・大界王神
のんびりで温和な性格とされている。アニメドラゴンボールZ277話でもブウの気弾を反射する、特殊な気功波で賽の目状に分割して爆破するなど頑張ってたが吸収される、漫画版ドラゴンボール超のモロ編で、1000万年前に自分の力を犠牲にした封印術を行使しており、それが結果的に500万年前のブウ戦敗北に繋がったとされている。漫画版超でだいぶ戦えていたので、ブウに吸収されるまで破壊神としての業務もこなしていたのが伺える。ビルスは一度本気で怒られた方が良い。
この優秀な大界王神を失ったのは痛すぎる……後継育成は不得手だったの含め。
今作ではカニが無造作に神の気(神力)をブウへ叩き込んでいた為、内部で覚醒。神力を吸収蓄積して一定量越えた段階で復活行動に移った。原作と違って、無邪気ブウが改心したわけでもないし現地人(サタン)との絆を見守ってきたわけでもないので、本気で乗っ取り返ししている。
・神の気
神が有するクリアな気(表面に出ないから戦闘力として知覚されない副次効果付き)。後付けとはいえ、なんか場面ごとに微妙に設定変わってる気がする。漫画版ドラゴンボール超では神が有する力として
あまりにものをしらない未熟な界王神がなんでカニさんから神の気知覚できたのかに関しては、最新シリーズまでを統合しての調整と思ってください。大界王神知ってて感知できてないのがおかしいという理屈でこの世界線ではちゃんと把握してます。
ちなみにこの気による技の1つ『身勝手の極意』は『自らが鍛えてこそ会得できるもの』らしく、単に力そのものをコピーしようものなら肉体が耐えられない。なおカニは脱皮強化を繰り返した事で適応。
・急接近する~反応~。
元ネタはFGOの伯爵構文。カニさんは反応したのにブウは反応できてない?目の前でクッキーが急回転しだして呆けないものだけがブウへ石を投げなさい。
・口に刺さるジンジャークッキー(ジンジャーブレッド)
実話、というか作者の実体験(英国土産だった)。口の中から全ての水分を奪うか、あるいは滅茶苦茶粘つくスコーンというものもあり、英国土産は紅茶しか信じられなくなったトラウマである。あれは間違いなく最強のクッキーでした。カニさんクッキーはこれの凶悪版としてイメージしています。