虎杖悠仁に成り代わった男の青春物語   作:ブルアカ大好き

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忙しいですが、アイデアは出てくるものですねぇ…‥息抜きに別の小説を書いたら凄く捗りました。ですがこちらも待ってくれている方々がいるのと、自分が見たいので投稿します。

それでは、どうぞ!


二十二話 どれだけ足掻いても

結論から言えば、ベアトリーチェが言っていた通りだった。

 

まともに話なんて出来やしない。文字通りの、地獄の日々だ。

 

今まで俺がやっていたのは"訓練"じゃなかったのかもしれない。そう言える程に、奴の訓練は厳しいものだった。

 

一秒でも移動が遅れれば怒声が飛び、"3回ミスをしたらその都度指導をする"という糞みたいな命令があるせいで、皆必死だ。各々の役割を果たさなかったらそれで苦しむのは他の人間なのかもしれないのだから、あの優しい子達が真剣になるのは当然だろう。

 

何もできない自分が、また情けなくて情けなくてしょうがない。

 

この状況を変える手段を、俺は持たない。

 

…‥いや、違う。

 

"持てていない"が、正しいか。

 

最近は、修行にも成果が出ていない。勿論呪力の扱いは向上しているし、術式の扱いだって上達してる。だけど"先"が見えない。これ以上に強くなった自身のイメージが浮かばない。

 

「…‥行き止まり、なのか?」

 

深夜。月明かりが窓から室内を照らしているのを背に、一人呟く。

 

"帳"の効果時間は後一時間程だろう。その間に、少しでも強くならねばならない。…‥だけど

 

「…‥辛い、なぁ。」

 

朝早くに叩き起こされ、常軌を逸した訓練を長時間やらせられ、夜遅くに解放される。訓練をしていない"待機時間"は、約五時間程だろう。

 

この五時間の内、最低一時間は止まっている必要があるため、その時間は瞑想で呪力の扱いの修行。それが終わったら"帳"を張り、時間が続く限り肉体を動かす修行をする。それが終わって、ようやく寝るのだ。

 

バカなことをしているのは分かってる。ただ単純に少しでも多く寝ればいいというのに、その貴重な時間を二時間も削っているのだから。

 

だけど、だけど、

 

寝れないのだ。

 

まだ体が疲れていない内に寝ようとすると、途端に焦燥感と不安感が芽生えてくる。冷や汗も止まらなくなるし、なにか見えないモノに追いかけられているような感覚がするのだ。

 

だから今の俺は、体を修行によって追い込んで、ようやく寝ることができる。

 

「…‥強く、ならなくちゃ。」

 

(そうしなかったら、この日々はもっと続いてしまう。)

 

震える体を無理に押さえ、赤血操術の赤鱗躍動を発動させようとする。

 

(…‥血に、呪力が有る感覚自体は掴めた。小さな一歩だけど、ここからこれを全体に巡らせられれば、大きく進歩する。)

 

目を閉じ、神経を研ぎ澄ませる。血管の中、血の一滴一滴を感じるために。

 

(!…‥!…‥…‥)

 

最初は『これか!?』と思う感覚があったが、意識した途端に崩れてしまい、その感覚は離れていってしまった。

 

「…‥く…‥」

 

(これで何度目だ?どう頑張っても、血中を巡らせる感覚が掴めない。)

 

「独学の、限界なのか?」

 

つい溢れてしまったその言葉は、『誰かに助けてもらいたい』という本音の表れだった。

 

誰かに教えを乞いたい。誰かに、こんな俺の代わりに皆を助けてもらいたい。

 

そう、俺はいつからか

 

心が、折れかけてしまっているのだろう。

 

「…‥くそ!」

 

自棄(やけ)になり、自分が作ったサンドバッグ擬きを無造作に殴る。

 

(なんなんだ俺は!自分が負けてこんなことになったくせして、今度は真っ先に諦めるだと!?ふざけるのも大概にしろ!)

 

「くそ!くそぉ!!」

 

目からは涙が溢れ、呪力を纏っていない手は段々と傷ついてきた。

 

(家族を守るんじゃなかったのか!?俺の覚悟は、あんな奴に折られてしまう程安っぽいものだったのか!)

 

心の中で自身の思いを叫びながら、手から血を流しながら、拳を振るう。

 

「くっそぉ!!」

 

最後だと、自分の全力を込めて腕を振るう。

 

すると

 

サンドバッグが"二回"音を立てながら、崩壊した。

 

「!?今のはまさか…‥"逕庭拳(けいていけん)"?」

 

逕庭拳とは虎杖悠仁本人が使用していた『打撃の後に遅れて呪力がやってくる』という、言わば二度の衝撃を相手に与える技である。

 

本来の発現経緯は虎杖悠仁の身体能力に呪力が追い付かないという悪癖からだったが、今回はそれに類似した状況だったのだろう。

 

(無意識に呪力が込もっていたのか?いや、そうじゃなかったらこんなことはありえない。)

 

「…‥偶然の産物にしては、デカ過ぎるな。」

 

(今の感覚を忘れない内に修行だ。これをものにできれば、大きな武器になる。…‥それこそ、奴を倒すことだって可能になるかもしれない!)

 

いつの間にか自身の折れかかっていた心は回復し、修行に夢中になっていたのだった。

 

 

 

 

 

「…‥あのまま寝ちゃったのか。」

 

(速く行かないと…‥)

 

「扉は開いた。後一歩、後一歩踏み出せれば…‥奴に勝てるかもしれない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…‥っ」

 

「じっとしてろよ。動いたら余計染みるぞ。」

 

訓練が終わった後、最中に怪我をしてしまったアズサの治療をしている途中。

 

太陽は既にその姿を隠していて、少しではあるが星が見える程度の時間であった。

 

「…‥なぁ、アズサ。」

 

「…‥なに?」

 

「どうして、俺を庇ったんだ?」

 

今日の訓練中の攻撃を避けるという訓練の時、俺にだけ銃弾は過密に集中していた。

 

流石に全てを避けきれるはずもなく被弾しかけた時に、アズサが身を挺してその弾丸から俺を庇ったのだ。

 

(俺はまだ、アズサとはそこまで関係がない。アズサだって自分の事で精一杯のはず…‥なんで庇ってくれたんだ?)

 

「…‥咄嗟に、動いた。」

 

「は?」

 

「まず、貴方はヘイローがない。だから、銃弾を受けたら私達と同じようにはいかない。もしかしたら、貴方は死んでしまうかもしれない。」

 

「それは嫌だった。…‥上手く言えないけど、それが理由。」

 

「…‥アズサ。」

 

それは、ふと出てしまった一言。冷静であれば決して口にしないであろう、失言といって差し支えのないもの。

 

「アズサはどうして、そこまで抗えるんだ?」

 

出てしまった。こんなことを聞かれても、困るだけだろうに。

 

(俺は一度でも、体が咄嗟に動いたことがあったか?)

 

思い返してみればそうだ。

 

(俺が体を動かしたのは『助けよう』と思った時だけ。反射だったり、体が勝手に動いた事なんてない。)

 

向き合っていなかった、自分自身の未熟な精神に。

 

(…‥俺は、甘えているんだ。『皆は俺より頑丈だから』って自分に言い訳して、迫り来る脅威から目を反らしてる。)

 

奴を倒すことだけを見て、他に目を向けていなかった。

 

「…‥ユウジが何を思って、そんなことを言ってるのか分からないけど。」

 

アズサはユウジの質問にそう前置きしながら、こう答えた。

 

「たとえ全てが虚しくても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない。」

 

「どんなに辛くても、どんなに苦しくても…‥それは、今抗わない理由にはならない。」

 

(あぁ…‥今、やっと分かった。)

 

(この子は、眩しいんだ。)

 

まるで何者も寄せ付けぬ太陽のように、その心は、その精神は、

 

黄金色(こがねいろ)に、輝いていた。

 

「…‥そっか、アズサは強いね。」

 

吐き捨てるように、見たくなかったものから目を背けるように、彼はそう言った。

 

しかしそれを聞いたアズサは首を傾げながら、当然の事実を言うように、口を開いた。

 

「私からすれば、ユウジの方が強いと思う。」

 

「俺が?」

 

「だって、いつも守ってくれるでしょ?」

 

「誰かがミスをした時、誰かが傷ついた時。そんな時、ユウジはいつも助けてくれる。」

 

「…‥」

 

何も、言えなかった。

 

「そんなユウジだったから、私も体が咄嗟に動いたんだと思う。『この人には死んで欲しくない』って、そう思ったんだと思う。」

 

「…‥アズサ。」

 

今にも水滴が溢れ落ちそうなのを必死に押さえながら

 

「ありがとう。」

 

絞り出すように、そう言った。

 

「?…‥どういたしまして?」

 

虎杖悠仁は未熟である。これは今現在否定しようがない事実であり、不変のものだ。

 

だが、未熟者でも未熟者なりに、出来た事はあった。

 

ただ、それだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある実験室にて。一人の大人が、あるデータを見比べていた。

 

「奴の脳と、一般的なキヴォトスの生徒。それにプラスして外の世界の人間の脳も画像で照らし合わせると…‥違いますね。」

 

(生徒の脳と外の世界の人間の脳は酷似している。その構造に大きな違いはない。だが奴の脳は…‥別の生物かを疑う程に違う。)

 

「もしやこれが、奴の力の秘密?…‥もう少し詳しく調べる必要がありそうですね。」

 

ベアトリーチェが"それ(呪力)"に気づく時は、直ぐそこまで近づいていた。




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