虎杖悠仁に成り代わった男の青春物語   作:ブルアカ大好き

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ということで、短編集です。息抜きみたいなもんなので、気を抜いてお楽しみください。

それでは、どうぞ!


二十六話 一時の平穏

白州アズサと近況

 

「あっ…‥そこ、そこだ。」

 

「ここか?」

 

「あぁ。…‥ん」

 

「よし、やっと要領が掴めた。羽の手入れって難しいんだな。」

 

どこか既視感を感じる光景だが、今回は誰かの手当てではない。アズサが「羽の手入れをして欲しい」と言ってきたため、今はそれに応えている形だ。ちなみに「サオリとかミサキとかの方がいいんじゃ?」って言ったらもの凄い目で睨まれたので、きっと俺じゃないといけないなにかがあるのだろう。

 

「自分でやる時は無理をしないと届かないところがあるから、ユウジにやってもらえて良かった。礼を言う。」

 

「気にすんなって。しっかし…‥綺麗なもんだな。」

 

改めて、アズサの羽を見る。

 

前世では鳥にしか生えていなかったそれが人間に生えていたことに最初は驚きを隠せなかったが、慣れてしまえばなんのその。

 

眩いほどに輝く純白の双翼は、アズサ本人の可愛いさも相まって、まるで天使の翼のようだ。

 

「…‥ユウジ、その、そんなにじっと見られたら、恥ずかしい…‥」

 

「後ろからでも分かっちゃう?ごめんね、物珍しくて。」

 

「まぁ、ユウジなら…‥いい。」

 

「ありがと。…‥よし、こんなもんか?」

 

「うん、ありがとう。」

 

「どういたしまして。」

 

前とは違い、心地の良い沈黙の時間。訓練はもう終わっていて帰るのみとなっているので、邪魔をされることもない。

 

「…‥なぁ。最近、妙だ。」

 

そんな中、神妙な面持ちでアズサが口を開いた。

 

「アズサも分かってたか。あぁ、今までいた教官達が一人もいない。」

 

最初は「なんかの罠か?」と疑っていたが、一週間もたってこうも音沙汰がないと、流石に分かってしまう。

 

恐らく、教官達はもうアリウスにはいない。

 

様々な可能性を考慮したが、真っ先に思いついたのは

 

ベアトリーチェが、始末した可能性だ。

 

教官達は俺達に負けるとしても、殺されるほど弱くはない。単純に場数が違うからだ。しかし、それさえも捩じ伏せられる強者なら話は変わってくるだろう。

 

「…‥サオリは今、どうしてるの?」

 

アズサの言葉に、思考が現実に引き寄せられる。

 

「…‥そこまで分かってたか、流石だな。」

 

「サオリは今、他のアリウス生を訓練しに行ってる。奴は何かに忙しいらしく、最近は生徒同士で鍛えさせてるな。…‥まぁ、もしなにかミスがあったり違反があったりしたら、すぐに飛んで来るけど。」

 

「皆が今まで以上に怯えているのはそのせいか。」

 

「俺達アリウススクワッドも、合同訓練の機会が増えた。これからは自分達だけじゃなく、他の子達にも目を向けないとな。」

 

「…‥でもそれで、私達に構う時間が減るのはいや。」

 

「!…‥まさか、アズサからそんなことを言われるなんてな。」

 

「悪い?」

 

「いいや、別に。ただ意外だっただけだよ。」

 

「…‥私だって、誰かに甘えたい時ぐらいある。」

 

そう言って、アズサは頭を屈めた。俺はそれで、アズサが何を求めているのかを理解し

 

「…‥よしよし。」

 

「…‥~♪」

 

優しく、頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

秤アツコと夢

 

(あ、これ…‥)

 

(雑誌だ。こんなのところに落ちてるなんて…‥)

 

妙に心が引かれ、おもむろにそれを手に取る。

 

(何々…‥『結婚式』?)

 

その雑誌のあるページには、『愛する人とする最初のお祭り!』と大きく書いてあり、女の人が綺麗なふりふりの服を着ていた。

 

(…‥この人達、すごく幸せそう。…‥いいなぁ。私もいつか、こんな服…‥)

 

「お、ブライダル雑誌ってやつか?」

 

「ひゃあっ!」

 

「そ、そんなに驚かなくても…‥」

 

「!」

 

ぽかぽかと、ユウジの体を叩く。

 

「ごめんって、悪かった。」

 

「…‥スースー」[まったく、ユウジは乙女心が分かってない。]

 

「ん?ちょ、ちょっと待ってな…‥えーっと…‥あ、そういう意味か!」

 

「スースー」[ごめんって、俺鈍いからさ。]

 

「スースー」[…‥まぁ、許してあげる。]

 

「スースー」[ありがとう。]

 

端から見れば、異様な光景だろう。しかし当人達にとってその時間は、何より幸せなものであった。

 

「スースー」[それで、ユウジはこの雑誌のこと知ってるの?]

 

「スースー」[あぁ。それは結婚式って言って、愛する人と一生一緒に暮らします。っていう宣言をする場なんだ。新郎と新婦の親しい人を集めて皆の前でそれを誓う儀式みたいなものだから、それは豪勢にやるんだぜ。]

 

「…‥スースー」[ここには、旦那さんとお嫁さんって書いてある。]

 

「スースー」[新郎新婦のことをそう言ったりもするんだよ。同じ意味だから、まぁ好きな方で覚えればいいさ。]

 

「…‥」

 

(お嫁さん。…‥なんだか、すごく良い響き。)

 

「スースー」[結婚式って、誰とでもできるの?]

 

「スースー」[血縁者は確かダメだけど、それ以外なら。]

 

「…‥スー」[なるほど。]

 

(つまり、ユウジともできるってことだよね。…‥一生一緒、か。)

 

「スースー」[じゃあ、私はユウジのお嫁さんになるね。]

 

「!?スースー」[なんでそうなった!?]

 

ユウジは考えた。これを幼い子供の世迷言として片付けるか、それとも…‥

 

(いやいや、それこそダメだろ。)

 

「スースー」[アツコがもう少し、大人になったらな。]

 

「スースー」[…‥なんで?なんで今じゃダメなの?というか、大人っていつ?]

 

「スースー」[そ、そうだなぁ…‥じゃあ、16歳になったらまた聞かせてよ。その時には答えが変わってるかもしれないし。]

 

「スースー」[分かった。約束だからね。]

 

「おう。…‥あ。」

 

「スースー♪」[言質取ったり、ってところかな?]

 

「…‥よくそんな難しい言葉知ってたな。」

 

(ま、君が楽しそうで良かったよ。)

 

彼が、そんな呑気なことを思っている合間にも。

 

(…‥あと七年。それまで、絶対逃がさないからね?ユウジ♪)

 

強かなお姫様は、静かに牙を研いでいた。

 

 

 

 

槌永ヒヨリと理想の食事

 

今日の食事も普段通り、携帯食と保存食です。美味しくないとは言いませんが、やはり味気がないと言いますか…‥

 

やはり、頭によぎってしまいます。あの時ユウジさんが作ってくれたご飯が、皆で食べたあの幸せな味が。

 

いつかまた、食べれる日は来るのでしょうか?

 

「…‥どした?そんな暗い顔して。」

 

「あっ、ユウジさん…‥」

 

「もしかして、配給が好みじゃなかったか?なら舌に合うか分からないけど、俺のと取り替えて「ち、違うんです!」」

 

「好みじゃないとか、まずいとかじゃないんです。ただ…‥なんだか少し、寂しくて。」

 

「…‥なんでか、聞かせて欲しいな。」

 

「昔食べた、ユウジさんの料理の味が忘れられないんです。あれと比べたらこれは…‥どこまでも冷たい地面のようです。」

 

哀愁を漂わせながら一呼吸間を置き、まるで叶わない夢をそう分かっていながら呟くように

 

「いつか…‥いつかまた、貴方の手料理が食べたいです。」

 

彼女は真っ直ぐ彼を見ながら、そう言った。

 

「…‥ならその時は、皆で一緒に作ろう!」

 

「…‥え?」

 

「何が食べたいか、今の内に考えておいてな。…‥もし本当に俺が作った料理が食べたいんなら話は変わるけど、そうじゃないんだろ?」

 

今、家族皆で料理をする姿を想像した時、すごく胸があったかくなりました。

 

…‥あぁ、やっと分かりました。私が本当に求めていたのは、ユウジさんが作ってくれる食事じゃなく

 

「一人ぼっちをなくしてくれるもの…‥だったんですね。」

 

その呟きは小さく、彼に聞こえることはなかった。

 

「ほら、一緒に食べようぜ?味気なくたって一緒に食えば、きっと少しは美味しいさ。」

 

「はい!」

 

頬を伝う涙を拭うこともせず、彼女はこの短い憩いの時間を楽しむのだった。

 

 

 

 

戒野ミサキと歪な感情

 

「…‥なんで、なんでこんなことした?」

 

「…‥」

 

今俺の手には、小さいカッターが握られている。そのカッターには少量の血が付着していて、端から見れば俺がミサキを傷つけたように見えてしまうだろう。

 

…‥後一歩止めるのが速かったら、傷付くこともなかったのに。

 

「俺が偶々、訓練中に様子がおかしいのに気づいて、終わってから帰っていくミサキをつけていたから止められた。だけどもし、俺が感づかなかったら…‥ゾッとする。」

 

端的に言うなら、今ミサキがやろうとしたのはリストカットだ。自分で自分の手首を傷つける…‥自傷行為と呼ばれるものだな。

 

「…‥とにかく止血しないと。じっとしてろよ。」

 

「…‥っ」

 

自身の服をちぎり、包帯の代わりにする。後で変えるが、応急措置としては十分だろう。

 

「痛いだろうけど、今はこれぐらいしか出来ない。申し訳ないけど耐えてくれ。」

 

「よし…‥ほんと、心臓に悪い…‥」

 

「あえて厳しく言うけど、二度とこんなことするなよ。もし悩みがあるんだったら、俺でも誰でもいいから相談してくれ。…‥まぁ、こんな環境で悩みがないって方が無理な話だと思うけど…‥」

 

リストカットは、愛が足りていない子達がよくしてしまうと聞いたことがある。…‥これからは、ミサキにもっと向き合わないと。

 

「…‥」

 

ごめんなさい。こんな事しちゃいけないって分かってたけど

 

貴方に心配されるたびに、心が高鳴ってしまう。

 

もっと私の事を考えて欲しい。…‥だけど貴方は優しいから、私だけを見つめていてはくれない。

 

だから思ったの。こうすれば、一瞬だけでも貴方は私だけを見てくれるんじゃないかって。

 

「…‥ごめんなさい。」

 

そう呟くミサキを、優しく抱き締める。

 

「ほんとにもう…‥体は、大切にしてくれよ?」

 

「…‥うん。」

 

あぁ…‥

 

心地い。

 

 

 

 

錠前サオリと一組の通信機

 

「サオリ、そっちにあるか?」

 

「いや、こちらにはない。恐らくそちらにあるだろう。」

 

「おっけ…‥見つかんねぇなぁ。」

 

「だが、探し出さなければならない。最近ようやく怪我人の治療が許されたんだ、使える物は一つ残らず集めるぞ。」

 

「分かってる。これも交渉の結果だもんな。」

 

「『パフォーマンスが低下した状態で訓練に望んだとしても、それは全ての効率が落ちるのみであり、意味がない。』…‥まさか、了承されるとは思わなかったがな。」

 

「その代わり、ここにある物以外使っちゃいけない、か。…‥まぁ、奴の考えは分かる。」

 

「…‥分かるのか?」

 

「多分だけど…‥自立した兵士が欲しいんじゃないかな?」

 

そう言い終えてから、彼は手話に切り替え

 

[勿論、自身に従順な、ね。]

 

それだけを表現してから再び口を開く

 

「そういう時に自分で応急措置くらい出来れば、効率も変わってくるからね。衛生兵を必要としないっていうのは、戦場において中々厄介だよ。…‥ま、サオリは言わなくても分かってると思うけど。」

 

「…‥ユウジがもし、自分を治療しながら向かって来ると考えた時、凄まじい脅威だと感じた。こういうことか。」

 

「逆も然り。もしサオリが治療しながら向かって来ると考えると…‥相手にしたくねぇな。」

 

「…‥ならば、これからは応急措置も訓練に入れよう。そうすれば、生存率も少しは変わるだろう。」

 

「良いと思うな…‥ん?これって…‥」

 

「何か見つけたか?」

 

彼が倉庫の奥から掘り出した物は、一組の通信機だった。

 

「これ…‥まだ使える。ま、結構ボロいけど。」

 

「…‥せっかくだし、ほれ。」

 

「きゅ、急に投げるな!…‥どうすれば使えるんだ?」

 

「多分ここを押せば…‥『あ、あー、聞こえる?』」

 

『驚いた…‥確かに、ユウジの声が聞こえてくる。』

 

『こっちもバッチリ。…これ、くすねる?』

 

『…‥まぁ、必要な物か。』

 

『俺達しか使えないけどな。一組しかないから。』

 

『探せば、まだあるか?』

 

『もうそろ帰んないと、皆が心配しちゃうんじゃない?俺はまぁ大丈夫そうだけど、サオリなんて教官なんだから。』

 

『それもそうか…‥収穫はあった、速やかに帰還しよう。』

 

『了解、リーダー。』

 

(この距離で通信機使う意味、特にねぇな。)

 

その日の夜、それぞれの自室にて。

 

『きこえるか?』

 

『…‥聞こえる。どうした?』

 

『いやその…‥なんだか不安になってしまって、声が聞きたかったんだ。』

 

『…‥昔と変わらないな。寂しがり屋なところは。』

 

『う、うるさい!…‥わるい?』

 

『全然。むしろ、もっと甘えてもいいんだぞ?』

 

『…‥ユウジ、私、がんばってる?』

 

『世界一。…‥いや、宇宙一。』

 

『えへへ…‥そっかぁ。』

 

(これ、寝ぼけてんな。)

 

『…‥おやすみ、いい夢を。』

 

『うん…‥』

 

通信を切り、通信機を床に置く。

 

(…‥改めて思う。この環境は彼女達にとってどれほどの苦痛なのか…‥想像できないな。)

 

「やっぱり、もうそろそろ…‥」

 

その呟きは誰にも聞かれることなく、消えた。

 

 

 

 

虎杖悠仁と決心

 

もう少し

 

あともう少し

 

これを思い始めて、どれだけの時が過ぎただろうか?未だ決心はつかず、足踏み状態だ。

 

今の俺なら多分、奴を殺せる。不意打ちを決めることが前提だが、ハメさえしてしまえば恐らく…‥

 

だがもし、この策が上手くいかなかったら?

 

それにもし、奴を倒せたとして、その後俺達はどうなる?

 

…‥悔しいけど、今俺達が生きているのは奴のおかげだ。流石にサバイバルだけじゃ、この不毛な大地でこの人数分の食料は賄えない。

 

だけど、このまま奴を野放しにしておくほうがずっとまずい。いつかは、倒さないといけない。

 

…‥もう少しだけ強くなってから、それから勝負を仕掛けよう。今の状態じゃまだ確実に勝てるとは言い難い。

 

そうやって、彼の思考は巡っていく。

 

既にいくらかの時を浪費し、終わらせられるはずの時間を彼は終わらせない。

 

それは、自分が向き合いたくない事実から未だ目を背け続けているからか。それとも

 

後一歩を踏み出す、『転機』が訪れないからか。




彼の苦悩は、最もだと思っています。どんなに苦痛であろうと、それを受けねば死んでしまうような環境なんですから、いざ決着を付けられるとなっても迷うのは当然でしょう。一体彼は、どのような結論を出すのでしょうか?次回以降を楽しみに、お待ちください。

最後まで読んでいただきありがとうございます。お気に入り登録や、感想を書いていただけると作者が狂ったように喜びます。
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