虎杖悠仁に成り代わった男の青春物語   作:ブルアカ大好き

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ここからが、彼の物語の山場の一つです。そしてその中で一番大きな正念場でもあります。どうか、応援してあげてください。


二十七話 絶望、そして…‥

嫌な予感はしていた。

 

今日は朝からなんとも言えない不安感があったし、それを警戒していつも以上に敏感になっていた。

 

少しでも怪我をしそうなタイミングがあれば、迷わずそれを自分に向かわせた。

 

何度か『危ない』と思う瞬間もあったし、敏感になりすぎて受ける必要のない攻撃を受けたりもしたが、なんとか一日を誰も傷つかせずに終わらせた。

 

はず、だったのに

 

「み、ミサキ…‥駄目だ!し、死んじゃだめだ!」

 

「…‥…‥許し、て…‥」

 

「喋るな!傷口が開く!」

 

深夜。珍しい程に星は姿を見せず、雲が空を覆っていた。その暗闇の中、ミサキの体の腹部は

 

怪しげに赤く光っていた。

 

(どうすればいい!?この出血量じゃ止血なんて無理だ!この量をカバーできるぐらいの血液もないし血液型だって分からない!輸血も絶望的だ…‥なにか、なにか!)

 

脳をフルに回し、解決策を探る。迷う中、一つの手段に辿り着いた。

 

(赤血操術…‥自分以外の人間の血液も操れるのか?俺が覚えている限り、本編にそんな描写はなかった。…‥いや、あの時の言葉を思い出せ!『呪術は思いつきが大事』。とにかく、やるしかない!)

 

「ミサキ待ってろよ!今すぐ楽にしてやるから!」

 

自身の呪力を操作し、ミサキの体内へと侵入させようとする。だが、なにか見えない壁のようなものに拒絶されるような感覚を感じ、直感で『これ以上進めない』と思ってしまった。

 

(ざけんな!今はこれしか…‥ねぇんだよ!)

 

針の穴を通すように繊細に、極小の棒を折れずに持つように柔らかく、呪力をその壁の隙間に入れ込む。

 

(よし!繋がった!後は…‥止血の感覚を、自分から移すように…‥)

 

前提として、血液の流れというものは人によって変わってくる。

 

その者の健康状態、運動習慣、食習慣…‥挙げればきりがないが、様々な要因が絡んでくるのが血流というものだ。

 

虎杖ユウジの血流と、戒野ミサキの血流はまるで違う。それは当然だろう、他人なのだから。

 

『赤血操術を血縁者でもない、まるっきり別の構造の人間に使用する』という、いわば無謀なギャンブルをしているような状態なのだ。

 

それを100%成功させられる者がいるとすれば、かの『九相図長男』程度だろう。最も、彼もこんな真似事はしたことがないが。

 

そんな、奇跡より低い確率を

 

彼は、成功させんとしていた。

 

(少しずつ…‥少しずつでも、進んではいる。だけどこの速度じゃ、ミサキが持たない!)

 

(もっとだ!もっと集中しろ!)

 

背中からは大量の汗が吹き出し、瞬きをしないせいで目は一気に乾燥していく。そして口からは涎が落ちようとしていた。

 

極限の集中状態。その姿は『黒き閃光』を放った彼を彷彿とさせるが、その次元にはまだ到達しない、いわば前段階のようなもの。

 

あえて名付けるのなら

 

『疑似ゾーン』と言ったところか。

 

(ここだ!一気に止めきる!)

 

それまで流れていた血はピタッと止まり、ミサキの顔もいくらか安らかになっていた。

 

「はぁ…‥はぁ…‥やった!」

 

「ミサキ!しっかりしろ!」

 

未だ意識は戻らず、何かを懇願するような顔をするミサキ。彼女は戯言のように、こう呟いた。

 

「もう、許してください…‥マダム…‥」

 

(は?)

 

その言葉が持っている意味を理解することを、彼の脳は拒んだ。

 

(まさか…‥まさかこれをしたのは、ベアトリーチェ?…‥確かに、今のアリウスでミサキをこうまで出来る存在は限られる。その中で、奴ぐらいしかこんなことをやりそうなのは…‥いない。)

 

地面を、自身の有らん限りの力で叩く。

 

(くそ!俺が甘かった!こうなる前にケリを付けるべきだったのに…‥ごめん、ミサキ。)

 

「でも、もう大丈夫だ。」

 

「奴は、俺が殺すから。」

 

ミサキをお姫様抱っこし、部屋へと急ぐ。ここから奴の下へ向かうには一度寮棟を経由しないといけないため、丁度よかったといったところだろう。

 

彼女を抱え、駆けるその背には

 

『鬼』が、宿っていた。

 

 

 

 

 

 

「よし…‥俺の部屋だけど、じっとしててくれな。」

 

「…‥まっ、て。」

 

「!起きたか!体調は?呼吸が苦しいとか、ないか?」

 

「そんなことより、お願い。行かないで…‥」

 

「…‥ごめん。いくらミサキの頼みでも、それは聞けない。これは、いつかやらなくちゃいけない事だった。俺に勇気がないせいでここまで先送りになっちゃったけど、ようやく立ち向かう覚悟が出来た。」

 

「だから、手を離してくれ。今の君を、ちょっとでも傷付けるような真似はしたくない。」

 

「…‥ならせめて、死なないで。約束したでしょ?貴方が死んだら、私も後を追ってやるから。」

 

「…‥分かった。絶対、生きて戻ってくる。」

 

彼はそう言い残し、部屋を去った。

 

(…‥嘘つき。あの顔は…‥生きて帰って来る気がある人の表情じゃない。)

 

 

 

 

 

 

「あ、アズサ。丁度良かった。実はミサキが怪我しちゃってさ、俺の部屋にいるから、できれば様子を見ていて欲しいんだけど…‥お願い出来る?」

 

「それは分かった。でも、ユウジはどうするんだ?こういう時、ユウジは必ず側にいるじゃないか。」

 

「…‥ちょっと、やることがあるんだ。」

 

「…‥怪しい。ユウジはいつも、そんな風に言葉を濁したりしない。」

 

アズサはユウジの行く手を阻むように、体を一歩前に出した。

 

「…‥どいてくれ、急がなくちゃならない。」

 

「な、なぁ。様子が変だぞ?少し落ち着いて…‥」

 

「今は、そんな場合じゃないんだ!」

 

大声で叫んだ事により、その声は寮中に響き渡った。

 

(…‥は、始めてユウジが怒鳴っているのを聞いた…‥)

 

「な、ならせめて、事情だけでも説明してくれ。」

 

「…‥ごめん、怖がらせた。…‥それともう一つ、ごめん。」

 

「ッ!?」

 

まるで風が吹いたような速さで、彼はアズサの視界から消えた。

 

「絶対、ただ事じゃない。…‥皆に知らせないと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

アリウス大聖堂。その中に、一人の大人が鎮座していた。

 

(しかし…‥先ほどは少しやりすぎましたね。興が乗ったというのもありますが、まさかあそこまで強情とは…‥まぁ、あくまで目的は矯正です。殺さないようにしなくては。)

 

「ベアトリーチェ!」

 

彼女、『マダム』もとい『ベアトリーチェ』と呼ばれる大人がそんな考え事をしていると、一人の少年が突入してきた。

 

彼の名は『虎杖ユウジ』。彼女が支配するアリウス自治区に芽吹いた命の一つであり、その支配に抗う数少ない内に一人である。

 

そして今、自身の何よりも大切な家族を、彼女に傷付けられた後でもある。

 

彼は今激昂していて、とても冷静とは言えない状態だ。

 

「おや…‥どうしたのです?今は待機時間のはずですが。」

 

「ミサキを、傷付けたな。」

 

「話を聞きなさい。待機時間だと、言っていますよね?速やかに戻りなさい。でないと」

 

「でないと、どうなるって?」

 

「…‥どうやら、貴方にはまだ矯正が足りていなかったようですね。では、適切な『指導』を「黙れ!」」

 

「黙れ!もう沢山だ!誰かが傷付くのを見るのも、自分が傷付くのも…‥ミサキがああなって、ようやく分かった。自分がどれだけ甘えていたのか…‥自分が!どれだけ弱かったのか!」

 

「けどもう、迷いはない。ベアトリーチェ、俺はお前を、殺しに来た。」

 

彼はこれまでの人生でしたことがないほどに鬼気迫る表情をして、そう言った。

 

「よくもまぁペラペラと…‥子供の分際で、高貴なる私を殺しに来た?冗談も大概にしなさい。私に一度負けた事を覚えていないのですか?」

 

それに対し彼女は小馬鹿にするような、幼子の我が儘を一蹴するようにそう言った。

 

「あぁ、よく覚えてるさ。あの屈辱を味わって約4年間。昔とはまるで違うって事を、お前は知る事になる!」

 

彼のその言葉を聞いた彼女はにやりと表情を歪め、罪を糾弾する弁護士のように口を開き、言葉を紡ぎ始めた。

 

「先ほどから思っていましたが…‥何故自分が正義などという顔をしているのです?『家族が傷つけられたから』?…‥貴方の、くだらない私怨でしかないでしょうに。」

 

「…‥俺は自分が正しいなんて思ってない。お前が自分の目的のために俺達を傷つけたのと、俺が自分の目的のためにお前を殺そうとするのは、どちらも自身の目的を果たしたいだけなんだから。」

 

「そうです!家族を守るなどと聞こえの良いことを言っていても、結局貴方は自身の欲望を満たしているだけ。自身の言っていることを正当化しているだけの、矮小な子供にすぎないのです!」

 

「…‥あぁ、そうかもな。」

 

吐き捨てるように、彼はそう言った。

 

「そんな子供は私のような高貴な大人に従い、搾取され、虐げられ、役に立つべきなのです。お前たち子供など、大人の目的を果たすための道具でしかな「だけど!」」

 

「だけどそれでも!たとえ、お前と同じ存在に成り下がったとしても!俺は人を、家族を助ける。それが、今の俺の役割なんだ。…‥それこそが、俺が今ここに存在している理由なんだ!」

 

彼女の言葉の全てを否定するように、今まで積み重ねてきたことに対しての結論を出すように、彼はベアトリーチェに対しそう宣言した。

 

「…‥あぁ、なんと身勝手な子供なんでしょう。正しくも何ともないというのに…‥そんな子供は、私のような高貴な大人が矯正しなければ!」

 

「上等だ!」

 

「しかし…‥このまま貴方を殺しても利益がない。反乱分子の殆どが消えるとはいえ、全てが無くなるわけではない。」

 

「そこで思いつきました。貴方を、『見せしめ』にします。」

 

「…‥は?」

 

「つい先ほど、寮に信号を送りました。色は『赤』、意味は『敵性勢力の殲滅』。実際に指令したのは初めてですが、もうそろそろここに全員が集結するでしょう。…‥これで彼女らは学ぶでしょうね、『反乱すれば、自身もこうなる』と。」

 

「…‥どこまで腐ってやがるんだ!くっ!」

 

(流石に全員の相手をするのは厳しい!それにもし、向こうに皆がいたら…‥ベアトリーチェを殺すのは至難の技だ!)

 

(考えろ考えろ考えろ!さっきだって思いつけた!それなら今度も…‥画期的な打開策が思いつくはずだ!)

 

しかし、いくら頭を回しても答えでない。それも当然だろう。なにせ、人数が違い過ぎる。

 

10や20ならともかく、その数は100を越える。『ベアトリーチェを殺す』という目標を叶えるなら、『邪魔』以上の言葉はないだろう。

 

『詰み』かと、『諦め』という考えが一瞬脳をよぎった瞬間

 

「…‥通信機が、鳴っている?」

 

一組の、相手など一人以外ありえない通信が、彼の下へ届いた。

 

『聞こえるか?』

 

『サオリか!?どうして…‥』

 

「なんですか?それは…‥私は、そんな物の使用を許可した覚えはないですよ。」

 

『マダム…‥いや、ベアトリーチェもそこにいるのだな。』

 

『あぁ…‥』

 

『アズサとミサキから、粗方の事情は聞いた。お前が怒鳴った事、ミサキを救いだし、その後どこかに行ってしまった事…‥大方の予想はつく。終わらせに、行ったんだろう?』

 

『…‥流石の、一言しかない。』

 

『そして、赤の信号が出たことも把握している。…‥端的に言う。背中は任せろ、ユウジ。』

 

『な!?ま、まさか、いるのか?外に!』

 

『い、一応、私達もいますよ~。』

 

『ごめん、皆。それにユウジも、私のせいで…‥』

 

『気にしなくていいよ、ミサキ。悪いのは全部、ベアトリーチェなんだから。』

 

『アツコの言う通りだ。ミサキに悪いところなんてない。そんなことより、今は自分の体の心配をしてくれ。傷が、まだ完全に塞がったわけじゃないだろう?』

 

『み、皆まで…‥』

 

『お前がベアトリーチェと決着を付けるまで、私達が誰一人中へは入れさせない。安心して戦いに集中してくれ。』

 

『…‥ありがとう!』

 

「錠前サオリぃ!これは立派な反逆行為ですよ!スクワッド共々、大罪だと自覚し『私は』」

 

『私達は…‥もう、お前には従わない!今までの報いを受けろ!ベアトリーチェ!』

 

「な…‥」

 

『…‥ユウジ、頼んだぞ!』

 

『任せろ!』

 

その言葉を最後に、通信は切れた。

 

「…‥お前の味方は、誰も来ないみたいだな?」

 

「どいつもこいつも…‥私を苛立たせるのが実に得意ですねぇ!いいでしょう!スクワッドは全員殺処分です!」

 

「させねぇよ!」

 

約4年越しの再戦。大人の支配からの脱却、自身らの『自由』を賭けた戦い。

 

その火蓋は今、切って落とされた。




…‥結論を迷っている時間はなかったですね。緊急事態が起きてようやく、彼は立ち向かう勇気…‥いや、『自分が死ぬ覚悟』が持てた。今の彼はたとえ刺し違えたとしても、ベアトリーチェを殺しにかかるでしょう。

もし『そうなった』時の、その後の事など考えもせず。
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