ようやく、ようやくです。この回を思いついて約半年、やっと書くことが出来ました。筆もノリに乗ってしまい多少荒が目立つところもありますが、どうか見ていってください。
双方が相手の初手を伺う中、先に彼が口を開いた。
「俺の術式。赤血操術は、呪力を用いることで体内体外問わず、血液を操ることができる。血液の流れそのものを速めたり、水のように血液を変化させることもできる。」
それは"術式の開示"。自身の術式の内容を敢えて相手に晒すことで術式の精度を高める、『縛り』の一種である。
「あの切断の術意外にも何か隠していると思っていましたが、まさかそんな術を隠していたとは…‥しかしペラペラと自身の手の内を明かすとは、間抜けにもほどがありませんか?」
「いいんだよ。…‥そして、『極の番』と呼ばれる技は血液の縄のような物を背に装着し、そこから様々な技を繰り出すことが出来る。」
「…‥」
(奴は脳無しではない。きっと、これにも何かしらの仕掛けがある。)
赤血操術の大まかな概要を晒した事により、彼の術式の精度は高まった。それにより可能となった、赤血操術の秘技の一つ。
「…‥ふぅー」
「"赤化"!"臨界"!"魂の循環"!"赤鱗躍動"!」
虎杖ユウジの体には血管が浮き出し、血液は高速で体内を駆け回る。身体能力は飛躍的に上昇し、ベアトリーチェとも渡り合える程の…‥いや
彼女を追い越す程の力を、発揮する。
それに加え彼が行ったのは、『呪詞の詠唱』ならびに『使用術式の選別』。これは今自身が使っている赤血操術以外の術式を敢えて封じることで、より赤血操術の精度を高めるという縛りを結んでいる。
なぜ、唯一彼女に届いた御廚子を封じたか、その理由は
(正直に言えば、火力のみを追求するなら御廚子の方がいい。だけど、素の身体能力のみでベアトリーチェと戦えるか不安だったこと、そして…‥どちらの術式もまだ未熟だ。なら、いっそどっちかに振り切った方が良い。)
50%ずつしか扱えぬのなら、いっそのこと赤血操術を100%扱えた方が良いと判断したからである。
「…‥それが、貴方の奥の手ですか?」
「あぁ。覚悟しろ、お前はもう」
「俺に、追い付けない。」
「ッ!?」
赤鱗躍動、そして大幅に向上した呪力操作、この二つにより、今の彼のスピードは
ベアトリーチェを、置き去りにしていた。
彼女のガードは間に合わず、顔面に全開の一撃をくらう。
(まずは一発!だけど、こんぐらいで奴が倒れるわけがない…‥すぐに追撃を!)
「生意気なぁ!」
「っ!?」
彼はすぐに追い討ちをかけようとするが、彼女の『変化』により、その手を止めてしまう。
体と腕は枝のように細くなり、顔は蕾が花開くようだ。最も、その花には独特な目があるが。
(…‥感じる圧が、さっきと段違いだ!あの形態はまだ本気じゃなかったって言うのかよ!)
「…‥覚悟なさい。私をこの姿にした者はすべからず…‥もう、この世にはいないのですから。」
突如として、彼女を中心とした赤い衝撃波が全方位に巻き起こる。それはあまりに急であり、彼が避ける程の時間さえ与えなかった。
「ぐ、ぐぐ…‥がぁ!」
咄嗟にガードし、なんとかその攻撃を堪えきる。
「ほう…‥今のでその程度ですか。本当に、あの時とは違うようですね。」
「当たり……前だ!」
(はぁ…‥はぁ…‥もう、今のはマトモにくらえない!気を引き締めろ!ここからは正真正銘…‥)
(殺し合いだ!)
同時刻、アリウス大聖堂前。
「スクワッド?そこで一体、何をしているのですか?」
「…‥来たか。」
「錠前教官。マダムからの指示は分かっておりますよね?」
「あぁ、理解している。」
「ならばなぜ、我々の行く手を阻むように立っているのです?他の面々も…‥」
「お前達を、ここから先に行かせないためだ。」
「?…‥それは、どういった目的で?」
「分かりやすく言ってやろう。」
アリウススクワッド各々が銃を構え、臨戦態勢に突入する。
「今、中ではユウジとベアトリーチェが戦っている。私達はその邪魔をするお前達をここに留めるために、ここに立っている。」
「…‥そういうこと。貴女達を、ここから先へは行かせない。」
「!?そ、それは…‥反逆行為では?」
「承知の上だ、全員な。」
「なぜです!?なぜ、そのような「解放されるためだ」」
「私達が、望む暮らしを手に入れるためだ。」
「ッ…‥そのためなら、我々はどうなってもいいと?」
「そんなことはない。ただ…‥このまま虐げられ続けるのに耐えかねた、それだけだ。…‥お前達も、そうじゃないのか?」
「「「…‥」」」
「やりたくもない訓練をさせられ、日々身体を磨り減らし、終いには奴に拷問紛いの指導までさせられる。こんな暮らしを強いられる中で、奴に従う理由が一体どこに「それでも、寝床には困らない。」!」
「明日、何を食べるか心配しなくていい。」
「誰かに、寝ているところを襲われることもない。」
それは、彼女達が忘れていたもの。
彼が文字通り体を張り実現させていた『安定した暮らし』。外敵に追われることのない、このアリウスでは『有り得ない』と言わざる負えない夢想のような日々。
彼女達は勿論、その前に苦しみを味わっている。だが、人は辛い過去をいつまでも覚えていようとはしない。
ゆえに、頭から抜けていたのだ。
『彼女達にとってはこの暮らしでさえ、幸福な部類に入ってしまう』という、肯定し難い現実が。
「思い出したよ…‥あの時、サオリに出会う前の生活のこと。」
「…‥あぁ、私もユウジと出会う前を思い出した。」
(どうやら…‥説得はダメそうだな。)
「それに反逆なんてしたって、どうせまた怖い事をされるんだ。だったら、ずっと従ってた方が良い。」
「あなた達だって、この世は虚しいものだって教わったでしょ?大人が言ってるんだから、それが正しいんだよ。」
サオリ達はこの時点で、『話し合いで止めるのは無理だ』と結論付けた。今の彼女達に目の前にいる『兵士』を止める術はなく、武力で解決する他に選択肢は残されていないと考えたからである。
しかし突如として、まだそれを諦めない者が乱入する。
「それは違う!この世は…‥この世界は決して、虚しいだけじゃない!」
「!お前は…‥カナデか。」
「久しぶりですね、アズサさん。そして…‥先日ぶりですね、サオリさん。」
彼女の名は秋月カナデ。虎杖ユウジが手を差し伸べた一人であり、彼に理想を求める者。
「…‥この場に出て来ることの意味を理解しているのか?ただじゃすまないぞ?」
「いいんです。それで、あの人の力になれるのなら。」
彼女は向き直り、この場にいる誰よりも覚悟を持った眼光を放つ。そして、その場にいる全員に届くように声を上げる。
「確かに、辛い事はたくさんある!苦しい事も大変な事も、自分じゃ抱えきれなくなるぐらいにいっぱい!」
脳裏に浮かぶは、過去の出来事。
彼女もまた孤児であり、ここまでの人生は決して楽なものではなかった。
「でもそれを、『虚しい』って決めつけるのは違う!」
けれどそれでも、彼女は唱える。
決してこの世は、虚しいだけではないと。
「私は…‥ある人に助けられるまで、この世界に希望なんてないと思ってた。このままずっとこんな生活が続いていって、いつか自分がなくなるんだって、そう思ってた。」
「でも、助けられた。それは私の運が良かったのも理解してる。けど、その人を見て私は気づいた。『誰かのことを思える人、誰かと一緒に、手を取り合える人。』そんな人間が一人でもいるのなら…‥もし自分が、そんな人間になれるのなら、こんな世界も虚しくないって!」
「助け合おうよ!皆で!大人に支配される生活なんて続いたら、思考まで偏ってしまう!」
「一人じゃ、誰も何も出来ない。それを私達は充分に理解してるはず。なら支えあって、助け合って作っていこうよ!」
「辛くても苦しくても大変でも、決して虚しいなんて言えない、そんな日々を!」
彼女の叫びは確かに、彼女達の胸に響いた。しかし彼女でさえ、彼女達から見れば
『偶々運が良かっただけ、綺麗事を言うな。』と思えてしまう存在であった。
「…‥無理だよ。そもそも、マダムがいる限りそんな事…‥」
「結局、辛くて苦しいんでしょ?なら私は、今のままの方が良い。」
「…‥速く、退いて下さい。早急に向かわねば、指導されるのは私達になってしまう。」
「皆…‥」
彼女は歯を噛み締め、顔を下に向ける。『どうして分かってくれないんだ』と、やりきれぬ気持ちを抑えながら。
しかしそんな時、右肩に手が置かれた。
「カナデ、お前は良くやった。少なくても、私達の胸には響いたぞ。」
「…‥戦わないと、分からない事もある。ぶつからねば、理解出来ないことも。」
「で、できれば、平和に終わって欲しかったんですが…‥」
「無理でしょ。…‥私はあの人達の気持ち、全く分からないなんて言えないから。」
「うん。もしユウジがいなかったら、私は向こうにいたと思うし。」
「皆さん…‥」
「カナデ、そしてアリウススクワッド、覚悟を決めろ。」
「これは、『本当の戦闘』だ。」
そう言った彼女の手は、微かに震えていた。
暗闇の中を彷徨う者達と、その中で輝く星を見つけた者、相反する両者による激突。
双方の考え方の違い。それが導く結末は
まだ、誰も知るよしはない。
「はぁっ!」
「チッ!お返しです!」
「ぐっ!」
今外で行われている戦闘とは、また一つ違う次元の戦い。そのスピードにより両者が移動した後には風が吹き荒れ、建物はありえない速度で傷付いていく。
(…‥大口を叩く程ではある。ここまで厄介とは…‥)
彼女は戦闘をこなしながら、思考を別の方に向ける。
(速度ではほぼ互角、気を抜けば追い付けなくなる。そして…‥)
眼前で向かってくる拳に対し、脳内をフルに回転させる。
(奴には切断の術がある。掌に触れてしまえば大ダメージは必死、必ず避ける必要がある。‥くそ!この高貴なる私が回避などと…‥まぁそれはいいでしょう。問題は)
(これがただの攻撃なのか切断の術なのか、見分けがつかないことです。)
彼女からすれば、自身に唯一届いた御廚子を警戒するのは当たり前。彼がそれを狙ってくるというのは、想像に固くないだろう。
しかし、彼はそれを逆手にとっている。
先述した通り、今現在彼は御廚子が使用出来ない。つまりは無駄な思考に脳内の8割を費やしていることになり、それは彼を動きやすくしている。
彼女が警戒している御廚子は鼻からこず、二択だと思っている攻撃は一択しかない。
彼の、戦略勝ちといったところだろう。
(この案は本当に上手く行ってる。直前に少し手を開く動作を挟むだけで、驚く程簡単に引っ掛かってくれる。後はタイミングを見計らって…‥)
(逕庭拳を打ち込む!)
彼はフェイントを挟んでいるとはいえ、ほぼノーガードでベアトリーチェと戦っている。
衝撃波やビームなどの致命的な攻撃は避けているが、幼き頃痛い目をみた腕の攻撃や通常の格闘などは、全て体で受けている。
一見すればただのバカにしか見えないが、これにはある理由がある。それは
『負の感情を高めるため』
呪力の源は『痛い』や『恨み』などの負の感情であり、それが強ければ強いほど呪力は燃え上がる。
…‥しかし、これに戦略的な意味は殆どなく、9割9部は私怨である。
しかし幸か不幸か、その戦い方は段々と
ベアトリーチェに『恐怖』を覚えさせていた。
まるで素人の喧嘩のように彼女の攻撃が自身に当たっては拳を打ち込み、自身が攻撃を仕掛ける際は必ずフェイントを入れる。
ここまで来れば御廚子を頭から除外してもいいと考えるかもしれないが、彼女からすればそんな事は出来ない。
『気を抜いた瞬間に打ち込まれる可能性』を、考慮し続けなければならないからだ。
(くそ!くそ!一方的にやられている!奴にダメージは入っているだろうが、私ほどではない!)
(何か、きっかけがいる。…‥よし、なら)
虎杖ユウジはベアトリーチェと距離を取り、手を体の前に構える。
(なんだ?また何かやろうとしているのか?…‥止めなければ!)
(圧縮、圧縮、圧縮…‥研ぎ澄ませ、集中しろ。)
「はぁ!」
ベアトリーチェから、赤黒いビームが放たれる。それは真っ直ぐ彼の元へ迫り、そのままではまともにくらってしまうだろう。
「百斂…‥」
それは、赤血操術の奥義とも呼ばれる技にして、他のどの技よりも貫通力を有する数々の赤血操術師が愛用した、赤血操術の代名詞とも言える技。
「穿血!」
同色のビーム同士がぶつかり合い、それは拮抗する。互いに衝撃が伝わり、両者に大きな負荷がかかる。
(なんと…‥私の技のような術まで扱えるとは!しかも、押され始めている!)
彼女のビームは言ってしまえばただの質量攻撃であり、一点にかかる負荷自体は低い。それに対し彼の穿血は一点集中。貫通力という面において
穿血は、最強である。
辛うじて耐えていた彼女のビームの中心が貫かれ、彼女の顔面に命中する。
それは確かにダメージを与え、明確な隙を作り出した。
(…‥ここだ!)
(くっ…‥中々のダメージだ。そしてまた…‥今度こそ来るか?いや、また普通の…‥)
ベアトリーチェがその攻撃に怯んでいる間に、本命を打ち込む。
偶然の産物にして、本物の虎杖悠仁の悪癖により生まれた技。その技はかの『呪いの王』にまで効果を発揮し、『厄介』という言葉が何よりも似合う技。
「逕庭拳!」
一段目、ここまでは普通の打撃と変わらない。しかし逕庭拳には
(…‥!二度目の衝撃!?)
二段目がある。
初見では100%対応できぬであろう初見殺し。それは完璧にハマり、ベアトリーチェの体制は完全に崩れた。
(よし!ここで確かなダメージを…‥!?これは…‥この感覚は、もしかして…‥)
それは、瞬きをすれば消えてしまう流れ星のように儚いもの。けれどもその一瞬だけは、この世界のなによりも輝く
黒い閃光だった
「黒閃!」
「がぁ゛!?」
それは100%の威力で彼女に命中し、これまでとは比べ物にならない程のダメージを与えた。
(なんだこれは!?まだ術を隠し持っていた?黒い…‥稲妻!?)
(これが黒閃!まるで、自分が別人になったようだ…‥この機を逃すな!一気に…‥決める!)
「はあ゛っ!」
「ぐ…‥そう、上手くいくと思うな!」
今までで最大の威力の衝撃波。それは彼の皮膚を削り、全身から血を吹き出すまでのダメージを与えた。
しかしそれでも、それさえも
彼を止めるには、足りなかった。
赤血操術を流れる水のように滑らかに扱い、即止血。まるでダメージなど無かったような表情で、彼女の顔と思われる位置へと跳ぶ。
黒閃を経て、彼の赤血操術の精度は更に研ぎ澄まされている。それは赤鱗躍動の効力を高め、結果その身体能力は
一級術師をも越え、『特級』と呼ばれる存在に差し掛かっていた。
(く!なんとかもう一度)
「黒閃!」
「ぐぁ゛」
左からの一撃。彼女の思考は中断され、その全てが痛みへと集中する。
(まだ…‥だ!)
今度はビームを放とうとするが、彼は、『黒い火花に愛された者』は、それを許さない。
「黒閃!」
「あ゛ぁ゛!」
右からの一撃。計三発の黒閃を受けた彼女は、確かに『生命に危機が迫っている』ことを確信した。
(そ、そし…‥阻止せねば、本当に死んでしまう!)
必死に、ただがむしゃらに今行使出来る攻撃の全てを放つ。
「うぅ゛…‥あぁ゛!」
それでも止まらない。既に命を落とす覚悟がある者は、自身の生命の危機など気にしない。
「黒閃!」
「が…‥あぁ゛…‥」
左からの一撃。最早意識は定かではなく、彼女の脳内には死神の足音が確かに響いていた。
「黒…‥閃!」
右からの、致命的な一撃。死神が自身の首に鎌を掛けているのが確かに分かり、抵抗をする気力は失われた。
「これで…‥最後だぁ!」
(…‥…‥ま…‥…‥だ、まだだ。まだわたしは、まけて…‥いない!)
(!?な、なんだ?頭が割れるように痛い!)
明確な『死』が眼前に迫る中、圧縮された刹那の刻にて彼女は、とてつもない『違和感』を味わっていた。
まるで脳ミソが頭蓋骨を割って出て来るような、そんな想像を絶する痛みを感じ、意識は引き戻される。
それに伴い視界が復活した時、彼女は『見た』
(…‥なんだ?奴の手に集中している青黒い炎のようなものは…‥腕には、ない?)
本来、『無為転変』もなしに脳の構造が変化することはあり得ない。しかし、ベアトリーチェが元来所持していた"力"と虎杖ユウジが使用した呪力の残穢が不自然に交わり合った結果、徐々にそれを受け入れる体制が整われつつあった。
それは例えるのなら、ひびが入っている鉄の壁。いくら亀裂が走っているとはいえ、鉄の壁は素手では壊せない。しかし、なにか大きなきっかけがあれば話は変わる。
生と死の瀬戸際。黒い閃光が弾ける中
扉は、開かれた。
彼女は殆ど無意識的に、今込められる全霊の力を右腕に入れ、彼の左腕に降り下ろす。
それは
彼の左腕を、いとも容易く切断した。