虎杖悠仁に成り代わった男の青春物語   作:ブルアカ大好き

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二十九話 それでも、前へ

「ああああああああああああああ!」

 

絶叫。腕を失うという痛みは今まで受けて来た全ての攻撃のダメージとは比べ物にならないほどに大きく、地面へと倒れる。

 

「は、はは…‥ははははは!大人に逆らうからこういうことになるのです!恨むのなら、己の浅はかさを恨むのですね!」

 

「ぐぅ…‥ぐぁ…‥あぁ゛!」

 

「愉快!実に愉快です!この醜態を肴にワインでも飲みたいところですが…‥今は、貴方に止めを刺す事を優先しましょうか!」

 

彼女から死神は離れ、今度は虎杖ユウジの首元へと鎌を掛けていた。

 

 

 

 

 

同時刻、アリウス大聖堂前。激しい戦闘が行われる中

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

彼の絶叫が響き渡った。

 

「!今のは…‥」

 

「!…‥く!」

 

「ユウジさん?」

 

「…‥置いて行かないって、約束したよね?」

 

「…‥ユウジ。」

 

「!?な、なんて声…‥」

 

その声に全員が反応するが、カナデはそれから復帰するのが一歩遅かった。いち速く冷静さを取り戻した兵士が、カナデに対し凶弾を放つ。

 

「カナデ!余所見をするな!」

 

それに気づいたサオリがカナデを庇い、全ての弾丸をその身に受ける。

 

「え?」

 

彼女は受けた瞬間に煙幕を炊き、一時的に全員の姿は隠された。

 

「く…‥怪我は、ないか?」

 

「さ、サオリさん!すみません!私のせいで…‥」

 

「いいんだ、気にするな。…‥だが」

 

(はは。流石に、この人数を一気に相手するのは無理があったな。)

 

「…‥アズサ、ユウジの元へ行け。」

 

「!?何を言って」

 

「もし仮にここで私達が死んだとしても、ベアトリーチェさえ倒せれば目的は達成される。…‥手助けに、行ってくれ。」

 

「リーダー…‥わ、私まだ死にたくないんですけど…‥」

 

「…‥私は…‥」

 

「…‥覚悟は、とうに出来ています。」

 

(私のせいだ。私が油断したせいで、サオリさんにこの選択をさせてしまった。…‥私は、弱い!)

 

「サッちゃん。それ、本気で言ってるの?ユウジがそんなこと、喜ぶと思う?」

 

「喜ばんだろうし、こんなことを言ったって知られたら説教だろうな。『自分を大切にしろ』…‥何度ユウジに言ったか分からないセリフを、今度は自分が受けることになるだろう。」

 

「なら…‥」

 

「だがもう、これしかない。…‥巻き混んで、悪かった。」

 

「ち、違う!巻き込んだのは私のほうだ!」

 

「だが、私はお前のリーダーだ。リーダーは、トップは、責任を負わなくては。」

 

彼女達を、絶望が支配する。もうすぐ煙も晴れ、また戦闘が始まるだろう。

 

ここから大聖堂までは少し距離があるため、道中も考慮するなら今すぐに出発しなければならない。

 

「速く行け!もう煙が晴れる!」

 

「く…‥」

 

彼女は迷った。ユウジが気がかりなのはその通りだが、ここを離れるということが意味することを悟っていたから。

 

しかし

 

そこで、奇跡は起きる。

 

「…‥アズサさん、行ってください。」

 

「カナデ…‥」

 

「私はまだ、何も出来てない。貴女達の役に立つことも、あの人にちゃんと『ありがとう』と伝えることも。…‥もしも今、あの人が窮地に陥っているのなら、助けが必要なはずです。どんなに強くても、一人では限界がありますから。」

 

「だ、だが…‥」

 

「戦力なら、心配しないでください。…‥私が、補います。」

 

それは、この年で起きるには早すぎる事象。早熟というにも速すぎる、あまりに速い『成長』。

 

ヘイローは輝きを増し、纏う神秘は増大する。

 

名を

 

『神秘解放』

 

「今の私なら…‥」

 

「サオリさんにだって勝てます。」

 

「…‥信じて、いいんだな?」

 

「勿論。」

 

「…‥必ず、生きてくれ!」

 

アズサは全力で、駆けて行った。

 

「カナデ。そ、それは?」

 

「分かりません。ただ一つ言えるのは…‥これでやっと、役に立てる。」

 

「な、なんだか神様みたいですねぇ…‥」

 

「神々しいというか…‥なんだか、ちょっと光ってない?」

 

「…‥ふふっ、面白いね。」

 

「…‥煙幕が晴れる。皆さん、戦闘準備を!」

 

それは『掴み取った奇跡』。彼女の覚悟が産み出した、全てを変える力。

 

諦めない者に、勝利の女神は微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、いいんじゃないか?充分頑張ったさ、ここまでやったんだから。

 

思えば、ただの一般人だった俺が『虎杖悠仁』になんてなれるわけがなかったんだ。普通に生きてきただけの俺が、あんなかっこいい男になれる理由がない。

 

修行、頑張ったなぁ。初めて御廚子が出た時は本当に驚いた。その後に赤血操術が使えるようになったのだって、心臓が止まりそうだった。

 

ここに来てからだって、死ぬ気でやった。途中成果が出なくて諦めかけたけど、なんとか持ち直したよなぁ…‥

 

皆、大丈夫かなぁ?今も戦ってるんだったら、速く逃げろって伝えたいなぁ…‥

 

…‥あれ?そういえば俺

 

なんのために、頑張ってたんだっけ?

 

家族を、守るため?

 

…‥そもそもなんで、家族なんて出来たんだっけ?

 

その時脳裏によぎったのは、彼女達との出会いの記憶。

 

『よろしく!ユウジ!』

 

初めて自分が助けた、しっかりもので姉のような女の子。

 

『これからよろしく、二人とも。』

 

放っては置けなかった、目を離せば消えてしまいそうな儚さを醸し出す女の子。

 

『いいんですかね?私が皆さんと一緒にいても。』

 

食事を囲み迎え入れた、ちょっと欲張りなところがあるけれど優しい女の子。

 

『あんまりきれいじゃないなとはおもったけど、ここはくるしくない!』

 

自分の意思でこの世界に連れ出すことを決めた、好奇心旺盛で天真爛漫な女の子。

 

『私も一緒で、いいのか?』

 

自身の犯した罪を共に背負ってみせると言い放った、純真無垢な女の子。

 

そうだ…‥全ては俺から始まった。最初の一歩目は、俺が歩み出したんだ。

 

あぁ…‥ようやく分かった。俺は

 

皆のことが好きなんだ。愛してるんだ。

 

恋愛とか友愛とか、そういう枠組みも全部飛び越えて、ただただ純粋に愛してるんだ。

 

…‥なら、ここで折れるわけにはいかないよな。

 

皆の覚悟を無駄にしないために。皆が体を張って作ってくれたこのチャンスを逃さないために。

 

俺は、戦わないと。

 

ブレるな。最初からなにも、目的は変わってない。

 

傷付き、恐怖に打ちのめされようとも

 

たとえ覚悟が揺らぎ、楽な道に走ろうとしたとしても

 

愛するものを救うために、立ち上がってみせろ!

 

そしてまだ、俺が

 

虎杖悠仁で在るために!

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

「片腕を失って、尚も立つというのですか!?」

 

「なぁ、ベアトリーチェ。俺、さっき言ったよなぁ。『赤血操術は呪力さえ込められていれば、体外の血液も操れる』って!」

 

(…‥…‥!?まさか!)

 

今彼女の体には先ほど彼の左腕を切断したことにより、大量の血液が付着していた。

 

それは120%の赤鱗躍動を使用していた血液であり、彼の呪力が多分に含まれている。

 

黒閃を経ていなければ出来なかった数多の血液操作。それを彼は満身創痍の状態で

 

実現させた

 

「炸裂しろ!」

 

血の一滴、一粒一粒が小規模の手榴弾並みの威力で爆発し、ベアトリーチェは多大なるダメージを負う。

 

(い、今の体力でこのダメージは…‥まずい!)

 

(ここだ、ここしかない!ここを逃せばもう、チャンスは訪れない!)

 

残った右腕の拳に全ての呪力を集めながら、駆け出す。体力を消費し過ぎており、最早基礎的な呪力操作すら覚束ない。

 

(正真正銘全身全霊!俺の全部を、この拳に込める!)

 

足に力を入れ、跳ぶ。

 

「穿て!」

 

それはまるで、一瞬の輝きを何光年にも渡って私達に伝える星々のように力強く、そして

 

「黒閃!」

 

刹那のみ、全てを越える輝きを放つものだった。

 

ベアトリーチェは後方に吹っ飛び、虎杖ユウジもその場に倒れ込む。

 

(まだ、奴は死んでない。…‥く!)

 

力など一滴も残っていない体を気力のみで立ち上がらせ、止めを刺すために歩く。

 

その姿は彼女にとって、実体化した死神のように見えた。

 

「や、やめろ。」

 

「…‥」

 

彼が一歩近づくたびに、彼女には自身のタイムリミットが刻一刻と近づいているのが分かった。

 

「く、くるな!」

 

「…‥」

 

最早完全に怯え切り、『巡礼者の幻想』ベアトリーチェの見る影もない。まるで

 

親に叱られるのを怖がる子供のようだ。

 

「あ、あぁ…‥」

 

「…‥これで、終わりだ。」

 

最後の一撃。威力はたかが知れているが、今の彼女を屠るには充分。

 

だが、その拳は

 

彼女に届くことはなかった。

 

「はっ!?」

 

突如として背後から何かを撃つような音がし、放たれたそれが彼に命中する。

 

(な、なんだ?意識が朦朧と…‥)

 

「やれやれ。もう少し、遅く訪れる予定だったのですがねぇ。」

 

倒れた彼が顔を上げるとそこには、黒いモヤのような顔を持つ黒いスーツを着た大人がいた。

 

「お、お前は…‥」

 

「おや?ゾウも1時間は眠る程の麻酔針を撃ったのですが…‥まだ意識があるとは。」

 

「…‥いいから、しつもんに、こたえろ。おまえはいったい…‥どこのだれなんだ!」

 

麻酔の影響で呂律が回らなくなったのだろう。その発言はなんとか言語として認識できるレベルであり、しっかりとした発語ではなかった。

 

「ふむ…‥まぁ今は、『外の世界からやって来た科学者』とでも覚えておいてください。生憎、こちら側の名前はないのです。」

 

「ベアトリーチェ、生きていますか?」

 

「…‥なぜ、助けたのです?」

 

「まだ貴女に死なれては困るからです。勧誘をかけている段階で死なれては、こちらも予定を組み直す必要が出てきてしまいますからねぇ。クックックッ…‥」 

 

「…‥屈辱です。」

 

「死んではもともこもない。受け入れなさい、貴女も大人でしょう?」

 

「…‥」

 

(今の俺が出来る、最大の技…‥精度は欠くが、やるしかない!)

 

(百斂…‥)

 

「穿血!」

 

それは謎の大人の真横を通過し、ベアトリーチェへと迫る。しかしもう、彼に穿血をコントロールする力は残されていなかった。

 

「!…‥驚きました、ビームとは。」

 

「く!…‥外した!」

 

「最後の最後まで…‥忌々しい。」

 

(あぁ、奴が逃げる!動け、動けよ!)

 

ベアトリーチェは既に元の体へと戻っており、ボロボロのそれを引きずりながら、そこを後にした。

 

(く…‥くっそぉ!逃した!)

 

「あ、あぁ?」

 

体を立たせ、歩こうとするがバランスが取れず、再び倒れる。

 

「ようやく効いてきたようですね。…‥また、会いましょう。」

 

その言葉を最後に、彼の意識は落ちた。

 

 

 

永きに渡る因縁の相手との戦い、その第二戦。勝者

 

『絶望に打ち勝った者』虎杖ユウジ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…‥ジ!ユウジ!起きろ!頼む、起きてくれ!」

 

「…‥あずさ、か?」

 

「ユウジ!良かった…‥生きていた!」

 

「まだ皆は…‥戦っているのか?」

 

「…‥うん。」

 

「止めなくちゃ…‥もう、戦う必要なんてないんだ。」

 

間接の節々、全身の筋肉が針に刺されたように痛むのを堪えながら、立ち上がる。

 

「今は動かない…‥…‥ぇ?」

 

倒れていた体制が左側を下にしていたため、アズサは気づいていなかった。

 

彼の左腕が、正確には肘から下が失くなっていることに。

 

「く…‥」

 

(片腕がないせいで、バランスが取り辛い…‥)

 

「ゆ、ユウジ?う、うで、腕はどうしたんだ?」

 

「…‥失くなった。」

 

「な、失くなったって…‥大丈夫なのか!?ただでさえユウジは私達と比べて脆いんだ!そんな大怪我を負ったら、し、死んで…‥」

 

「俺は、腕が失くなったくらいじゃ死なないよ。…‥ごめん、悪いんだけど、肩を貸してくれないか?上手く、歩けないんだ。」

 

「も、勿論だ!というか動くな!私が抱える!」

 

「…‥悪い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…‥はぁ…‥」

 

(いつ、終わるのだろうか?お互いにもう、引っ込みが付かない。このままでは、本当にどちらかが死ぬまで続いてしまう。カナデが圧倒し、気絶させることが出来ているのは少人数だ。この戦いを終わらせるには至れない。)

 

「皆!戦いを止めてくれ!」

 

彼のその声に、その場にいる全員の動きが止まり、視線が集中する。しかしその瞬間、全員の動きが止まった。なぜなら

 

その男には、片腕が無かったからである。

 

「!その声は、ユウ…‥は?」

 

「アズサ、ありがとう。ここからは一人で大丈夫だ。」

 

「い、いや駄目だ!せめて支えるくらいはさせてくれ!」

 

「…‥皆、本当に、よく頑張ってくれた。俺が奴を倒すまで、よく持たせてくれた。」

 

「もう、いいんだ。戦わないで、憎悪を向け合わなくていい。」

 

「…‥後は俺に任せて、ゆっくり休んでくれ。」

 

「できるわけないでしょそんなこと!怪我人は黙ってそこに…‥リーダー?」

 

アツコとヒヨリ、そしてカナデは未だ復帰できていない。目の前の現実を、脳で処理しきれていないからだ。

 

しかし、ミサキは一早く冷静さを取り戻し、彼に駆け寄ろうとする。

 

だがそれを、サオリは止めた。

 

「こうなったユウジは止められない。…‥速く、終わらせろよ。」

 

「言われなくても分かってる。…‥俺が持たないし。」

 

体を、アリウスにいる『兵士達』に向け、叫ぶ。

 

「ベアトリーチェは倒された!このアリウスにはもう、俺達を苦しめる存在はどこにもいない!」

 

「ほ、本当に?」

 

「いやでも、腕があんなことになって嘘なんてつく?」

 

動揺が広がる中、一人、また一人と、声を上げ始めた。

 

「もう、したくない戦いの勉強なんてしなくていいの?」

 

「あぁ。これからは、自分がしたいことをすればいい。」

 

「もう、顔色を伺って怯えなくてもいいの?」

 

「あぁ。もう、それをする必要があるやつなんていないんだから。」

 

「…‥もう、ともだちがつめたくなってるところをみなくていいの?」

 

「もう絶対に、死者なんてださない。」

 

これまでで一番力強い肯定。アリウスの兵士達は最早、戦闘の意思を失っていた。

 

彼はそれを言った後息を吸い直し、この場にいる全員に聞こえるよう宣言する。

 

「俺達はもう、自由だ!」

 

アリウスの『生徒達』はその言葉を皮切りに、銃を手放し、涙を目尻に浮かべた。

 

それは、大人の支配から解放されたがゆえか。はたまた、『普通に生きたい』と泣く自身の涙を拭えたがゆえの安堵か。

 

暁の輝きが、アリウスに芽吹いた命を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、数時間程たった後。世間ではまだ登校や出勤をしている時間。

 

「…‥来たか。」

 

「クックックッ…‥覚えてくれていたようで、嬉しい限りです。」

 

「それで、話があるんだろ?大方の予想はつく、早くしてくれ。」

 

「その態度から察するに、本当に分かっているようですね。ご明察の通り、貴方と『契約』を交わしに来ました。」

 

(…‥ここが、分水嶺だ。俺達がこれから先、生きれるかどうかの。)

 

背に汗を浮かべながら、彼は大人との対話に挑むのだった。





はい、一先ずの決着がつきました。多少の犠牲は払いましたが、とりあえず奴はもうここにはいません。…‥平和になるかは、彼次第ですが。
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