暖かい感想の数々、本当にありがとうございます。これからもその期待に沿えるよう精進していきたいと思います。
それでは、どうぞ!
「内容は、『俺の研究』だろ?」
「どうやら、彼女も同じ事をしていたようですね。その通り。一研究者として、貴方以上に興味を引かれる存在はいません。」
その男はまだ興奮が冷め止まぬ様子で、無邪気に自分の好きなものを語る子供のように口を開き始めた。
「ヘイローもないというのにあのベアトリーチェを死の一歩手前まで追い詰め、更にはビームのようなものまで…‥私はこの世界についてあまり知識がありませんが、これが異常な事というのは理解しているつもりです。」
彼の脳内には、数時間前の光景が蘇っていた。
後ろから見てもボロボロであり、満身創痍であろう少年。しかし、それよりももっと傷ついていて、その少年に怯えている様子をみせる大人。彼女の強さは一度目にする機会があったため、最初はその光景が信じられなかった。
しかし自分は夢を見ているわけでも、幻覚を見ているわけでもない。『眼前に起こっていることは現実である』と受け入れるまで幾らかの時間を要したが、それと同時にその少年に『可能性』を感じた。
「言ってしまえば、貴方は私のように何の力も持たないただの人であるはずなのです。だというのに、あの麻酔に一時とはいえ耐える程の薬毒耐性まで…‥実に、興味深い。」
「この世界に生まれた突然変異のようなものなのでしょうか?それとも、人の形をした異形の類いなのでしょうか?今からでも待ち遠しいです、貴方を研究する時が。」
興味とは、研究者にとっての原動力。それが、それこそが彼のような人間を動かしている。
今、彼にとって虎杖ユウジは何か分かっていないただの石…‥もしかしたらダイヤモンドのような極上の代物である可能性を秘めている物なのである。
「報酬は?」
「そうですね…‥言い当てましょうか。貴方はお金など望んでいない、望むのは、生活の安定でしょう?」
「!」
冷静を装っていた彼の様子が、初めて崩れる。
「その程度の事も分からないほど、私は子供ではありません。」
「この不毛の大地では、自給自足にも限界があるでしょう。それに、貴方は今片腕を失っている。…‥ハッキリ言えば、貴方にはもう後がない。」
「外部の力を頼る他に、方法はないのではありませんか?」
まさに図星。自身の目論見を全て言い当てられた今、もはやこちらに余裕はない。
「…‥その通りだ。俺は、俺達は、お前との契約をする以外に生き残る方法がない。これはずっと考えていた事で、どうにか手段がないかと探したけど、思いつかなかった。」
「だけど…‥もう、大人に支配される生活は懲り懲りだ。」
だからこその、本音の吐露。あえて今この瞬間に全てをさらけ出す事で、もうこれ以上のダメージを負わないようにする。
「ならばどうするというのです?…‥この契約書にサインしていただければ、一定期間の生活の安定を約束しましょう。義手だって用意します。それでは、駄目なのですか?」
どこからか契約書が現れ、それを手渡される。
すぐさま熟読するが、怪しい内容やこちらを貶めるような内容は表記されていない。透かしや端も確認したが、そこにも何もなかった。
迷った末、一つの結論を出した。
「…‥内容に二つ、追加して欲しい項目がある。」
「無理のない範囲であれば、聞きましょう。」
「俺の身体になにか痕が残るような行為を禁じること、そして…‥アリウスにいる"全ての存在"に干渉しないこと。勿論、俺を除いて。」
「…‥その"痕"の根拠がはっきりとしない限り、了承はしかねます。」
「外傷を負う、もとい内臓にダメージがいくような危険が伴う行動は全て禁ずる…‥ってとこかな。」
「それを了承した場合、こちらが支払う対価は?」
「しばらくの間、食料を支給して欲しいのと…‥俺に、勉強を教えてくれ。」
「…‥は?」
その時初めて、彼の余裕が崩れた。
「具体的には、農耕やビジネス、経済や一般教養だ。簡単だろ?」
今ユウジの脳内に思い描いているのは、『自立した自身らの姿』。そのためにはまず、自分が一人前になる必要があるだろう。
『幸い、目の前の大人は知見が深そうだ。これを気に色々と利用させて貰おう。』というのが彼の考えである。…‥しかし、彼は見落としている。
自身が、自分自身を簡単にベッド出来るようになってるという事実を。
「貴方はまさか…‥まだ、この大地を諦めていないとでも言うのですか?」
「あぁ。仮にも故郷なんだ、そう易々と見捨てられるかよ。」
「…‥私見ではありますが、ここアリウスの土地はもう死んでいます。過去、これと同じような事例と遭遇したことがありますが、いずれも何の成果もないまま、全てが徒労に終わっている。それよりは私のサポートを受け、全員で別の場所に移住した方が将来性があると思いますが?」
「それじゃ、お前に頼りっきりになってしまう。もしもの時、俺達はお前に逆らえなくなってしまう。…‥俺達は、自らで生きていく方法を見つけなくちゃいけないんだよ。それがたとえ、どれだけ無茶なことだったとしても。」
それを聞いた『大人』は目の前にいる存在がただの『子供』ではなく、限りなく『大人』に近い存在である。と、認識を改める。
「…‥貴方がベアトリーチェを倒せた理由が、少しだけ分かった気がします。…‥クックックッ。どうせ私も、しばらくは暇な身です。なら、貴方の酔狂に付き合ってみましょうか。…‥もとより私は、彼女のように過度な干渉をする気はありませんでした。貴方のことが研究できれば、それでいい。」
「…‥お前のことは信じられないし、今後も信頼することは多分ない。だけど…‥奴よりは"大人"であることを祈るよ。」
「安心してください。私は『契約』は守りますから。」
「それでは、これからよろしくお願いします。…‥虎杖ユウジさん。」
「!なんで名前を…‥まぁいいや。出来れば、早く縁が切れる事を祈るよ。」
片や何か企んでいるかのような含みのある声を出しながら手を差し出し、片やぶっきらぼうに手だけを差し出す。
そこに信頼はなかったが、『信用』はあった。
契約書に記入が終わった後、疲れすぎていたのか寝てしまった彼女らを憂いながら、つい先ほど思いついたことを『
ちなみに『黒先』とは、呼び名がないと不便だと思って自身が即興で考えた名前だ。全身真っ黒だし、これから色々なことを教わるわけだから『先生』の一文字を取った。自分自身でも、中々良い名前だと自負している。
実際、黒先も『クックックッ…‥この聖職者とは正反対の私に先生とは。面白いですねぇ。』と、気に入った様子だった。
「あ、早速で悪いんだけど、ちょっと用意して欲しいものがあるんだよね。」
「契約に逸脱しない範囲であれば、叶えましょう。」
「だいじょぶだいじょぶ、絶対逸脱してないから。んーと、鶏肉とブロッコリーとジャガイモとニンジンと…‥いいや。とりあえずシチューの材料、全部用意してくれない?」
「構いませんが…‥一体、何をするというのです?」
「腹ごしらえだよ。これからのための、ね。」
黒服が大分マイルドになっているように見えますが、これには理由がいくつかあります。
一つ目に黒服は彼の強さを間近で見ているため、少し慎重になっていること。二つ目に自身の漂わせている不気味さに全く物怖じしていないこと。そして最後に、『普通に暇』だったから。というのがあります。
まぁ、こんな面白そうな研究材料が転がっているのなら意地でも研究したいというのが概ねの理由です。…‥決して、こいつ自身の悪辣さが消えているわけではありません。本当に面白がってるだけです。
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