ここまで長かったですが、ようやく辿り着くことが出来ました。どうか最後まで目を離さず、見ていってください。
「…‥ここにも、こんな場所があったんだな。」
最初は自身が侵入者として立ち入った場所。二回目は捕虜という形で、それからは実験台兼兵士として滞在し、そして現在は
一人の、料理人として。
もう何年も使われていないのだろう、ホコリを被っていて少し廃れた印象を受ける厨房を見渡しながら、そんなことを考える。
「この建物に始めにいた人達は少なくても、食は大事にしていたんだな。」
(アツコの件ももしかしたら、誤解だったのかもしれない。あの人達はあの人達なりに一生懸命、アツコの事を考えていたんだろう。…‥それでも、許せはしないけど。)
「設備は…‥年月がたって劣化はしてるし所々汚れてるけど、掃除すれば問題なく使えそうだな。」
「お、寸胴もある。これに作るか。人数多いし。」
調理ができるかを調べていると、ゴロゴロと荷物を運ぶ音が聞こえてきた。
「ふぅ…‥まさか私が運ばされるとは。」
「ありがと、別に契約違反じゃないだろ?」
黒先に礼を言い、用意された食品を見る。
野菜はまだ瑞々しさが残っていて、生でも食べれそうなレベルだ。鶏肉も痛んでいる様子はなく、問題はない。
「…‥それ、後で私にもくれませんか?」
食品を吟味し、それぞれをどう切ろうか考えていると、少し疲れた様子の黒先がそんなことを言った。文脈から察するに、俺がこれから作ろうとしている料理が欲しいんだろう。
「やだね。これは祝いの食事なんだ、仮にも敵のお前に分けてはやらん。」
「…‥そうですか。」
「だから…‥ちょっと待ってろ。」
換気扇を着け、コンロを点ける。フライパンをコンロの上に乗せ、御廚子で本当に雑に切った野菜と肉を入れる。
いつのか分からない塩とコショウを振り、「どうせなら」と用意して貰った調味料一式の中にあった生姜も少量混ぜ、炒める。
やがて湯気が立ち上り、厨房中にいい匂いが充満する。仕上げに少し醤油を入れ、適当に混ぜたら完成だ。
「ほれ、契約上とはいえ色々してもらった礼だ。不味くても文句言うなよ?」
皿に乗せ、雑に手渡す。
「…‥ありがたく、いただきます。」
黒先はそれを両手で受け取り、付けておいたフォークで食べ始めた。一口食べた途端手の動きが速まり、あっという間に平らげてしまった。
「良い食いっぷりなこって。」
「ご馳走さまでした…‥貴方、料理上手いですね。」
「お粗末様でした…‥そりゃどうも。じゃ、それ置いてどっか行っててくれない?もし万が一誰か起きて来たらまずいし、何より邪魔。」
「手厳しいですねぇ…‥クックックッ。」
「その怪しい笑い声はなんなのよ…‥」
黒先が去ってから、幾らかの時が過ぎたか?俺は調理を進めていた。…‥だが
(す、進まねぇ…‥)
そりゃそうだ。片腕で包丁を扱うのは至難の技だし、御廚子だって呪力は無限じゃない。丁寧に、最小限の呪力で切ってはいるけど、この調子じゃ何年たっても終わらない。
「どうしよ…‥このままじゃ、皆が起きて来ちゃ」
その瞬間、背筋に視線を感じた。もしやと思い振り返ると
「その懸念は正解だったな?ユウジ。」
「さ、サオリ…‥」
厳しい目をして、俺を見たことがない表情で睨むサオリがいた。
「寝てしまったのが失敗だった。まさか一人でこんな事をしてるとはな。」
「そ、その…‥」
「片腕が無いんだぞ?その状態で料理なんて…‥しかも一人で!」
「…‥」
「言いたいことは山ほどある。だけど…‥今は、今だけは目を瞑ろう。」
「手伝おう。何をすればいい?」
「!…‥サオリ、ありがとう。」
「礼などいい。…‥おい!そこで見てる全員!」
「…‥皆。それにカナデまで…‥」
サオリに気を取られていて気づかなかった。部屋のドア付近に俺がこのアリウスで関わった全員…‥アツコにアズサ、ヒヨリにミサキ、そしてカナデが、そこにいた。
「お前達もユウジに言ってやりたいこと、ユウジとしたいことが沢山あるだろう。だが今、今この瞬間だけはそれを飲み込んで、手伝ってやってくれないか?…‥これは恐らく必要な事なんだ、"これからのアリウス"のために。」
「何すればいい?なんにも分からないから、一から教えて。」
「わ、私もお願いします!」
「…‥ユウジ。」
「アツコ…‥」
「我慢するから、後で…‥後で、言わせてね。」
「ごめん。それと、ありがとう。」
「ユ、ユウジさん。こうしてしっかり話すのは初めてですね。」
「カナデ…‥ありがとうな、皆と戦ってくれて。奴を倒せたのは間違いなくカナデのおかげだ。」
「…‥いえ、むしろ私は足を引っ張ってばかりで、最後の最後にようやく少し役に立てたぐらいです。それを言うなら、サオリさんや皆さんの尽力があったからでしょう。」
「それでも、カナデは戦ってくれた。その時点で、役に立った立ってないは割りとどうでもいいんだよ。その勇気が一番大事な物だから。」
「そう…‥なのでしょうか?」
「…‥さっきから聞いていたがカナデ、お前は自分を低く見積り過ぎだ。『今なら、サオリさんにだって勝てます』と自信満々に言っていたお前はどこにいったんだ?」
「あ、あれはその調子に乗っていたというか、なんだか脳がフワフワしてて!失礼なことを言いました!ごめんなさい!」
「サオリに勝てる?ちょっと戦ってみたい気持ちもあるな…‥」
「戦いませんよ!」
「ははっ、冗談さ。」
「…‥ユウジ、私に何か、言うことはないの?」
「あ、アズサ…‥」
「片腕が無くなったユウジを見た時、私は心臓が止まるかと思った。…‥ほんとに死んじゃうんじゃないかと思ったんだぞ!」
…‥そうだよな。この中で一番負担をかけたのはアズサだ。俺の腕がないと分かった時、アズサはどんな気持ちだったんだろうか?優しいこの子のことだ、心を痛めたに決まってる。
「!」
優しく、抱き寄せる。片腕しかないけれど、彼女を支えるには充分だ。
「心臓の音、聴こえるだろ?安心してくれ。俺はちゃんとここにいるから。」
「…‥あとで、つきあってもらうからな。」
「勿論。」
「それじゃあ皆、時間もあんまりないから早速、料理を始めよう!」
「これは…‥どう切れば?」
「これは具材を回しながら切るんだ。包丁は動かさずにな。」
「む…‥こうか?」
「そうそう!流石だね。」
「ユウジさぁん!ジャガイモってどうすればいいんですか!」
「まずは水で洗って、それから皮を剥くんだ。そうだな…‥ちょっと持ってて。」
「これピーラーっていうんだけど、これを上手く使って剥くんだ。動かすなよ…‥ほれ、こんな感じに。…‥多分、一人のほうがやりやすいと思う。」
「な、なるほど…‥やってみます!」
「躓いたらいつでも言ってな。」
「…‥うぅ。」
「ミ、ミサキ…‥玉ねぎはな?この線に添って切るんだ。言うのが遅かった、ごめん。」
「別に大丈夫…‥」
「…‥俺が「あんたは休んでて」はい。」
「アツコは…‥うん、上手に出来てるな。」
「…‥私には、何も教えてくれないの?」
「出来てるしなぁ…‥強いて言うなら、もう少し小さく切ったほうがいいくらい?」
「分かった。…‥これで、お嫁さんに一歩近づいたね?」
「!…‥そ、そうだな。」
「アズサは…‥どうしてこうなった?」
「分からない。ユウジの説明から皆の動きを真似してたんだけど…‥」
「いや悪い意味じゃないんだ。別にこのまま使えるし。だけど…‥随分とまぁ、芸術性があるなと。」
アズサが切った具材は、なぜかそれぞれがマスコットキャラクターのなり損ないのようになっていた。顔をちゃんと整えれば、そのまま売れそうだ。
「これは褒められてるのか?」
「褒めてるよ。」
「…‥ユウジさん、言われなくても分かります。」
今俺とカナデの前には、見るも無惨な姿になった野菜の数々が置かれていた。…‥多分、カナデは手先がちょっと不器用なんだろう。
「…‥一緒に、頑張ろっか。」
「はい…‥」
(うぅ…‥料理って難しいよ…‥)
その後も下準備を続け、遂に煮込む時間となった。
「ここからは俺がやる。…‥心配しなくて大丈夫、ただ煮込むだけだから。」
六人に見守られながらする料理は少し変な感じだが、悪くはない。
「…‥こうしていると、あの時を思いだしますねぇ。」
「…‥皆で焚き火の上にある鍋を覗き込んで、どんな味なのか想像したりもしたね。」
「ミサキをからかって遊んだりもしたな。…‥ふふっ。」
「イジリ過ぎて怒られちゃうこともあったね。」
「…‥二人はよく、私の反応を見て楽しんでたよね。悪い気はしなかったけど…‥やりすぎ。」
「す、すまない。あの頃は私も幼かったんだ。」
「ごめん。けど、止めない。」
「アツコ…‥」
「サオリ、そもそもまだ俺達子供だぜ?幼かったっていうには早すぎるんじゃ?」
「だがな…‥」
彼らは、まるで昔に戻ったように話を弾ませていた。
「…‥話についていけない…‥」
「アズサさん、私もです。」
その輪に入れない存在がここに二人、白州アズサと秋月カナデである。彼女らは幼い頃から一緒にいたわけではないため、その思い出を共有することはできない。
「しょうがないだろうな、私達とは一緒にいる時間が違う。」
「私はもっと短いですからね…‥」
「…‥カナデ、その手はどうした?」
「あぁ、これはその…‥食材を切ってる時にちょっとやらかしちゃいまして。」
「そうか…‥その絆創膏、どこから持ってきたんだ?」
「これはユウジさんが張ってくれたんです。『たまたまあった』って言って、丁寧に。」
その手を眺めているカナデは、何かを思いだしているような顔をしながら、うっとりとした目をしていた。
「…‥これは、強敵かもしれない。」
「よし、できた!…‥それじゃ、皆を起こすか。」
「待てユウジ。この食事はただの食事ではなく、大事なものなのだろう?なら、少し豪勢にいこうじゃないか。」
『俺達はもう、自由だ!』あの人は、確かにそう言っていた。でも…‥それは、本当なのだろうか?もしかしたらこれは何かの訓練の一環で、今は都合の良い夢を見ている状態なんじゃ…‥
まどろみの中でそんな事を考えていると、この建物全体に音声が流れ始めた。
『あ、あー、聞こえるかな?ご飯の時間だから、皆食堂まで来てね!…‥多分、お腹空いてるだろ?』
「な、なに?」
(こんなの、今まで無かった…‥本当に、いなくなったの?)
懐疑的な気持ちを持ちつつも部屋を出て、食堂へと向かう。
扉を開けると、今まで嗅いだことのないぐらいのいい匂いが鼻に入ってきた。
「一人ずつゆっくりな、飯は逃げないから。」
中を見ると、片腕のない、あの発言をした人がなにやらスープのような物をよそっていた。
「熱いから気をつけてな。あ、そこの君。列に並んでくれるか?いかんせん人が多くて、皆一斉にやると収集がつかないんだ。」
「は、はい。分かり、ました?」
言われるがまま列に並び、自分の番を待つ。途中で『取る』と書かれている紙が張られていたため、疑問に思いつつもそこにあったお皿を取る。
「ちょっと熱いから、運ぶ時と食べる時は気をつけてな。」
「分かり…‥ました。」
何も分からない中ただ一つ分かったのは、少なくてもこの人は、私に危害を加えないということだけだった。
『配り終わったら食べ始めるから、少し待ってて。』と言われたため椅子に座り、ぼんやりと待つ。
(…‥こうやってアリウスを見ると、案外綺麗だな。)
少し崩れている建物の隙間から射し込む日差しは、温かくこの部屋を照らしている。草や地面も照らされていて、いつにも増して輝いて見える。
(あれ?空って…‥こんなに青かったっけ?)
「…‥いきなり言ったのに、ちゃんと集まってくれてありがとう。」
食堂の中心に立ち、彼は語り始めた。
「まずは自己紹介を。俺は虎杖ユウジ、これからここの生徒会長になる者だ。」
その発言に、その場の全員が衝撃を受ける。それは彼の近くにいる六人も例外ではなく、驚いた表情をしていた。
「…‥て言っても仮だけどな。ベアトリーチェというトップがいなくなった今、誰かが上に立たなくちゃいけない。それなら少しの間だけ…‥せめて生活が安定するまでは、俺がトップになる。」
「反発もあるだろうし、認めないって人も多いと思う。けれどこれだけは分かって欲しい。俺は必ず、このアリウスを変えてみせる!」
「大人の支配なんてない。強制なんてない。俺達が俺達のしたいように暮らせる、そんなアリウスに!」
「…‥これからは、俺のことをもっと知って欲しい。知らない奴が自分達の上にいても納得出来ないと思うし。…‥その一歩として、料理を用意した。俺だけの力じゃ成し得なかったけど、なんとか準備出来た。どうか、食べてくれ。」
はっきり言って、この話を真面目に聞いている人数は少なかった。目の前にご馳走が置いてあるのだから、それは当然だろう。
彼もそれは分かっていたようで、食前の儀式を始める。
だがそれでも、彼の想いは確かに
アリウスの生徒全てに伝わっていた。
(…‥ま、詳しい話はまた後でにするか。)
「皆、俺の真似をしてくれ。手を合わせて…‥」
「いただきます!」
「い、ただきます?」
「いただきます!」
「!美味しい!」
「…‥うぅ。こんな食べ物、初めて食べた。」
「泣くなって!」
一斉に、食べ始める。各々がそれぞれの感想を述べ、表情を豊かに変える。
「ユウジ、これがやりたかったのか?」
「…‥あぁ、思ってた形とはちょっと違うけど。」
「凄く美味しいですぅ~!」
「あぁヒヨリ、速く食べたら口に付くよ。」
「あの時食べた煮込みと、同じくらい美味しいね。」
「私はその味が分からないんだが…‥これと同じくらい美味しいなら、ぜひ食べてみたいな。」
「私も食べてみたいです!あ、おかわりいいですか?」
「早くないか?…‥少し待ってろ、入れて来る。」
「サオリ、私の分も頼む。」
「サオリ姉さん!私の分もお願いします!」
「アズサとヒヨリまで…‥分かった分かった。両方入れて来るからそう焦るな。」
「…‥ははっ!」
その光景を見た彼の表情は、この世界に産まれてから一番、晴れやかな笑顔だった。
第一部『アリウス過去編』完
→To be continued…‥?
『ん、サオリは来ないの?』
『サッちゃんは前回来たから、今日は私の番。…‥戦う?シロコさん。』
『面白い。今度は勝てると良いね?』
『うへぇー、血の気が多すぎるよぉ~。』
『はは…‥アツコ。程々にするんだぞ?』
『シロコちゃんも、全力でやらないでね?』
『『はぁ~い。』』
『なんだか、お二人とも保護者みたいですね。』
『普段はアツコの方がしっかりしてるんだけどなぁ…‥』
『シロコちゃんも普段は…‥いや、普段からこんな感じかぁ~。お互い、苦労するね?』
『ホシノさんには敵いませんよ。』
『なんで君は、そうまで優しいの?』
『…‥それが俺の存在意義だから。と言っても、貴女は納得しませんよね。』
『実のところ…‥自分でもよく分からないんです。けれど俺は貴女を、貴女達を放っては置けなかった。』
『だからってさ、普通なんの見返りもなくここまでする?』
『貴女が何を疑っているか分かりませんが…‥』
『虎杖悠仁なら、きっとこうしました。』
『…‥意味分かんない。』
『そうでしょうね。俺もこんなことを他人から言われたら、困惑します。』
『あいつが!あいつが先輩を!』
『ホシノさん、一人で行こうとしないでください。幸いこの場には、ここまでの戦力が集まってる。…‥完膚なきまでに叩きのめしましょう。もう二度と、誰にも危害を与えられないように!』
『ユウジ、お前こそそのまま行こうとするんじゃない。』
『ご、ごめん。』
『まったく…‥行くなら三人だ。』
『サッちゃんも冷静じゃない…‥』
『うわぁぁん!皆さん頭に血が上りすぎですぅ!』
『シロコ先輩、私達忘れられてない?』
『ん…‥先生、どうしよう。』
『わ、私もちょっと分からないな…‥とりあえずあいつは倒そうか。ユウジを傷つけようとしたからね。』
第二部『アビドス編』近日スタート!
はい、ということでとりあえず第一部完です。…‥いやぁ、ここまで約半年かかりましたが、とにかく疲れました。楽しかったこともたくさんありましたが、やはり疲れたというのが最初に来ます。第一話に書いた通りエタらせる気はない(というか私が最後まで見たい)ので、これからもマイペースに投稿していきたいと思います。第二部は閑話を挟んでから投稿するかもしれないので、少し間が空くと思います。どうか気長に、お待ちください。それでは…‥
ここまで読んでくれた全ての方々に最大限の感謝を!ありがとう!!!!!