遅れてしまいすみません…‥夏休みにも関わらずあまり投稿できていないこと、申し訳ないです。これからも自分なりのペースで進めていきますので、どうかご一読お願いします。
それでは、どうぞ!
食事会を開いた深夜。先ほどの出来事もあり少し疲れていたが、黒先に用があったため連絡用に渡されていた携帯で呼び出した。色々と話した後、黒先はこんなことを言った。
「その件については了解しました。ですが…‥本当に宜しいのですか?義手を用意しなくても。」
「あぁ、これについては考えがあるんだ。」
あの時の戦闘で失った左腕。ゾーンに入っている状態の赤血操術なら繋げられたとは思うけど、気づいた時には遅かった。後悔はあるが過ぎた事は仕方ないと思い、気持ちを切り替える事にした結果、一つの案が浮かんだ。
それが『反転術式』だ。
反転術式は呪術廻戦で使用される、謂わば回復技のようなものである。限られた才ある者しか使えないが、死の瀬戸際で覚醒するという特性を持っている。今回腕を失くしたことにより修得できるかと期待したが、そもそも『しよう』という脳が無かった。失態だ…‥
だが、いつかは修得できるかもしれない。その希望がある内は、形を安定させてしまう義手は論外だ。ならばどうするか
赤血操術で擬似的に腕の部分を『造り』、反転術式が使えるようになるまで『傷口がある状態』を維持すればいい。
これにはかなりの呪力がいるかつ繊細なコントロールが要求され、さらにはできたとしても神経が通っているわけじゃないから動かせない。ただの…‥ハリボテだ。
けれど長袖を着て手袋をすれば、左腕がないとは思われなくなるだろう。…‥あの子達に与えるショックは、なるべく減らしたいからな。
「それでは…‥勉強会?はいつにいたしましょうか。何が教わりたいのかも分かりませんが…‥」
「とりあえず最初は、高校範囲までの一般科目全部かな。何を学ぶにしたって基礎がしっかりしてないといけないし。」
「参考までに聞きますが、貴方は今どこまで分かるのですか?」
「中三までは全部。高一は所々分からないところがあるくらいかな。そっからは知らん。」
「なるほど…‥…‥この環境で、どのようにして?」
「…‥秘密。」
「まぁ、今はいいでしょう。では復習から始めるとしますか…‥カリキュラムを作らねば。」
「では、本題に。『実験』はいつにいたしましょうか?」
「いつでもいいぜ?なんなら今からでも。」
「ここには設備がありません。本来なら私の拠点にて行いたいのですが…‥ここを離れることを、貴方は良しとしますか?」
「俺の気持ちなんて、考える必要がお前にあるのか?」
「…‥先生として、まず最初に教えることが決定しました。いいですか?ユウジ。大人というものは、その相手との今後を考えて関係を構築するものです。私は貴方を、この上なく最高の取引相手と認識しています。その者の多少の感情程度なら考慮するのが、できる『大人』というものなのです。」
…‥俺の目に狂いはなかった、こいつは本当の意味で『大人』なんだ。善悪は一旦置いておいて。
「…‥お前、案外良い奴だな。あいつの仲間なくせして。」
「クックックッ…‥あの者を評価していたのはあくまでも、その有する力と統治力。こういう分野においては、一緒にされるのは心外ですね。」
「私が契約を『有効活用』する時は少なくても、相手を確実に落とせると悟った時のみ。今はそんな荒事をする必要性がありませんから。」
「…‥ま、今は利用させてもらうよ。お前の遊びが終わるまで。」
「!…‥貴方も大概、鋭いですね。」
「お前に食い物にされる気はないからな。」
「感心です。その態度を維持できれば、私に足元を掬われる心配はないでしょう。早速実験用具を詰め込んだ仮拠点をここに造ります。明日には完成するでしょうから、またこの程度の時間に、送った座標の位置に来てください。あぁ、座標の見方は分かりますか?」
「…‥わからん。」
「流石の貴方も、ここまで手は回りませんでしたか。…‥そうですね、私が案内を手配します。それに着いていってください。」
「オッケー。」
そのやり取りをした後、黒先は最初からそこに存在していなかったかのように消えた。
「不気味な奴…‥」
(さぁて…‥誰も起きてないといいなぁ。)
微かな期待を込め、急ぎで部屋に戻る。
扉を音が立たないよう慎重に開け、これまた音を立てないよう慎重に閉める。
見ると、お互いに俺と勘違いしているのかサオリとアツコが抱き合っていて、非常に微笑ましい光景が広がっていた。口角が上がるのが分かったが、そんなことをしていられる状況ではないと思考を切り替える。
(これ、どうやって入ろう。)
朝起きた時に俺が目に入らなかったら、アツコは泣くだろう。だがアツコの視界に入るにはサオリとアズサをどうにかしなければならない。
(この抱き合ってる手の間になんとか入れないか?…‥よし、なんとかいけそう)
与える刺激を最小限に抑え、ゆっくりと二人の腕の中に入っていく。それは思ったよりすんなりと進み、自分の目線がアツコ達と合うぐらいの位置に移動できた。しかしその途端、自身の胴に巻き付かれている4本の腕に力が込められ、動けなくなってしまった。
「!?」
(ま、まさか…‥)
「つかまえた♡…‥もう。どこに行ってたの?」
耳に入ってくる声は上機嫌であるかのように甲高く、それでいて氷のような冷たさを孕んでいた。
「多分トイレだろうと私は言ったんだが…‥すまん。止められなかった。」
「トイレにしては長過ぎるよね?サッちゃんは不思議に思わないの?」
「…‥」
「そ、その、腹が痛くて…‥」
話に合わせ、このピンチを乗り越えようとする。もし万が一追及させた場合どう答えたらいいか分からなくなるため、ここで終わってくれと心の中で懇願する。
「嘘だな。どうやらユウジには、嘘をつく時に目を反らす癖があるらしい。」
「!」
「ねぇユウジ、本当の事を言ってほしいな。」
(どうするどうする…‥逃げようにもこの拘束は解けない。なら、誤魔化すしかない。それも、真実のみで。)
「…‥これから、アリウスをどう変えていこうか考えてた。まず手始めに、建物の老朽化からなんとかしようと思ってたから、それを見に行ってたんだ。」
「…‥寂しかった。私、寂しかったの。」
「ユウジ。確かに先も大事だとは思うが、それはこの瞬間でさえ優先される事なのか?」
「!…‥ごめん。俺、失敗ばっかだな。」
二人の頭を俺の体に寄せ、謝る。
「ならせめて、今日は側に居て?」
今にも泣きそうな声で、そう懇願される。それを拒否する事はとても出来ず
「勿論だ。」
そう、断言する。
「…‥やはりお前は、温かいな。」
そんなこんなで、夜は明けるのだった。
「ふぅ。なんとか乗り切れた…‥」
次の日の夜。いつの間にか用意されていた食料を使い、全員をお腹いっぱいにさせる事が出来た。
中には『夢じゃなかった』と驚く者も多くいて、各所からすすり泣く声が聞こえていた。…二度と、あんな思いはさせない。
「おっ、これか?」
今自分は外にいた。その理由は昨日黒先が言っていた『手配の者』を待つためだったが、一つのドローンが眼前に現れたことにより、それだと確信する。
『イタドリユウジサマ、マスターガオマチデス。ワタシノアトニツイテキテクダサイ。』
「…‥この世界の無人ドローンって進んでるんだな。」
流暢に言葉を連ねるドローンに対し月並みの感想を述べながら、言われた通り後へと続く。
焦土と化していたことにより更地になっている地を進み、やがて廃墟が乱立されている地帯へと到着した。
「ここって…‥」
(俺が最初に目覚めた場所だ。)
『ココカラハショウショウフクザツトナリマス。ボーットセズ、ツイテキテクダサイ。』
「親切だな。…‥お前、名前ってあるのか?」
『…‥マスターカラハ、プロトタイプトヨバレテイマス。』
「プロトタイプねぇ…‥じゃ、プロト。これからお前のこと、プロトって呼ぶわ。」
『オスキニドウゾ。』
他愛ない雑談を挟みつつ、奥へ奥へと足を踏み入れていく。長年放置され荒んだ廃墟に対し少しの切なさを感じながら、夜のしんとした空気を味わう。
外の空気というのは、何故か特別感がある。開放されているからなのか、二酸化炭素が霧散しやすいからなのか。
『トウチャクイタシマシタ。コレニテ、メイレイヲカンリョウシタコトヲホウコクシマス。』
「あっ、着いた?ありがとな。」
到着したのは、ある廃墟の中の奥。一見すると普通の家に見えたが、中の実態はまるで違う。地下へと続く階段が用意されていて、そこを通り抜けると近未来的な扉と今プロトが停止している…‥おそらく充電しているのかな?それが出来るスポットのような物がある。
(…‥かっけぇ)
正直ちょっと興奮したのは、ここだけの秘密だ。
『…‥ジカイハ、ミチヲオボエヨウトシテクダサイネ。』
「ばれてたか…‥いやぁ、どうにも疲れてて。」
『ワタシハココニタイキシマス。カエリノトキハコエヲカケテクダサイ。』
「オッケー。」
そう言い残し、プロトは活動を停止した。
それを横目で眺めた後、改めて扉に目を向ける。重厚感を感じる鉄の扉には手をかざすような部分があり、試しにかざしてみる。
『生体認証を開始します・・・個体名、虎杖ユウジ。許可証を発行し、永続権限を譲渡。今現在永続権限を所有しているのは黒先様と虎杖ユウジ様の二名。上限に達したため、永続権限の譲渡をこれ以降停止。・・・・・・処理が完了いたしました。』
電子音が混じってはいるが、その扉はプロトより流暢に言葉を話した。これを黒先は僅か一日で用意したと考えると、多少の恐ろしさを抱いてしまう。
『扉を開放します。』
ゆっくりと左右に離れ、中に入れるようになった。
「昨日ぶりですね。虎杖ユウジさん。」
「お前凄すぎない?一日だよ?一日。それでこれって…‥ちょっと方法教えてくれたりする?」
「これは貴方には出来ない手法ですから、話しても無駄かと。私も急ピッチで建造したため、所々荒が目立っています。そこまで褒められるような代物ではありませんよ。」
「まぁいいや。…‥ホワイトボード?それと、椅子?」
辺りを見渡すと、入って正面にいた黒先に気を取られて気づかなかったが、右のスペースにまるで教室のようなものが用意されていることに気づいた。
「あぁ、それは真似事ですよ。外の世界の教室を意識して作ってみましたが…‥気に入っていただけました?」
「…‥おう、良くできてると思う。」
それは、久方ぶりに見たもの。忘れ去った前世にて、自身が通っていた教室を想起させた。
(授業中に窓から外の景色見たり、友達と駄弁ったり…‥懐かしい、な。)
「それでは、何から始めますか?教育から受けたいのであればそうしますし、実験からしていいのならそうしますが…‥」
「あ、そうそう。ちょっと相談したいことがあってさ。」
「何ですか?」
「建物の老朽化が激しくってさ。自分でなんとかしたいから、色々融通してくれない?」
「…‥契約でそんなことを結んだ覚えはありませんが。」
「一定期間の生活の安定を約束する。あの時お前はこう言って契約を結んだ。これはそれを逸脱しないんじゃないか?」
「!まさか、私が自身の発言を忘れているとは。そうですね、その内容なら逸脱していない。…‥先にこちらの願いを聞いて頂ければ、協力してあげましょう。」
「はいはい。とうに覚悟は出来てるから、やるならさっさとしてくれ。」
「ではまず、その不思議な力の源から____」
その後は呪力の概要を説明したり、様々な術式について説明した。だがまだ、領域展開や縛りを話すつもりはない。
(情報を小出しにすれば、この契約は長引く。俺達が自立出来るまで利用させてもらおう。…‥初回はサービスってことで。)
そんなこんなで、俺とこいつの奇妙な関係は幕を開けた。
当初はこの話だけで終わるつもりだったのですが、書きたい内容が増えたので、上・下の二話構成になります。次回は実験の描写、教育を受ける様子などを描く予定です。
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