虎杖悠仁に成り代わった男の青春物語   作:ブルアカ大好き

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新章……遂に開幕です!ようやく原作が見えて一安心です。ここに来るまでにエタらないか心配だったので。
また、ここから作者の諸事情により、更新が遅れることが増えると思います。どうか、辛抱強く待ってください。それと大分遅れてしまい、申し訳ありません。

それでは、どうぞ!


第二部 青年期 アビドス編
三十二話 作り上げた仮初めの楽園


 窓の外を眺めれば、少女達が楽しそうに遊んでいる姿が見える。見る角度を変えれば、畑を耕している姿も見える。

 

 外は快晴、時間は……正午前と表すのが適切だろう。

 

「もうそろ、見回りの時間かねぇ。休憩の呼び掛けもしないといけないし」

 

 ここ、アリウスにある中ではわりと良い椅子から立ち上がり、体を伸ばす。三時間程座りっぱなしだったので、少々固くなっているようだ。

 正直皆を差し置いてこんな椅子なんかに座りたくはないが、生徒会長ともなると見栄えは大事らしい。形だけでも威厳がないと、秩序は保たれないだとか。

 

 

「よし、行くか」

 

 あの砂漠に立ち寄ってから、大体二年程経過しただろうか。時の流れとは速いものだ。

 

 そもそもとして、あの砂漠に行ったのはあくまで外の視察が目的だった。アリウスから一番安全に行けるのがアビドスだと言われ、それを普通に信じてしまった。多分嘘だったと今でも思う。

 

 そのおかげでアリウスも助かっているので、あまり強くは言えないが。

 

「やってる~?」

 

「あ、ユウジ。そうだな……まぁ、ぼちぼちといったところか。可もなく不可もなく、いつも通りだ」

 

「それが一番だよ。もうそろそろお昼の時間だから、皆切り上げて食堂行ってね。今日はカレーだよ」

 

「やった!……あ、もしかしてそれに……」

 

「うん、正解。ここで作ってもらってたニンジン、ありがたく使わせてもらったよ」

 

「~っ!皆、美味しいってまた言ってくれるかな!」

 

「やはり、嬉しいものだな。自分たちで作った物が皆の食卓に並ぶのは。……それ相応の不安もあるが」

 

「あんまり自分を詰め過ぎないようにね。それじゃ、俺は次のとこに行くから」

 

「あ、待ってください。ユウジさん、今度の合同訓練っていつですか?ちょっと気になってて……」

 

「それの話をしに、明日アビドスまで行く予定。だからまだ未定かな。少なくても一ヶ月以内だとは思うよ」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあね~」

 

 皆の頑張りもあり、このアリウスに農業を成立させることができた。……癪だが、黒先がいなければここまで発展させることは到底できなかっただろう。少し、悔しい。

 一応特産品といえる物もある。名前は"アリウス草"。これは昔、アツコが見つけた植物のような物を品種改良して増産した物だ。なんでも黒先(いわ)く、湖から漏れだした神秘が栄養素として吸収されたことにより、不可思議な旨味を作っているんだとか。

 これは黒先を通じて一般市場に流通していて、その売上は俺達全員が食うに困らないくらいはある。はっきりいって、農産業は大成功だ。

 

「カナデ、調子はどう?」

 

「……ぼちぼち。問題点は多いけど、進捗がないわけじゃない」

 

「か、カナデ教官……ちょっと休みましょうよ……」

 

「も、もう限界……昨日より的当ての制度上がったんだから、それで許して……」

 

「何甘えたこと言ってるの。最終目標は私に勝つことだって何度も言ってるでしょう?一刻も早く達成してほしいんだから、できる限りのことはやって。」

 

「「「お、鬼~!」」」

 

 屋内訓練場。かつてそれは恐怖の象徴でしかなかったが、今では皆楽しそうに訓練している。カナデ以外の表情は疲労で歪んでいるが、これもまた思い出だろう。……本当なら訓練なんてものさせたくはないが、自衛のためと割り切っている。

 

「……カナデ、期待してるのは分かってるけど、あんまり厳しくしないであげてよ?」

 

「だって私程度に勝てないようじゃこの先心配で……」

 

「わ、私程度って……あんたね!そりゃサオリ総司令官や生徒会長には劣るかもしれないですけど、自分が強いってこと自覚して下さい!私達束になっても敵わないんですから……」

 

「会長~、どうせなら会長も一緒に訓練しようよー」

 

「俺はまだやることあるからなぁ……なら、一勝負だけするか。俺が勝ったら午前中はこれで終わりって条件で」

 

「え、やるの?」

 

「おう。俺も体動かしたかったし、丁度よかった」

 

「会長頑張れ!」

 

「会長お願い!勝って!」

 

「貴女達、うるさい」

 

「「「ご、ごめんなさい」」」

 

「はぁ……いいよ、やろうか。私が勝ったら、ユウジは今度買い物に付き合ってもらう」

 

「オッケー」

 

「条件は?」

 

「先に相手に触れたほうの勝ち。これなら平等だろ?」

 

「スピード勝負か……なら、少しぐらい勝ち目があるかも」

 

 向かい合い、臨戦態勢へと移行する。術式なしならカナデのほうが速いのは前の体力テストで分かっている。この場合、普通なら術式を使うのが定石だろう。だが今回はあえて、使用しない。

 カナデは自己評価が低い。アリウスで一番頭がキレるくせに、いつも自分を卑下することばかり言うのだ。そこはいつか、改善したいところである。

 

「いつでも」

 

「なら、俺からいくぞ」

 

 狭い室内での鬼ごっこと表するのが適切だろう。スピードを出しすぎれば何かに衝突するのは目に見えているし、一年生にも当たるかもしれない。あ、ちなみにカナデは一年生、俺は二年生、サオリは三年生を主に鍛えている。アツコ、ミサキ、ヒヨリは特に決めておらず、時々に合わせている。アズサは……元気にしているだろうか?

 

(あ、途中だった)

 

「考え事でもしているんですか?随分余裕ですね」

 

「ごめんごめん。つい、な」

 

 間一髪、指の関節程の距離でカナデの手を避け、一瞬言葉を交わす。体感前より速くなってる気さえしてくるので、相当頑張ったんだろう。

 

「み、見えない……」

 

「横から見てればまだ分かるけど、いざ向かい合った時反応できるかって言われれば、絶対無理」

 

「あれ?でも会長、あの赤くなるやつ使ってなくない?」

 

「ユウジ、いくら私でも、あれを使わないなら勝つのは無理だよ」

 

「さぁ、それはどうかな」

 

 避ける、避ける、避ける。自分から向かう素振りのみ見せ、思考は全て回避に専念する。

 

(本気だ……本気であれなしで私に勝つ気なんだ。……なら、なにか仕掛けてくるはず。)

 

 それを何度かしているとカナデは俺から離れ、また最初のような状態となった。

 

「……」

 

「どうした?こないのか?」

 

「……何を考えてるのか分かるまでは、動かない」

 

(この状態でただ向かっていっても躱されるだけだな。集中が深いし。)

 

「……仕方ない、か。」

 

「!」

 

 轟音と共に、一直線でカナデへと向かう。速度的にはここまでで一番速いだろう。

 

(なんとか反応できた!だけどあれを使ってない!なんで?なんで……)

 

「はい、おしまい」

 

 最初こそ避けられたものの、向上したスピードには着いてこられなかったのだろう。二撃目で勝負はついた。

 

「あっ……はぁ、どんな仕掛けなの?」

 

「秘密兵器ってとこだな。戦える手札は増やしていきたいし」

 

(教えないってことね。)

 

 これは"縛り"の一種。呪力のみで結ぶことで、必要なプロセスを省いて発動できる。

 たとえば術式に適用する場合、一つ一つの手順をしっかり踏まないと効果が十全に発揮されないケースがあった。それに引き換え呪力のみなら、複雑な手順もなく扱いやすい。そして発揮されないというケースはなかった。今回は今後30分呪力の使用不可を制約とし、一瞬の限界突破(オーバーフロー)を可能としたのだ。

 

 まぁ、本来の縛りの運用方法を少し拡張したたけなのだが。

 

「……これで訓練はおしまい。皆は先に食堂に行ってて。ユウジ、ヒヨリさんはもう?」

 

「あぁ、一時間前からスタンバってるよ」

 

「やったぁ~!会長ありがと!」

 

「流石に疲れた……お腹ペコペコ」

 

 ぞろぞろと、少女達は他愛もない話をしながら部屋を出る。

 

 彼女達にも少しは、普通を与えてあげられたのだろうか。

 

「……ユウジはどうするの?私は軽く整備した後に行くけど」

 

「俺はまだ色々やってる子達に声をかけてから行くよ」

 

「そう。……ユウジ、さん。お買い物、付き合ってくれますか?」

 

 二人きりになると、カナデは昔の姿に戻る。今の教官としての顔は理想の自分を演じている部分があると、前に聞いた。

 

「言ってくれればいつでも付き合うさ。あ、じゃあ明日一緒に来る?アツコも一緒だけど」

 

「できれば二人がいい、です」

 

「了解。じゃ、明日以降のどっかで」

 

「はい」

 

「じゃあまた後でね~」

 

 こんな風に買い物の話ができるようになったのも、皆が完全じゃないとはいえ前を向けるようになったのも、全部ユウジのお陰だ。

 ……時々、思うことがある。彼はなぜここまで献身的になれるのか?はっきりと言ってしまえば私達はどこまでいっても他人であり、異なる生命のはず。それのために、そんな不確かなもののために彼は日々、最大限の努力をしてる。

 

「……敵わない。けど、支えることはできる」

 

 

 

 

 

 

 

「皆~、もう昼の時間だよ~」

 

「あ、もうそんな時間?んー……わりと長くやったな」

 

「やっと終わった……」

 

「自習お疲れ様。ゆっくり休んでね」

 

 

 

 

「はいはい。もう訓練は終わりにして、ご飯食べに行きなさい!」

 

「……はい」

 

「ふぅー……すこぶる順調。会長、また勝負、受けてね」

 

「会長に銃を向けちゃダメだと思うんですけどねぇ……あっ、会長~。そろそろ新しい銃が欲しいなって思ったりするんですけどぉ!」

 

「分かった分かった。検討するから」

 

 

 

 

「「「いただきま~す!」」」

 

 まるで前世の、中学校の給食のような時間。友達と話ならが食事を進めていて、賑やかな雰囲気が漂ってくる。

 

「今日はずっと数学やってた~。今はね……確か三角関数?ってやつをやってる」

 

「へぇ~。私は数学苦手だから、どのくらい難しいのかも分からないや」

 

「でもその変わり、国語めちゃめちゃ得意じゃん。私現代文読めないんだよねぇ……」

 

「良かったら今度一緒にやる?私は数学教えてほしいから、教え合う感じで」

 

「いいね!」

 

 そんな他愛ない会話が、BGMのようにいたるところで発生している。

 ある者は勉強、ある者は趣味、ある者は食事など、話題は千差万別。

 

 これが、この光景そのものが、あの頃から目指した『普通』だと、胸を張って言える。

 

 間違いなく、幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……きろ!起きろ!」

 

「ん……サオリ?もう朝?」

 

「あぁ。今日はアビドスに行く日なんだろう?アツコが首を長くして待っているぞ」

 

「……はっ!しまった!」

 

「ユウジー、まだ?」

 

 部屋のドアから、ひょこっとアツコが顔見せた。呑気かもしれないが、随分美人になったもんだ。

 

「すぐ行く!先に門の前で待ってて!」

 

「はーい」

 

「はぁ……お前は変わらんな」

 

「俺達がいない時は任せた!もし緊急事態があったら連絡してくれ!」

 

「了解」

 

 これまでが序章とするなら、ここからが第一章といったところだろう。世界の歯車に彼らが加わった時、どのような変化が起こるのか。

 

 変わりゆくキヴォトスに、彼らはどう立ち向かうのか。

 それはまだ、誰にも分からない。




原作開始には後数話挟むと思います。何年かかっても完結させますので、見守ってください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。お気に入り登録や、感想を書いていただけると作者が狂ったように喜びます。
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