やっと原作です。ここまで一年以上かかるとは……申し訳ありません。
活動報告に書いた通り、ここからは投稿頻度が遅くなると思います。首を長くして、お待ちしてください。
それでは、どうぞ!
「そんじゃ行ってくる。サオリにはなるべく早く帰るって伝えといてくれ」
「……看病は私がするから、ユウジ達は安心して行って」
「それもそうだな」
「サっちゃんには何か買っていこうね」
「おう」
また、アビドスに行く時が来た。
本来ならもう少し間隔を開けて行くのだが、今回はあえて間隔を短くした。気がかりなこともあるし。
サオリと一緒に行く予定だったのだが、体調を崩してしまった。こんな状況なら治ってから行こうと思っていたんだけど……頼まれたからなぁ。用事だけ済ませてすぐに帰ろう。
「しっかし、お前がそんな必死になって着いてこようとするとは思わなかったよ?」
「いいでしょ? 二回連続ぐらいなら」
「ヒヨリすごい行きたそうだったんだけど……」
「次はヒヨリだよ。大丈夫」
ヒヨリはアビドスの皆にかなり懐いている。いや、その中でも特にホシノさんか。
あの二人の関わり方はなんというか……親子のようなものを感じる。母性に飢えているのかホシノさんがヒヨリを可愛がり過ぎるのか……
「何か考え事?」
「あぁいや、ヒヨリとホシノさんって特別仲いいよなぁって思って」
「確かに。ヒヨリは可愛がってくれる人に懐いてて、ホシノさんは素直に甘えてくれる人を甘やかしてるって感じなのかな?」
「そうかも」
アツコが言った通りかもしれない。アビドスの皆は素直に甘えてはくれなさそうだから、ホシノさんも少し寂しいのかも。
そんな感じで談笑しながら、途中で休憩しつつ数時間後。歩き慣れた砂の大地に足を踏み入れた。
俺たちのために用意してくれた特別許可証をかざし、校内へと入る。静かだなぁと、そんな月並みな感想を浮かべた。
彼女らはいつもの部屋にいることだろう。のんびりはしてられないからな。
いつものような少し騒がしい喋り声が聞こえてきた。不法侵入にはならなそうで安心だ。
「失礼しまーす」
「あ、ユウジ」
「そういえば、今日は来る日だったわね。いつもありがとう」
「ユウジ君、長旅ご苦労様でした♪」
「あ、ユウジさん! 今回はお話したいことが沢山あるんです! いい時に来てくれました!」
いつも通りだと、そう思っていた。
「その子たちが前に話してくれた、アリウス分校の子たちかい?」
その男の顔を、見るまでは。
「そうです。アリウス分校とアビドスは学園間で協力体制を敷いていて、私たちはいつも多大なご支援を受けているんです」
「ん、感謝してる」
「先生が来るまで何とか物資がもったのもアリウスのおかげよね……」
「自己紹介を。つい先日連邦捜査部シャーレに着任した『先生』です。よろしくね」
声が、出なかった。それは人見知りをしたわけでも、この世界に俺と同じ男がいたという事実に驚いたわけでもない。
後ろから顔を出さず、俺の体に隠れ服を弱弱しい力でつかんでいるアツコの存在があったからだ。
察してしまった。アツコはまだ、奴の幻影を振り切れていない。いや……当たり前か。それに素知らぬふりをしてきたのは俺でもある。
「……後ろの子は大丈夫かい? もし体調が悪いなら、保健室に行くかい?」
「近づくな!」
つい、怒鳴ってしまった。もしかしたら俺も、大人への不信感を募らせたままなのかもしれないな。
「……悪い、ノノミさん、アツコを頼む。少し水分不足かもしれないんだ」
「……分かりました」
明らかな嘘だと見抜かれているだろう。俺がその注意を怠らないことは周知の事実だ。心の中で、お礼を言った。
「失礼しました……俺は虎杖ユウジ。アリウス分校一年生で、一応生徒会長をやらせてもらっています」
「一年生で生徒会長……私が知り合っている生徒の中では初めてだ。何か困ったことや相談事があれば、いつでも話していいからね」
「ありがとう、ございます」
シロコ、セリカ、アヤネの三人は気づいていた。あのユウジが、先生に対し警戒の色を向けていることに。
薄々察しはついていた。彼、彼らもまた、自分たちと似たような痛みを背負っているのではないかと。それが事実であることに、疑いようはなかった。
(……アツコ、大丈夫かな。)
(脱水なわけないわよね……先生の顔を見た途端、顔色が悪くなったし)
(私が迂闊でした……しっかりとした連絡をしていれば、このようなことには……しかし、あれほどとは)
二人が話している傍ら、彼女らは緊急会議を開いていた。まさかこのような事態になるとは予想だにしていなかったのだ。彼女らはこの場にいない先輩に虚しい思いをはせた。
(緊張、いや、これは警戒だ。どうやらこの子も、あの子たちのような苦労をしたらしい。……あの女の子には、申し訳ないことをしてしまったかな)
流石と言うべきか。彼はユウジの皮を即座に破いていた。しかし計算外であるのは、その憎しみがどの程度なのかという推測がまったくの的外れであることだ。
「……いいや、性に合わない」
彼はそれまでの口調を崩した。
「あんた、なんなんだ? もしここをどうこうしようっていうなら、俺が黙ってないぞ?」
「ゆ、ユウジさん、違うんです。先生には私が手紙を出して助けを求めたんです」
「あんたが心配するような状況じゃないわ。大丈夫よ」
「ユウジ、少し落ち着こう」
今の彼は著しく視野が狭かった。それにより、彼女らが過去のアリウスの『兵士』の姿に、重なってしまった。
彼にとってこの世界の大人とは、ベアトリーチェや黒先、カイザーといった悪党のことを指す。ホシノがいる以上騙されているというのは考えづらいが、それでも万が一がある。
余談だが、この時の彼にあのラーメン屋の店主の顔は浮かばなかった。自身が唯一知るまともな大人であるのだが、悪い思い出ばかりが先行しているのだ。
「先生だよ」
彼は先ほどと何も変わらない様子で、言った。
「すぐに信頼してほしいとは言わない。何なら一生、私のことを信じなくてもいい。ただ、これだけは確かだ」
「生徒たちに寄り添い、その選択の手助けをする。それが私の役割であり、存在意義だ」
「……あの子には申し訳ないことをした。謝罪するよ」
その言葉に嘘がないと確信が持てるまでにかかった時間は、数秒もなかったように思えた。結果として彼は、この世界で二人目の『普通の大人』という存在に出会った。
瞳を見ればその人の審議が分かるというが、その通りらしかった。
「……さっきは、ごめんなさい。でも今日は、帰っていいですか? 今は冷静じゃなくて」
「私が席をはずそう。この子たちに用があって訪ねて来てくれたんだろう?」
「……ありがとう、ございます」
結論をまとめるなら、全てがカイザーに仕組まれたことだったということだろう。
襲撃犯とカイザーローンが金という分かりやすい形で繋がっていると明らかになった今、カイザーコーポレーション本社が関わっている可能性がある。しかし……
「分からないな……どうしてそんなことを? 何か借金じゃない、別の目的があるとしか思えない」
「そこら辺は今探ってる途中。……もう、カイザーに殴り込んだほうが早いかな?」
「ダメだってシロコ先輩! それは何回もホシノ先輩に止められたでしょ!」
「……いっそそうして、真意を問いただすのもありかもしれない。俺たちとアビドスが力を合わせれば、カイザーぐらいなんとかなる」
「ユウジまで! はぁ……そもそも、いくら強くても借金はどうにもならないじゃない」
「「……」」
「そこは一旦、放置するしかないかもしれません。とにかく今は、現状を少しでも改善できるような何かを模索しないと……」
アリウスにもう少し資源が残っていれば、さらに利益を生んでアビドスをより支援することは可能だった。いっそのこと観光地にでもしてみようか?……いや、無理か。立地が悪すぎる。
大人に対抗できることは、力しかない。しかしその力も、契約の前には意味を成さず、ただの憂さ晴らしで終わる。
意味のない力。それは暴力でしかなく、正当性が担保されない。
「……今日はその、すいませんでした。近日中に訪ねてほしいと言っておいて、配慮を怠ってしまいました」
「いいよ。……あんまり、大人にはいい思い出がなくてさ」
「それは私たちも同じよ。でもあの人は……アビドスと、真剣に向き合ってくれた。変なところもあるし抜けてるけど、ちゃんと私たちを見てくれる。あなたと同じように」
セリカは何かを思い返したように、そう言った。
「……アリウスには、本当に感謝してる。ユウジたちがいなかったら、私たちはもっと苦しかった。」
シロコもそれに続くように言った。
「いきなりどしたの。気にしなくていいって何回も言ってるだろ? それに、感謝してるのはこっちのほうだ。アビドスの皆のおかげで、アリウスには友達ができた」
俺一人しか関わっていなかったら、あの子たちはあそこまで大人にはならなかった。外と交流したからこそ、刺激を受け成長することができたのだ。
もう、俺よりもずっと立派だ。
「……また来る。先生がここを訪ねる日に、もう一度」
次はちゃんと、話したい。
……ん、あれ? 私、寝てた?
「……! 起きたか。大丈夫か?」
「ユウジ……ここは?」
「アビドスの保健室。ノノミさん、ずっと見ててくれたんだぞ?」
「アツコちゃーん! 目を覚ましてよかったです!」
少し時間がたった後、思い出した。
(そうだ……私、まだ……)
見知らぬ大人を見て発作のようなものを起こし、倒れてしまったんだった。……大将みたいにいい人もいて、悪い大人だけじゃないって知ったはずなのになぁ。
「……あの、男の人は?」
「……アツコ、今日は帰ろう。この状態の君に、無理はさせられない」
「……うん、分かった。ノノミさん、ありがとうございました」
「お礼なんて! むしろ、可愛い寝顔をずっと眺められて役得でした~!」
相変わらず、気遣いが上手い人だ。
私たちはそのまま校舎を後にした。
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