「大原様、残念ながら貴方は亡くなってしまいました。」
目の前にはどこからともなく光が満ち満ちている空間。時の流れも空気の動きも認識できない。しかし、その声だけははっきりと脳内で綺麗な音を奏でた。
余りにも唐突に告げられたその内容に対する感想は意外にも純粋な納得感だけで、不思議にも何の違和感も感じることは無かった。死因は何だとか、もし他殺なら誰にどんな目的でとか、事故ならどういう状況でとか何となく知りたいことは沢山あったが、目の前の存在から薫ってくるあまりにも大きな存在感がそれを押しとどめた。
なにより結果が決まっているのに後から過程を振り返るのはあまり好きではなかったのだ。入試だろうと就職だろうと、次に受けるのならば反省にも価値が生まれるだろうが、結果が既に決まっていたら今更気にしてなんになるのだろうか。そこに不正や間違いがなく粛々と手続きを受けた結果ならばそれを覆そうというのはあまりにも不毛な努力に過ぎる。死んだなら死んだなりの世界にうまく適応する努力こそが人生の鍵であることを考えるよりも先に身体が覚えていた。
「大変申し訳ありませんが、こちらの間違いでうっかり生命活動を止めてしまいました。命数管理局の資料保管庫内で死亡予定者リストを作成した際に誤った抽出条件を設定してしまい、それをもとに死亡執行局が執行した際の作業報告の集計作業中に発覚しまして....」
いや、間違いだった。なんかすんごい受け入れていたけど思いっきり手違いだった。しかもなんか思いっきり事務的なミスだし。天命の書板でも誤字はするということだろうか。しかも、何で殺してから気づいているんだよ。せめてミスしても二重チェック体制で殺す前に確認してくれよ。なんか神様っぽい雰囲気で全部丸め込まれそうになったけど、記者会見ものの大失態だよ。というか戦争とかで大量に死んだらその体制では管理が崩壊しちゃうんじゃないのか。なんだか心配になってきた。
「戦争のように人間同士が殺しあう場合は直接執行する必要はないのですが、自然死だとそうは行きません。明確な死因がないのでこちらから執行する必要があるのです。近年はこういうケースが急増しておりまして、人員の急な増員のなかで今回のようなことも生じてしまうという訳でして...」
なんか言い訳が始まったんだけど、聞いたのは確かにこっちだけど今聞いてもなぁ。大変そうだなと思っても、それでじゃあ許しますとはならないからな。ほんとどうしてくれるんだよ。きちんと補償してくれないとこっちも出るとこ出てもいいんだぞ。なんならSNSに晒してやろうかな。こっちにSNSあるか知らないけど...。
「大原様には大変ご迷惑をおかけしました。つきましては異世界、それも生前お好きだったモンスターハンターの世界に転生する形で補償とさせていただきたく...」
ほぉほぉ、なるほどね。モンハンへの転生と。なかなか心躍る感じがして悪くない。小中高とよく遊んだし大学生以降も新作が出るたびに暫くそれに熱中するくらいには好きな作品だった。世界観含めて好きなゲームだったし思い入れの深いゲームでもある。転生というのも概ね相場通りだったりするのだろうか。悪くはない。悪くはないけど.....あと一声足りていない。そんな気がする。なんかもう少しないかな。
「そっ、それでしたら特典としてバッグ容量の拡張をお付けしますので。通常より多くのものを持ち運び出来るようになります。日常でも狩猟でもなかなか便利なものでして...」
弱い!!!いや確かにありがたいよ。そういうベースの部分から底上げするっていうのは鉄則だし、汎用性の高さも素晴らしい。でもね、モンハンの世界で何が大事かっていったらそれは力だろう。折角の世界観も病弱だとか非力とかではただ食われるだけになっちゃうし、下手すれば勝手に村ごと滅びかねない世界だからな。それに、これはあえて聞いてなかったんだけど、性別とか出身とかそのあたりってどういう風に決められるのかな?
二度目の人生だし、今回は女性がいいな。正直防具の可愛さでサブデータの女キャラのほうが遊んでた時間が長いなんてこともあったし、ザザミシリーズあたりが好きなんだよね。
「わっ、分かりました。性別はそのようにします。出自についても日々の生活にも困窮するようなところや危険地帯にはならないようにいたしますので..... 。身体能力についてなのですが、ベースをあげることは制約があって難しいです。しかし、スキル管理局のほうに今回だけの特典ということで認めさせるよう努力いたしますので...」
あっそう。いやー、悪いね。なんか脅したみたいになっちゃって。
そこまで誠意を見せてくれるんだったらまあ。今回みたいなことは誰にでも起こりうることだしね。ここは一社会人としてこの辺りで手を打っておきますか。ぐへへへへ。
あっ、こっちの契約書にサインすればいいのね。はいはい。もちろんです。
今後はこういうことないように頼みますよ、ほんとに。
ほんとにいい神様で助かりました。今後とも御贔屓にーーー。
そして今、俺...いや私は水没林地帯をとぼとぼと歩いて...というより走っている......
周りには鬱蒼としげった背の高い植物がそびえたち、地上まで届く光は強烈な熱帯の太陽のわずかな割合に過ぎない。腐った木やぬかるんだ泥は足場を常に危険なものとし、いたるところにある濁流は気分で降り始める雨によってその力を増す。わずかな光を求めて貴重な草花が咲き、それを求めてこれまた多種多様な昆虫が集まる。倒木は新たな植物の揺りかごとなり、それがすぐさま森林を再生させていく。
活力溢れる森は大量の生産物を生み出し、それが巨大なモンスターを養う。だからこそ、大型のモンスターがいたるところに出没し、その頻度は他の領域とは比べ物にならない。
そんな危険な領域に私はなぜいるのか。
別に何かから逃げてきたわけではない。あえて言うならばその逆である。
すなわち、この水没林に住むモンスターを求めてきたのだ。
といっても、特定のモンスターを討伐するとか捕獲するとか、はたまた調査をするといったことでもない。そもそも、私はギルドから何らの依頼どころか許可すら取らずにここに入り込んでいる。それもそのはずで、私の今の年齢は14歳。正規の方法でハンター認可をとるにもいささか幼すぎる年齢だ。よしんばハンターとしての認可を得たとしてもあくまで村の自衛だとか簡単な採取が精々で、人里離れたこんな水没林に入り込むのは一人前のハンターでも少数のみが許される行いだ。
ではどうしてここに来たのか。
答えは単純。
お腹が空いたからだ。
いや、説明させてほしい。正直自分自身でも意味不明なんだが、これもあのクソ神連中のせいなんだ。
あの時くれると言っていた身体能力の強化。これは素晴らしいくらいに完璧な形で私に備わっていた。単純な身体能力、運動能力や感覚能力の強化に加えて物理防御と各属性耐性の超強化という申し分ないものだ。原作での攻撃や防御のスキルなんかと比較にならないほどの強力な強化が常時備わっているようなもので、それに加えて走力や衝撃への耐性なんかも高くなっているのでどんな悪路もへっちゃらである。
しかし、一点だけ、一点だけ最悪なことがあった。それは燃費が異常なほどに悪い事である。どういう仕組みなのかは知らないが、常時発動のスキルの癖に物凄くカロリーを消費するのだ。その量は尋常ではなく、常に食事を取っていないと空腹感を感じるし、寝起きに食べるものがないと立ち上がるエネルギーすら残らない。意識的にオフにもできないので食べるしか道はない。
幼いころはスキルが抑えられていたのか、一日6食食べるという方法で凌げていたもののその量はだんだんと増加。10歳になる頃にはその食事量は悪魔につかれたのかと両親が心配するほどになっていた。幸いにして生まれた家は大きめの街の領主を務めるほどの家ではあったものの、無限の食料を供給し続けられる訳ではないのは明らかだ。
転機になったのは両親がいろんな手を尽くす中で偶然手に入れた火竜の上カルビだった。これを食べた私は一時的に満腹感を味わうことができたのだ。どうやらモンスター由来の高いエネルギーの籠った食品ならば通常の食事に比べてより効率的にエネルギーを吸収できるようだ。しかし、いくらなんでもこんなものを常に供給できる訳ではない。
そうして私は生まれ育った家を出た。
今世の母から教え込まれた作法と叩き込まれた一人称でもって両親と妹、世話になった人々への感謝の手紙をしたため、手ごろな剣とナイフを抱えて飛び出したのだ。
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