投稿ミスりました。すみません。
ドシィィィィイイイン
水没林に響き渡る爆音はそこに巨大な獲物がいることを示している。そして、巨体を叩きつけるようなモンスターといえば......
音のする方に飛ぶように走る。泥を跳ね飛ばしながら向かった私が見たものは
山だ。山のようなお肉だ。
ドボルベルクがそこに居た。
ドボルベルク、尾槌竜の名前の通り巨大な尾を武器とするモンスターだ。その特徴はとにかく巨大な体と巨大な尾であり、これらを軽く振り回すだけで人間に致命傷を与えるには十分だろう。
そして、巨体ということはそれだけ大量の肉が取れるということであり、水没林で会いたいモンスターランキング(私調べ)のトップでもある。
そして、ドボルベルクが戦っている理由も分かった。ドボルベルクの影に隠れた巨大な蟹、ダイミョウザザミがその足元をウロチョロしている。かなり興奮した様子だが縄張りか何かを争っているのだろうか。ともかく思わぬ食べ合わせに私のテンションが上がる。
後から考えると、数日間新鮮な肉を食べていなかったことが異様なハイテンションを生み出していたのだろう。
私は即座に大剣を抜き、まずはダイミョウザザミに向かって斬りかかる。ダイミョウザザミをあとに残すとドボルベルクのお肉に傷をつけかねないので先に排除しなくては。
咄嗟に防御姿勢をとったザザミに対して私の溜め切りが襲いかかる。
ガキィィィン
凄まじい音は両者が反発したことで生まれたものだが、姿勢を崩したのはダイミョウザザミの方だった。私は追撃をしようと大剣を振り上げる。しかし、そこに待ったをかけるものがいた。
もみ合っているダイミョウザザミと私に向かってドボルベルクが突進を敢行したのだ。
予備動作を見逃していた私はダイミョウザザミ諸共吹き飛ばされるも、空中で姿勢をコントロールして両足での着地に成功する。
一方のダイミョウザザミは飛ばされたときに横転し、弱点の腹を晒していた。
「うりゃぁぁぁあああああ!」
そこに私の真・溜切りが発動する。
ガキィィィン ゴキィィィイイイ
咄嗟にダイミョウザザミがハサミを出すも私の一撃によって巨大なハサミが吹き飛び、いよいよ無防備な腹部を守るものが無くなる。そこに向かって大剣を突き立てると、ダイミョウザザミは動きを止めた。
さあ、あとはドボルベルクとの対決だ。
と意気込んだものの、正面からではやや分が悪い。ドボルベルクは決して硬いモンスターではない。単純な刃の通りにくさでは圧倒的にダイミョウザザミのほうが上と言える。しかし、その巨体と生命力は切り傷程度はものともしないタフネスさを誇っていた。
何度か切り付けてみるもいまいち効果があるように感じられない。
そこで、私は脚を狙うという姑息な手段に訴えることにした。体表に傷を付けて失血死を待つのは非現実的だし、お肉の質低下を招きかねない点でもよろしくない。そうなると機動力を奪い取るのが最善手だ。
ドゴオオォオッォォォン
バコォォオオオオオオン
巨大な尾が振るわれるたびに大木がへし折られ、大岩が砕け散る。しかし、ただでさえ小柄な私に対してそんな大振りの攻撃など当たるはずがない。ステップで簡単に躱して足元に入りつつ、溜め斬りを浴びせかける。
そんな攻防を数回繰り返したのちに、ドボルベルクは必殺技の構えに入る。尻尾を振り上げて回転を始めたのだ。完成すれば周囲すべてを吹き飛ばす大技も、開始直後には隙が多い。
「くらえっつ」
私は回転しながら尾を潜り抜け、渾身の一撃を右脚に叩き込んだ。
グォォォォォォォ……!!
ズゥゥゥゥゥン……バキバキッ!!
「はあぁぁぁあああ!」
咆哮を挙げながら倒木の上に倒れこんだドボルベルクの残った左脚を真・溜め斬りで切り飛ばす。両脚を失ったドボルベルクは全くもって機動力を喪失しており、これでドボルベルクがどんなにあがこうが俎板の鯉である。
もはや、私の頭はこの巨大なモンスターをどう解体するかに向いていた。
次の瞬間、私の視界がゆがんだ。
ドゴオオォオッォォォン
ドボルベルクの尾の一撃を喰らったと認識したのはワンテンポ遅れてやってきた痛みだった。倒れた状態からの渾身の力で叩きつけられた私の体は地上10メートルにまで打ち上げられ、大木に全身を打ち付けた。
「いててっ、あっちこっち痛いなぁ」
しかし、私の体は頑丈である。いつも無駄に消費するエネルギー分の働きによって、ちょっとしたふらつきで済んだ私はすぐさま立ち上がり、近くに落ちていた大剣を手に取る。
やってくれたなという気持ちしかないが、ドボルベルクが動けないという状況は変わっていない。結局のところこちらが油断しなければドボルベルクには抵抗する手段はないし、私はただ粛々と解体すればよい。さあ、肉祭りだ。
「くぅーーー、やっぱり最高だ。ドボルベルクに幸いあれ。」
今度は油断なく止めを刺してから解体を進めた私は、ある程度解体を進めたところで我慢できずに肉を焼き始めていた。特にコブとその周辺の肉は蓄えられた脂肪が筋肉の間に入り込んでおり、とろけるような触感が肉本来の旨味を引き立てている。これがうわさに聞いた霜降りのコブというやつだろうか。コブ周辺を傷つけないで倒した甲斐もあるものだ。
肉を焼いては食べることを繰り返していると、匂いにつられたのか後ろの林で何かが蠢く気配がする。
しまった、完全に油断していた。万が一、ドスフロギィやロアルドロス亜種であったら折角のドボルベルクのお肉が毒によって汚染されかねない。
私はあわてて外していた頭部の装備をかぶり直し、大剣を手にして振り返る。そのまま音がした方に突撃する。私の大切なお肉に近づく前に止めなければ。
そう考えて突っ込んだ私の前には泣きながら武器を降ろして両手を挙げる2人の青年が佇んでいた。
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「私は水没林で大繁殖しているドスフロギィを狩りにいく。民を守るためにも行かなくてはならないのだ。」
「お待ち下さい!!無謀です!!」
またいつもの発作が始まった。それが我々2人のみならず近衛全体の感想だろう。
正義感が強いことは王族として誠に結構なことながら、ご自身で狩りに行くというのはあまりにも無謀というかせっかちというか。責任感が強いのは将来を考えると臣下として心強いものの、どうして英雄譚にすっ飛んでいってしまわれたのか......。必死で主であり友でもあるこの少年を押しとどめるのはもはや何度目か分からない。
まあ尤も、意見表明の前に城から抜け出して実際に何度もモンスターに接触している一つ下の王女殿下と比べれば、我々に相談があるだけ百倍マシだろう。近衛師団を翻弄して脱走するという王女殿下に仕えるには心臓がいくらあっても足りないに違いない。かの方の脱走の報を聞くたびに仕える相手がこちらで良かったと思ってしまうほどだ。
「まだ第一報ということですし、騎士団を動かすにはもう少しその原因を明らかにする必要があります。まずはギルド側のハンターの調査を待ちませんことには......」
「それを待っている間に町が襲撃されることも考えられる。いささか悠長すぎる。だからこそ私が.......」
「いえ、ならばギルド側に追加の報酬を支払って優先度を......」
昼に始まった殿下の発作は夜まで続いたが、結果的になぜだか殿下の代わりに我々近衛二人で討伐に向かうことになっていた。案外我々も殿下の熱に乗せられていたのかもしれない。全く困ったお方である。
王都を出発してはるばる水没林に到着した我々の前に広がるのは鬱蒼とした植物の山だった。ここ水没林には何度か来ているものの、来るたびにその自然の力には圧倒される。とはいえ、佇んでいても任務は進まない。相棒と手に握ったランスを交わして気合をいれて奥へと進む。
「想像以上にモンスターの数が少ないな。」
「確かに、通常時でもフロギィの群れくらいはいるはずだが...... 大繁殖しているというのは誤情報であったのではないか?」
「もしくはそれ以上のことが起きていることもあり得る。もう少し奥まで探ろう。」
意気揚々と進んだ我々であったものの、ドスフロギィが大繫殖しているとされる領域に着いても全く以ってモンスターの影が見当たらない。まるで騎士団による掃討作戦が行われた後のような、モンスターがいるはずのところにいないという違和感が頭を混乱させる。
こういうのは得てして良くないものの前兆であると直感は告げているものの、今帰還したところで大した情報は持って帰れない。偶然会わなかったということもないわけではないのだ。
せめてギルドや騎士団が対応策を打てる程度の情報を持ち帰らなくては.....
そういって勇み足で進みすぎたのが悪手であったのかもしれない。
突如地下から出現したダイミョウザザミと遭遇戦に陥ってしまったのだ。突然の急襲は完全に不意打ちとなり、罠も強化もない状態での戦闘は不利であったものの初撃のブレスのガードに成功したことでなんとか均衡状態に持ち込んだ。
しかし、その直後に最悪の事態に陥ってしまう。
撤退しようとする我々に対してダイミョウザザミが放ったブレスは目標を逸れて、巨大な苔むした岩に当たる。目を疑うとはこのことを言うのだろう。ブレスが命中したその岩が轟音を立てて動き出し、我々の前に立ちふさがったのだ。
ドボルベルク。
それが巨大なモンスターの名前だった。睡眠か休息か、そのいずれかを妨害されたドボルベルクは怒りをあらわにして暴れ始める。巨大な尾を振るってダイミョウザザミを吹き飛ばし、大木をへし折り、地面を揺らす。逃げようにも振動でまともに立ち上がれない。
大木の影に隠れてやり過ごせますようにと祈っていた我々の前に現れたのは一人の小柄なハンターだった。