ジャンボ村に戻った私は淡々とクエストをこなしながらあるものを買い込んでいた。
それはあらゆるものを見通す眼を与える薬。通称千里眼の薬である。
まあ、近くにいるモンスターのおおよその位置が分かるようになるという触れ込みの薬であり、水没林のように鬱蒼と茂った場所では有効だろうと考えたのだ。遺跡平原ではそこまでする必要を感じなかったが、これからは頭も使う必要があるかもしれない。
本来なら空いていた装飾品の枠でスキルを発動させたいところであるが、ドンドルマの裏路地にある口の堅い加工屋以外に装飾品の製作を頼めそうな相手がいないのが問題だ。購入できないかとも思ったが普通ハンターはもっと有効なスキルを使うだろうし、意外に出回っていない。お守り集めもしていないので、適切なスキルを発動させるのは難しい。
思えば満腹スキルに期待していたころが懐かしい。それらのスキルに効き目がないことを悟ってからはスキルを気に掛けることもなくなっていた。今後は多少はお守りを探すようなことをしてもいいかもしれない。
ともかく、これでとりあえずモンスターを見逃すことは減るに違いない。次の水没林遠征が楽しみだ。
クエストの方も大型モンスターを相手にするものも受けさせてもらえるようになった。噂によると、新米ハンターには大体先輩がついてある程度まで面倒を見たりするそうなのだが、何故か私には話すら来なかった。どんどん新しいハンターが増えてるみたいだし、その辺も大変なんだろうか。もっとも、来られても困ると言えばそうなのだけど…
代わりにといえば、パーティに誘われることは時々ある。この間も、ここのギルドでも人気の少女三人組とドスランポスの討伐に誘われるという神イベントが発生したところだ。
彼女たちはこの辺り出身で昔から仲の良い三人組だそうで、普段から大型モンスターを中心に狩猟している。ハンターと言っても大型モンスターの討伐に参加するというのは実は少数派であり、それをメインにしている人というのはさらに少ない。
普段酒場で話しているおじさん連中も、他の職業と兼業で時間があるときにハンターとして小型モンスターを狩っているだとか、ドスランポスを狩ったことを誇りにしているだとかも多い。ハンターとしてはほぼ休業状態だがギルドに雇われている解体屋として開花しちゃったなんて人もいるので一様には言えないが、6割7割のハンターは隊商の護衛や人里に出てくる小型モンスターの討伐以外を受注しないのではないだろうか。
そういう訳で、大型モンスター討伐の経験が豊富な相手と一緒にクエストに行くことは貴重な経験を積める良い機会なのだ。決して邪な下心があったわけではない。あわよくば一緒のクエストで可愛い娘と仲良くなって...なんてことは考えていないのだ。
えーっと、結果はだって?
ガワだけ女の子になったからと言って女の子の会話に違和感なく混じれるわけがないだろう。いつもの酒場のおっさんとの会話ならば良かったのだろうけど、流石に荷が重い。逆にお嬢様チックな話題なら仕込まれた分だけなんとかなるんだけどなぁ。
その代わり、いつもみたいに大剣でゴリ押したりせず力のセーブは完璧にやったので怪しまれることは無いはずだ。まあ、例によって結構な頻度でお肉をつまんでいたのは許してほしい。これでもドボルベルクのおかげで少ない量で耐えれた方だ。
そうこうして2週間ほどするとお肉のストックが底をついてきた。酒場で毎日ある程度の量を食べて補ってはいるが、そろそろ狩りに行く必要がありそうだ。クエストの方も順調に進み、イャンクックを討伐したことで一区切りというところ。一旦ジャンボ村を離れてお肉集めに移ることにしよう。
そんな私が次の目標にしたのは原生林と呼ばれる地域。水没林と比べて地面は安定しているものの、水没林以上に調査が進んでいない地域でもある。ただ、その分手付かずで残っているモンスターも多いに違いない。
そういう訳でやってきたのは原生林。とりあえず、そのあたりにいたケルビのお肉を回収しつつ大型モンスターの姿を探る。意外にも水没林よりも見通しがよい気がする。あとは、どんなモンスターがいるかというところだが。
そう思って見渡していた私はあるものに気が付いた。
それは一見すると浸食を受けた岩が奇妙な形で残ったように思わせる。触った感触もまさしく岩そのものであり、それだけをみて全体像を理解するのは困難だろう。
それは巨大な生物が残した骨格だった。
信じがたいことに数百メートルはあろうかという開けた場所を覆うように巨大な骨格が存在しており、それらは木々よりも高いところからここら一帯を覆っている。
この骨の主が一体どういう存在だったのかは想像に難いが、きっと私の数年分くらいのお肉が取れるに違いない。そして、もっと重要なことはここ原生林にはこのような存在を支える豊かな生態系があるということだ。
さあ、楽しくハンティングだ!!
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最近新しくギルドに加わったハンター、ティティは瞬く間に酒場の人気者になった。
はじめは教官のおじさんを吹っ飛ばしたことで少し恐れられていたが、それも少しの間。もとよりモンスターに立ち向かうにあたって唯一頼れる強さを持っていることは評価を上げこそすれ、下げることはない。なにより、おじさん連中と臆せずに溶け込み、運ばれてくる料理を片っ端から豪快にお腹に詰め込むその姿は親しみやすさを増したようだ。仕事終わりのハンターたちに頻繁に料理を奢られては自慢話を聞きながらペロリと完食している。
装備や実力からして小型モンスターの討伐を自慢されても困ると思うのだが、少なくとも食事中であれば嫌な顔一つせずに聞いている。はじめは困っているなら注意しようと考えていたものの、奇妙なwin-winが成立しているならば手を出す必要もない。
一人でアッサリとランポスやファンゴの群れを討伐してくる彼女が大型モンスターの討伐依頼を受けるようになるまでに時間はかからなかった。
困ったことに、ここでも彼女は誰かとパーティーを組むことをしようとはしなかった。
大型モンスターの狩猟は通常、3-4人のパーティーを組んで行うことが普通で、私たちのように固定のパーティーのこともあればその時限りのパーティーのこともある。もちろん、ドスランポス程度であればパーティーを組まずに討伐するようなハンターも珍しくはないものの、飛竜や獣竜のような大型モンスターが相手ではそうは行かない。結局のところ、強大なモンスターを倒すことを望むならば、いつかはパーティーを組む必要がある。
というのが私たちに彼女とパーティーを組んでみてほしいと要請してきたギルド側の認識であった。
もちろん、ギルド側も彼女の装備を知らないはずはない。それでもと言ってきたのは将来的なことを考えているのかもしれない。
上の思惑は分からないものの、男社会のハンター業界で同性かつ実力も十分とあれば仲良くしていたいと思うのは当然のこと。私たちは直ぐにその要請を受け入れたのだった。
狩猟に向かう道中、酒場での姿と打って変わって彼女は重苦しい雰囲気を醸し出していた。私たちが話しかけてもほとんど返さないか一言二言で会話が終わってしまう。狩猟に出ると人が変わるハンターは珍しくもないし意外と緊張するのかと思ったものの、頻繁に歩きながら食事を取っている姿は緊張とは少し違う様子にも見える。
彼女の様子が変わったのはドスランポスと出会ってからだった。
私たちがシビレ罠を設置しドスランポスをおびき寄せようとしている間に、彼女は周囲にいたはずのランポスの群れを大剣で一瞬にして切り伏せていた。10頭を越えるランポスはそれだけで個別の討伐対象になるほどの数で互いに連携をとってくる厄介な相手なはずだったものの、ランポスの群れの中を最短経路で進みつつ全て一撃でしとめてしまうならば脅威には成りえない。
呆気にとられた私たちが一瞬手を止めてしまった事もあり、彼女がドスランポスの前まで進んだころにようやくシビレ罠を起動する。しかし、その時には既に彼女の大剣がドスランポスを捉えようとしていた。
このままドスランポスまで一刀両断にしてしまうのかと思った次の瞬間、彼女は恐るべき行動に出た。
なんと、彼女は溜め斬りを途中で止めて大剣から手を離したのだ。そして、ドスランポスにあえて左手を噛みつかせることで動きを封じ、空いた右手でドスランポスの首を掴んでしまったのだ。
ドスランポスは逃れようと無理やりに暴れるが、噛みつきも引っ搔きも全く効く様子がない。ドスランポスは飛び上がろうと後ろ脚で蹴り上げるも、彼女が手首を返すことで仰向けになってしまうことで不発に終わる。その姿は上位種に捕食されつつ足掻く姿そのものだった。
喉を掴まれて動きが少なくなりつつあるドスランポスを彼女は罠の方に向かってじりじりと引っ張っていき、そのまま罠に向かって放り投げた。投げ捨てられたドスランポスに対してもシビレ罠は容赦なく牙を剥く。先ほどまで握りつぶされていたドスランポスの喉は痛々しくつぶれており、全身がシビレながら辛うじて呼吸らしきものを行っていた。
呆然と眺めていた私たちを引き戻したのは彼女の一言だった。
「何とか罠に誘導しました。チャンスです。」
いやいや、誘導というより物理的に捕獲してなかった?という突っ込みをアイコンタクトで共有した私たちは哀れなドスランポスに止めを刺すのだった。
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