「おぉぉぉおおおお」
原生林で千里眼の薬を服用した私は想像以上の効果に感動していた。
視覚や聴覚、嗅覚でも捉えられないモンスターの情報が頭に流れ込んでくる。視聴覚で捉えられる範囲を遥かに越えているにもかかわらず、モンスターが蠢く気配を感じられるので奇妙だが物凄く便利だ。
効果時間はごく短いものの、周辺のモンスターがいる場所はつかんだので問題ない。私は移動を始める前に片っ端から叩いていくことにした。
「ババコンガか... テンション下がるなぁ。」
一番近くに感じていた気配は残念ながらハズレのようだった。ツタにぶら下がっているその身体からは食べる気が起きないし、戦闘についても搦め手を使ってくるので私にとっての相性も良くない。水没林でさんざん目にしたドスフロギィとは比べるまでもなく嫌いと言い切れる。
場所はわかってもモンスターの種類が分からないというのが千里眼の薬の唯一の欠点であることを私は初めての使用で悟ることになるのだった。
そうは言っても野放しにして増えられても気に入らない。私はババコンガに思いっきり斬りかかる。
ザシュッツツツツツツ
私からの大剣の一撃は完全に不意打ちとしてババコンガをツタから叩き落すことになった。ついでに攻撃が尾の根元にあたったことでババコンガの尾はだらしなく下に垂れ下がる。
このままいけば余計な攻撃を受けずに一方的に始末することが出来る!!
そう喜び勇んだ私は仰向けに倒れたババコンガに真上から思いっ切り斬りかかった。
ゲェェエエエエエエエエエエエ
斬りかかった瞬間、私は後悔することになった。それは、叩き落されたババコンガが防御本能故か盛大なゲップを噛ましたからである。
強烈な匂いが私の身体全体を包み込み、世界がくすんで見える。鼻に入った匂いは体中を汚染し、思わずさっき食したケルビの肉を戻しそうになるほどだ。
「うええぇぇぇぇぇっつつ」
この時から、ババコンガは私にとって絶対に許しておけない存在になった。怒りのままババコンガとその周囲にいたコンガを切り刻み、死体を大剣で叩き潰してミンチにする。そのまま落ち葉をかけて火にかけたところで正気に戻った私は、すぐさま消臭玉を作るための材料集めに奔走するのだった。
それにしてもあの悪臭状態は全く以ってシャレにならない。あの匂いが付いたままでは食事どころではないし、下手をすればそのまま飢え死にしかねない。幸いなことに今回は消臭玉の材料がすぐに見つかったものの、フィールドによっては手の打ちようがなかっただろう。
一通り騒いだせいで余計にお腹のすいた私は再び千里眼の薬を使ってもう一度モンスターの気配を探ることにした。
しかし、運に見放されたのだろうか。次に遭遇したのはドスイーオス、その次はゲリョスとどちらも毒をもっているモンスターである。いずれも強くはないので適当に斬り捨てたものの、徒労感は拭えない。千里眼の薬の効果でモンスター発見までの時間が短縮されたお陰でそれほど時間は使っていないものの、短時間で空振りが連続したことは余計にお腹を空かせることになった。
そして、四度目の正直でついに私は素敵なモンスターと出会うことになる。
そのモンスターこそが絞蛇竜ガララアジャラ。原生林の主ともいえる格をもつこのモンスターはなんと40mを超える巨体をもつ蛇である。手足は胴体サイズとくらべて異様に小さく、全身を覆う黄色い甲殻は振動を増幅する独特の構造をしている。
少し開けた場所に堂々と鎮座するその巨蛇は今まさに私の方を向いて戦闘態勢を整えていた。
戦闘はガララアジャラから放たれる鳴甲によって幕を開けた。
この鳴甲がガララアジャラによる咆哮と共鳴して爆発することを覚えていた私はすぐさま大剣で弾き飛ばす。
次はこちらのターンと踏み込もうとすると、ガララアジャラは下がりながらもう一度鳴甲を今度は山なりで飛ばしてくる。こちらは近距離専門というのに、相手だけ飛び道具というのは非常にやっかいだ。
「鬱陶しいなっ」
再び大剣で吹き飛ばそうと空中で迎撃態勢に入ったところで、ガララアジャラは尾を大きく伸ばして私を吹き飛ばそうとしてくる。全長40mの体長からのリーチは想定以上に長い。
「ぐえっつ」
空中故に避けきれなかった私はそのまま吹き飛ばされる。しかし、私も吹き飛ばされるのは慣れたもの。尾を受けた瞬間に角度を調整して近くの岩に着地すると、すかさず空中からガララアジャラに大剣でもって斬りかかる。
バシュッッッッッッッツ
少々狙いが外れたものの大剣の一撃はガララアジャラの尾の先端に命中し、それを見事に斬り飛ばした。
バランスを失ったガララアジャラは一瞬姿勢を崩すも、すぐさま上半身を上手く使ってバランスを保つ。尾による攻撃が失敗したとみたか、ガララアジャラはお得意の全身を用いて締め付けることにしたようだ。
私の周りを身体で囲み、それを徐々に縮めていこうとする。しかし、この攻撃は私に対して無防備な側面を向けることになった。そして、狙いを定めずとも胴体が私の前に迫ってくる。
そこに私は真・溜め切りを叩き込んだ。
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「水没林の調査、御苦労だったな。本来は私が行くべきだと思うのだが....... 姉上を泣かせるわけにもいかない。それで.... 概要は耳にしたが詳しく聞かせてくれないか?」
水没林での任務から戻ると、ギルド側に出した報告の概要部分を既に聞いていたであろう主君、第二王子殿下が待ち構えていた。この国の王子としての教育と各種の差配も大概忙しいはずなのだが、こうして耳聡くモンスターの情報を仕入れているのは流石としか言いようがない。
しかし、異変について事細かに伝えてしまえばこの間と同じ事になることは目に見えている。あの時は第一王女殿下の諫めもあったので何とかなったものの、あれが第三王女殿下だったとしたらなどとは想像もしたくない。お二人での水没林脱出ツアーが催されていたとしても不思議はないのだ。
その上、今回の異変は初めの報告にあった単なるドスフロギィの大繁殖とは比較にならないような深遠なもののような気がしてならない。我々の調査でドスフロギィを確認すら出来なくするほど短期間にドスフロギィの個体数を変化させる要因。どう考えても強大なモンスターの出現を疑うべき案件だ。万が一にでも殿下と遭遇したらと考えると、今回の調査に我々だけで行ったことは我ながら良い判断だったと思う。
そして、今回の調査では殿下の興味を惹きつけられるものが異変以外にもう一つある。そう、ドボルベルクをあっという間に切り伏せたあの少女のことだ。彼女とはお互いに今回の件はギルドには報告しないという話であったが、殿下への報告はそれとは別の話だ。興味深いハンターの話を主君に報告しないというのは臣下として不忠というものだろう。
「兄上! 水没林に行かせたという近衛が帰ってきたと聞いたぞ。わらわにも話をきかせぬか。」
調査全体の話から少しずつドボルベルクの討伐に話を移していると、タイミングよく第三王女殿下が部屋に入ってくる。同僚に目配せをすると、話すしかないだろうとアイコンタクトで伝えてくる。
我々は命の恩人である少女に心の中で謝罪しながらその活躍を余すことなく語りつくすのだった。
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