「ユータ様、お待ちしておりました」
気分が落ち着いてから商館を訪ねると、昨日と同じ部屋に秘書の人サーベスさんが案内してくれ、サーベスさんと入れ替わるようにアレクがやってくる。
「ああ、一日時間をもらえたおかげで決心ができそうだ。そこで最後の決断前にもう一度二人とだけ話をさせてもらっていいか」
「ええ、構いません。呼んでまいりますのでしばらくお待ちください」
買うのは決まっているけど、まだ購入金額だけ考えても一万ナールほど足りないし、今日を入れて後五日金策が頑張れるようにもう一度二人を見ておきたいし、一応二人に本当に俺でいいのかの最終確認もしておきたい。奴隷なんだから意思は関係ないのかも知れないけど、信頼できる仲間になってもらうためにも前向きな了承が欲しい。
「ユータ様、二人を連れてまいりました。あまり長くは時間を取れませんがどうぞお話しください」
「すまないな、最終的な確認だけだ。すぐに済ませる」
アレクが部屋を出ると入れ替わるように二人のドワーフが入ってくる。ひとりは俺を睨みつけるようにしながらもどこかおどおどとして、もう一人は姉の手を握りながら凛とした佇まいを崩さず俺をまっすぐに見ている。
「今日は二人に確認がしたくて、アレク殿に時間をとってもらった。あまり時間はないとのことなのでこちらも単刀直入にいかせてもらうが、俺は君たち二人を購入することに決めた。二人には俺の仲間として、パーティとして迷宮に入ってもらおうと思う」
「ちょ、ちょっと待ってください! 姉は戦いには向いていません。私が姉の分も戦いますから」
身を乗り出し俺へと詰め寄ろうとするセリナを手の平を向けて制すると、言葉を続ける。
「ファンナも戦えるように、できるだけの対策はする。やれるだけのことをして、それでも難しそうなら無理強いはしない」
「……セリちゃん。私なら大丈夫だから、私たちを一緒に買ってくれるだけでも、ね」
「姉さん……わかりました。あなたを信じます」
「ああ、後悔はさせない。そのうえで最終確認だ、俺の仲間になってくれるか」
二人は至近距離で見つめあうと頷きあい、俺に向かって大きくお辞儀をした。
「「よろしくお願いします」」
二人が了承してくれてよかった。あとは俺がなんとか頑張ればいい。そうと決まれば、今のうちに。
俺はすすすっと二人に近づくと白く可愛らしいファンナの左手とセリナの右手を握り、輪になって二人の顔近くに自分の顔を寄せて、小さな声で呟く。
「いいかい、絶対に声をださず静かに【はい】を選んでくれ」
きょとんとする二人から離れるとすぐに脳内で探索者のスキル『パーティ編成』を無詠唱で使用してファンナとセリナに申請を送った。
突然脳内にパーティに入りますか的な申請が送られてきたはずの二人が驚いて俺の顔を見て何か言おうとするが、俺が人差し指を口元にあてて小さく「しぃぃ」とサインすると納得したように頷いて申請を受諾してくれた。手を離して「よろしくな」と伝えると顔が近いせいか眉間の皺がとれたファンナとセリナがはにかみながら頷いてくれた。うく! 萌えとはこのことか。だがそれを日々堪能するのはもう少し後だ。
「アレク殿、話は終わった」
扉の向こうに声をかけると、すぐにアレクが入ってきて双子に目線で下がるように指示をだす。双子はうなずいてから俺に一礼をして部屋を出て行くが、今度は双子の存在を感じることができる。これがパーティか……一人じゃないのが実感できてなんとも心強い。
「ユータ様、それでは」
「ああ、二人とも購入させてもらいたい。ただ、昨日の話のとおりまだ少し手持ちが足りなくてな。四日後の市の日に購入という形でいいだろうか。二人にも四日後に迎えにくると伝えてくれ」
「かしこまりました。それでは四日後、お待ちしております」
アレクの見送りに手を振り商館を辞すると少し歩いて、後ろを振り返る。確かにあの方向に二人がいる。絶対に二人を俺の最初の仲間として迎え入れる! そうと決まればお金でも苦労させないようにあと四日と少し、やってやろうじゃないか。とは言っても今日は取れそうなジョブに挑戦するところまで。
まずはあれだけ走り回れば見つかるよなってことで午前中に見つけてあるボス部屋でニードルウッドのボスであるウドウッドを倒してリーフを拾えば《薬草採取士》が取れる。次は魔物に素手でとどめを刺して《僧侶》を、最後にMP全解放の攻撃魔法を使用して《魔法使い》の取得を目指す。ここまでが今日の目標だ。
迷宮に行く前に置いてある装備の一部を回収するため一度宿屋へと戻る。探索者Lv四になり4×4に広がったアイテムボックスに鋼鉄の剣、銅の槍、革の靴を四つ入れておく。ドロップ品を入れてもいいのだが、レベルが低いうちはあんまり収納力がないから今はリュックでいい。装備を持ったらすぐに迷宮の外の木へと『ワープ』する。この作業中、実は宿の受付を通していないのは内緒である。
そして、あっという間にここまで戻ってきた。マジで便利すぎるだろ『ワープ』。ただ立て続けの『ワープ』で気分は少し落ち込んでいる。MP回復速度は二十倍のままだから気分の悪さはすぐに解消されていくので完全に回復されるのを待っている間にボーナスポイントの割り振りをチェック。迷宮仕様にする前にまずはパーティ関係にポイントを振ってみる。
さて、メンバーが近くにいなくてもジョブ変更とかできるかなっと。
『パーティジョブ設定』と念じるとファンナとセリナの名前が出てきたのでファンナを見てみる。
村人Lv3 探索者Lv3 農夫Lv1 薬草採取士Lv1
おお、見られるな。多分変更も可能っぽいけど、どっちにしろ《村人》は全員Lv5までは上げる予定だからとりあえずこのままでいい。
それにしても俺の見立てではファンナはド近眼でとても今のままでは《探索者》は無理だと思っていたのにジョブはある。しかもレベル三? それなりに戦う必要があるレベルだよな、それにわざわざギルドで《探索者》になったのにまた《村人》に戻したってこと? よくわからないな‥‥‥あぁ、購入希望者が《探索者》だってことで迷宮に行かせようとしてきたら困るから《村人》に戻したのか。それならわからなくはない。
じゃあ次はセリナ。
探索者Lv3 村人Lv3 農夫Lv1 薬草採取士Lv1
うん、セリナも盗賊職はないし育てがいがあるね……でもなんだろう、この既視感。あ、そうか《探索者》、《村人》がレベル三で《農夫》と《薬草採取士》がレベル一。ファンナと全く同じなのか……でも、仲の良い双子だからセリナが過保護な感じで一緒に行動していればジョブが似ることもあり得るか。
よし、じゃあ二人の目標は俺が迎えに行くまでに鍛冶師取得条件である探索者レベル十を達成することにしよう。あとついでに村人レベル五。
次は戦闘用に調整。最初はボス戦だからオーバーホエルミングを使う予定なので武器をデュランダルに戻す。結晶化促進はジョブ取得期間中は諦める。
迷宮に入ったらすぐにボス部屋があった方へ向かう。腕時計ではもうすぐ十五時、初日からあんまり長く頑張りすぎるのもよくない。やるべきことをやって早く帰りたいところだが、午前中はかなり適当に走っていたのでやっぱり大体の方向しか覚えていなかった。結局、見覚えがある扉の前に着くまで三十分以上もかかってしまった。ニードルウッドにも五匹ほど遭遇してしまったのもロスだった、ちゃんと一撃で倒したけど。
いよいよボス戦。大丈夫だと思うが緊張しているようなので大きく息を吐く。フォースジョブなんだしレベル的には問題ないはず。それにもし、このボス戦が楽に戦えるようならボス戦を周回すれば索敵の時間ロスもなくドロップのリーフから毒消し丸を作って売却して金策という流れも選択肢にできる。
覚悟を決めて扉に近づくと、扉が自動で開く。くそ、誘ってやがる。いいさ、やってやる。俺のチートを食らわせてやる。
中に入ると背後の扉は自動で閉まり、部屋の奥に煙が集まって魔物が姿を現す。
ウドウッドLv1
ニードルウッドを大きくした感じの魔物で振り回す枝も太く長くなっている。だが、こちらも防具は硬革で固めているし問題はないはず、だがそれはそれとしてあんなのに殴られたくはないから初手から全力で行く、恨むなよ『オーバーホエルミング』!
すべてが遅くなった世界の中、水中を進むような感覚で走り、振り回そうとする枝を潜り抜けつつ胴体を横に薙ぐ。どうせ一撃で死なないのは分かっているのでそのまま後ろ?に回り込み右上からの袈裟斬りから左上からの袈裟斬りと繋げたところでスキルの効果が切れる。だが、今回は完封を目指しているのですぐに『オーバーホエルミング』!
そのまま相手の攻撃を再度潜り抜けて再度一撃、二撃目を入れる前にウドウッドは煙へと変わった。
よし! よし! 一人でボスを倒した。はは、原作情報からいっても問題ないとは思っていたけど緊張した。『オーバーホエルミング』ごり押しでデュランダル四回? これなら周回もいけるな。おっと忘れないうちにリーフを拾っておかないと。
薬草採取士 Lv1
効果 知力小上昇
スキル 生薬生成
ジョブゲット。リーフは『生薬生成』で毒消し丸を十個作れる。これは確か一個二十五ナールで売れるから一回で二百五十ナールになる。十周すれば二千五百だから三割アップで三千二百五十ナールこれなら期日までに目標額に届く。あれ、でもあんまり売りすぎるのはよくないとかあった? まあいいか、ブランチと混ぜて売りに出せば目立たないかもだし。
そうとなればせっかくだから五周くらいしとこう。二階層に上がって階層更新してから『ワープ』で待機部屋へ……よし、誰もいない。この部屋には『ダンジョンウォーク』は繋がらないとかって話もあった気がするから顔を隠しておいて、誰かいそうだったら『ワープ』をキャンセルして速攻で逃げよう。
結果、ついつい『オーバーホエルミング』が楽しすぎて軽く五周してしまったよ。これでボス六戦、リーフ六枚。うまうま。
探索者Lv5 盗賊Lv7 英雄Lv4 戦士Lv4
ジョブもいい感じに上がったし、これくらいレベルが上がれば《僧侶》と《魔法使い》も取りやすいはずだ。でも、さすがに疲れたから早く済ませて帰ろう。一度、《ダンジョンウォーク》で第一階層の入口に戻って、デュランダルを消して探索者レベルが上がって増えた二ポイントも合わせて腕力に六十五ポイント振る。
アイテムボックスから鋼鉄の剣を取り出して装備したらニードルウッドを探す。見つけたら普通に戦うけど、怖いから一応『オーバーホエルミング』! 鋼鉄の剣でニードルウッドを斬る、斬る、斬る、斬る、『オーバーホエルミング』! 斬る、斬る、あ、倒した。えっと鋼鉄の剣で七回? 六回か。目的のためにはちょっと威力が有りすぎな気がする。
じゃあ次は騎士ジョブ取得の条件かも知れないから装備を銅の槍に換えて、MPを回復しながらニードルウッドを探して勝負。『オーバーホエルミング』!
突く、突く、突く、突く、突く、突く、『オーバーホエルミング』!
突く、突く、突く、突く、突く、突く、くそ、まだ倒れないのか、次にスキル使うと多分メンタルが落ち込みすぎる。ここからは自力で、と思ったとたんにしなった枝が背中を打つ。うぐ! いってぇ! ……てほどではないけど、初被弾は結構な衝撃だぞこれ。でもやるしかない! 突いて、避けて、突いて、突いて、避けて、突く!
やっと倒れた。十六回かぁ……銅シリーズはこんなもんか。でも何となくニードルさんの動きもわかってきた気がするから細かい調整なしで行っちゃうか。次のニードルウッドを探して……いた! 慎重に近づいて初撃の枝ふりをかがんで避けて突く。突く。これを地道に繰り返して十五回突いたらちょっと間合いを取って槍をアイテムボックスにしまう。必要があるとはいえ、あいつと殴り合いかぁ。やりたくないなぁ、やりますけどね、おりゃあ!
僧侶 Lv1
効果 精神小上昇 MP微上昇
スキル 手当て
あぁ、しんどい。結局十回以上殴ったし、同じくらい殴られた気がする。硬革シリーズじゃなければやばかったかも。本当に危なくなったら戦っている間に回復してきたMPで『オーバーホエルミング』を使うつもりだったけど、そこまでいかなくてよかった。
せっかくだから一度《戦士》と入れ替えて『手当て』。おお、痛みが和らいでいく。『手当て』ちょっと気持ちいいな、これ。とりあえず二回で大丈夫か。
さて、あんまりやりたくないけど最後は《魔法使い》だ。
『MP全解放』とMP回復速度二十倍を付けてジョブはフィフスジョブにして《戦士》も戻しておくか。それに《僧侶》には【MP微上昇】が……って全部解放しちゃうんだから関係ないじゃん!
まあいいか、武器を出さないからポイント余裕あるし、あとは適当に経験値系に割り振って、買っておいた強壮丸を少しの水と共に口の中に二つ、いや三つ入れておくか。残りは一応手に握っておいてウッドさんを探す。うっかり水ごと飲んじゃいそうになるから早く見つかって欲しい……って時に限ってなかなか見つからん! 強壮丸もちょっと溶けてきちゃってるじゃん、溶けても効果あるんだよな。無駄になったらもったいないから早くしてくれ! っていた! くらえ、必殺のやけくそ『MP全解放』!
俺の前でゆらゆらと枝を揺らしていたニードルウッドが、びくっとして固まったと思ったら突然内側から弾け飛ぶ。と、同時に思わず俺は膝を落とす。
な、なんて馬鹿なことをしたんだ俺は! 別に魔法使いなんて必要なかったんだ、それなのに双子にいいところを見せたいだなんて思い上がりもはなはなだしい。
俺なんかに買われる二人が可哀想だ、俺よりも上等な奴がきっと二人を幸せにしてくれるに違いない。だから俺なんかこのまま迷宮の糧になっても構うものか……あぐ、ち、ちょ待て待て、いいからまずは飲め、俺!
無理やり体を転がしてあおむけで大の字に寝転がると息苦しさから喉が動いて口中の水分を飲み込む。飲み込んでしまえばいくらか冷静さが戻る、急いで迷宮の床に落としてしまっていた強壮丸を拾って口の中に入れて噛み砕いていく。三個ほどを拾って飲み込んだところでようやくまともな思考が帰ってきた、ここまでくればMP回復速度二十倍が仕事をしてくれているのを感じることが出来る。
ていうか何あれ、MP枯渇やばすぎでしょ。普通に自殺とかの選択肢が重めの比重で上がってくるとかソロ探索中に何の対策もなかったらマジで自死しかねないレベルなんですが? もう二度とこの魔法は使うまい。
魔法使い Lv1
効果 知力小上昇 MP微上昇
スキル 初級火魔法 初級水魔法 初級風魔法 初級土魔法
とにかくやってやった、三十歳になる前にゲットしてやったぞ《魔法使い》め、手こずらせやがって。
さあ、帰って飯食って寝るぞぉ!
所持金 654,740