俺だって異世界迷宮でハーレムしたい!   作:おるどばれい

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転移五日目


14 皇都にて

 受付に鍵を返すときに受付のおば……お姉さんに「随分めかしこんでいるじゃないかデートかい?」なんて言われたので自分自身が思っているほどこの世界的に違和感があるわけじゃないらしくて安心した。

 

 そのまま路地裏から皇都に行ってもよかったが、もう少し時間をかけてもいいかと歩いて冒険者ギルドまで行ってギルドの壁から皇都の冒険者ギルドに『ワープ』。受付で服飾、洋品店、もしくは生地屋みたいなところを聞いたら俺の格好を見た受付嬢が一番の高級洋品店の場所を教えてくれた。まあ、ただ単にここから一番近いというだけかも知れないが。

 

 高級店と聞くと腰が引けてしまうが、どうせ異世界品を売るというリスクを背負うなら少しでも高く買ってほしい。高く買ってもらうにはそのお店がお金を持ってなければいけない訳で高級店に行くのは選択として間違っていないはずだ。

 

 近いだけあってすぐにたどり着いた高級洋品店はさすがの店構えで綺麗な白壁の三階建て、この皇都にあって敷地も広い。日本にいたころはファッションにお金をかけるなんて出来なかったから大体量販店の安売り品を着ていた俺には文字通り敷居が高いがここが序盤最後の踏ん張りどころだろう。

 

 意を決して入店すると、見るからに高級そうな衣類の数々が綺麗に折りたたまれていたり、吊るされたりしている。しかも日本と違って、せせこましくスペースを使っていないので、ゆったりとした店内でゆっくりと欲しいものを選べるようになっているようだ。

 

 せっかくだからこっちの服を買う時の参考に一通り眺めてみたいところだが、今日の目的は商談、まずはおどおどしていると貧乏くさく見えてしまいかねないので堂々とした歩きで店内にタオルや手ぬぐいのような商品がないかを探してみるが、見つかったのはやはり縦糸と横糸を組み合わせただけの手ぬぐいだけ。糸の品質にはこだわっているらしくさらさらとした手触りは気持ち良く、柔らかみもあって高級品であることは分かるが、吸水性や柔軟性、肌触りでは日本のタオルランキング一位である俺の持ち込み品には及ぶべくもない。

 

「お客様、なにかおさがしでしょうか」

 

 声を掛けてきたのは執事服のような服を着た四十代の店員。これだけ店内をうろうろしていれば店員の目に付くのも当然。むしろ今声をかけてくれたのはベストタイミングだったかも知れない。

 

「ああ、濡れた顔や体を拭くような布はここにあるので全部か」

「はい、こちらは絹糸などの高級な糸をうちの専属職人の手により柔らかく織り上げた自慢の一品になります。こちらの一番お手頃な銀貨一枚のものでも自信を持ってお勧めできます」

 

 なるほど、ざっと回った感じ店舗部分は一階だけで十分だと思ったら二階より上に生地と服飾の工房まで入っているのか。

 

「そうだな、確かに良い物のようだ。だが、濡れた体を拭くような用途としてはあまり向かないのではないか」

「それは……そうでございます。ですが、当店はこの国最高の店であると自負しております。当店でお売りしている以上の物などないと思われますが?」

「ほほう、なるほど。確かにこの国最高の店であるというのは本当なのだろう。ここで見た品々は国内のどの店で見たものよりも素晴らしい物だったからな」

 

 その俺ランキングにエントリーしているのがこの店だけだというだけで嘘ではない。

 

「そうでございましょう、私共も職人たちと日々研鑽を続けております。常によりよい品をお届けし続けるとお約束します」

 

 俺のおべっかに少しだけ胸を張った店員へ少しだけ近づくと声を抑え、今日の本題を切り出すことにする。

 

「ただし、国外ではそうではない。俺が旅の途中で出会った者から入手した物がとても良い物でな。すでに手放せないほどなのだが、道具は使い続ければいつかは劣化するものだろう? どこかで手に入らないかといろいろな店舗を見てきたのだが、ついぞ見つけることはできなかった」

「な、なんと……そんな事があるわけ」

「そこでだ! 俺は出来ればこの布をこの国でも安定的に入手したいと思っている。だから俺の手元にあるこの布を高く買わないか? この店の職人たちなら現物さえあれば同じような物をすぐに作り出せるようになるのではないか」

「確かにうちの職人たちなら……ですが、そんな……私の一存では」

「その判断をできる者と話をする席を設けることは可能だろうか」

「……オーナーはおりますが、しかし」

 

 もう一息か。

 

「実はその物を今日は持ってきている。衆目のある場所で出すわけにはいかないが、この鞄のなかに手を入れ触ってみるというのはどうだ? その結果あなたがオーナーへと知らせるべきだと思えば知らせればいいし、私の話が言葉通りではないというならば断わってくれて構わない。私は二番目にいいと思った店に同じ話を持ち掛ければいいからな」

 

 俺の言葉に店員の目がすっと細くなる。皇都は大きな街だ、当然洋品店が一店舗だけなんてことはあり得ない。お互いが意識しているライバル店舗があると思っていた。

 

「わかりました。その挑発に乗りましょう。その布の価値を見極めさせてもらいます」

 

 さすがに挑発であることはバレるか。でもそれでいい、挑発だとわかりやすければわかりやすいほど品物に自信があるということになる。

 

「そんなに大げさなものではない。だが一つだけ言わせてもらうなら、【触ればわかる】それだけだ。さあ、手を入れてくれ、他の物は入れていない」

 

 鞄の口を少しだけ開く俺に視線を向けた店員に小さく頷いて返すと、店員は恐る恐る鞄の中に手を入れていく。鞄は少し深めのもののためそこそこ手を入れたところで店員が目を見開く。俺が持つ鞄の中で店員の手が忙しなく動き回るのを感じる。おそらく今までの生地にはなかった未知の肌触りに我を忘れているのだろう。

 

「そこまでだ」

 

 このままでは強引にタオルを抜き出して検分しかねないと思った俺は、小さく強めに終了を告げると店員の手をそっと袋から出すように誘導する。

 

「回答は?」

 

 自分の手の平を眺めながら自失していた店員は俺の声に我に返ると、表情を引き締めて襟を正し、小さく頭を下げた。

 

「お客様、お名前をお教えください」

「ユータ・ハセ。自由民だ」

「ユータ様ですね。ただいま別室へご案内しますのでそちらへお越しください。すぐに当店のオーナーをお連れ致します」

 

 態度を改めた店員の言葉に静かにうなずくと先導する店員の後を行く。よし、第一関門突破。あとは値段交渉でどこまで持っていけるか。

 

 店員に案内され二階の応接室に通されると、すぐに女性店員がティーカップにお茶を淹れて持ってきた。その態度は失礼がないようにとプレッシャーをかけられたのかやや硬い。

 

 どちらかというと一気に話が大きくなりそうでブルっているのはこっちなんですと言ってやりたいが、俺に有利になりそうな誤解は解くわけにはいかない。

 

 待つことしばし、緊張の渇きを癒すためにもらったお茶をちびちびと飲みつつ、残りが半分ほどになったときに扉が開き、先ほどの店員が入室してくる。その後ろにはいかにもな感じの風格を持った初老の男性がいる。こちらも見苦しくないように慌てず立ち上がると彼らを出迎える。おそらく彼がこの店のオーナーなのだろう。

 

「ユータ様、お待たせしてすみません。こちらが当店のオーナーでございます」

「いや、こちらが突然押しかけてきたのに都合をつけてもらえただけでもありがたい。初めてお目にかかる。自由民のユータ・ハセだ。時間を取ってもらって感謝する、お互いの益になる話ができればと思っているのでよろしく頼む」

「ふむ、少なくとも最低限の礼儀はわきまえているようだな。私はこの店の責任者であるバーティンだ。今日は面白いものを持ち込んでくれたとのことで楽しみにさせてもらおう」

 

 オーナーのバーティンは入室時には厳しい目をしていたが、こちらが単なるタカリや詐欺師の類ではないと判断したのか、ほんの少し態度を軟化させると握手を求めてきたのでこちらもにこやかに手を握る。

 

「おい! くだらねぇ挨拶はいらねぇから、その恐ろしく肌触りの良い布ってやつをさっさと見せろ」

「え?」

 

 がっちりと握手を交わし、これから商談だと思ったところで予想外に低い位置からの威勢のいい声がして思わず固まってしまう。あれ? 入ってきたのは二人じゃなかったっけ? 声は確か下の方から……あ、いた。

 

「コルチ、話を聞きつけたお前がどうしても同席したいというから連れてきたのだ。礼を失するような態度をとるのなら追い出すぞ」

 

 どうやらオーナーの後ろにもう一人背の低い人がいたらしい。交渉相手が全部揃ったぽいところで『鑑定』が必要か。まずは最初の店員さんとオーナーから。

 

イナキ 男 41歳 商人Lv38

バーティン 男 67歳 商人Lv61

 

 さすが高級店のオーナーレベルが高い。鑑定結果をみるとイナキもただの店員というよりはマネージャー的な重要ポストの人材か? で、最後が髭もじゃの小さい人、多分この人ドワーフ族だ。

 

コルチ ♂ 56歳 裁縫師Lv18

 

 おお、新しいジョブ! これはどの原作にも出てきていなかったんじゃない? 確かに原作主人公は裁縫まではしていなかったかも知れない。でも全く出てこなかったということはこのジョブに就いている人が少ないんじゃないだろうか。多分裁縫をした経験があるくらいでは駄目だろうな……年齢の割にレベルがまだ低いことから考えて、何かの派生職だとすると、《商人》からの派生か? 商人レベル三十に加えて、自分で裁縫した物を売買するとか?

 

「わかった、わかった。お行儀よくするさ、俺がこの店の筆頭裁縫師のコルチだ」

「職人の方にも見ていただけるなら話は早い。そちらも忙しいだろう、さっそく話をしたいのだが」

「その通りだな。ユータ殿、そちらに座ってくれ。さっそく本題に入ろう」

 

 バーティンの勧めに従い、元の位置に座るとテーブルを挟んだ反対側にバーティンとコルチが並んで座り、イナキはバーティンの斜め後ろに立ったまま控える。

 

「まずはこの席を設けてくれたことに感謝する」

「んなこたぁどうでもいいってんだろ。まず、物を見せろモノを!」

「コルチ!」

「オーナー、俺は気にしない。職人ならば利害など度外視で新しい物や未知のものが最優先なのは当然だからな」

「おお、わかってんじゃねぇか! 意外とその辺のことがわかってない奴が多くてなぁ。俺もこの店に行きつくまで随分と苦労したぜ」

 

 コルチさんが我が意を得たりとばかりに髭をしごきながら大きく頷いている。おそらく筆頭裁縫師にも歴史ありで若いころからいろいろ苦労があったんだろう。もっともその話には全く興味がないけどね。

 

「確かにあまり勿体ぶっても仕方ないし、まずは見てもらおう。だが、筆頭裁縫師を名乗る職人がいるのなら見ただけでこの布の全てを理解されてしまう可能性がある。こんなのは気づき一つで一気に革新が起きるものだからな。だから最初はこのテーブルの上に置いた布に手を伸ばして触るだけ。顔を近づけるのも遠慮してほしい」

「……なるほど、慎重だな」

「理由は述べた通りだ。理解はしてもらえると思うが」

 

 まじまじ見られたらあっさり構造とかバレそうで怖い。お金になる算段が付くまでは勿体ぶるしかない。

 

「それこそ勿体ぶるなって、本当にいいもんだったら見せてもらったことに対する対価ぐれぇ俺が自腹で払ってやらぁ」

「おい、コルチ。そんな勝手は許さぬぞ。この店に還元されるべきものに対する費用は当然店が払うべきだろう」

 

 自腹で見物料を払うというコルチに店のための知識には店が金を払うと言うオーナー。これはさすがと言わざるを得ない。

 

「かっか! 小僧、こいつは根っからの商売人だが、こういう奴だ」

「なるほど、これは随分と見くびってしまったな。詫びの代わりと言ってはなんだが、さっきの条件は取り消そう。手に取って存分に見てもらっても構わない」

 

 売れるという確信さえ取れればいくらでも見てもらって構わない。今後この世界にタオルが普及してくれること自体は望むところ。むしろ普及してもらわなければ困る。ということで鞄から取り出したタオルをテーブルへと置く。ちなみに材質表示や注意事項のタグは取り除き済みだ。

 

「おお! これがイナキに未知の感覚と言わせた生地か。お先に失礼するぜ、うお!」

 

 テーブルに置かれたタオルをオーナーよりも先に手を伸ばしたコルチが、手に持った瞬間に呻きをもらす。

 




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