購入まであと二日と迫る早朝。
まだ外は薄暗いけど、昨日は早く戻って部屋でのんびりしてすぐに寝たせいか体は軽い。しかも所持金が当面必要な額を満たしたということでプレッシャーがなくなったのも大きい。
昨日はアイテムボックスが広がってきたこともあり、ファンナとセリナの購入額である六十六万五千ナール分、金貨六十七枚をアイテムボックスに入れたのでこれに手を付けなければ仮に財布を掏られても購入に差し障ることはない。
後は、ボーナスポイントの振り分けも検討して割振り済み。
長谷 悠太 男 18歳
探索者Lv15 英雄Lv12 魔法使いLv14 戦士Lv14 僧侶Lv14
装備 ロッド 鉄の小楯 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴
キャラクター再設定1 詠唱省略3 鑑定1 MP回復速度五倍15 ジョブ設定1
フィフスジョブ15 獲得経験値二十倍63 必要経験値五分の一15
合計114
結晶化促進を外して獲得経験値を二十倍にした。
《探索者》のレベルが上がればボーナス装備で頭装備を出して魔法関係の能力を底上げしていく予定。MP消費は必要に応じてデュランダルを出すってことで、索敵回数を減らしつつストーム系で数を倒せる四階層が狩場にできるようになることを今日と明日の目標にする。
明後日は開店と同時に二人を迎えに行く。さすがに一人で戦い続けるのも厳しくなってくるだろうし、夜の一人寝も寂しくなってきた。
あぁでも、二人を同時に買うと夜はいきなり三人でってことになるのか? 実戦経験がない俺にいきなり二人同時とかハードルが高いにもほどがある……ま、まあいい、俺は二人が怖がらないようになるべく優しく接すればいいじゃないか。最初は下手でも三人で成長していけばいいってことだ。よし、自己弁護完了。朝食を食べて、いざ迷宮へ。
やってきました二階層。実はボス部屋の待機部屋は既に見つけているんだけど、一日空いたし、装備も変わっているから戦いながら歩いてボス部屋へ向かう。
道中の戦闘は……どうやらロッドの魔法強化率は頭装備の知力上昇の強化率よりも低いらしく魔法の回数は三回に増えてしまった。増えたということは兎さんが襲ってくるってことになるが、もともと兎さんの動きに慣れてきていたのと、剣じゃなくてロッドに変えたことで無理に攻撃をしないで防御と回避に専念するようになったのがよかったのか、意外と攻撃を受けずにすんだ。
その際に左手に装備した小楯がいい仕事をしてくれた。武器を振り回して防御するよりも早く的確に相手の攻撃に合わせられる。この感覚を忘れないようにボス戦の前に二十体ほど戦闘を繰り返したら、二階層での戦闘にも拘らず軒並みレベルが上がった。さすがに実質経験値百倍は凄いな、百倍でこれなら経験値四百倍になったらとんでもないことになる。いつか余裕をもってそんな設定が出来るようになりたいものだ。
そんなこんなで辿り着いたボス部屋です。ただ、スローラビットのボスはラピッドラビット。確かめっちゃ素早い魔物だったはず。魔法はストーム系なら必中だけどボス戦だと何発係るか分からないし、MPも足りない可能性があるので経験値二十倍をまるっとデュランダルに変更。さらに探索者のレベルが二つ上がっていたので頭装備一の知力上昇と足装備一の敏捷上昇の装備に入れ替えてボス部屋に入場。
いつも通り部屋の奥から煙が立ち上り、スローラビットよりもやや赤みがかった凶悪な目をした兎が現れる。あんまり可愛くないぞ。
と思った途端にラピッドラビットが高速でとびかかってくる。な、なんだこの速さ! 赤い奴は速度三倍とかそういうことかっての!
とっさに体をかばうように出した左手の小楯が赤兎の突進を弾いてくれたので助かった。ていうか普通に赤兎相手の一対一はきついな。これは仕方ない『オーバーホエルミング』と唱えて赤兎の横に回り込んでデュランダルを振り下ろす。
すぐさま斬り上げての二連撃。ただ、ウドウッドに比べて軽いせいか二撃目を与えたらふっ飛ばしてしまうようだ。ということは飛び掛かってくるタイミングで『オーバーホエルミング』加速状態に入って、斬り上げから斬り下ろしで床に叩きつけてさらにもう一度斬る。
赤兎は転がるように距離を取ると再度突進してくる。レベル二くらいのラピッドラビッドだとフェイントまではしてこないらしい。結局もう一度スキルを使ってデュランダルで一度斬りつけたところで赤兎は消えた。
「お、これが兎の肉か。うまいらしいから売らずにとっておくかな。なんとか赤兎もオーバーホエルミングとデュランダルで問題なさそうだ。経験値は下がるけど肉を集めるのにちょっと周回するか」
一度三階層に行って階層を更新してから人がいないか確認しつつ待機部屋に戻ってボス戦を十戦ほど周回して肉を確保。《料理人》を取るためにもいずれ料理はしなくちゃだし、こうなってくると自由に料理ができる環境が必要かなぁ、勧めてくれたミッちゃんの家の近くを借りてしまおうか迷う。手持ちで一年分の家賃は払えるのが確定しているから借りられなくはないんだけど、税金の支払いも春にあるんだっけか。悩む。
一度、迷宮の外に出て休憩しながら真面目に賃貸を検討する。まず家を見せてもらって、リフォームとか出来るなら借りる前に工事をお願いするとかいいな。そしたらお風呂とかも作ってもらって……原作だと大きなタライを特注していたけど、リフォーム段階で同じようなのを排水とかまで考えて備え付けてもらえば……あとはいくらかかるのかって話か。……うん、今はレベル上げだな。
武器をロッドに戻して経験値二十倍を再設定して実質経験値百倍にする。三階層の魔物はナイーブオリーブだったか。こっちも火が弱点だからファイヤーストームでいける。三階層はボス部屋を見つけたらすぐに突破して四階層に行こう。四階層からは魔物が三体になるから魔法での経験値稼ぎの効率が良くなるはず。ただしMP消費を考えないものとする……のは無理だから強壮丸を飲むかデュランダルで回復を挟むかは臨機応変でいいだろう。
とりあえずボス部屋前まで来た。やっぱり索敵に時間がかかったし、ここまで狩ってきて百体は倒してない感じ。ちなみに三階層のナイーブオリーブはニードルウッドよりも植物感の強い魔物だったが、動きが緩慢なのは変わらずだったから普通に魔法で倒せた。ドロップのオリーブオイルはひとまず売らずに保管中。レベルは階層が上がったことと経験値ボーナスもあるおかげで結構上がってきている。このままボスを倒して四階層に行くが無理ないように戦闘して明日のお迎えに備えないとな。
明日が五日目だから本来なら丸一日費やせる金策は今日が最終日だった。結局、タオルの売却がなかったら購入代金だけ稼ぐのが精いっぱいだったな。そんな状況だったら今日から明日の午前中くらいは経験値を諦めて、結晶化促進に全振りして走り回ることになっていたのは間違いない。
せっかく明日は双子を身請け? は違うかも知れないが、とにかく仲間になってもらう日だ。浮かれすぎてミスして死、なんてことがないように四階層には行くけど危ないと思ったらすぐに逃げて兎の肉でも集めて終わろう。
決意も新たにボス部屋に向かう。ポイントの方は《探索者》二十一まで上がっているので頭装備を三まで上げている。
三叉束髪紫金冠という呂布っぽい帽子。知力上昇、使用MP減少(微)、魔法効果増(微)が付いているボーナス装備でロッドと合わせれば三階層でも弱点属性の魔物はストーム系二発で倒せる。いざ三階層のボスへ。
パームバウムLv3
ナイーブオリーブを少し大きくして、もっさり感を増し増しにした感じの魔物だ。枝も多く攻撃の手数は多そうだったが、動きは速くないのでなるべく距離を取ってファイヤーボールの連打で圧勝できた。
ドロップはパームオイルか、確か食用油としても使えるし、マーガリンの原料だったり石鹸の材料になったりするんだっけ? 原作で関連しそうなデータや、この世界で役に立つかもしれない情報は持ち込み品の中にあるノートパソコンやタブレットに保存してきたから今度確認してみよう。今までは情報を役立てる機会がなかったからな。唯一タオルの構造図情報は利用した。太陽光充電式の携帯バッテリーをいくつか持ち込んでいるけどきっと長くは使えないと思うから落ち着いたら必要そうな情報は書き出しておかないと。
パームオイルはいずれ集めることもあるだろうけど、今は初の四階層に挑戦。最初に探索者ギルドで換金したときは四階層の情報はなかったが……どっかのタイミングで一応確認しておけば良かったな。
あ、でも、もし四階層がニートアントかスパイスパイダーだったら、無理する必要はないから四階層探索は諦めよう。毒消し丸は売らずに取っておいた物があるけど、原作を見る限り、毒を受けた後に自分で毒消し丸を飲むのは結構ハードルが高そうだからな。
とにかく引き際だけは間違えないように! 自分に言い聞かせて四階層に上がって警戒しつつ探索する。この階層からは魔物が最大三体出てくるんだからさすがに闇雲に走り回るのは怖い。
「いた……芋虫だ」
四階層で最初に見つけたのはグリーンキャタピラーだった。よし、こいつなら糸吐きだけ気を付ければいい。最悪ファイヤーウォールで糸は防げる。さあ、ソロ活動最後の経験値稼ぎ頑張るぞ。
ファイヤーストームの火の粉が収まってグリーンキャタピラーの糸がドロップしたところで時計が十六時過ぎなのを確認。今日はこの辺で上がるかな。
四階層での戦いは魔法で速攻殲滅が基本戦略、幸いボーナス装備での底上げでここでもストーム三発でなんとかなる。ただ、芋虫が入ったグループだとソロで遠距離戦をしているせいか、結構な頻度で糸を吐いてきてストームの間にウォールを挟まないといけなかったり、MP回復のために休憩したりデュランダルを出したり、索敵で歩き回ったりであまり戦闘回数は稼げなかった。それなのに経験値実質百倍は伊達じゃないのでレベルは順調に上がり続け、最初から優先的に鍛えていたジョブ達は一つの山と思われるレベル三十が近づいてきている。
探索者Lv25 英雄Lv20 魔法使いLv24 戦士Lv24 僧侶Lv24
ここまできたら三十まで目指したいところだが、こんなときこそ焦りは禁物。ここまで育っていればファンナとセリナに弱いとか情けないと思われるようなことはないだろう。
そういえば結局二人のジョブは《探索者》のままにしてどこまで上げられるか試してみたところ十六まで上がっていた。まだ四階層で、俺にだけ作用する必要経験値減少の効果がないということを考えれば素晴らしい成長だと思う。
レベル二十までは切りよく育てようかなと思わなくもないが、今後の育成方針は二人と話し合って決める方向にしたい。あっと、明日インテリジェンスカードを出したときに不審に思われてしまわないように、忘れないうちにこの段階でファンナのジョブを村人に戻しておこう。
そのまま『ワープ』と念じて海猫亭の裏手の壁に出る。ドロップ品はアイテムボックスに余裕が出来ているし、売却はとりあえず保留。糸なんかはミサンガづくりに使うしね。
心地よい疲労感で宿に戻る。あ、そうか。明日は市の日だし今のうちに部屋を確保しておいた方がいいか。
「戻ったのかい。今日も早めの上がりだね、無理しないのはいいことさ」
扉を抜けるとおなじみの受付、もう女将さんでいいや。女将さんが声を掛けてくれる。
「まったくだ。まあ先立つものが無けりゃそれでもやらなきゃならない時もあるが」
「はっ、全く世知辛いね、ほら鍵だよ」
「ああ、ありがとう。ついでに明日以降の宿泊についてなんだがいいか」
「そういやあんたは今日の泊まりまでだったね。延長するのかい?」
メモなんかを見ずにちゃんとお客の泊数を把握しているのはさすがだな。
「ああ、ただ明日から三人になる。部屋は一つでいいがもう少し広い部屋に変えてもらえると助かる。延長はとりあえずもう五泊の予定だ」
「増えるのは女の子かい?」
「うぐっ……そ、そうだ」
「あんたもやるね」
ニヤリと笑う女将は、日本ならセクハラで訴えられてもおかしくない気がする。
「まあ、いいさ。部屋は空いているよ。明日だったら埋まっていたかも知れないからいいタイミングだったね。三人部屋はないから四人部屋か、一緒に寝ても気にしない関係であれば多少狭く感じるかも知れないがダブルの部屋でもいいよ」
なるほど、四人部屋だとおそらくベッドが四つあるんだろう。でもうちらは三人だし、四人部屋は高くつくはず。その点ダブルは大きめのベッドが一つ、料金的には二名分くらいで収まるはず……い、いや、やっぱり節約って大事だよ。うん、大事だ。幸い、たまたまだけど二人はドワーフ族でちょっと小柄だし、そうするとぎりぎりダブルでも三人寝れちゃいそうだなぁ。じゃあ、節約のためだし仕方ない……そう、仕方ないことだったんだ。
「ダブルで頼む」
「ひひっ、あいよ。じゃあ明日からダブルで五泊分にするよ。ダブルの部屋は一泊二名様二食付きで四百ナール、もう一名分食事を付けるならもう三十ナール追加になる」
「食事は三名分だな、ついでに朝食後にパンを六つ付けてくれ」
「そうだね、じゃあプラス五十ナールで四百五十ナール、五泊分で二千二百五十ナールだけどからかったお詫びに千五百七十五ナールでいいよ」
忘れずにセットした三割引きが効いたけどなんか嫌な理由だな。とにかくさっさと払ってしまおう。
「確かに。明日の朝に今の鍵を返してもらったら新しい部屋の鍵を渡すから荷物は全部持って出てきておくれ」
「わかった。もうしばらく世話になる」
「連泊は歓迎さ」
部屋に戻って、保管してあった装備類は全部アイテムボックスに収納、持ち込み品の山岳リュックに部屋に干してあった衣類や小物で今しまえるものをしまってから、夕食を食べてお湯をもらって念入りに体を拭く。明日も宿に戻ってきたらお湯をもらったほうがいいか? 商館でも体くらいは拭いているだろうけど……俺が拭いてあげるべきだな。うん、原作主人公のミッちゃんもそれは譲らなかった。見習うところは見習うべきだ。
所持金 783,237
宿泊費精算
五泊追加 △1,575