俺だって異世界迷宮でハーレムしたい!   作:おるどばれい

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転移七日目


17 購入

 いよいよ来た。頑張れば払えたのにあえて五日も購入を延期するなんていう自虐的な縛りを自分でかけたことを後悔しない夜はなかったが、ここまでくればそれで良かったんだと思える。

 

 二人は美少女だし、これから《鍛冶師》にもなるし、変な奴に絡まれる可能性は高い。そんな時に二人を守ってやれない弱いご主人様は駄目だろう。この五日間は俺が二人を仲間にするための資格を得るための試練の期間だったのだ。

 

「ユータ様、そろそろよろしいですか? 店の前を塞がれているのはちょっと」

「あ、すみません。中に入ります」

 

 いかん、いかん。開店のタイミングですぐに商館に着いたのはいいが、入口を前に感慨に耽ってしまった。しかも秘書的なサーベス氏に注意されるという恥か死。そういやこの街の初日に防具屋でも似たようなことした気がする。気をつけねば。

 

「では、このお部屋でお待ちください。お二人のお仕度もありますので」

「ああ、待たせてもらおう」

 

 おなじみになりつつある部屋で座っていると中年女性がお茶を出してくれる。さすがにこれから二人も奴隷を買おうとしている人に新しい奴隷を勧めることはしないだろうというのは理解できるが、給仕くらいは目の保養になるような……ねぇ? もちろんお茶を持ってきてくれた女性も所作は大変美しかったですけど。そして、美味しいお茶ですけど。

 

「お待たせしております、ユータ様」

「いや、構わない。こちらは五日も待ってもらったんだからな」

「なるほど、そうでございましたね」

 

 俺の返しが面白かったのかアレクは小さく肩を震わせて笑っている。こちらは笑わせるつもりはなかったのだが、雰囲気が悪くなるよりはいいか。

 

「先に会計を済ませてしまおうか」

「はい、ありがとうございます。ではお掛け下さい、代金はこちらのトレイに」

 

『八百千五百(やおちいほ)のお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン』

 

 よし、噛まずに言えた。いつもは詠唱省略で呪文は無しだが、目の前でもにょもにょ誤魔化すのも突っ込みがあったときに面倒くさいので、昨日のうちに練習しておいてよかった。

 

 実は呪文が終わる前にボックスが開かないようにする方が難しかったので、今は詠唱短縮系は外している。開いたアイテムボックスから金貨を二列五十枚、三列目から十六枚。そして銀貨を二十五枚入れた二列分をトレイに置く。

 アレクは黙ってその硬貨の枚数を確認すると、サーベスを呼んだ。

 

「ユータ様、確かに全額受領いたしました。同時に二人の準備も整ったようですので、ただいま連れてまいります」

 

 アレクの指示にサーベスが頷くとお金の乗ったトレイと共に部屋を出ていく。お金を運ぶついでに二人を案内してくるのだろう。

 

 内心でドキドキしながら待っているとすぐに扉が開いて二人が入ってくる。今日もファンナの眉間は皺が寄っているが、相変わらず二人とも美少女だ。セリナとは目が合うとお互いに小さく頷き返す、なんていうちょっと通じ合った感のある嬉しい一幕もあったりした。

 

「それでは、契約を行いますので、インテリジェンスカードを確認させていただきます」

「よろしく頼む」

「では、私から」

 

 俺は左手を伸ばし、セリナも俺の隣で腕を出す。

 それを確認したアレクが呪文を唱えると、インテリジェンスカードが飛び出してくるが、アレクの呪文? はそこで終わらずしばらく続くのでさらに十秒ほど待つ。

 

「これで契約は終了です。続けて契約をしますのでユータ様はそのままでお願いします。セリナ、ファンナと交代を」

「わかりました。姉さん、こっちへ」

「は、はいです」

 

 セリナに促されて俺の隣にきたファンナと同じように契約をする。

 

「これで終了です。インテリジェンスカードをご確認ください」

 

 言われるがままに自分のカードを見てみると確かに所有奴隷としてセリナとファンナがインテリジェンスカードに登録されていた。双子も自分のカードを確認していたのでそこに俺の名前があるのがわかっただろう。

 

「これでユータ様は二人の所有者になりました。奴隷を所有した方にはくどくても毎回お伝えしておくことがありますのでお聞きください。まず所有者には、奴隷に住まいと食事を与え、税金を支払う義務があります。これらの義務を放棄したり、奴隷を著しく不当に扱った場合、契約は破棄されることがあります。また遺言の作成、変更も奴隷商人の仕事になりますのでご用命の際は是非当館をご利用ください」

「承知した。また世話になることもあると思うが、その時もよろしく頼む」

「こちらこそよい取引をさせていただきました。ユータ様ならばまた良い奴隷を紹介できるかもしれませんのでご要望があればいつでもお越しください」

 

 五日も支払いを延期したのに意外と好感度高め? せっかくこう言ってくれているなら今のうちに希望くらいは伝えておいてもいいか。

 

「なるほど、迷宮で戦っていくにはメンバーを増やしていく必要があるな。今は先立つものがないが、いずれ仲間にしたいと思っているのは感覚の鋭い者だ。嗅覚、聴覚、視覚、直感力、気配察知能力とかが望ましいが、そうでなくても何か一つ尖った能力のある者がいたら紹介してほしい。それが、見目麗しい女性ならさらに最高だぞ、アレク殿」

 

 まさかすぐに要望が出てくると思わなかったのか一瞬きょとんとしたアレクはくっくと声を漏らして笑うと綺麗なお辞儀をした。

 

「ご用命承りました。これはという者がいましたらユータ様にご連絡いたします」

「よろしく頼む」

 

 思いがけず良好な感じで商館を出た俺たちは道に出る前にまず二人に革の靴を渡す。

 

「まずは移動するから履いてくれ」

「奴隷に靴なんて」

「セリナ、ここは店の入口だ。意見のすり合わせは一度宿に戻ってからする。今は言うとおりにしておけ」

「セ、セリちゃん、ご主人様の言う通りだよ」

「……わかりました」

 

 よかった、ファンナのフォローで大人しく履いてくれた。ここでもたつくとまたサーベスに注意を受けちゃうからな。だったら店の中で履かせておけよという正論は聞かん。   

 

 だってこの二人が正式の俺のものだと思ったら浮ついてすっかり忘れていたんだから。外に出て道を見て気が付くとかどんだけだよ。

 

「よし、じゃあ移動魔法を使うぞ。しっかりついてきてくれ」

「「え? は、はい」」

 

 うん、さすが双子、反応が揃った。すすっと商館の裏手に回って『ワープ』と念じて海猫亭の裏手へ移動。

 

「あ、あれ? セリちゃん。今、ご主人様呪文……そもそも探」

「ファンナ、それも後でな」

「……」

 

 戸惑う二人をそのままにまずは宿に戻って女将のにやにや笑いを無視しつつ新しい部屋の鍵をもらう。すでに朝の段階で荷物の移動は済んでいる。今度の部屋は四階の角部屋で窓が二つもあるいい部屋だ。

 

 鍵と一緒にお湯をもらってとか考えていたが、さすがに午前の早い時間から……というのはハードルが高すぎた。夜まで待とうホトトギス。

 

 部屋に入ると、この部屋には椅子がないので二人には今度は靴を脱ぐように指示して三人でベッドの上に乗って輪になる。 

 

「今日から五日はこの部屋を借りている。三人だと少し狭いかもしれないが仲良くやっていこう。というわけで自己紹介からいこうか。俺の名前はユータ・ハセ、人間族、十八歳の自由民だ」

 

 次はセリナだと視線を向けるとセリナが背筋を伸ばす。

 

「私はセリナです。ドワーフ族の十六歳。ユータ様の奴隷です」

「わ、私はファンナです。セリちゃんと同じドワーフ族の十六歳で、ご主人様の奴隷になりました」

 

 奴隷であることは無理に主張しなくてもいいんだけど、まあ最初はしかたないか。

 

「ありがとう、まず最初にこの前も言ったかもだけど俺は君たちをただの奴隷として扱うつもりはない。甘やかすつもりはないが、共に迷宮で戦う仲間として、この世界でずっと一緒に生きていく家族として、こ、公私共に仲良くしていきたいと思っている」

「あの! それは嬉しいのですが、姉は!」

 

 公私の部分で噛んだことを突っ込まれなくてよかった、と思う間もなくセリナが声を荒げる。セリナにとっては俺のヨコシマな動揺よりもファンナが迷宮に入ることに対する危機感の方が強いらしく、先日と同じように姉を庇う。でもそうだよな、迷宮に入らせるならまずそこから解消しなきゃな。

 

「わかっている。ちょっと待ってろ」

 

 二人をそのままにベッドを降りると持ち込み品リュックを持ってベッドに戻る。

 

「いいか、まず俺の考えを言うぞ。俺の見立てではファンナは不器用なのではなく視力、つまり見る力が弱いんだと思う」

「見る力が弱い、ですか?」

「ああ、そうだ。ファンナ」

「は、はい」

「これが何本に見える?」

 

 ファンナの前に二本立てた指をゆっくりと左右に振る。

 

「え、えっと……四、いえ、三本でしょうか」

「俺の顔は見えるか? 輪郭がぼやけてないか? 目鼻の形がはっきりとわからないんじゃないか? だから目を細めてそんなに眉間に皺が寄っているのではないか?」

「あ、た、確かにご主人様の言う通りです」

「でも、だったらどうするというのですか!」

「落ち着けセリナ。そこで俺が持っているこれだ」

 

俺はリュックから自分が使うつもりで持ち込んだいくつかの眼鏡を三人の真ん中に置いていく。

 

「これは……?」

「俺が住んでいた場所でメガネと呼ばれていたもので、見る力が弱い人をサポートする道具だ。ファンナの感じだと結構強めがいいか、これを耳にかけてみろ」

「なんて透明なガラス。ユータ様これは高価なものなのではないですか!」

「俺の故郷ではおそらく銀貨十枚から二十枚程度のものだ。もう手には入らないかも知れないが今の俺には必要ないものだし、もしこれでファンナの問題が解決するなら試さない手はないだろう?」

 

 俺が渡したのは結構最近まで俺が使っていたもので視力〇.一前後の人が掛けるものだ。日本での俺の視力は〇.一以下まで落ち込んでいたからなぁ。マジで視力回復してくれたのはありがたすぎる。これまでのファンナの様子を見る限りその時の俺と同じくらいじゃないかと思う。当時の俺用に調整したものではあるが、近視乱視が原因ならある程度は改善が見込めるはずだ。

 

 俺が渡した眼鏡を受け取ったファンナはセリナに高価だと言われたからか恐る恐る眼鏡をかける。おいおい、緊張しているのは理解してやるが、目を瞑ってしまったら全く意味がないんだが。

 

「ファンナ、ゆっくりと目を開けてごらん」

「は、はい……」

 

 俺が渡した眼鏡はちょっとファッションを気にしようかなんて思って、調子に乗って作った赤いフレームの眼鏡で、当時の俺には違和感だらけだったが、異国風美少女のファンナがかけているとなんとも似合う。ということはセリナも似合うということか! そのうちレンズを外して伊達眼鏡にしてコスプレのアイテムに……とそんな場面じゃなかった。今はファンナの人生がかかった大事な一瞬だった。

 

「……え、こ、これがご主人様? え、セリちゃん? 可愛い」

「ね、姉さん?」

 

 セリナの顔を見て可愛いと言ったのに、俺の顔をみて格好いいとは言わないんだなとかは思ったら負けだ。

 

「あ、あぁ! 見える! 見えます! ご主人様! 世界が、世界がくっきりはっきりと! この世界は霧の中にあるのではなかったのですね! あぁ、なんてなんて……」

 

 視界がはっきりとしたことで興奮状態になっていて周囲を目まぐるしく見回していたファンナが突然動きを止め俺を真っすぐに見つめると、つぅっと目から涙を流し、おもむろに土下座スタイルで頭を下げた。

 

「な! え、どうしたファンナ」

「わ、私はこの世界に見捨てられた女だとずっと思ってきました。だから世界は私に形を与えなかったのだと。見捨てられた私はこのまま性奴隷として扱われ、飽きられた後はまた安く売られ、性奴隷としての価値がなくなった後は迷宮で使い捨ての壁として使われて、最後は迷宮の餌になると覚悟をしてきました」

 

 そうか、この世界はそれほどに厳しい世界だった。日本なら盲目でも手足がなくても生存権があり社会保障があり、周囲からのサポートもある。だが、ここは命の価値が軽い世界、弱者が淘汰されていく世界だった。

 

「そんな私にご主人様は世界の形と生きる希望、そして生きる意味を与えてくれました」

「そ、それは少し大げさじゃないか? 俺は……ん? 生きる意味?」

「はい、私の命はご主人様のために」

 

 お、重い……でも、ここはファンナの意思を、強い決意を俺の気まずさで薄めてはいけない場面だろう。

 

「わかった。だが、俺はなんでも言いなりになる駒が欲しい訳じゃない。俺のために生きてくれるというなら最後まで俺と共にあることを至上としろ。俺のために犠牲になることは許さない。俺たちは仲間で家族だ、だから常に俺と共に生きるために最善を尽くすのがお前のこれからの生き方だということを忘れるな」

 

 ファンナはガバッと顔を上げると、やや頬を赤らめる。

 

「ご、ご主人様。は、はい! か、必ず!」

「これからずっと、よろしく頼むな。眼鏡はお前のものとしていい。手入れの仕方は教えるし、迷宮にしていく用の眼鏡もあるからその都度適切なものを使用できるように説明を後でするからしっかり管理してくれ」

 

 ファンナは眼鏡ケースを胸に抱えてこくこくと何度も頷く。

 なんとかファンナが落ち着いてくれてほっとした。あんまり女性とかかわってこなかったから泣かれたりすると挙動不審にならないようにするのに必死だ。あっと、セリナがほったらかしになってしまった。

 

「ほったらかしにしてすまなかったな、セリ……ナ?」

 

 待たせてしまっていたセリナに声を掛けようとしたら、当のセリナはポカンとした顔のままで涙を流していた。

 

「あ、ああ、すみません。姉さんの気持ちに引っ張られ過ぎました」

 

 双子間の共感覚って奴か? だからジョブの経験も共有できるのか?

 

「そ、そうか。それでセリナは」

「あ、大丈夫です。姉さんの事情が本当に解決されたなら、姉妹揃って迷宮にお供します。姉さんもなんだか凄くやる気ですし問題ありません。それに私も…………姉さんと同じ気持ちです、ユータ様」

 

 セリナは涙を拭うと陰の取れたいい笑顔を見せてくれた。うん、これなら仲良くやっていけそうだ。

 

「よし、じゃあ今日は市が立っている日だ。二人の生活に必要なものを買いに行こうか」

「「はい!」」

 




所持金  118、237


双子  △665,000
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