「ファンナ、眼鏡固定帯はきつくないか」
「は、はい、最初は少し緩い感じがして落ちそうでしたが、これを付けていただいてからは安定していて快適です」
「そ、そうか。それは良かった」
「はい!」
もともと俺用の眼鏡だから顔の小さいファンナにはちょっと緩いのも仕方がない。その辺は眼鏡がずれないようにと準備してきた固定帯がいい仕事をしてくれているようだ。
今は二人を連れて買い物に行くために宿を出てきたが、視界が改善されたファンナの興奮が収まらないらしく、しきりに周囲を見回し、わぁ、わあ、と感動の声を上げている。この世界では眼鏡は珍しいだろうし、あんまり目立ってほしくはないのだが……仕方ないか、ド近眼だった俺にも気持ちは分かるからな。だが、はぐれたりさらわれたりしても困る。
「ファンナ、よそ見ばかりしていると危ない。俺の手を握っておけ」
「あ……はい、あ、ありがとうございます」
なにこのかわえぇ生き物。差し出した俺の左手を顔を赤らめながらおずおずと握ってくるなんて、あんた童貞を殺しに来てるやんけ!
「……」
冷たい視線を感じたと思ったらセリナのジト目だった。
「ん、ん。セリナもはぐれないようにしたいのだが、両手がふさがってしまうととっさに動きづらくなるからこっちの肘に腕を絡めてくれるか」
「え、べ、別に私ははぐれたりしないけど、そ、そこまで言うなら……」
そっと腕を絡めて寄り添うセリナの顔もちょっと赤らんでいる。セリナはファンナよりはお胸の装甲は控えめだが、この世界にはブラジャーなんてものはない。CかDはありそうなノーブラの胸が俺の肘にもにゅんと……ぐはっ、もうたまらない。この五日間の寂しさがあっという間に満たされていくとはこのことか。
「セ、セリナは《探索者》だから迷宮に入ったことがあるんだよな。迷宮探索に必要だと思える物と日常生活に必要な物を遠慮なく言ってくれ。もちろんファンナも必要かなと思うものがあったら教えてくれ」
「「はい」」
そんな感じにいちゃいちゃ? しているうちにすぐに市の開かれている場所にたどり着いたので必要そうなものを相談して買っていく。
「水筒は……」
「いらない、コップだけ買おう」
「でも」
「ああ、後でな」
「リュックを」
「そうだな、背負い型を一つと腰巻き型を一つ買うか」
「でも一つでは」
「ああ、後でな」
「顔を拭く布と体を拭くものを」
「それもあったか、三人となると必要かひとまず大きい物を一枚と手ぬぐいサイズのものを三枚買おう」
「それも、ですか?」
「ああ、後でな」
「ご、ご主人様、あの、あの」
「ん、どうしたファンナ。なにか必要なものがあるのか」
「え、えっと私たち着るものがこれしか……」
「っと、そうだったな。市だと服は古着しかないかも知れないが、肌着や靴下、下着は新品が売っていたと思うからそっちで選ぼう。二人ともとりあえず、着替えと肌着系をニセット買っておこう。そのときにできれば俺の服も見立ててくれると嬉しい」
「あ、あの…私たちが選んでいいんですか?」
「もちろんだ、自分で着るものだからな。いいと思うものを買うといい。ただ、最初は動きやすい物を選んでくれ。いずれ普段着のようなものも新品で用意できるようになると思うが、最初は迷宮探索が多くなるからな。俺のものも動きやすいもので、後は二人が見て俺が着てもおかしくないと思えるものならそれでいい」
「は、はい! わかりました。セ、セリちゃん、これは重大任務だよ。がんばろう」
「わ、わかったから引っ張らないで姉さん。じゃあユータ様、警戒はしていますが、あまり離れないように近くにいてくださいね」
「分かってる。離れないよ」
「は、はい。ありがとうございます」
何故か顔を赤らめながら服を選びにいくセリナをゆっくりと追いかける。双子の奴隷にはまだ遺言の変更とかしていないから、俺の死は自分たちの殉死になってしまう。護衛なんてしたことはないだろうに商館で護衛の大事さは何度も仕込まれてきたらしい。だとしたら俺が出来るのは自分でも警戒することと、二人が守りやすいような位置にいることを心掛けることだ。
とは言ってもこんな人の多い市の中、何かあるとしてもせいぜいスリが出るくらいだろうが、そんなことをすれば一発で《盗賊》に落ちてしまうのがこの世界。そうなってしまえばインテリジェンスカードを確認されただけで人生が終わりかねない。小金を稼ぐ方法としてはリスクが大きすぎる。
「ご、ご主人様。こちらはいかがですか?」
ファンナが持ってきたのは要望どおり動きやすそうな服だが、胸元が少し広い気がする。俺が着るならさほど問題はないが……
「これはファンナ用か?」
「は、はい」
「よし! 採用」
「は、はい!」
あれはきっと良い物だ、今のファンナの服は首元までしっかりと覆っている服だが、あれを着れば谷間が覗くだろう。他の男に見せる訳にはいかないが革のジャケットを着せれば目立たないくらいには隠せるだろう。であれば有だ!
「ユータ様にはこれが似合うと思うのですが」
「セリナはこれを着た俺を見てそう思うか?」
「はい、ユータ様は上背もありますし、すらっとしていますので、落ち着いた色合いの服をすっきりと着こなす方がいいと思います」
「よし、採用! セリナがせっかく選んでくれたんだ。喜んで着させてもらう」
「あ、は、はい。ありがとうございます」
実際にセリナが選んでくれた服はこの世界の人達の一般的な服だが、丁寧な仕上がりでセリナがちゃんと検分して選んでくれた物であることがわかる。こうやって少しずつ日本の物をこちらの物に変えていって、こちらの世界の人になっていくのだろう。
そう考えると原作ミッちゃんは……凄い人だったんだな。ジャージのみでこの世界に放り込まれ、システム的なことも全く分からないまま一人で検証を積み重ねて生活を安定させていったのだから。俺なんかは原作の知識にいろんな持ち込み品というアドバンテージがあっても四苦八苦してるっていうのにな。
「ご、ご主人様。これで必要なものは揃ったと思います」
「最初からこんなにいろいろ準備してくださってありがとうございます」
今日買ったものを購入したリュックに入れ、胸に抱えたファンナと入りきらなかった服を抱えたセリナはどこか満足気だ。俺も美少女たちとの買い物デート? なんて初めてだったから楽しかったし、二人にもそう思ってもらえたなら嬉しい。
「それならよかった。また必要なものに気が付いたらその都度なんとかしよう。じゃあ、宿に戻ろうか。いろいろ後に回してしまった説明もあるしな」
「え、教えてもらえるんですか?」
「もちろんだが? 二人のことを仲間、家族として信頼していくと決めた俺の覚悟であり、誠意だと思ってもらいたい」
原作ミッちゃんはいろいろなことをパーティメンバーにも明かさず内密を貫いていたが、いろんな持ち込み品とかがある俺は隠しきれる気がしない。だから、異世界から来たとは伝えないが、遠くから来たこと、文化が大分違うこと、特殊な能力があっていろんなことが出来ることなんかは伝えたうえで情報の隠蔽や、道具や知識の有効活用について協力してもらいたいと考えている。
「ご、ご主人様」
「ユータ様、私たちがそのお気持ちを裏切ることはありません」
「う、うん、うん!」
「ああ、疑っていない。後で話すが、今の俺にはファンナとセリナは掛け替えのない存在だ。苦労や面倒ごとにも巻き込まれるかも知れないがいろいろ助けてほしい」
「「はい」」