「では、迷宮に行く準備をしよう」
「は、はい。ご主人様」
「わかりました。」
結局あの後二人と、今度はゆっくりと一回ずつ楽しんでしまった。その間に外も明るくなってきたので、冷たくなってしまったお湯のなれの果てで体を拭く。それから昨日買った服に着替えた後、昨日は俺の暴走で出来なかった下着などの洗濯を済ませてから全員で朝食。一度部屋に戻ってこれから二人に装備を身に着けてもらう。
「まず、ファンナは眼鏡をこちらのゴーグル型のものに替えてくれ」
「は、はい」
固定帯があるとはいえ、迷宮で戦闘ということになれば安定性と耐久性を考えてアスリート仕様のしっかりしたものを装備するべきだ。
「こ、これもよく見えます! しかも頭を振っても全然揺れません」
嬉しそうに飛び跳ねるファンナは見ているだけでほっこり……というかその胸で跳ねられると、もっこりが先に来てしまう。危険なので落ち着いてください。
「これから迷宮に行くときはそっちを使うように。それから二人の防具として革シリーズをニセット用意してあるからしっかり装備してくれ」
アイテムボックスから革の帽子、革のジャケット、革のグローブを取り出してベッドに置く。革の靴は今、まさに履いている。
「二人分、革装備を一式揃えてくださったんですね。ありがとうございます、ユータ様」
「いずれもっと良い装備に更新していく予定だが、今はそれで頼む」
「いえ、ちゃんと装備を準備していただけているだけで助かります。聞いた話によると奴隷に武器や防具を何一つ渡さないまま迷宮に連れて行くような方もいるそうですので」
「そうなのか、奴隷の値段を考えれば数千ナールを惜しんで怪我をさせたり、失ってしまうような事態は普通にもったいないだろうと思うが」
「そう思って頂けるだけで私はいい主を得たと思います」
はにかんだ笑顔を見せたセリナはファンナと共に装備を身に着け始める。本当にこの双子は童貞じゃなくなったのに俺を殺しにくるな。イイネ!
装備に関しては探索者のジョブを持っていたセリナがいればファンナも問題なく装備できるだろう。今のうちに俺も硬革シリーズを装備しておこう。頭部はボーナス装備二で知力上昇と使用MP減少(微)を確保で武器はロッドでいく。
長谷 悠太 男 18歳
探索者Lv25 英雄Lv20 魔法使いLv24 戦士Lv24 僧侶Lv24
装備 ロッド 毘盧帽 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 鉄の小楯
自分の装備を終え、双子を確認すると、二人もしっかりと装備を完了していた。次は武器か。と言っても《鍛冶師》を取得する必要があるから一人は棍棒だけど……セリナだな。《鍛冶師》のジョブ取得条件である槌で魔物複数体に同時攻撃するという条件を満たすためには、視力矯正したばかりのファンナでは難しいだろう。
「セリナは今日のところはこの棍棒を装備してくれ。扱えるよな」
「はい、大丈夫ですが……奴隷に武器を持たせていいのですか?」
「問題ない。信頼していると言っただろう」
「あ……はい。そうでした。ご信頼を裏切らないよう頑張ります」
セリナが嬉しそうに自分の背丈ほどもありそうな棍棒を軽々と手に取っている。
「最初はセリナに近接で敵を受け持ってもらうことになるから、この鉄の小楯も装備しておいてくれ」
「わかりました」
「ファンナは戦闘の雰囲気に慣れないといけないから、最初はこの銅の槍を装備して二列目から攻撃するイメージで頼む」
「は、はい。お預かりします」
ひとまず装備品はこれでよし。後は、荷物を入れるためのリュックとかだな。俺の分は今まで通りでいい。持ってきたリュックはもう一つあるからそれをファンナに、昨日買ったリュックはセリナに渡そう。ウエストポーチは予備の分をセリナ、昨日買ったものはファンナだな。
「二人ともリュックはこれを使ってくれ、後は薬とかをすぐ取り出せるように入れておくウエストポーチはこれを。リュックには昨日のペットボトルとコップ、ポーチにはこの小さいタオルも入れておくか」
「はい、このペットボトル? があるから水筒を買わなかったのですね」
「セリナ、残念。基本、水は魔法で出すからコップがあればいい。ペットボトルは自分のタイミングで飲みたいときに飲めるように、だな」
「「えっ!」」
ペットボトルや俺が渡したハンドタオルに驚きつつ準備をしていた二人が揃って俺の顔を見る。あぁ、そういえば原作でも魔法が使えることがバレるとメンバーさんたちがそんな感じだったか。
「ご、ご主人様は《魔法使い》だったのですか? 確か《探索者》だと……」
「そうです! 奴隷契約の時に見えたカードには確かに《探索者》と」
当然そうなるよね。じゃあ外で話すような内容じゃないし、ここで探索編を始めようか。
「セリナはちゃっかりしているな。あの短時間で俺のジョブまでしっかり確認しているとは」
「すみません! 見ようと思って見たわけではなくて、つい目に入ったというか」
ああ、あたふたするセリナも、その様子を温かく見守るファンナも可愛いなぁ。せっかく身に着けた装備をまた剝ぎ取りたくなってしまう。これから迷宮だからさすがにしないけど。
「ああ、別に怒っていない。基本的に二人に隠し事をするつもりはないからな。気になることがあれば聞いてもらえれば答えるから遠慮はいらない」
「あ、はい、ありがとうございます」
「それじゃ出発する前に少し探索編の情報開示をしておこう。俺は移動魔法の事故でこの国に飛ばされたせいなのかどうかは分からないが人とは違った能力を身に付けた」
「ま、魔法を使う能力ですか」
なるほど、《魔法使い》じゃなくても魔法が使えるというスキル的なものを覚えたという発想か。いいね、ファンナもなかなか柔軟で賢い。
「いい発想だけど、魔法が使えるのはジョブによるものだ」
「それなら……ジョブを自由に変えられるということでしょうか」
「お、セリナ、それ『も』正解だ」
「え?」
俺の答え合わせを聞いて思考停止したセリナの隣でうん、うんと考えていたファンナが何かに気が付いたように顔を上げる。
「あ、ご、ご主人様。もしかして複数のジョブへ同時になれる、とか?」
「ファンナ、凄いぞ正解だ。俺は取得したジョブを自由に変えられるし、条件次第でいくつものジョブに同時になれて、今は五つのジョブが設定されている」
「そんなことができるんですか?」
セリナの疑問はもっともで、普通なら出来ないのだろう。おそらくこの世界にそれが出来るのは俺と、もしミッちゃんがあの原作主人公を基にしているなら彼の二人だけのはずだ。
「なんでできるのかは分からない。でも出来るなら活用しない手はないだろう。ちなみに俺はパーティメンバーのジョブも自由に変えられる」
「えっと、それは個人でギルド神殿のような物を持っているという意味ですか」
「いや、ギルド神殿は見たこともない。単純に俺の能力の一部だと思っていい。例えば今二人は《探索者》にしてある。『アイテムボックス操作』と念じてみてくれ」
「あ、あの、私は迷宮に行ったことはないので」
「それについては、後でな。今はやってみてくれ」
「は、はい…………あ、え?」
どうやらファンナの頭の中に呪文が浮かんできたらしい。本人はずっと《村人》だと思っていたからスキルの詠唱をしようとしたことがなかったはずで、今回が初めての体験だろう。
「『八百千五百(やおちいほ)のお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン』え、えっ! なんでこんなにレベルが上がって……まさか! ユータ様?」
っと、そうしている間にセリナは自分で詠唱してアイテムボックスを出したらしい。だけど、セリナが知っているのは3×3の状態だったアイテムボックスで、今開いているのは16×16に拡張されたものだから当然驚くだろう。そして、俺が二人をパーティに加えたのだから、そのレベルアップの原因が俺にあるのはすぐに辿り着く。
ただ二人をパーティに入れたのは三日前、たったの三日でレベルが十三も上がった理由なんてどれだけ考えても分かるはずはない。俺が一人で三十階層とか、もっと上で戦ったとかでもない限り。
「レベルアップについても後でな。まずはファンナもアイテムボックスを出してみてくれ」
「は、はい。や、『八百千五百(やおちいほ)のお宝を、収めし蔵の掛け金の、アイテムボックス、オープン』? あ、ご主人様、私にも出せました! しかもこんなにたくさん!」
「へ? 本当に姉さんが《探索者》? 一度も迷宮に入ったことがないだけじゃなくてギルドにも行ってないのに? しかも私と同じレベル? ど、どういうことなんですか!」
なまじっか《探索者》として活動していた期間があるだけセリナの方が混乱ぶりが激しい。おそらく自分が迷宮探索に入りたての時に苦労した経験があるからだろう。
「セリナ、それについても後でな。まずは俺が二人のジョブを変えられるということを証明する。アイテムボックスを閉じてくれるか」
大人しく指示に従う二人を見て頷くと、パーティジョブ設定で二人のジョブを《商人》にする。
「二人に質問だ、二千七百四十九ナールの買い物を八回したら合計はいくらだ」
「「二万一千九百九十二ナールです。え、なんで?」」
「正解、それが《商人》のジョブが持っている計算結果を一瞬で導き出すカルクというスキルの効果だ。次に『ラッシュ』と念じてみてくれ」
二人が戸惑っている間にジョブは《戦士》に変更済みだ。
「あ、詠唱文が浮かぶ……」
「え、えと」
「ああ、唱えなくていい。それは『ラッシュ』という《戦士》の攻撃力を上げるスキルだからな」
「す、凄いです! ご主人様!」
「……そんなことが本当に? でも、実際に……ううん、私はユータ様を信じればいい」
ファンナは純粋な気持ちで驚愕を尊敬に昇華してくれているみたいだけど、セリナは今までの常識と真っ向対立するような状況にそれなりに葛藤があるらしく、考え込んだ末に最終的には俺を信じて全てを受け入れる覚悟をしてくれたようだ。
「いいか、次に行くぞ」
「は、はい!」
「はい、お願いします」
「ジョブに関しては体験してもらったように一度取得条件を満たしてしまえばいつでも変更ができるし、俺に限って言えば最大で七つまで同時にジョブを設定できる。そしてそんな俺にお誂え向きに俺の国ではジョブの取得方法について研究がされていたから《鍛冶師》の転職条件も知っている。てことで二人には転職条件は早々に満たしてもらう予定だし《鍛冶師》としての仕事もしてもらう」
「ユータ様、私が《鍛冶師》になれるのですか?」
セリナが自分の手を眺めながら俺に聞いてくる。その姿は思いもしなかった未来に戸惑っているように見える。本当ならファンナの分も合わせて買主に満足してもらえるように言われるがままにがむしゃらに働き続ける覚悟だったセリナ、自分がなりたいジョブになれる未来は想像できなかったのだろう。
「なれる。やはりドワーフ族にとって《鍛冶師》は特別か?」
「もちろんです! 《鍛冶師》になれれば後はほどほどに迷宮で素材を集めて装備を作って売るだけで生きていけるようになりますから」
うん、思ったよりドライな理由だった。もっと『種族にとって種族固有ジョブは天職! なれるなら絶対になりたいものです!』みたいに言われるのかと思った。
でも、確かに原作パーティで種族固有ジョブに付いていたのはドワーフの彼女と竜人族の彼女の二人だけだったけど他のメンバーは何も言ってなかったし、エルフなんか森林保護官になっている登場人物は一人もいなかった気がするな。それに種族固有ジョブが最優みたいな世界観だと人間族の《色魔》がそこら中にいるなんていう危険な世界になってしまうしな。
「よ、よかったねセリちゃん! なりたがってたもんね」
ファンナがセリナの手を握って妹が《鍛冶師》になれることを喜んでいるが、あなたも無関係じゃないのですよ。
「いやいや、他人事じゃないぞ。最終的にどんなジョブになるかは別として、ファンナにもしっかり条件は満たしてもらうからな。条件さえ満たしておけばいつでもジョブに設定できるから他のジョブもやろうと思えばできる。ただ《鍛冶師》のレベルも上げなきゃいけないから常にどちらかは《鍛冶師》でいてもらうことになるけどな」
「あ……ユータ様、《鍛冶師》にレベルは」
あぁ、そうだったその説明もいるのか。これは迷宮に出発するのは午後に食い込みそうだな。