「セリナ、俺には『鑑定』というスキルがあって、これを使うと人物なら名前、性別、年齢、ジョブとそのレベル、装備している装備品の名前がわかるし、魔物相手なら名前とレベル、そして装備品を鑑定したときには名称や付加されたスキルに加えてその装備品にスキルをいくつ融合できるかがわかる」
「……わかりました。そういうものだと納得します」
「わあ、ご主人様は凄いですね」
ここまでくるとセリナもとりあえず全部呑み込むことにしたらしい。
「そんなに難しく考えることじゃない。《探索者》だけが特別だと思うからおかしくなる。たまたま《探索者》だけがレベルに応じた変化がわかりやすいだけと考えればいい。《探索者》だろうが、《戦士》だろうが、《鍛冶師》だろうがそれらは全部ジョブというくくりの中にある。だったら《探索者》だけにレベルというシステムがあるのはおかしいだろう?」
「……確かに、その通りです。同じジョブでも長く続けてたくさん魔物を倒している人の方が強い、というのは常識です」
「それなら確認ができないと信じにくいかも知れないが、レベルそのものはあると考えた方が自然だと思わないか? そして俺の『鑑定』という能力はそれが見える」
「はい、なんとなく納得しました。でも装備に関しても戯言だと言われていたスキルスロット説が正しい……と?」
「そういうことだ。ちなみに今二人が身に着けている装備にはすべてスキルスロットがある。つまり……えっと、魔物からドロップするあれさえあれば《鍛冶師》のスキル融合は必ず成功することになるな」
「ご、ご主人様、スキル結晶ですか?」
「あ、あぁ! それだ。それがあればうちのパーティは二人が《鍛冶師》になってくれることでスキル付き武具をいくらでも作成できることになる」
ファンナ、いいアシストだ。この世界がモンスターカードなのかスキル結晶なのか確認してなかったからちょっと焦った。
「なるほど……それが本当なら私たちは今後お金に困ることはないということですね」
「かも知れないな。だが、あまり目立った商売をすれば良からぬ輩を引き寄せることになる。だから、ほどほどに稼ぐことが一つ、そしてもう一つはなにがあっても自分や仲間の安全を確保できるだけの強さを身に着けること。俺たちがこれからまずやらなきゃいけないのはそれだな」
「はい、ユータ様の言う通りですね……あれ、なんだか少しわくわくしてきました」
「ああ、そうだ。自分たちの力だけで、俺たちはこの先ずっと楽しくのんびり暮らせるようになれる」
「あ、あの! 私も強くなってご主人様を守れるようになりますから!」
「ありがとうファンナ、よろしく頼む。だが俺も守られるだけじゃなく、主人として二人を守れるように強くなるつもりだがな」
うまい具合に二人のテンションを上げることが出来ただろうか。他にもいろいろ話しておいた方がいいことはあるが、せっかくいい感じに気合が入ってきたところだ。続きは探索をしながらでもいいだろう。
やる気の出た二人と連れ立って宿を出ると『ワープ』を使って冒険者ギルドに一度出る。そこで滋養丸を二人に五個ずつ、強壮丸を五個ずつ買ってポーチに入れてもらう。後はまだ手元にあった黒魔結晶も一つずつ渡しておく。経験値効率を考えればなるべく俺が倒すべきだが二人の倒した分が無駄になるのももったいない。
「二人とも、俺のジョブに《僧侶》があるから基本的に回復は俺がするが、薬に関しては俺の許可を取る必要はない。必要だと思ったらすぐに使っていい。薬なんかより二人の方が大切だからな」
「「は、はい。ありがとうございます」」
「うん、じゃあもう少し話したいこともあるし、迷宮は東門を出てすぐ近くだから歩いて迷宮に向かうか」
頷く二人と一緒に歩いて東門を出ると、ゆっくりと迷宮へと向かう。いい天気だし美少女二人と並んで歩くなんて、贅沢な時間だ。とのんびりと歩いていたらファンナに袖を引かれる。
「ご、ご主人様。お話というのは」
「ああ、そうだった。話というのは二人のジョブについてだ。今は二人とも《探索者》になっているが、これから迷宮で少し戦いに慣れてもらったら《鍛冶師》も含めて転職条件が満たせるものは達成してもらってジョブだけは選べるようにしておきたい。そのうえで基本は《鍛冶師》として頑張ってもらうが場合によっては俺からなってもらいたいジョブをお願いすることもあるだろうし、なりたいジョブがあれば希望を叶えてあげられることもあるから、遠慮なく相談してほしい」
「ユータ様、私たちは奴隷ですし、ユータ様にご指示いただいたジョブならどんなジョブでも一生懸命に努めます」
相変わらずしっかり者すぎてセリナは固いなぁ。あんなにお胸は柔らかいのに。おっと、《色魔》は覚えてないのに煩悩が。
「もちろんそうしてほしいし、二人が手など抜かないことは分かっている。ただ、俺一人の考えでは思いつかないようなジョブの活用法があったりするかも知れないし、本人のモチベーションが上がるようなジョブがあるならその方がパーティのためにはプラスになるかも知れないだろ」
「なるほど、そういう意味ですか。わかりました、何か思いついたことがあればご提案してもよいということですね」
「ああ、ジョブに限らず。この国のことに疎い俺が何かやらかす前に気が付いたことはどんどん指摘してもらいたい。ファンナもよろしくな」
「は、はい! わかりました。でも私はジョブのことはあまり詳しくないのでご主人様が決めてくださると嬉しいです」
まあ、ファンナはずっと《村人》のまま生きていく可能性が高かったからあんまりジョブのことを知らないのも無理ないか。
セリナと経験を共有してなければ盗賊退治を計画して《英雄》に挑戦するのも検討出来たが……いや、やっぱりないな。せっかく世界がよく見えるようになったばかりのファンナにいきなりそんな汚いものを見せるなんて俺にはできない。でも魔物とは戦わせるんですけどね……と俺がプチ自己嫌悪したところで意外とこの世界の人たちはけろっと盗賊退治しちゃうんだろうな。まあ、この辺は俺の自己満足ってことでいい。
「わかった。ちょっと二人に関しては迷宮で少し確認したいこともあるからそれを確認してからな」
「はい!」
ということで迷宮に着いたらまずはボーナスポイント確認。魔法で戦う際の基本形がこれかな。
キャラクター再設定1 詠唱省略3 パーティジョブ設定3 パーティ項目解除1
鑑定1 MP回復速度五倍15 フィフスジョブ15 結晶化促進四倍3
獲得経験値二十倍63 必要経験値五分の一15 ワープ1 頭装備二3
合計124
よし、最初は一階層から行くか。
「じゃあ、ファンナが初めてでもあるし、最初は一階層から行こう。ベリル東迷宮の一階層はニードルウッド。歩く枯れ木みたいな魔物で枝を振り回してくるけど、そんなに動きは速くないしレベル的にも問題なく戦えるから落ち着いていこう」
「「はい」」
迷宮の入口から一階層を選んで中に入る。
「わ、わあ。ここが迷宮なんですね」
初めて入る迷宮に興味津々のファンナ。ちょっと危機感が薄い気もするが、全てが初めて見るものだろうから興奮してしまうのも無理はない。今は好奇心で恐怖心や不安を感じる暇がないのかもな。
「姉さん、迷宮は一歩間違えば人が死ぬ場所だからね」
「あ、そ、そうだよね。ごめんなさいセリちゃん。気を引き締めるね」
さすが息の合った双子だな。ちゃんとお互いのことをわかっている。セリナが言わなければ俺が言うべきことだったけど、俺から言うよりは受け入れやすいだろう。実際に二人はしっかりと武器を持って真剣な顔で警戒をしている。
「一階層ではそこまで気を張る必要はないが、心構えはそのくらいでいい。とりあえず、ニードルウッドを探しながら一階層のボスを目指して、もし余裕があればボスのウドウッドを何回か周回しておきたい」
「「はい」」
一階層は大分走り回った場所だから、マップを書いてなくてもボス部屋までのルートは大体分かる。
「よし、行くぞ」
それからはほどほどの緊張感を保ちつつ、時には雑談なんかも交え迷宮を探索していくがボス部屋への最短ルートが近いせいか、もしくは昼頃からの探索になったためなのか、もしくはその両方が理由である程度狩られているせいなのか、なかなかニードルウッドに出会わず約十分。曲がり角から顔を覗かせた先に見慣れた姿を見つけてちょっとほっとしてしまった。
「二人とも、ニードルウッドがこの先にいる。曲がったらまず俺が魔法を撃つ。二人はその後を追う形で距離を詰めて攻撃をしてみてくれ。打ち合わせ通りセリナが前で、ファンナは横か後ろに回り込んで槍の間合いぎりぎりから突く」
迷宮探索経験があるセリナは静かに頷くが、魔物をはっきりとした視界で見るのが初めてのファンナはちょっと委縮しているらしい。
「ファンナ。二人が攻撃を受けても俺がすぐに《僧侶》のスキルで『手当て』をする。俺を信じられるか?」
ファンナの肩に手を載せて視線を合わせて伝えると、彼女の揺れていた視線がピタっと安定する。
「ご、ご主人様が信じられなくなるくらいなら命を落とす方がましです」
「……うん、固さは取れたな。じゃあいくぞ」
「「はい!」」
ファンナがヤンデレ化しないかちょっと心配だが、覚悟が決まったならそれでいい。二人を連れて角を曲がるとすぐに脳内で『ファイヤーボール』と唱え、ニードルウッドに放つ。
「今だ!」
初めて魔法を間近で見たのか一瞬呆気にとられていた二人に活を入れるように声をかけると二人は慌てて走り出す。魔法は意外と速いため、すでにニードルウッドに命中していて火柱状態になっている。あの火が消えるまではニードルウッドの攻撃が緩慢になるのでその間は二人が近づきやすいし、一階層のニードルウッドなら魔法を一発当てておけば、攻撃を引き継いだ二人でも早い段階で倒せるはず。二人の後ろを追いかけて走りつつ、いつでも『手当て』が出来るように準備しながら様子を見守る。
「姉さんは横から!」
「わ、わかった!」
セリナが棍棒を下段にぶら下げつつ走り込み、ファンナが走りこむ側からニードルウッドに叩き込む。
ドゴォ!
っと凄い音がするのはドワーフ族の力が強いからだろう。火が消えて気を取り直したかのように動き出そうとしたニードルウッドはその一撃で数十センチはズレる。
その隙にファンナはニードルウッドの横に付き、棍棒の一撃を受けて動きが止まったところへ銅の槍を突きこんだ。武器なんて持たせてもらえなかっただろうファンナの突きはお世辞にもうまいとは言えないが、やはり力はあるのか幹の部分に食い込むかのように槍が入る。
そのファンナの一撃でさらに押し込まれたニードルウッドは苦し紛れに枝を振るがセリナは冷静に半歩下がって避けると、その半歩を助走に棍棒を振りかぶってニードルウッドの上部に力いっぱい振り下ろした。
バキィ!
今度もいい音がしたと思ったらニードルウッドは煙へと変わった。
思ったより魔法での一発が大きいな。二人で数回攻撃を追加すればいいのなら迷宮に慣れるためにはちょうどいい。
「二人ともお疲れ様、いい動きだったし連携もよかったな」
「は、はい! ご主人様の魔法も凄かったですし、セリちゃんも私が通りやすいようにしてくれました!」
「本当にユータ様が魔法を使えたことに驚きましたけど、まさか魔法があると一階層の魔物がこんなに早く倒せることにもっと驚きました。姉さんも戦闘は初めてのはずなのにちゃんと私の隙を埋めるように動いてくれて助かりました」
セリナが拾ったブランチを俺へと手渡してくるが、その表情はうまく初戦を戦えたことに安堵しているみたいだ。初めての戦闘だった姉の立ち回りに少し不安があったんだろうな。でも、初戦であれだけ動けるなら十分だろう。
「確かにな、さすがに姉妹だけあってお互いにやりたいことがうまく通じ合っている感じだったな。もう少し同じパターンを試してみてから魔法なしでも戦ってみようか。その時には俺も前衛に入るから三人での戦い方も確認して、それから一層のボスのウドウッドと戦ってみよう」
「「はい」」