「やったな、スキル結晶が落ちたのは初めてだ。しかも立木のスキル結晶は聞いたことがない。どんな効果が付くか知っているか?」
「すみません、有名なものならわかるのですが立木というのは聞いたことがなくて、かなり珍しい種類なのではないかと思います」
なるほど、確かに原作でもニードルウッドはかなりの数倒していたはずだけど、一度も出てこなかったし、話題に上ることもなかった。となるとあまり役に立つような効果はないかも知れないか。ただ珍しいものということなら高く売れる可能性はあるな。
「これは一度クラタールの商業ギルドに聞いてみる案件だな。俺たちのパーティーに必要なさそうな効果なら装備に付けて売ればそれなりの値段になるだろう。探索初日の一階層でこれが手に入るなんて二人は俺にとって幸運の女神だな」
「ご、ご主人様、それは褒め過ぎです。今回はむしろ私のせいで……」
「そう、それだ! ファンナ、どうやら君の聴覚は俺が思っていた以上に優秀かも知れない」
「へ? え?」
「俺たちが全く気付かなかった壁の向こうのニードルウッドの音が聞こえたということはそういうことになる。つまり、ファンナが聞いた情報を俺たちに教えてくれれば、今後俺たちのパーティーは魔物部屋にうっかり入ってしまうことがなくなるし、逆に倒せる戦力があるなら一気に大量の魔物を倒せる機会を得ることになる」
「確かにそれはパーティーの安全度があがります。凄いです姉さん」
「え、でも」
「それに通常の探索においてもなるべく周囲の音に気をつけるようにしてもらえば、会いたくない魔物や他のパーティーを避けることもできるだろうし、それは不意打ちをされる可能性が減るということだ。ファンナ、期待しているぞ」
「あ、は、はい! 頑張ります!」
ふっ、これぞなんとなく方向性を変えつつ褒め殺して罪悪感を忘れさせるの術。というのは冗談で本当に嘘はついていない。ファンナの聴力は斥候索敵関係に弱いうちのパーティーの大きな力になる。
「ユータ様、先ほどの結晶ですが……」
「ああ、融合はうちでやる。最初はセリナに頼むつもりだからよろしくな」
よし、そろそろMPも回復したし、MP回復速度二十倍を獲得経験値二十倍に戻してウドウッドにでも……あれ、そもそもMP回復ならデュランダル出せば良かったくねぇ?
うわ、やっぱり冷静じゃなかったかぁ。デュランダルならどうせ一撃一殺だったし、原作みたいに『オーバーホエルミング』連打でどうにかなったかも。ああ、もういいや考えない考えない。結果としてレベルも上がったし、二人が《鍛冶師》をゲットできたんだから。
「はい、もし《鍛冶師》になれたらもちろん頑張らせてもらいます」
「うん、だから頼む」
「え?」
「うん?」
「本当ですか?」
「うん」
「あぁ……えっと、頑張ります?」
「よろしく」
その辺の説明と二人のリンクの話もここで伝えておいた方がいいか。
「あ、あのご主人様。後ろの方から人の声が聞こえます」
「お? ……やっぱ凄いなファンナ、俺には全然聞こえない。でもちょうどよかった。二人にまた話しておくことがあるし、ここで休憩も落ち着かないからいったん迷宮の入口に戻ろう」
『ワープ』と唱えて現れたゲートにいつもの木を指定すると、ファンナとセリナに先に行ってもらう。その後に続こうとしたところでようやく俺にも人の声が聞こえた気がした。凄いなファンナ。
ゲートから出ると、ファンナとセリナは俺が出てくるのをガン見していた。なぜ?
「ご、ご主人様がすぐに出てこなかったので、なにかあったのかと思って心配しました」
「そ、そうか。すまなかったな。ちょっと忘れ物がないか確認していたんだ」
本当に人が来るのか数秒、待っただけなのに心配してくれたのか。魔物部屋の件でちょっと心配させ過ぎたか。
「とにかく、せっかく外に出たんだしちょっと休憩しよう。水はペットボトルのを飲んでいいぞ」
「「はい」」
話を始める前に迷宮入口から少し離れて木陰に腰を下ろすと思い思いにリュックからペットボトルを取り出して水分を補給する。
「ふう、少し落ち着いたな。やっぱり迷宮は怖いところだと再認識できたいい出来事だったと思おう」
「そうですね、姉さんの今までの苦労が無駄ではなかったこともわかりましたし」
「あ、あと結晶もですね」
俺を挟むようにしてやや密着して座っている二人が自嘲気味の笑顔で同意してくれる。せっかく怖い思いをしたんだから何かを得なくちゃ勿体ない。こうした考え方一つで物事の捉え方なんていくらでも変わるもんだ。
「ああ、そうだ。そして、セリナの頑張りのおかげで二人は《鍛冶師》になる資格を得た」
「あ、それです。一体何がジョブ取得条件だったのでしょうか」
セリナが好奇心に目を輝かせて俺にくっついてくる。よしよし可愛いのう。
「ん、《鍛冶師》の取得条件は《探索者》レベル十以上、かつドワーフが槌系の武器を使って複数の魔物へ一度に攻撃したことがある。だな」
「た、確かにセリちゃんはさっき棍棒でやってました!」
「なるほど、そうだったのですね。だから同じ《探索者》レベルが十の人でもなれる人となれない人がいるのですね」
「後で条件を整えてから挑戦してもらおうと思っていたんだが、セリナが俺たちを守るために力を尽くしてくれたからジョブを取得することができた。ありがとうな」
「あ……いえ、私も必死だっただけなので」
「か、格好良かったよ、セリちゃん」
「姉さんまで……」
耳を赤くして照れるセリナは可愛くてずっと見ていたいが、話を一歩進めよう。
「この後、二人とも一度《鍛冶師》にジョブを変更する予定だけど、その前にもう一つ君たち姉妹について気が付いたことがあるので伝えておく」
「「気づいたこと、ですか?」」
並んで左右対称に首を傾げる二人はあざとく狙ってやっているのかと聞いてみたくなるが、多分百パーセント天然なんだろうな。
「ああ、もったいぶってもしょうがないし、悪いことでもないから結論から言うが、どうも二人は戦闘での経験を共有しているらしい」
「経験を共有ですか? それはどういうことでしょう」
「そうだな、今回の件で確信したから今回の例で説明するが、さっきの魔物部屋での戦闘を思い返してもらえばわかる通り今回《鍛冶師》の条件を満たしたのはセリナだ」
「……そうですね。姉さんは銅の槍を装備していましたし」
「その通り。だが、今回の一件で《鍛冶師》というジョブを取得したのはセリナとファンナが同時だった。加えて言えば二人が条件を満たしているジョブは全く同じ種類と数で、レベルまで全部一緒だ」
「え……それって……」
俺の言葉の意味がすんなりと頭に入ってこなかったらしいセリナは今頭の中で俺の言葉を咀嚼しているようだ。ファンナはそもそも理解を放棄しているのか、うんうんと考え込んでいるセリナを温かい目で見守っているだけ。
「えっと、つまり……本当にジョブにレベルがあったとして、私が《鍛冶師》、姉さんが《戦士》で経験を積んだ場合、私の《鍛冶師》のレベルが二になったとき、《鍛冶師》のジョブについていない姉さんの《鍛冶師》のレベルが上がる。そして姉さんの《戦士》ジョブについても同じ現象が起こる?」
「起こるな。そして二人が同じジョブだった場合は、他の人たちよりも倍の早さで成長することができる。原因は分からない、双子だからなのか、ファンナとセリナだからなのか、それとも別の要因なのか。でもきっと二人がお互いを思いあって一緒にいることを選んだから気が付けたことだろうな」
「ち、違います!」
「へ?」
せっかくちょっと格好良く決まったと思ったのに、速攻でファンナから駄目出し?
「わ、私とセリちゃんだけじゃ気が付きませんでした! 凄い力を持ったご主人様が私とセリちゃんが一緒にいることを認めてくれたから、そして大事にしてくれたからだと思います」
「ファンナ……」
「姉さん……ユータ様、確かに姉さんの言う通りです。私たちとユータ様、三人が一緒であることが大事だったってことだと私も思います」
「セリナも……そうだな、俺たち三人が一緒に生きることを神様とやらが祝福してくれたのかもな」
「は、はい! でも私にとっての神様はご主人様です」
「神様なんて信じていませんが、ユータ様は信じています」
双子からの好感度が爆発しているなぁ。多分、ファンナが眼鏡を与えられたことで限界突破した好感度の影響をセリナも共感能力で強く受けている。そこでさっきの魔物部屋での俺の行動で今度は二人同時に好感度が上がったものだから、さらに相乗効果が発生した感じだ。まあ、二人からの好感度なんていくら高くなってもどんとこいだから問題ない。
「神様扱いは寂しいな、俺はパーティーメンバーとの関係は、人として恋人兼任のご主人様みたいな関係が嬉しい」
「「こ、恋人!」」
奴隷としていろいろ諦めていたせいか、二人ともメンタル部分はかなり初心なんだよね。こういう甘々なことを言ってあげると顔と耳を赤くして照れてくれるのが可愛い。
「さて、惜しいけどいちゃいちゃするのは一度ここまでにしよう。さっきまでの話を踏まえたうえでまずどんなジョブに就きたい?」
「どんな……と言われましても、私は転職できるなら《鍛冶師》一択だと思っていたので」
当然セリナは《鍛冶師》か。でもそもそもどんなジョブがあるのかを二人はそこまで詳しくないのかも。宿に戻ったら知っているジョブとその詳細を教えてあげた方がいいかもな。そのうえでパーティが増えたときの構成とかも一緒に検討出来たらいい。
「ご、ご主人様。私はあまりジョブに詳しくないので……ただ《鍛冶師》というのがとても大事なジョブだというのはわかりますので、最初はその《鍛冶師》のレベルを優先して上げた方がいいかと思います」
おお、素晴らしい。ファンナも皇都高級服飾店筆頭裁縫師コルチのように感覚的に重要な部分を抜き取れるセンスがあるのかもな。ん? そういえばコルチもドワーフだったっけ。もしかしてドワーフにはそんな能力が! なんて、そんな訳はないか、ちょっと勘が良ければ気が付くことだしな。
「わかった、セリナもそれでいいか」
「はい、姉さんのいう通りだと思います」
「だな、じゃあジョブを変更しよう。二人ともアイテムボックスを開いてくれ、《鍛冶師》のアイテムボックス容量を超えるとジョブが変えられないから中身を俺が預かる」
「「はい」」
ファンナ 鍛冶師Lv1
取得ジョブ 探索者Lv17 村人Lv5 農夫Lv1 薬草採取士Lv1 戦士Lv1 剣士Lv1 商人Lv1
セリナ 鍛冶師Lv1
取得ジョブ 探索者Lv17 村人Lv5 農夫Lv1 薬草採取士Lv1 戦士Lv1 剣士Lv1 商人Lv1
二人のアイテムボックスを一度空にして、パーティジョブ設定でジョブを《鍛冶師》に変更。
「よし、これで今日から二人は《鍛冶師》になった。戦闘に関してはレベルが一になっているから動きなどに変化が出ると思うので注意が必要だが、ジョブとしての特性で攻撃力、体力、器用が強くなっていくからな」
「これで私も本当に鍛冶師に……」
セリナが自分の手をにぎにぎしながら不思議そうな顔をしている。普通に鍛冶師ギルドに連れて行って転職してもらってもいいんだが、ギルド所属になってしまうといろいろ自由が利かなくなると困るから、そのあたりは我慢してもらいたい。あ、でも実感させるためなら実際にスキルを使ってもらえばいいか。
「セリナ、確認のために装備を一つ作ってみないか? 『スキル結晶融合』はレベル一だとMPがきついと思うが『防具製造』でミサンガを作るだけなら多少落ちこむかも知れないがいけるはずだ」
確か原作では彼のレベルが軒並み三十超えの時にレベル一の《鍛冶師》に『スキル結晶融合』をさせてMP枯渇していたが、《鍛冶師》が修行で最初に作ると言われているミサンガの作成なら俺のジョブ補正があれば十分のはずだ。
「是非やってみたいです」
「わ、私もやってみたいです」
「ファンナもか、いいぞやってみろ」
俺はアイテムボックスに入れっぱなしになっていた糸を四つ取り出すと、二人に二つずつ渡す。
「確か糸二つでよかったよな?」
「いえ、ミサンガなら一つで大丈夫だったと思います」
「そうか、まあ使わなければそのまま残るだろうしそのままやってみてくれ」
「はい」
緊張した面持ちで頷いたセリナは脳内の呪文を確認してからゆっくりと『防具製造』の呪文を詠唱する。するとセリナの手元が強く光り……ってそうだった! 《鍛冶師》のスキルは光が出るんだった。周囲に人は! ……いないか。昼間だしそんなに目立っていないと思うが、うっかりしていた。客を取って商売するのでもない限り《鍛冶師》であることをわざわざ喧伝する必要はない。むしろ危険なだけだ。
「ユ、ユータ様! 本当にできました!」
光が収まった後、自分の手にミサンガがあるのを見たセリナが小さく飛び跳ねながら俺に詰め寄ってくる。喜びを溢れさせているセリナを見る限り、やっぱりスキル付与よりMP消費は少ないらしい。
「よかったなセリナ。これからは作れる装備はどんどん作ってもらうからな」
「はい! わかりました」
ミサンガ
さすがに一回目からスキルスロット付きは出来ないか。確か原作では一個目のミサンガで身代わりのミサンガが作れた《鍛冶師》は成功すると《鍛冶師》の間では言われているという話があったが、うちの子たちが成功するのはもう確定しているし、スキルスロットの件も伝えてしまっている。あえて最初の一個にこだわる必要はない。
「あ、あの私もやってみていいでしょうか」
なんだかわくわくした顔で聞いてくるファンナに宿に戻るまで駄目とは言い難い。
「構わないが、思ったより光が強かったから少し迷宮から離れよう。それからセリナと俺で光が漏れにくいようにするから」
こくこくと頷くファンナをちょっと離れたところに連れていき、木と木の距離が近いところへと入ってもらい、隙間を俺とセリナで塞ぐ。
「じ、じゃあやってみます!」
嬉しそうに手に持った糸を見つめるファンナはセリナよりは幾分たどたどしく呪文を唱え終える。同時に発生した光は目を閉じてやり過ごすと、さっきと同じようにその手にはミサンガがあった。
「わ、私にもできました!」
次のメンバーはどんな人?
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