「た、多分あっちにいます」
「よし、行ってみよう。四階層はグリーンキャタピラーの階だが、三階層のナイーブオリーブや二階層のスローラビットも出るし、確率は低くなるがニードルウッドも出る。この中で気を付けるのはグリーンキャタピラーの糸吐きとスローラビットの突進だ。現状俺たちにはスキルを中断させる手段がないから魔法陣が発生しても止めにはいかない」
「はい、私たちはユータ様が糸に当たらないように盾になればいいですね」
セリナさん、それは違う。盾になる前提は減点です。
「セリナ、糸くらいなら最悪そういう事態も許容できるが最初からそのつもりなのは駄目だ」
「では、どうすれば」
「俺が魔法を使えることは知っているな。糸吐きはファイヤーウォールで防ぐから、グリーンキャタピラーの下に魔法陣が出たのを見つけたらすぐに教えてくれ。そうしたら二人は俺が出す壁の後ろに退避。もし壁が間に合わないときでも、距離を詰めて戦わない分だけグリーンキャタピラーとの距離は保てているはずだから回避に専念。その際、俺は下がるから二人は左右に散って回避。この場合、避けきれなかったとしても糸に捕まるのは一人だけのはずだ。その際は糸に捕まらなかった二人がすぐに捕まった人のフォローに入る。四階層なら二回目の糸吐き前に倒せる計算だからここからは三人が固まっていてもいい」
「なるほど……わかりました。複数が同時にスキルを使用してきた場合はどうしますか」
「そうだな、四階層ではそこまでスキルの使用率も高くないはずだが、その場合も同じでいい。俺のオーバーホエルミングというスキルで二人以上が同時に捕まらないように対応する」
「わかりました、その時はお願いします」
四階層ではレアな状況だとは思うが、確かに可能性はあるから指摘してもらえたのは良かった。でも、こう考えると早い段階で詠唱中断付の装備が必要だな。ウサギとコボルトのスキル結晶か。あとは身代わりのミサンガ用の芋虫の結晶も早めに依頼を掛けた方がいいな。
「あ、あの、右の角から来ます」
俺の考えた四階層での立ち回りを説明しているうちに、魔物があっちから来てしまったらしい。まあ、ああだこうだ言ったが、今の魔法の威力ならよほどのことがない限りベリル東迷宮四階層の魔物の構成に危険はない。殉死の設定があるからどうしても俺を守らなきゃいけないという縛りがあるのは分かるけど、誰かが犠牲になることが前提の立ち回りは最後の最後まで取っておいて欲しいというのが正直な気持ちだ。
「わかった、少し下がって待ち構えよう。出てきたら魔法を使う、距離は詰めずに俺の前を固めて欲しい」
「は、はい!」
「わかりました!」
少し下がって隊列を整える。センターに俺、左前にファンナ、右前にセリナだ。二人とも右利きのため、セリナが剣を振る際にファンナが動きにくくならないようにした。ファンナは槍を使っているから突く分には誰かの邪魔をすることはない。
静かに待ち構えていると最初に角から姿を見せたのはスローラビット、続いてナイーブオリーブ、さらにグリーンキャタピラーだ。下がって待ち構えていたこともあり、まだ向こうはこちらに気がついていない。先制が取れる!
『ファイヤーストーム』
体感的に射程はぎりぎりだった感じはするが、発動さえすれば問題ない。最初の魔法はしっかりと三体を炙ってくれている。同時に俺たちに気が付いた魔物がこちらへと進路を変える。やはり先頭を走ってくるのはスローラビットだが距離を取っていた分、二発目も余裕で間に合う。
『ファイヤーストーム』
それでも三発目の前には兎さんが来ちゃうか。双子はどうするかな?
「姉さん! 私が!」
「セリちゃん、こっちへ」
向かってきた兎さんは二人の間を抜けようとまっすぐ突っ込んでくるが、セリナがその進路に立ちふさがると飛び掛かってきた兎さんを左手の小楯で弾き飛ばす。おおっ! その弾き飛ばした先にはファンナが既に槍を構えて待ち構えている。
「えぇいい!」
ファンナの可愛らしい掛け声と共に突き出された槍は兎さんの胴体に深々とくいこんで、飛んできた方向へと突き返される。となれば当然そこには鋼鉄の剣を振りかぶったセリナが……うわ、凄い迫力。スローラビットが三発目を待たずして煙になっていくとは。二人のコンビネーションは練習いらずだな。
『ファイヤーストーム』
一応とどめの三発目。これでナイーブオリーブとグリーンキャタピラーも消えていく。
「やりました! ご主人様」
「ああ、二人とも見事な戦いぶりだった。なんだかレベルが一でも問題なさそうだ。さあ、ドロップを拾ってどんどんいこう」
それから俺たち三人は四階層をひたすら歩きまわって討伐数を重ねていった。何度かグリーンキャタピラーに糸を吐かれる場面もあったが幸い同時使用は一度もなく、二人はちゃんと俺が提示した立ち回りを実践してくれていた。
さらにレベル上げの際にかなり役立ったのはファンナの聴力で、迷宮が閉鎖的な空間ということもあり何十メートルも先の音を聞き分けられる訳ではないが、先の見えない二つの曲がり角があったときに多分こっちにいます。くらいの指針にはなった。
両方ともに先の方まで魔物がいなければもちろん判断は出来ないが、少しの指針があるだけで、闇雲に動き回るより格段に魔物との遭遇率が上がった。夕方までに戦闘回数としては二十戦以上、魔物も三桁に近い数を狩れたと思う。
お陰ですでに二人の鍛冶師レベルは八になっているし、俺のレベルも《英雄》が二十四で《探索者》《魔法使い》《戦士》《僧侶》がレベル二十九に上がった。
いろいろキリがいいところまでもう少しなんだけど、時間も十六時を回るし無理はせず残りは明日にする。明日はジョブレベル三十を達成して、《鍛冶師》をレベル十にしたら今日見つけた四階層のボス部屋を突破して五階層を確認出来たらと考えているが、合わせてベリル西迷宮のモンスター配列も確認したり、クラタールの商業ギルドでスキル結晶を買ったりとか、立木のスキルの効果を確認したりとかもしたい。どうしたものか……まあいいや、明日考えよう。
「二人ともお疲れ様、今日のところはここまでにして帰ろう」
「「はい」」
周囲を確認して、『ワープ』で海猫亭の路地裏に出ると宿に戻りつつさっきの戦いを振り返る。
《鍛冶師》を得てからは、俺の魔法で二人のパワーレベリングをするために移動した四階層だったけど、なんだかんだで兎さんが出てきたり、距離が取れない形で接敵したりもあって二人が戦う機会もそこそこあった。
「ファンナ、初迷宮はどうだった?」
「ご、ご主人様のお陰で、私でもちゃんと戦えて楽しかったです」
しっかりと俺に向けられたファンナの顔は笑顔。眼鏡のお陰で眉間の皺もなく、細めていない目はぱっちりとして輝いている。どうやら見えるようになった目で自由に動き回って戦うことが本当に楽しかったらしい。
「それはよかった。セリナはどう?」
「はい、今までの迷宮探索経験が全く役に立たないくらい順調すぎる探索でした」
セリナの目は「あなたが原因です」と言っているが、決して俺を責めているのではなく、むしろリスペクトを感じる。俺と出会う前に入った迷宮での探索がよほど酷すぎたのだろう。だからもっと早く俺と出会いたかった、みたいな感じ? さすがにそこまでは自惚れすぎか。
「それなら明日以降もやっていけそうだな」
「「はい」」
二人は姉妹で一度顔を見合わせた後、俺に向かっていい笑顔で頷いてくれた。
部屋に戻ってきたのでまずは装備を外して身軽になる。一日戦ってきたので装備を外すと二人の匂いがほんのりと薫ってくる。あんまり人の体臭に何かを思うことはなかったんだけど、二人の匂いだと思うとちょっとムラムラしてしまうのは男の性というものだろうか。思わずむしゃぶりつきたい気持ちを、まだ二日目だからと自分に言い聞かせつつ二人をベッドに座らせる。
「夕食前に簡単に検証を進めておこうと思う」
「「はい」」
「とその前に二人とも足を出して」
「「嫌です」」
「へ?」
検証前に二人の初鍛冶成功記念のミサンガを付けてあげようと思ったのに、物凄い勢いで強固な拒絶をユニゾンでされた。
ホワイ! と思って改めて二人を見ると、ちょっと顔を赤くしながらもじもじと俺から距離を取っている。足先なんかもなるべく俺から離そうとしている?
「あぁ、俺は気にしないぞ。それを言ったら俺だって汗をかいているし、それに二人の匂いはなんだかいい匂いだ」
「あ、あの! 私もご主人様の匂いは好きですが、でもでもあのその……やっぱり恥ずかしいんです」
「ユータ様はそんなことないと信じていますけど、それが理由で嫌われたりとかしたくないので……」
その辺は乙女心ってやつか。さすがにこれをご主人様権限で無理強いするのは申し訳ない。二人も万が一にでも俺に不快な思いをさせて嫌われたくないと思ってくれてのことらしいからここは俺が引くべきなんだろうが……
「「あっ」」
一瞬納得したかのような雰囲気を出した後、緊張が解けた二人に飛び掛かると二人を一緒に抱きしめる。俺の顔の両隣に二人の顔があってぷにぷにで幸せだ。
「うん、ファンナとセリナなら全然嫌じゃない。むしろ落ち着くくらいだ。二人が一生懸命戦ってくれた証を俺が嫌いになることなんてないし、そもそも二人を嫌いになるなんてもう無理だから、あまり気にしすぎないように」
「わ、私もご主人様の……好きです」
「……私も嫌いではないです」
二人が軽くくんくんしているのがちょっとくすぐったいし、ちょっと恥ずかしい。これが女性側だとやっぱりもっと恥ずかしいんだろうな。でもお風呂や石鹸が上流階級のものだという世界だし、気にしたら負けだ。
「よし、じゃあ検証をやってしまおう」
ちょっと名残惜しいが二人を腕の中から解放するとアイテムボックスから糸を取り出してばらばらとベッドの上に置く。
「まずはセリナが昼間にやったみたいに、想いを込めてミサンガを作ってくれ」
「はい」
ちょっと耳先を赤くしながらもいい返事をしたセリナは糸を手に取ると、目を閉じて集中。そして詠唱。
「できました」
「お疲れ様、次はファンナもやってみようか」
「は、はい」
同じようにファンナの鍛冶を見守って無事に完成したミサンガを二つ並べて鑑定。
ミサンガ
ミサンガ
だよな。そうそう簡単にスロット付きが出来る訳はない。二人の想いが足りなかった訳ではない! はずだ。
「ファンナもお疲れ、じゃあ次は二人一緒にやってみよう。一応気持ちは込めずに、むしろ義務的な感じで頼む」
「「はい」」
二人はアイコンタクトで意思疎通をしつつ、ほぼ同時に詠唱を始めるが……やはり詠唱共鳴は起きない。
ミサンガ(空き)
ミサンガ
そして、スロット付きが一つ。これが偶然かどうかは分からないが、二人の間で詠唱共鳴が発生しないのは確定した。
「二人ともMPに問題がなさそうなら、次は同時にもう一度、俺のことを想って鍛冶を頼む」
「は、はい!」
「あぅ……そんなことを面と向かって言われると恥ずかしいです」
ミサンガ
ミサンガ(空き)
俺への好意を隠さず素直に頷いてくれるファンナも、照れながらも真剣にスキルを使用してくれるセリナも、なんと尊み溢れていることよ。そして今回のスキル同時使用でもスロット付きが一つ。これからの経過も見ていかないとわからないが、スキルを同時に使用したときの方が効果は上がっている気がする。
原作のミッちゃんも詠唱破棄が使えたから、《魔法使い》と《遊び人》のスキルを利用して攻撃魔法を重ねて放っていた。もしかしたら、あの時も単発で二発撃つよりも大きなダメージを与えていた可能性がある?
「どうでしたか、ユータ様」
「おそらくだけど、同時に使用した時の方がスロット付きの出来る可能性が高い気がするな
「そうですか、ですがそれはいいことですよね」
「もちろんだ。スロット付きの装備をある程度自分たちで用意できるなら、スキル結晶融合と合わせて簡単に一財産作れるからな。迷宮で素材を調達できるようになれば元手はスキル結晶の購入代金だけだ」
「それは……確かに儲かりそうですね」
ちょっと嬉しそうなセリナに苦笑しつつ、面白いことになったと思う。ちょっと今は材料がないが、同時に作る装備が同じである必要すらなければ高級な装備の作成とミサンガなどの素材が安い装備の作成を同時にやるだけでスロット付きが作れる可能性もあ……るし……あれ? それなら素材を一つ分だけ用意して同時にスキルを使ったら?
いやいや、今日は結構何回もスキルを使ってもらったからさすがに疲れているだろうし、これ以上は今日でなくてもいい。どうせ今は立木しかスキル結晶もないし、二人が作る装備も材料や経験不足で高級品は作成できないだろう。だったらそのうちにというか明日にでも試せばいい。
「二人ともお疲れ様、MPの方は大丈夫か?」
「は、はい。少し減ったかなと思いますが、大丈夫です」
「私も大丈夫です。聞いていた話よりもたくさんスキルが使えるので少し驚いているくらいです」
「ああ、二人の《鍛冶師》のレベルは八まで上がっているし、俺のジョブの効果でMPがかさ上げされているからな」
「……もうレベル八なんですね。ユータ様は本当に規格外です」
自分のレベルを聞いたセリナの呆れた視線を気持ちよく受け止めると出来上がったミサンガと残った糸をアイテムボックスにしまって膝を叩く。
「よし、そろそろお腹が空いた。ご飯を食べに行こう」
「「はい」」
次のメンバーはどんな人?
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