《淫魔》か……おそらくサキュバス的な意味じゃなく、人間族の種族固有ジョブの女性版、だろうな。
《色魔》に対しての《淫魔》……《色魔》は精力増強のパッシブスキルがあったけど、《淫魔》も同じだろうか。女性に精力って言葉はあまり使わない気がするから性欲増強とか?
……いずれにしても人間族だけ固有ジョブが酷すぎるな。もう、そういうものだと諦めているけど、それを別にしても未だに《色魔》が取れないんだよなぁ。なんとなくこれかなという理由は分かっているけど、確かめるのはしばらく先になりそうだ。
それはさておき、ということはこの人、今まさに現在進行形で性欲上昇中なのか……そう考えるとあの大きいお尻が妙にエロく見えてくるな。
いかん、ヨコシマな考えをしている場合じゃない。小さく頭を振って煩悩を振り払うと仲買人の後ろに付いて歩きながら後ろにいる二人に小さく声をかける。
「話も一緒に聞くか?」
「私の方は第一印象で十分です。このまま入札結果の調査に行きますので姉さんを護衛として同席させてあげてください」
「わかった、ファンナはそれでいいか?」
「は、はい。ご主人様をちゃんと護衛します」
ファンナ、気合を入れて胸を張るのはいいが、ばるんばるんして周囲の男たちがぎょっとするので外で防具を着ていないときは暴れさせるのは禁止です。
「では、私は行ってきます」
「なにか問題があれば、一人で解決しようとせず俺のところまで逃げてくること」
俺の言葉に笑顔で頷いたセリナは一人ロビーへと戻っていく。セリナは可愛いから変な男とかに絡まれなければいいんだが。
「おっ、ここが空いてるね。ん? もう一人はどうしたんだい?」
「別の用事を頼んだ。話を聞くだけなら二人で十分だろ」
「違いない。じゃあ、そっちに座っておくれ」
「わかった」
案内された部屋はいかにも応接室という感じで、二人掛けのソファー二つとその間に置かれたローテーブルだけでほぼ一杯になるくらいの小部屋だった。
おそらくもっと大きな部屋もあるのだろうが、今回の用向きとしては少し話をするだけになりそうだからこの一番小さい部屋を選んだということか。
とりあえず勧められるままに椅子に座りファンナも隣に座るように促そうとしたが、ファンナは小さく首を横に振って俺の後ろに立った。護衛として動きやすい場所に陣取りたいのかな。
「さて、あたしは仲買人をしているロレインだ。さっそく簡単にシステムを説明しておこうか。商業ギルドはオークションを基本としたいろいろなモノの売買をおこなっている場所なんだが、基本的には買いについても売りについてもあたしら仲買人を通すことをお勧めしている。あんたたちもいつ出品されるか分からない出物をずっと待っているのは馬鹿らしいだろうし、何かを売るにしたってどうせなら高く売れる時期に売り出せればお得だろ。ここが職場のあたしらならそのタイミングを見逃すことはないからね」
なるほど。うん、原作にいた仲買人と同じようなことを言っているな。ということはここでも仲買人たちは結託して談合を繰り返しているらしい。だからといって俺一人でどうこうできる話じゃないから仕方ないけど。
「なるほど……手数料は?」
「買いでも売りでも一件につき五百ナールが手数料だね。売りの仲介は売却代金からいくらか貰う時もあるがその辺は交渉次第なところもあるね」
「わかった、他にもいくつか聞いてもいいか?」
ロレインはぴったりとした長ズボンに包まれた長い足を綺麗に組み替えると妖艶な笑顔で頷く。
「言ってごらん」
「今後スキル付与に挑戦することを考えているのだが、スキル結晶の最近の相場を教えてくれ」
「へえ……後ろの子かい?」
俺の後ろにいるファンナがドワーフだということはすぐわかるだろう。そしてドワーフを連れた主人がスキル結晶を探すとなれば《鍛冶師》を抱えていると思われるのは必然か。
「さてね」
まあ、バレバレでも認めないけど。
「……へぇ、まあいいさ。で、何が聞きたいんだい」
「そうだな、とりあえずは芋虫、ウサギ、ヤギ、はさみ式食虫植物、それからコボルトあたりだな」
ロレインは胸の谷間から(うぉい!)しっとりと湿気を帯びたパピルスの束を取り出すとぺらぺらと確認していく。
「芋虫は昨日と一昨日に三千百、今日は三千三百。ウサギは昨日三千二百、ヤギは三日前に三千六百、コボルトはこの三日間は二千五百で四枚落札されているね。はさみ式だと最近は出てなくて、直近だと五日前に四千だね」
ん? これは……どういうことだろう。原作よりも全体的に落札価格が低い。スキル付与をするのにはありがたいが、売却するときの値段が安くなるのは困るな。それにコボルトが安すぎる気がするが。
「結晶の出品数はどんな感じだ」
「そうさねぇ、ぼちぼちってところじゃないかい? 十一層までの結晶ならそこそこ出回るね。逆に十二層以降はやっぱり減るね」
はさみ式食虫植物の結晶は十二層以降のフライトラップが落とす。だから他の結晶よりも少し高いのか。当たり前と言えば当たり前だな、十一層までの結晶が多いのも……あ、違う! こっちの世界は原作よりも迷宮が多いんだった。クラタールだけで五つもの迷宮があるんだ、そりゃ結晶のドロップだって多いに決まっている。そういうことか。
「迷宮が多いということはそこに入る者も多い、入る者が多ければドロップも増える、か。それならスキル付きの装備の値段はどうだ?」
「そっちは品薄だね。出てきた物は軒並み高値で売れていくよ。この街は住民、例えば八百屋の奥さんですらスキル付き装備を持っていることも珍しくないからね」
お、これはいい。つまりスキル結晶は迷宮探索者が多いから供給過多、だけどスキルスロットが分からない《鍛冶師》の成功率は原作もこの世界も変わらない。だから迷宮探索者が多くなってもスキル装備の数はそれほど増えない。だから需要ばかりが増えてスキル装備の価値が上がるんだ。これは市販のスキル装備を手に入れにくい代わりにスキル装備を狙って作れる俺たちにはありがたい環境ってことだ。
「ん? コボルトの価格が他に比べて安いのもそれが理由か?」
「そうだね、コボルト自体は倒しやすいからある程度数が出るし、スキル装備自体が足りてないからコボルトなしの装備で十分高値で買い手がつく。だから高値を出してまでコボルトを買おうという人がなかなか集まらなくてね」
オークションだから競り合う人がいなければ価格は上がらないということか。それにコボルトなしでも高値が付くなら失敗したときの損害を考えたら無理にコボルトを使う必要もない、か。
これはますます俺たちにはもってこいの環境だな。原作みたいにコボルト待ちで装備を作れないなんてことはなさそうだ。
「なるほどな。最後にもう一つだけ教えてくれ」
「構わないよ、なんだい」
「最近、立木というスキル結晶を手に入れたんだが、こいつの効果と相場感を教えて欲しい」
「へぇ、随分と珍しいものを手に入れたね」
ロレインはやや大袈裟に驚いて大きな胸を震わせると、再びメモ帳をぱらぱらとめくる。
「お、あった。立木のスキル結晶は武器に使う結晶で動作遅延という効果が付く。こいつは意外と評価が高い効果でね、コボルトを付けて動作半減まで行くとボス戦でもかなり有利になるらしい。結晶単体の出品だと冬の季節まで遡るが直近だと七千だね」
おぉ、これは凄い! ヤギの二倍で売れるのはかなり希少価値があるってことだ。動作遅延の状態異常を付与する効果は正直そこまでか? とは思うが動作遅延系は魔物にかかりやすい状態異常、なんて設定があるかも知れんし、戦闘中に相手の動きが鈍くなるのは戦闘時間が長くなりがちな《魔法使い》のいないパーティーなら……確かに役立つかも知れない。大袈裟に言えば大分劣化版だが『逆オーバーホエルミング』みたいなもの?
「仮に動作半減のついた鋼鉄の剣だったらいくらで売れるかわかるか」
「持ってんのかい?」
「もし成功したらという話だ。値段次第によっては博打をせずに結晶のまま売り出すことも検討するからな」
「なるほどね。動作半減のついた鋼鉄の剣ね…………最低でも二十五万ナールってとこかねぇ。場が盛り上がれば三十万以上もあり得るね」
結構するな。鋼鉄の剣が店売りで一万六千ナール。立木が七千ナール。コボルトが三千としたら一回の挑戦で二万六千ナール。これを十回挑戦すれば二十六万ナールか……だとすると素材と結晶の代金の十倍が相場か? じゃあダマスカス鋼の剣だったら三万二千と一万。四万二千の十倍。四十二万近い値が付く。
魔法主体のうちのパーティーには必須効果じゃないから売ってもいい、これは狙う価値ありだな……ただ、仲買人としてのロレインは駄目だ。目の保養にはなるけど、ムネに頼りすぎ、じゃなくてメモに頼りすぎだし、カルクを持っていないジョブだからいざという時に三割くんが使えない。それにこれからスキル付き装備を何度か売り出す可能性を考えたらもう少し信頼できそうな相手がいい。
「それは凄いな、ダメもとでも狙いたくなる」
「確かにね。ただ、そんなに鍛冶は甘くないらしいけどね」
「もっともだ。いや、参考になった。いろいろ準備と検討をしてまたくることにする」
「おっと、そりゃ残念だね。いい金の匂いがしたんだが。それとは別に……兄さんはなかなか可愛い顔してるし、ちょっとあたしと抜け出さないかい」
席を立って挨拶をする俺にロレインが長い舌で赤い唇を舐めながら艶めかしく指を動かして俺を誘う。あの長い舌が俺のデュランダルを……と考え思わずドキッとしてしまったが、俺の腕がほにょんと柔らかいものに包まれて、そのままぐいぐいと部屋の外へと引っ張られていく。
「だ、ダメです! ご主人様、お話が終わったのなら行きましょう。そろそろあっちの用事も終わる頃です」
さすがドワーフ。まともに掴まれたら逃げられないな。逃げるつもりはないけど。
「そりゃ残念だ。その気になったらいつでも声をかけておいで。あと、次に来た時、誰も指名しなかったらまた別の仲買人が声をかけるかも知れないが、あたしに気を遣う必要はないよ。ここではそういうルールだからね」
「わかった、いろいろ助かった。また機会があればよろしく頼む」
「あいよ」
応接室にロレインを残しロビーへ戻りつつ、腕に捕まっているコアラのようなファンナに一応確認。
「あの仲買人はどうだった?」
それを受けたファンナは一瞬だけぷうと頬を膨らませたが、すぐに大きく息を吐きだすと真剣な顔になった。
「お、お人柄は悪くないのだと思います。ですが、仲買人としての能力には疑問があります。メモをわざわざ胸の間に入れる必要はありませんし、そもそもプロであるなら必要な情報は頭に叩き込んでおくべきだと思います。結局あの人は仲買人という職業の内の何割かを〈女〉に割いているので、いつか大事な場面で大きなミスをする可能性があります」
いや……驚いたな。やはりファンナの感覚は鋭い。視覚という重要な器官にあった問題を諦めずにその他の全部で補おうと努力してきたことが優れた五感であったり、空気を読む力であったり、目に見えない部分から洞察する力に繋がっているのだろう。
「なるほど、ファンナの意見は分かった。セリナはどうだ?」
「え、セリちゃん? いつの間に」
ちょうど調査を終えたセリナもしれっとファンナの後ろにいたので、意見を聞いてみる。
「私の第一印象も姉さんとほとんど同じです。ただし、ユータ様があの人に体を委ねるおつもりがあるのなら、利益を度外視してでもよい取引を斡旋してくれると思います」
「ぶほっ! 凄いこと言うなセリナ。心配しなくても枕営業をするつもりはないよ。仲買人は他にもたくさんいる。なるべく毎日顔を出して、いい仲買人を探しつつ調査結果を蓄積していこう」
「「はい」」
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