とりあえず今日は商業ギルドでの用事は終わりでいい。二人を連れてギルドを出ると時間を確認。お昼を回ったところだし、何か食べてみるか。このクラタール中央広場は人が集まる場所だけあって、いろんな屋台がちょこちょこ出店しているんだよな。
ざっと見た感じだと何かの肉を焼いたものを串に刺して売る店が多いが、原作ミッちゃんが見つけたカルメ焼きのようなものを売っている屋台もあるし、エールや果物を売っている所もあった。
「ちょっと小腹がすいたな。買い食いでもしないか?」
「か、買い食いですか? どういう意味でしょうか」
おっと、買い食いは知らなかったか。なんて説明するかな。
「お店とか屋台で買った物をその近辺で食べてしまうこと、かな」
「えっとつまり、この辺りの屋台で何かを買って食べよう。ということですね」
「正解。という訳で俺はあそこの串焼きが食べてみたい。お金を渡すから三本買ってきてくれ。で、せっかくだから中央迷宮の一階層を登録しておこう。俺が並んでおくから買ったら持ってきてくれ」
「ご、ご主人さま。並ぶなら私が」
「いいからいいから、匂いで余計お腹減ってきたからなるはやで頼むな」
列の最後尾に並ぶと二人に銀貨を三枚渡す。多分銀貨一枚で足りると思うが、値札が読めないから足りないと困る。値段が読めれば俺が買いに行ってもよかったんだけどな。
俺に背中を押された二人はそれならば早く行って帰ってくることを選択したのか小走りで屋台に向かっていった。
そして、無事に双子が買ってきてくれた串焼き肉は美味かった。こっち来てからこれくらいがっつりと肉々しい肉を食べたのは初めてな気がする。大ぶりなのはいいが、やや焼き過ぎて固くなっていて、さらに塩を振り過ぎてちょっとしょっぱいこの串焼きだが不思議と癖になるくらい美味しい。
多分迷宮産の肉を使っていることと、塩をけちっていないからだな。異世界モノの定番だと塩は貴重品だが、この世界だと最弱のコボルトを倒せばいくらでも手に入るお手軽調味料だから味付けにしっかりと使っているんだろう。
「ご、ご主人様、美味しいですね」
「ああ、ちょっとしょっぱいが、迷宮で動き回る人達にとってはこのくらいがちょうどいいんだろうな」
「あの、ユータ様。それはどうしてですか?」
ファンナは串肉を頬張りつつ一生懸命にもむもむしているが、セリナは少しずつかじっていて、質問をする余裕もあるようだ。
「ああ、これは俺のいた国では一般常識だったんだが、汗をかくと体内の塩分も一緒に排出されてしまうんだ。汗をたくさんかいた後に放置しておくと体が粉を吹いたようになるのは汗が乾いて塩分だけが残るから。で、だいたいの生物にとって塩はなくてはならないから運動して消費した分は補充する必要がある。足りない成分を補充するときって体が歓迎するせいかより美味しく感じたりするらしい」
「じ、じゃあたくさん探索して汗だくになってへろへろになれば、このお肉がもっと美味しくなるってことですか!」
美味しいものに貪欲なのか、ファンナが極端な例を挙げてくるが、屋台の串焼きを美味しく食べたいがために無理をされるのは困るからちょっと釘を刺すか。
「う~ん、間違ってないかもだけど、そこまで疲れちゃうとお肉を食べる元気も残ってないだろうし、消化にも悪そうだから食べさせるのはちょっと悩むな」
「わ、私なら食べられます! 大丈夫です!」
ふふふ、一瞬、あ、という顔をしたね、ファンナくん。でもそんな酷使はしないけどね。
「残念だけど、二人がそんなになるような探索はしないし、させないようにするから試す機会はないかな。そんな無茶なことをしなくても美味しい物は食べられるはずだからね」
「あ、ありがとうございますご主人様。でもでも、遠慮はしないでくださいね」
「遠慮とは違うんだけど、でもわかった。頼りたいときはちゃんとお願いするからよろしくな」
「は、はい。お任せください」
この世界に来て初めての行列だったけど、二人と楽しく話しているだけで順調に列が進んで、全然苦にならなかった。これが日本の一部に生息しているリア獣(充)という生き物か。
というバカな一人語りは置いておいて、列が短くなってきて周囲の話を総合すると一人銀貨一枚の入場料金は原作と変わらなかったので、せっかくここまで一緒に並んだけど、今回中に入るのはもちろん俺だけだ。二人には順番が来る前に列から抜けてもらった。
ついでにクラタール中央迷宮の地図が売っているかと思ったけど売っている場所がなかったので、入口の《騎士》に聞いてみると、迷宮が五つもあるせいか騎士団の詰所でまとめて売っているらしい。しかも中央迷宮だけじゃなくて東西南北の地図も最高到達階層付近までは販売されているらしいから値段次第では即購入案件だろう。
しかし、こうなってくると、探索の選択肢が多いうえに地図まであるクラタールを主戦場にした方がいろいろ効率がよさそうに思えてくる。
これはいよいよ引っ越しを考えるべきか。現状、三人で一泊二食に昼パンをつけて一日に四百五十ナール払っている。仮に家賃が年間五万ナールとしたら宿に換算すると百十一日分。一年が三百六十日あるなら借りてしまった方が断然お得。
まあ、食費はかかるし食事も自分たちで作る必要はある。ベッドメーキングとか掃除とかまで全部自分たちでやる必要はあるけど……夜とか周りを気にせずハッスルしたいし、《料理人》や《錬金術師》のジョブ取得にもゆっくりチャレンジしたいというのもある。
あとお風呂!
これはファンナたちの意見も聞いて、例の金物屋の世話役にもう一度話を聞きに行くべきかな。
という訳で、さくっとクラタール中央迷宮一階層に入ってワープ登録を済ませ、すぐに外に出て二人と合流。さっき考えた宿代と家賃の話を相談してみる。
「……確かにそうですね。ずっと宿暮らしはもったいないです。家のことは私と姉さんでできますから前向きに検討してもいいと思います。ユータ様の所持金次第ですが」
「え、えっとご主人様がお家を借りるということですよね。私たちも一緒に住めるならとっても楽しみです! もちろんしっかり働きます!」
「はは、ありがとうファンナ。その時には嫌だと言われても一緒にいてもらうからよろしく。あと、予算の方は一年分支払うのは問題ない。例のスキル結晶を使った装備が高く売れそうだから家具とかも一気に揃えられるはずだ」
商業ギルドで聞いた内容を軽く説明するとセリナは納得したように頷く。
「で、あるなら家を借りた方がいいと思います」
「お、思います!」
「決まりだな、宿の契約があと三泊だからその間にいい場所があれば決めてしまおうか。『ワープ』があるからどの街でも問題はないが、この街はどうだ?」
「そうですね……皇都は治安やお店などで便利ですが、人も多く賃料も高いでしょうし、周辺の街では常設の店舗などが少ないでしょうから、この街で探すというのはいいと思います」
そうなんだよな、この街の店は中心部付近限定にはなるが常設だし種類も多い。迷宮も多いし近いから物価も安めだし、商業ギルドもある。魔物が湧くのだけが問題だが、迷宮にこれだけ人が入っているなら外に発生するのはまれだろうし、俺たちならレベル一の魔物くらい問題じゃない。
問題なのはミッちゃんとニアミスするかも知れないことだけど……彼らが原作準拠の人柄だったらむしろ積極的に交流を持ちたい。
でも仮に横暴な感じのあまり付き合いたくないタイプの場合だってもちろんあるだろう。ミッちゃんが俺より一年も先行していて、真面目に探索を続けているとすれば、メンバー数やレベル的に戦っても絶対勝てない相手。少しでも危険があるのなら、一切かかわらずに他の街に住むのが正解なんだろうな。
でも一つだけ俺にも有利なことがあるのは、相手は俺の存在を知らないこと……だ、ん? あ! だったら俺が『鑑定』されたらまずいじゃないか。この街で外を歩くときはファーストジョブ以外は外しておいたほうがいいな。
慌ててジョブを調整しているうちにちょっと冷静になってきた。
うん、結局俺はどこまでいっても原作のファンなんだ。だったら難しく考えずにやりたいようにやろう。例の物件を見せてもらって、今一つだったら他を探せばいいし、いい物件で双子が気に入るようなら住んでしまえばいいじゃないか。ミッちゃんと出会ってしまったらその時はその時だ。よし、そうしよう。
「わかった。一応二人を迎える前に四区の世話役の人に話を聞いたことがあるんだ、その人にもう一度話を聞きにいってみようか」
「「はい」」
中央広場から世話役のいる金物屋まではすぐだ。ファンナとセリナが新居にいろいろ妄想を膨らませた会話を聞いているうちに到着する。
「あら、この間の兄さんじゃないか」
金物屋の女店主オリータはどうやら俺のことを覚えていたらしく店の中を覗き込んだ俺にすぐに反応を返してきた。
「覚えていてくれたなら話は早い。あれから予定通り仲間を増やせたのでな、前に話していた一戸建てについてもう少し話を聞かせてもらいたくて寄らせてもらった」
「それはそれは、無事にメンバーが確保できて良かったですね、お兄さん」
オリータは俺の後ろにいた二人を不躾な視線で頭のてっぺんから足の先までじろじろと品定めをするかのように見ると一人納得したように頷く。
「うん、ドワーフだから小柄ではあるけど、なかなかいい娘達を手に入れたようですね。大事に使ってあげてください」
……この世界の奴隷制度に文句を言うつもりはない。俺だってその制度を利用して双子を買ったし、これからもメンバーを増やしていくつもりだ。だけど、同時に俺にとっては大事な仲間で戦友で家族で恋人だ。それを関係のない人に【使う】だなんて物みたいに扱われると、正直いらっとする。
それは駄目だろうと思いつつも、我慢できずに思わず言い返そうとした俺の服が両側から引かれる。
「……言われるまでもない。大事な仲間なのでな」
「それはなによりです。あ、例の物件でしたね。まだ空いてますよ、でもどうせなら直接見ながら説明した方がわかりやすいでしょう。今日はこれからお時間大丈夫ですか?」
「時間は問題ない。案内してもらえるなら頼む」
「わかりました。では鍵なんかの準備をしてくるのでこちらで少しお待ちください」
オリータはそう言うと店の奥に消えていく。漏れ聞こえてくる感じでは奥にいた旦那に店番を頼もうとしているらしい。
「ご、ご主人様」
「ユータ様」
「二人とも、止めてくれて助かった。何も言い返してやれなかった情けない主人ですまないな」
思わず言い返しそうになった俺を止めたのは服を引っぱった二人だ。俺の雰囲気が変わったのを察して止めてくれたのだろう。
「ユータ様、さっきの女性の言動は奴隷への対応としてはおかしなものではありません。むしろ奴隷に対してこんなに優しく寄り添ってくれるユータ様の方が珍しいのだと理解してください」
「わ、私たちはご主人様がいてくれるだけで幸せですから」
「……わかった。俺の気持ちを二人が分かってくれているならそれでいい。また何かまずそうなことをしそうなときは止めてくれ」
「「はい」」
見た感じ二人はそこまで気にしていなそうだし、俺の気持ちを理解して嬉しそうにしてくれているならそれでいい。
「お待たせしてすみません。準備ができましたので行きましょう。ちょっと歩くことになりますけど、その代わりまだ新しい建物ですし、大きくて部屋も多い良い物件ですよ」
「そうなんですね、楽しみです。もしこの辺に住むとなると、食材とかが買えるいいお店はありますか?」
「そうですねぇ、パンならこの通りの……」
先頭に立って歩くオリータの話し相手をどうやらセリナが務めてくれるらしい。正直言って助かる。まだちょっと心がささくれていたから、うっかり口調がきつくなったりしたら雰囲気を悪くしてしまったかもしれない。
にぎにぎ
そんな俺の心情を察してくれたのか、並んで歩くファンナが俺の手をにぎにぎしながらにこにこ微笑んでくれている。ああ、癒されるぅ、こんないい娘を所持品扱いするなんて俺には無理無理。
「お兄さん、ここが以前お兄さんの言っていた条件に近い物件ですよ」
「お、おぉ……」
しばらく歩いた後に不意に声を掛けられて視線を向けた先に、原作コミックで描かれてていたあの家と瓜二つの家が建っていた。すげぇ、本当にまんまだ! 家の前の畑を囲う木の柵や、植えられたハーブ系の植物まで全部一緒だ。やっば、もし今あの扉が開こうものならミッちゃんと呼ばれる人物か、もしくは彼のパーティーメンバーが見られる。
と言っても開く訳ないか、基本はワープ移動だろうし。でもまだここに住んでいるなら本当に会えるかも! やばい、ファンナに癒されたメンタルがさらに上昇してきた!
「でも今は家にいない日が多いみたいなことをこの間言っていましたね。なんでも他に拠点があるんだとか? でもこの家は思い出があるからしばらく借り続けるらしいですが」
な! ……上げて落とされた、だと?
次のメンバーはどんな人?
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