「どうぞ、こちらの部屋でおくつろぎください。先ほどの二名の件は村の方で確認させていただき後程ご報告に参ります。お荷物の方も届き次第、家内に届けさせます」
「面倒をかける。ついでと言ってはあれだが、汗をかいて喉がカラカラでな。何か飲むものと体を拭ける準備をお願いしていいか」
「はい、そちらも準備出来次第お持ちするようにします。それでは私はしばらく席をはずさせていただきますので」
いそいそと部屋を出ていく村長は、これから容疑者二名を取り調べるのだろう。鑑定もインテリジェンスカードもファーストジョブを表示するから村長がスキルでカードを出せば二人が盗賊であることは確定する。正直、今回の襲撃との関連性は五分だと思うが、関係がなかったとしてもこの世界では一度盗賊に落ちたことが明るみに出れば……いや、これ以上は俺が考えることじゃないか。
それにしても……必死だったせいか盗賊を斬ったことによるメンタルへのダメージが少ないような気がする。そこまで薄情なつもりも、倫理観壊れているつもりもなかったけど事前に何度も覚悟を決めなおしたし、戦い自体も想定していた流れ通りに進められたのが大きいのかもな。理由はともかくこれはありがたい。
その後、客間と思われるこの四畳ほどの部屋でくつろいでいるとまず、村長の奥さんらしき人が木のコップに入った水と桶に入った水と手ぬぐいを持ってきてくれた。お礼を言って水を一気飲みしておかわりを頼むと、装備していたボーナス装備品をポイントに戻してから新品状態で再召喚して部屋の中に置き、着ていたトレーナーとTシャツを脱いで濡らした手ぬぐいで体を拭いていると、お代わりの水と俺のリュックが届く。簡単に確認した限りはリュックの中身が盗まれたりはしてないようで一安心。これでさらに新しく盗賊追加なんていったら目も当てられない。
そういえば原作だと主人公の服を洗濯してくれたり、この世界の服をくれたりしたんだけど……どうやらそういったサービスはやってないらしかった。
さて、服を着なおしてようやく落ち着いたところで、村長が呼びに来るまでの間、おかわりの水を飲みつつ寝転がりながら今後のことを考えておこう。
まず一つ目、スタート地点が違ったから分かっていたけど、この村はソマーラ村ではなかった。ま、村の周りに柵があったり、キュピコじゃなくてモロコンを育てたりしていたからね。ただ、微妙にニアミスしているところが、原作流用説を補強している気がする。
次に二つ目、ボーナスポイントの割り振り。これはファーストジョブの村人がLv3になったことで二ポイント増えている。これを割り振るのは当然としてボーナス装備たちはどうしようか。今回、盗賊のボスの装備が鋼鉄の剣と硬革シリーズの防具と結構いいものだったからこっちを装備するのもありだと思う。でもボーナス装備の方は効果付きだし安心感があるんだよな。さすがにこの後は迷宮に入るまでは戦闘はないだろうけど……よし、足装備以外は外そう。デュランダルで六十三、頑硬のジャケットで一、技巧のグローブで一。さっきの二ポイントと合わせて六十七余るが、六十三ポイントはデュランダルとか買取額アップやら値引率アップやらでよく使うから余らせておく。四ポイントはいざという時のオーバーホエルミング用にMP回復速度二倍に三ポイント、残りの一ポイントはチャンスがあれば魔法使いジョブを狙うためにMP全解放に入れておく。
そういえばMP全解放は原作WEB小説の設定なんだよな、これが書籍版とかになると等量交換という魔法に変わるんだが、俺にとってはMP全解放の方が都合はいい。なぜならMP全解放ならMP枯渇状態だけ耐えて、すぐにデュランダルでMPを吸収するか強壮丸などのMP回復薬を飲めばいい。これが等量交換になるとMPで相手のHPを削り切れなかった場合は俺自身のHPも削られていくことになるらしくリスクが高い。どっちにしろ一応設定はしたけど実際に使うのは強壮丸を手に入れられてからになるか。
それにはっきりと効果の確認が出来ていないけど、魔法の威力は俺のMP量によって変わるだろうと予測される。だとすると今の俺のMP量で全解放したところで相手を即死させられるかどうかわからない。即死させられなかった時、MPが枯渇した状態で対戦相手と向かい合うのは怖すぎる。枯渇で落ち込みすぎて相手の攻撃を受けてもいいとか考えてしまう可能性がある。
最後に三つ目、これからの動き。まずは明日にでも街に連れて行ってもらって盗賊の懸賞金や装備を売って金策。それから奴隷商、商館だっけ? に行ってパーティメンバーを探す。
多分悲しいことに、血の涙を流したいくらいに悔しいことだが超人的な索敵と回避の達人でばるんばるんな狼人族を紹介されるようなことは無いと思われる。であるならばなんとか原作パーティのような役割を担当できる人材を自分で探し出さなきゃいけない。必要なのは、鍛冶師が最優先、次に索敵ができる人、タンクができる人、遊撃ができる人、魔法が使える人又は遠距離攻撃ができる人。こんな感じの人を自分好みの女性で揃えたい。そしてそれを叶えるためにはきっと大金が必要になる。
自己強化と金策、どっちを優先するかは難しいところだが、最初の一人か二人を早めに仲間に入れられるようにするため金策するのが短期的な目標になるだろう。それまでの自分の身の安全は危険な所に近づかないようにするとかで確保していくしかない。
「ユータ様、よろしいでしょうか」
そんなことを考えていたら部屋の外から村長に声を掛けられたので起き上がって扉を開ける。
「おくつろぎのところすみません。こちらの準備が出来ましたので、確認をお願いします」
「わかった、案内を頼む」
「はい、こちらです」
村長の先導に従って歩くと村長宅の裏にあった納屋に案内される。そこには無数の装備が種類ごとに綺麗に並べられていて、しかも血糊なども拭き取ってくれたらしく見た目は死体から剥ぎ取ったようには見えないのは好印象だ。問題は例の二人が猿ぐつわに加えて手足と体を縛られて転がされていることか。
「装備の方は後程ゆっくり確認して頂くとして、まずはこちらを」
「ああ、インテリジェンスカードだな。何枚あった?」
村長が差し出してきたカードの束を受け取りつつ尋ねる。俺の感覚ではだいたい二十数人分くらいだと思ったが。
「はい、なんと三十一枚もありました。本当にユータ様がいなければこの村はとんでもないことになっていたでしょう」
「たまたま俺がこの近くにいたのも縁というものかもな」
「まさにそれでございます」
俺の適当な返しに村長が嬉しそうに頷くが、その視線が地面に転がっている二人に向くと一転表情が渋くなる。
「それから、こちらの者らですが……カードを確認したところユータ様のおっしゃったとおり《盗賊》に落ちておりました」
「そうか」
「詳しく話を聞いたところ、家出して街に着いたはいいもののお金を稼ぐ術もなく持ち寄った資金も尽きて困っていたところで盗賊に声をかけられたそうでございます。そこでしばらく盗賊の仕事を手伝っていたそうですのでおそらくその時に……」
「なるほど、今回の襲撃に関してはどうだ」
俺の問いかけに村長は肩を落としつつも僅かな怒りを滲ませる。
「はい、この者らの手引きによるものでした。戦況を見て内側から柵を開ける予定だったそうです。もしその時に盗賊たちになだれ込まれていたら多くの村民を失うことになったかと」
やっぱりそうだったかぁ、村長としてはやんちゃして出て行った若い働き手が戻ってきて喜んでいただろうに、カードチェックもせずに快く受け入れたであろう結果がこれでは気持ちも複雑だろうな。
「ソラータ村長、今は村民に被害がなかったことを喜ぶべきだろう」
「はい、おっしゃるとおりです」
「ん、それでこの二人はどうなる」
「そうですな、盗賊ですのでこのまま処刑するのも良いですが……」
歯切れの悪い村長の目がちらりと向いた先を見ると泣き崩れている女性とそれを支える男性が二組。流れから行くと盗賊に落ちた二人の両親か。仲はよくなかったとはいえ、俺自身も両親を置いて勝手に地球から転移してきた身、見逃すのはこの世界的にあり得ないだろうがせめて命くらいは。
「ソラータ村長、彼らを処刑しても盗賊歴も浅く懸賞金もかかっていないだろう。ならば彼らを奴隷に落とすというのはどうだ。それなら家族が買い戻せる余地も残るのではないか」
「おお! なんと慈悲深いお言葉。聞いたかお前たち、生まれ育った村を裏切って滅ぼそうとしたにも拘らずユータ様は更生の機会を与えてくださるそうだ」
重い! 重いよ村長、事実だけど裏切るとか滅ぼすとか言葉の選択が重い。まあ、ご両親らしき人達もどうやら喜んでいるっぽいからまあいいか。
「ユータ様、ただいまこの二人のカードに奴隷身分であることを書き込みました。ちょうど明日、この村の商人が街へ行きますのでそこでこの二人を商館へ売却し、その半額がユータ様の取り分となります。それでよろしいでしょうか」
「構わない、俺は通りすがりのよそ者だからな。村長が決めたことに従おう」
「ありがとうございます。それでは装備の確認をお願いします」
「ああ、そのことだが村長。今ボックスに空きがなくてな、これだけの装備を持っていけないんだ。明日世話になる商人の荷物と一緒に運んでもらえないだろうか」
「なるほど、承知しました。のちほど伝えておきます。装備の確認が済みましたらこちらの者にお声がけください先ほどの部屋までご案内しますので」
「わかった、そのようにしよう」
村長は深々と頭を下げると村民の何人かと一緒に《盗賊》に落ちた二人を連れて行った。牢屋的な所に放り込むのか、家族と最後の別れをさせてあげるのかは分からないが、これ以上この村のことに俺が口を出すのは違うだろう。
それよりだんだんと薄暗くなってきたし、はやいところ戦利品の確認を済ませてしまおう。どれどれ。
鋼鉄の剣(空き)×1
硬革の鎧×1
硬革の帽子×1
硬革のグローブ(空き)×1
硬革の靴×1
鉄の剣×1
革の鎧×5【(空き)有1】
革の帽子×6【(空き)有2】
革のグローブ×8【(空き)有2】
革の靴×5【(空き)有3】
銅の剣×25【(空き)有4】
銅の槍×4【(空き)有1】
皮の帽子×3
皮の鎧×11【(空き)2】
皮のグローブ×2
皮の靴×20【(空き)有5】
サンダルブーツ×5
人数が多かったから装備も大量だ。スキルスロットも一つなら付いている装備もちらほらとある。とはいえ、現状は自分が装備する以外のものは持ち歩けないんだよな。明日行く街に迷宮があればそこで探索者を取得してアイテムボックスを育てられる。あとは早めに宿で部屋を取ればそこに置いていくこともできるか。
ただスキルスロットがあったとしても今は鍛冶師もいないし、皮装備くらいじゃスキルを融合するのはもったいない。だったら皮以下の装備は売却でいい。硬革シリーズは一応キープで、あとは鉄の剣と銅の剣、銅の槍のスロット付き。革防具もスロット付きをいくつかキープしておきたい。でも奴隷を買うと靴が必要になるのか、革の靴とサンダルブーツを五つずつ残しておこうかな。いや、わかっているんだよ? 奴隷を買えるくらいになれば革の靴くらいその都度買えばいいってことは。でも、日本では結構かつかつで生活していたから勿体ないと思っちゃうんだよなぁ。ただでさえ持ち込んだ荷物を背負っているし……迷うな。あ、ちなみに鎧は硬革以外は売る。鎧系はあんまり女性が装備するものじゃないみたいだからね。
「すまないが手伝ってもらえるか」
「いいですよ、村長からも恩人様の要望にお応えするように言われていますので遠慮なく申し付けてください」
「それは助かる。ではこれと、これと……」
俺の検分に立ち会っていた村の青年に礼を言うと、キープしておきたい装備を別に分けておいてもらう。あとは村長に持ち運び出来るような袋をいくつか貰って詰め込んで、商人の馬車が同行している間に宿を確保して荷物を部屋に置いてしまおう。
その部屋を移動するときにはきっと仲間が増えているはずだ。
キープ品
鋼鉄の剣(空き)×1
鉄の剣×1
銅の剣(空き)×1
銅の槍(空き)×1
硬革の鎧×1
硬革の帽子×1
硬革のグローブ(空き)×1
硬革の靴×1
革の帽子(空き)×2
革のグローブ(空き)×2
革の靴×5【(空き)有3】
サンダルブーツ×5