許せん、と言っても今回は別にオリータが悪い訳ではない。俺が勝手に期待して勝手に裏切られた気分になっているだけだ。ん? この間?
「……この間っていつ頃だったか覚えているか?」
「ああ、覚えていますよ。何て言ったって前回お兄さんが帰ったすぐ後でしたから。その家の話をしてすぐに、そこの住人が訪ねてきたんだから面白いこともあるもんだと思ったのを覚えています」
「そ、そうか……会ってみたかったな」
ぐあぁ、マジですか。あの日もう少しあそこで無駄話を続けていたら…………ふぅ、まあいいか。家を借り続けるなら畑の手入れとかもあるだろうし、いつかは見かけることもあるだろう。
それにしても別の拠点か。多分どっかの迷宮を制覇して貴族になる条件を満たして、領地に家でも建てたのかもな。原作と同様のメンバーで、原作と同じくらいのペースで強くなっていれば一年でそのくらいは十分出来るだろう。
「ま、フットワークの軽い子ですから。そのうちばったり出くわすこともあると思いますよ。さ、物件はもう少し先になります」
オリータもレベルが高いだけあって健脚だ。年齢を感じさせないペースで歩いていくので遅れずについていくと、見えてきたのはさっき見た家と外観がどことなく似ているもののそれよりもやや大きめの家だった。
「これが、ご案内する物件になります。実はこの物件は試験的に建てられたもので、例の家に補修に入った職人がいろいろ感銘を受けて建てましたが、まだ一度も入居者は入っていません」
オリータに案内された場所で紹介された物件に思わず、ほぉ、と声が漏れる。新築の上に未使用の家ということか。それはいい。しかもミッちゃん宅の影響を受けているとか気になるポイント満載じゃないか。
「いままで入居者がいなかったのはやはり距離が問題か?」
「そうですね、このくらい中心街から離れてしまいますと《探索者》のパーティーでは頻繁に街へ出るのが面倒に感じるみたいです。これが《冒険者》のいる熟練者になると今度は資金に余裕が出てきて、もっと立地のいい場所を選択するようですね」
「ということは、この家は中心部まで多少離れていても安く広い家に住みたい《探索者》用の家ということか。遮蔽セメントは?」
「どちらにしようか悩んだのですが、《冒険者》でも絨毯などを下げれば対応可能ということで遮蔽セメントを使用しています」
それはありがたい。うちのパーティーが移動するときは『ワープ』を使えばいいから、防犯とかを考えたら遮蔽セメントは必須だ。じゃないと一階は迂闊に窓も開けられなくなってしまう。
「畑として使っていいのはどの辺りまでですか」
「この家の周囲に目印としていくつか杭を打ってありますので、それを結んだ範囲内でしたらお好きに耕して頂いて構いません」
確かによく見てみれば家の周囲四隅に杭があるな。あれが境界だとするなら結構広い庭を確保できる。もし住むことになれば家を囲むように簡単でいいから柵を作るか。
境界を確認した俺とセリナは外で確認することは終わったということを目で確認し、小さく頷く。
「では、中の案内を頼む」
「はい、玄関はこちらです」
オリータは鍵を取り出すと家からは少し出っ張った形になる玄関部分の扉を開ける。開いた扉の向こうからはどことなく新築らしい木の匂いが漂っている。いい感じだ。それに……
「もしかして土足禁止か?」
「よくわかりましたね、お兄さん。これも新しい試みなんです」
「俺の故郷がこの方式だったのでな。玄関と廊下の間に段差があるというのはこの国では珍しいだろう」
「そうなんですよ、でもやってみると家の中が清潔に保てて掃除が楽になると最近広まりつつあるんです」
オリータが三和土で靴を脱いでそのまま上がろうとするので、声をかけて止めるとアイテムボックスを開いて、キープしてあったサンダルブーツを四つ並べて玄関先に並べる。
いつか家を借りたときに土禁にしようと思って盗賊たちから回収したサンダルを残して手入れしておいた。貴重な除菌シートをワンパック使い切って念入りに拭いておいたので新品同様だ。だって俺のハーレムメンバーたちに盗賊が使っていたものをそのまま使わせる訳にはいかないし。じゃあ、新しいの買えよという反論は認めない。だってあの時は無一文だったし!
除菌シートは別に勿体なくはない。どうせ早めに使わないと乾いちゃうだろうし、この世界で生きていくのに除菌とか気にしていたら適応できないと思ったからどのみち早めに使い切る予定だった。持ってきたアイテムの中でいらなかったなと思った物の一つだ。
「二人もここで革の靴を脱いで、サンダルに履き替えて。こうして専用の履物を使うことで家の中を汚さないようにするんだ。まあ、別に裸足でもいいんだが、それは床掃除がしっかりされている場合とか、寒くない季節で足が冷たくないときとかだな」
「それはいいですね。もともと奴隷は裸足で過ごすものなので素足は気にしませんが、主人の住まいを汚すのはあまりよくありません。入口で足を拭かせてもらえるような主人に恵まれればいいのですが、酷いところだとそういった物を用意されなかったため、そのまま家に入った奴隷に家を汚すなと打擲する人もいるそうです」
マジかぁ、裸足で外を歩かせておいてそのまま家に入れれば汚れるのは当たり前だろうに、理不尽にもほどがある。もしかしたら最初にきつく当たって上下関係を印象付けたいのかも知れないが、そんなのは逆効果だろうに。
「すみませんね、私の分まで用意して頂いて。では中にどうぞ」
オリータに続いて中に入って、順次部屋の説明を受けていく。
玄関入ってすぐのところに、物置部屋があり、装備や荷物を置くことが出来る。一階には大き目の部屋が一つ、竈だけは壁側にあるが中央に調理台が置かれたアイランドキッチン風の台所。小さな定食屋くらいはありそうなリビングダイニングと小さいが使用人部屋も一部屋。そしてトイレと……なんと脱衣所と浴室があった。広めの浴室には丸たらいではなく大きな四角い木製の浴槽が備え付けられ、しかもその浴槽には取り外し可能な仕切りがいくつか付いていて、最大三つに分けられるようになっている。さらに、浴室内には小さな小部屋のようなものがあり中に数人が並んで座れる段差が……明らかにこれはサウナを想定している?
「もしかして、この部屋については誰かの意見を参考にしていたりするか?」
「よくわかりましたね。この家を建てるにあたり例のミッちゃんといろいろ話す機会がありまして、面白そうだったので一度建ててみようとなったんですよ。まあこの部屋についてはあまり活用できる人はいないかも知れないと言っていましたが」
やっぱりそうか。玄関といいキッチンといい、そしてこの浴室といいあまりにも俺に、というか日本からの転移者に都合が良すぎた。おそらく貴族となって屋敷を構えることになった彼が、自分の屋敷を建設する前提で試験的に自分の知識に基づいた要望をこの家に反映させたのだろう。
そして中でもこだわりをつぎこんだのがこの浴室だ。原作通りさほど深さはないが、分割すると大、中、小に分かれるこの浴槽、おそらくメンバーが少ないときやお湯を貯めるのが面倒な時など条件に合わせて大きさを変えられるようになっている。しかもサウナスペースがあるということは分割した浴槽をお湯、水に分けて使用することも想定しているはずだ。サウナは……焼き石に水をかけるタイプだ。
もうこんなの、二階を見るまでもなく借りるの決定だろうが! この家がミッちゃんによる転移者ホイホイ的な罠でないことを祈るしかないな。
「あ、あのセリちゃん、ここは何をするお部屋なんでしょう?」
「……多分ですが、水を使う場所だと思われるので洗濯場……にしては広すぎるから、もしかしたら湯浴みをする場所でしょうか?」
「正解だな、おそらくあそこの巨大な桶に水やお湯を貯めて使用するんだろう。どうやって水を貯めるつもりなのかは分からないが」
一応対外的には魔法を使えることは秘密なので、そこは分からないフリをしておく。
「そこは、探索を引退した《魔法使い》を何人か雇えば、とか言っていましたね」
《冒険者》の移動サービスの《魔法使い》版か……多分ありだな。《魔法使い》をどこから連れてくるかという話はあるが、どっかに魔法使いギルドのようなものがあれば依頼を出してMPがなくなる寸前までウォーターウォールやファイヤーウォールを使用してもらうことは可能だろう。そうすると安いものではなくなってしまうからお金持ちの道楽的な設備になってしまうな。
「排水の方はどのようになっているのでしょうか」
「流れた水はこの溝を流れてここの排水口から川まで流れるようになっています。これは隣のトイレに関しても同じです。あとは二階ですが、ご覧になりますか」
「二階は俺だけで見てこよう。二人はこの家で暮らすとしたときに気になる部分があれば今のうちに聞いておいてくれ」
「「はい」」
三人をおいて一人で二階に上がる。別に遮蔽セメントの効果を確認するためじゃないが、二階は部屋だけだろうからぞろぞろ来なくてもいいだろう。
そこそこ広い個室が三部屋に二階のほぼ半分は主寝室か、しかもウォークインクローゼットまで作ってある。地球の時と違ってそんなに着る服もないだろうに。
でも主寝室が広いのはいいな、ここならフルパーティーになっても大丈夫なサイズのベッドを入れても余裕がある。まあ、ミッちゃんが監修していたならそうなるのも当然か。
さて、となるともう借りるという選択肢しかないんだが……一つだけオリータに確認しておかないと駄目だな。
「ご、ご主人様。良いお家ですね」
「あ、ユータ様、二階はどうでしたか?」
「ああ、個室が三部屋と大きな寝室があって問題なかったな。聞きたいことは聞けたか」
「はい、キッチン回りのことを少し詳しくきいておきました」
「そうか、俺からも一つ確認したいのだがいいか」
一階に戻ってきたことに気が付いたファンナたちもどうやらこの家を気に入ったみたいだな。じゃあ、問題は一つだけだ。
「はい、もちろんどうぞ」
「この家を建てるときに意見を聞いたというミッちゃんだが、建築中や完成後にこの家の中に入ったことはあるか?」
「ミッちゃんですか、話は聞きましたけどわざわざ見学には来ていなかったと思いますよ。どこに建てるという話もはっきりとはお伝えしていませんし。どうしてそんなことを?」
「いや、いいんだ。なんとなく気になっただけだ」
「はあ、そうですか」
実際はなんとなくどころの問題じゃないけどな。さすがにそんなことはしないと思うが、もし家の中を見られていたらこの家の中に彼の『ワープ』で出入り自由になってしまう。そう考えると転移者の能力は『鑑定』といい『ワープ』といい、怖い能力ばかりだな。
オリータの答えを信じるならこの家を借りることに問題はなくなる…………ファンナとセリナが期待のこもった目を向けてきているなぁ、それならまあいいか。
「ファンナ、セリナ、どうだ」
「いいと思います」
「わ、私もいいと思います」
「わかった、ではこの家を借りることにしよう」
次のメンバーはどんな人?
-
メイラ 索敵 長身細見長髪クール美女
-
シェリア 索敵 細見陽気軽妙元気少女
-
ロシー タンク 大柄繊細暢気愛され系
-
トモエ 後衛 色白獣耳獣尾クール美女