「お互いに合意が取れたところで本題に入ろうかの、今ここで求めておるのはなんじゃ?」
手を離したオルトスがどこか楽し気に要望を聞いてくる。と言ってもこちらが頼むのはごく一般的なものだけだが。
「欲しいのはスキル結晶で、芋虫、ヤギ、ウサギ、コボルト、この辺りを優先的に複数個」
「ほうほう、身代わりと強権は分かるが……ヤギ、のう。ドワーフに《魔法使い》はなかろうし、お前さんは貴族には見えん。他に仲間がいるのか?」
ぐ、いきなり突っ込まれてるじゃん! そういう顧客の内部事情にはあんまり突っ込まないのがいい商人なんじゃないのか?
「ち、知人からうちの《鍛冶師》を頼って依頼があって断り切れなくてな。結果はどうあれ挑戦したという事実を作っておきたい」
「ほっほ、よいよい。詮索など野暮なことをした、許してくれ。他にはあるかの?」
「今は手元にないが、立木とコボルトで付与したダマスカス鋼の槍がある。高く売ってほしい」
一度任せると決めた以上はとことんだ。まだ付与には成功していないけど、成功するのは間違いない。今のうちに話を振っておいても問題はないはずだ。
「……つくづく儂の直感も捨てたものじゃないのう。このわずかな時間で儂の感情を何度揺さぶる気じゃ? ……だが、なんとも危ういのう。芋虫やウサギを探しているようなお前さんが、希少な『鈍重のダマスカス鋼槍』を自分たちで使わずに売ろうとするとはのう。なんともちぐはぐじゃ。身代わりや強権で守りは固めたいのに攻撃に関してはそんな装備に頼らずとも問題ないということじゃろう。ところが、そこまでの装備を身に着けているようには見えぬからまた面白い」
「あの……詮索はしないのでは?」
「おっと、そうじゃったな。まあ、誰にも言わぬからいいじゃろう。あくまで儂とお主らとの間だけで好奇心を遊ばせているだけじゃ」
推測するのはいいけど、せめて心の中でしてくれ。口に出している推測がほぼほぼ正解していて心臓に悪いったらない。
もうすでにいろいろ隠しきれる自信は全くないが、俺が認めない限りどんなに確信に近いものを持っていても百パーセントにはならない。はず。
「えっと、話を進めますよ。買いに関しては芋虫と兎は三千二百まで、ヤギは三千五百、コボルトは二千五百まで。売りに関しては最低でも四十万以上でお願いしたい」
「ふむ……ほぼ相場通りの設定じゃな。買いに関しては問題ない、出品があれば落としておいてやろう。手数料も規定通り一件につき五百でいい。落札の連絡はどうする?」
「このクラタールに家を借りている、連絡はそちらへ頼む。探索等で不在の場合はメモを入れておいてくれればギルドに顔をだす。住所は……セリナ」
うん、住所忘れた。確かクラタール四区の……二十何番地だっけ?
「はい、住所はクラタール四区の外二十三番地になります」
「ほっほ、外二十三番か。随分と街外れじゃの。ま、そのかわり家は広く、周囲は静かで家賃も安め、悪くないの」
あぁ、もう! いちいちこっちの内情を暴露しなくていいっての。心の中に秘めておいてください。
「売りの方はどうなりますか?」
「おっと、そうじゃの。ふむ、ユータ坊、オークションはどういう時に値が上がるかわかるかの?」
ユータ坊って……まあ海千山千のオルトスからしてみれば坊や扱いもやむなしか。
「そうだな……会場が盛り上がったとき、か」
「そうじゃな。では、会場が盛り上がるときというのはどういうときじゃ」
「それは、人気のある品が出品されたときだろう?」
「ほっほ、そうではない。どんなにいい品が出てもそれを欲しいという者がいなければ会場は盛り上がらん。しかも欲しいと思う者は多ければ多いほどいい」
「あ……確かに」
なるほど、いい品があっても欲しい人が一人しかいないんじゃ値は上がらずあっさりと開始額で終わり。その品を欲しいと思う人が複数いることで初めて入札合戦が始まって会場が盛り上がるのか。
「そこでじゃ、ユータ坊の持ち込む『鈍重のダマスカス鋼槍』に関しては売却額の一割を出品料と儂への報酬として貰おう」
一割か、なんかオークションっていうとそのくらいは手数料で取られるようなイメージがあるから妥当なんじゃないの。でも四十万で売れても四万ナールも持っていかれると考えると惜しくはある。まあ、でも下手に自分でやろうとして原作でいた人みたいに仲買人同士の談合に巻き込まれても困るし、ここは俺たちに損をさせないと言い切ったオルトスを信じることにしよう。
「わかった。それでいい」
「ほ! 剛毅じゃな。もう少し渋るかと思うたが、なにせ本来なら売りも買いも仲買人に支払われるのは一件五百ナールの基本額にせいぜいプラスアルファというところなんじゃからな」
あぁそうか、仲買人は談合して客が設定した最大金額までわざと競り合って高くなった分を懐に入れて報酬をカサ増ししているんだっけか。でもこの人のことだからきっと何か考えがあるのだろうし、ここはごねるのではなく即決で承諾するのが正解だろう。
……それにさっきまでの話の流れから考えれば、なんとなく何をしようとしてくれているのかもわかる。
「その分、高く売れるようにその武器を欲しがるような人をオークションに集める。そういうことだろう?」
「いいぞ、正解じゃ、儂の知り合いの中には自分や知人に良い武器が欲しいと漏らしている者が何人かおる。そ奴らにそれとなく流してやる情報として今回の『鈍重のダマスカス鋼槍』は十分条件を満たしておるでな。めったに出ない武器じゃ、うまく競り合ってくれれば六十以上の値がついてもおかしくないの」
おお、六十! って万だよな! 六十万か! 超えてくれたらいいな。
「わかった。それで頼む。武器は明日ここに持ってくればいいか?」
「そうじゃな。これから各所に連絡するとオークションの出品は三日後がいいじゃろう。春の十三日じゃな」
どうやら俺の転移してきた日が春の一日だったらしいので、転移してからの日数と今年の暦は一致している。
「わかった。よろしく頼む」
「ほっほ、任せておくがよい」
「な、なかなか凄い人でしたね、ご主人様」
「そうだな。だけど商売に関しては文句の付けようもなさそうだし、うまく付き合っていくしかないな」
「そうですね。でも、私たちの警戒がどの程度役に立つかは分かりませんけど、警戒は必要ですよユータ様」
「ああ、分かっている。俺も気を付けるが二人も何か気が付いたら教えてくれ」
「「はい」」
商業ギルドを出た後、雑貨屋と金物屋に寄って買い込んだ品々を抱えながら家に向かう。買ったものは箒が二本、桶の小が三、中が二、大を一。雑巾数枚、小鍋二、中鍋一、大鍋一、包丁二本、まな板二枚と、食器類各種。結構な大荷物になってしまった。
こまごましたものと食器なんかを大きな桶に入れて俺が持ち、残りは双子がうまく分配して持ってくれている。手足が短めの二人はたくさんの物を持つのは難しそうだが、力はあるので重さに関してはなんてことないらしく結構余裕だ。むしろレベルが上がってなかったら俺の方がやばかった。
そして、家の前まで来て思いだす。
「しまった、また『ワープ』を使うのを忘れた」
本当なら全部買い物が終わった段階で、どっかの路地裏から家の玄関にでも『ワープ』すればよかった。確か前もあったなそんなこと。まだ十日余りじゃ便利な魔法も使いこなせなくても仕方ないと思おう。ちょっとの距離なら歩いて移動する元の世界での癖がなかなか抜けないらしい。
「で、でもご主人様とお話ししながら歩くの私は好きですよ」
「そうか? そういう意味なら俺も好きだから全然いいんだけどな。これから掃除をしたりするのに体力は温存しとけばよかったなって」
「多少広くても新しいおうちですし、そんなに手間はかからないから大丈夫ですよ、ユータ様」
「はい、任せてください」
うん、二人が頼もしすぎる。必要に迫られて一通り家事はしていたが、あんまり好きではなかった俺としては存分に頼らせてもらおう。桶ごと荷物を置くと家の鍵を取り出し、鍵を開け、扉を開く。
「よろしく頼むな。っと、玄関に荷物を置いたらまた靴をサンダルに履き替えてくれ」
「「はい」」
先に二人に中へ入ってもらう。内見のときに使ったサンダルは玄関先に並べて置いてあるから革の靴を脱いで履き替えてもらう。オリータに貸したサンダルもちゃんと回収して、客用として置いてある。今のところ誰も招くような人はいないけどね。
中に入ると買ってきた物はほとんど台所で使うものなので奥の部屋へと運ぶが、家具が搬入されるこの部屋と二階の寝室の掃除が優先なので荷物は使用人室の方へと移動しておく。なんだかこの部屋も物置部屋と化しそうな予感。いつか家の中を任せられるような奴隷を買えるほど余裕が出ればいいけど。
早速掃除をと行きたいところだが、買ってきた串焼き肉と海猫亭のパンで昼食にする。パンを上下に二分して間に串から抜いた肉を挟んでサンドイッチにして食べる。こうすれば串肉のたれもパンに染み込むし、元の世界よりやや味気ないこの世界のパンも美味しく頂ける。
「ご、ご主人様! これ美味しいです!」
「パンに挟むだけでこんなに贅沢な食べ物みたいになるなんて」
どうやら二人も気に入ってくれたらしい。サンドイッチのポテンシャルはこんなものじゃないから今後も機会があればいろんなサンドイッチに挑戦してみるのもよさそうだ。
皆で床に座り込んで楽しく昼食を終えた後は、しばしの食休みを挟んでさっそく掃除を始めよう。
「よし、そうしたら二階の奥を寝室にするから、その部屋とこの部屋を優先的に掃除しよう。二人は手分けして掃き掃除からかかってくれ。俺は桶を浴室に持っていって水を汲んでおく。あ、そういえば水を溜めておく甕みたいなものも必要か?」
「あ、そうでしたね。最低でも大き目の物が台所に一つ、中くらいの物がおトイレに一つ必要でした」
水をある程度貯水するならもっといるよな。サウナを使うなら小壺と柄杓もいるし、配達してもらった方がいいか。
「わかった、じゃあ風呂場で水を汲んだら俺が注文してくる。住所は四区の外二十三番だったな」
さすがにさっき聞いたばかりだから忘れてないぜ。
「で、でもご主人様の護衛が」
「あぁ、そっか、でも大丈夫。家具屋に絨毯が掛けてあったからそこへ跳んで、甕屋はその隣だかに見た気がするから。注文したらまた『ワープ』で帰ってくる」
「は、はい。わかりました。本当に気を付けてくださいね」
「大丈夫。お前のご主人様はこう見えても意外と強いからな」
「ふふっ、それは知ってます」
出がけにファンナとそんな話をしたことがフラグになることもなく、無事に何事もなく水甕を発注できた。大を台所に一つ、風呂場に三つ、中をトイレに一つ、予備に一つ、後は小を五つほど、木の蓋もセット。水を汲みだすようの柄杓は小甕、大中の甕には手桶をサービスで付けてくれたのでどこでも使える。
小甕はサウナに一つ使う以外は特に用途は考えていないが、あれば何かに使うだろう、寝室での水分補給とかね。
在庫はあるとのことで今日、これから届けてくれるので家具と一緒に搬入できるのは助かる。
家に戻ると仕事の早い双子はそれぞれ担当した部屋の掃き掃除と拭き掃除を終えたところで、すでに他のスペースの掃除に取り掛かっていた。
「ユータ様、お帰りなさい」
「ご、ご主人様、お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「水甕は買えましたか?」
「ああ、在庫もあったから今日中に届けてもらえることになった。届いたらひとまず風呂場にいれてしまおう」
「そうですね、わかりました」
時間を見ると十五時半といったところ。搬入は夕方ということだったので、そろそろいつ到着してもおかしくない。
「さ、もうすぐ家具が届きそうだから残りの掃除を済ませてしまおう。と言っても他の部屋はしばらく使わないだろうし急がなくていい。今日のところは軽く掃き掃除だけでもいいだろう」
「はい、本格的な掃除は引っ越した後に改めてやります」
俺の言いたいことを理解してくれたらしいセリナも素直に了承してくれた。住むようになれば掃除はいつでもできる。俺一人ならサボるための論理になり兼ねないが、ファンナとセリナならそんなことにはならない。
「じゃあ、姉さん。今度は私が二階をやるから、一階をお願い」
「う、うん。わかった」
二人は打ち合わせをささっと済ませるとすぐに行動に移る。小柄な体格のせいもあってちょこまかと動き回る姿は見ているだけで可愛くて癒される。ん? お前はなにしているのかだって? 箒が二本しかなかったからファンナの動線を確保するために扉を開けてあげたり、閉めてあげたり?
いやいや、自分でもかえって邪魔してるなぁとは思うけどファンナが驚くほど、ににこにこして機嫌が良さそうに掃除しているから、多分正解だと思う。
今にも回りだしそうなファンナを眼福とばかりに眺めていた俺の耳にガタゴトと荷車を引く音が聞こえてきたので開け放っていた窓から外を見ると、何台かに連なった荷車がこの家へと向かってきていた。
「お、来たみたいだ。ファンナ、セリナを呼んできてくれ、外で出迎えよう」
「は、はい!」
なんか読み返していたら日数の計算がいろいろずれてました。
確認して、過去投稿分も微調整で少しずつ直しましたが、話の大筋は変わらないので読み返す必要はないと思います。
一応説明すると、双子を買うまでの日数が一日多かったみたいです。
当初転移八日目に購入→実際は七日目に購入です。
転移二日目が市の日で、3,4,5,6,7日目が五日後なので。
主な調整部分としては
①16話の二日分の探索を一日にまとめた。
②宿の精算がなくなり延長プラス部屋替えだけになった。
くらいだと思います。
次のメンバーはどんな人?
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メイラ 索敵 長身細見長髪クール美女
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シェリア 索敵 細見陽気軽妙元気少女
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ロシー タンク 大柄繊細暢気愛され系
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トモエ 後衛 色白獣耳獣尾クール美女