目が覚めると、無意識に両サイドにぬくもりを探すように両手が動く。その手はすぐに人肌にぶつかり小さくて柔らかい手に包まれる。それから俺の腕がもっちりふわふわな極上のクッションに挟まれ、両側から体全体にぬくもりが覆いかぶさってくる。
「お、おはようございます。ご主人様」
優しい声掛けと共に唇が吸われ舌が絡められると、それがすっと離れ、追いかけるように顎を上げる。
「おはようございます。ユータ様」
その顎を押さえつけるように再び柔らかなものに口を塞がれ、にゅるんと舌が絡めとられる。
そんな至福の時間を過ごしていると、ようやく俺の意識がはっきりと覚醒していく。是非この流れを朝のルーティンにしたい。
「おはよう、ファンナ、セリナ」
昨日は探索したり、ギルドで豪商と話したり、クラタールの家を掃除したり、お風呂エッチをしたりしたこともあり、宿でご飯を食べたらすぐに寝てしまったが、これはこれでゆっくりと眠ることができたのでよし。
「今、何時だ」
「え、えっと……セリちゃん」
「はいはい、どうぞ。眼鏡と腕時計」
「ありがとう、セリちゃん。えっと、まだ六時を回ったところです」
おっと、早めに寝たせいか、いつもより大分早く起きたな。いっそこのまま二人と一戦交えてもいいが……せっかく昨日入浴したからな。今日はこのまま動き出そう。
「よし、俺たちが動き出すにはちょっと早いが街はもう起きだす時間だ。食事の前にやってもらいたいこともあるし、まずは着替えようか」
「「はい」」
いつもの通り、二人の流れるような連携で着替えを終えた俺たちはベッドの上に置かれたダマスカス鋼の槍、そして立木とコボルトのスキル結晶を三人で囲んでいた。
「二人のジョブは《鍛冶師》に戻してある。いずれ結晶が手に入れば二人には何度も融合をお願いすることになるから、早いか遅いかの違いだが、最初はどっちがやる?」
「「……」」
二人は顔を見合わせて不安げに目を揺らす。この世界の《鍛冶師》の実情を考えればやむを得ないが俺が指示する限り、二人が失敗するとすればMP不足でスキルが発動しなかったときくらいのものだ。
「この前も言ったが、俺には装備品のスキルスロットが見える。この槍には間違いなく空きスロットが一つあるから、絶対に成功する。ただ、MPは消耗するからちょっとしんどい思いはするかも知れないけどな」
一応俺のジョブは《騎士》と《探索者》を入れ替えて、ファーストに《探索者》を持ってきた以外は風呂汲みの時とほぼ同じにしてある。また双子に怒られたくないのでアイテムボックスを空にするのは自粛だ。
スキルは俺のMP回復速度が不要になる分でボーナス頭装備六を準備している。
聖帽ぺタソス
知力上昇二倍 使用MP減少(大) 魔法効果増(大) 魔法耐性無視 ディレイ無視 MP回復速度五倍
多分これさえ装備しておけば鬱にならない可能性すらある。だって消費MP減少(大)にMP回復速度が五倍になるとかチートもいいところだ。だけど聖剣デュランダルの頭装備版ともなれば納得の性能だろう。
ちなみにボーナス装備六は全て名前に【聖】が付くチート装備だ。いつか全身をボーナス装備六で揃えられたら、多分一人で迷宮主を倒せるかも知れない? さすがに無理か。
「私がやります。これでも《鍛冶師》になりたいと思っていたので、ここで怖気づいている場合じゃないです」
「よし、じゃあセリナに任せよう。ファンナもそれでいいか」
「は、はい。セリちゃん頑張って! ずっと《鍛冶師》になりたかったんだもん、できるよ」
きっとファンナだってドワーフ族に生まれた以上、《鍛冶師》にはなりたかったはずだ。でも、目が悪くて何度もいろんなことを失敗しているうちに自然と諦めていったんだろう。だけど、これからは諦めなきゃいけないものなんてないってことを徐々に理解していってほしい。あ、奴隷から解放されて自由になりたいとかはちょっと困るが。
「呪文はわかるか?」
セリナに確認しつつ、昨日風呂で洗ってちょっとさら髪になった頭に聖帽ぺタソスを乗せる。
「はい、練習は欠かしていません。すぅ……はぁ……いきます」
【今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、スキル結晶融合】
朗々と謳うように唱えた呪文に反応した槍と結晶がまばゆい光を放ち……そして、一本の槍が残る。
鈍重のダマスカス鋼槍 (動作半減)
成功だ。セリナの体調はどうだ? 一応すぐに飲ませられるように強壮丸の準備はしてあるが……
「気分はどうだ? 落ち込んでないか」
「……はい、ちょっと倦怠感はありますが、だんだん良くなっている気がします」
うん、さすがの聖帽。口移しで薬を飲ませられなかったのはちょっと残念だけどな。
「よかった。ほら、見てみろこれが【鈍重のダマスカス鋼槍】で動作半減というスキルが付いた相手の動きを遅くするスキル装備だ」
「う、あ……はぃ……はい! 私でも出来ました。ありがとうございます、ユータ様」
スロットさえあれば《鍛冶師》なら誰でも成功するんだけど、喜んでいるセリナにそんなこと言うのは野暮ってもんだ。今までのセリナの努力があったからこその結果であることは間違いないからな。
「これで、オルトスに槍を売ってもらうことができる。ありがとう、セリナ」
「はい、またいつでも頑張ります!」
「つ、次は私の番だからね、セリちゃん!」
「そうでした。次は頼むわね、姉さん」
「うん! 私も頑張るよ」
うん、良き、良き。
「じゃあ、落ち着いたら朝食を食べに行こう。この宿も明日の朝食までだからしっかり味わっておこう。あぁでも、自分たちで用意するのが面倒くさいときは食事だけしにくるのもありかもな」
「えっと、私たちは特に面倒くさいとかはありませんが、いつも同じような料理になってしまうのも申し訳ないので、ユータ様はいろいろな所で食事をされて私たちに教えて頂ければと思います」
「いやいや、一人で食べたって美味しさ半減だし、味なんて人から聞いてもよく伝わらないだろ。それなら、一緒に行けば全てが解決するんだから俺一人でとか寂しいこと言わないように」
「あ……はい、ありがとうございます」
奴隷になってしまうハードルが低いこの世界では、奴隷になってしまうことは珍しいことではなく、むしろよくあることで誰にでも起こり得ることとして認識されている。
それは奴隷になったときに、「奴隷とは」として教え込まれたことを受け入れるための下地がすでにあるということで、教えられたことを抵抗なく当たり前のこととして受け入れてしまう。だから、それを払拭するというのはなかなか難しい。
なんと言えばいいのか……この世界では奴隷制度がかっちり社会にハマっている? そんな感じだ。まあ、俺の奴隷たちに関してはこれからゆっくりとその固定観念を解きほぐしてあげる予定だ。もちろん心だけではなく体もほぐしまくりますが。
朝食後、装備を身に着けると、宿の女将に予定通り明日の朝で宿を出て延泊をしないことを伝えて宿を出る。女将さんは残念がってくれていたが、また食事だけは来るかもと伝えたら、いつでもおいでと言ってくれた。
「さて、今日は探索の前に引っ越しの挨拶をしておきたいところがあるから先に回っておこうと思う」
「あ、挨拶ですか?」
「ああ、と言っても友達って訳でもない。まあ、商売の相手方みたいなものだけどな」
「もしかして、商館ですか?」
「お、セリナ正解。二人を買った商館には今後の探索に役立つ能力がありそうな奴隷が入ったら教えてほしいとお願いしてある。連絡先を教えておかないとな」
新しい奴隷と聞いて一瞬だけ二人に緊張が走る。俺が新しい奴隷を気に入ったら二人をないがしろにするとでも思ったのだろうか。そんなことはあり得ないぞ。
俺が安心させるように二人の頭をぽんぽんと優しく叩くと、すぐに安心できたのか緊張感は無事解消されたようだ。
「迷宮で稼ぐにはもっと上の階に行く必要があるし、そのためにはパーティーを集めないとな。心配しなくても二人とうまくやっていけない人を選ぶつもりはないから安心していい。それにまだ低階層でメンバーも足りているし、槍が売れないとお金もないからすぐにということは無いと思うが……うちのパーティーに必要だと思ったら見逃すつもりはない。俺が二人と出会ったときみたいに、な」
二人との出会いも俺はとても大事にしていることをちゃんと伝えておく。すると二人はこくこくと頷くが、耳が少し赤いのでどうやら照れているらしい。
「よし、じゃあ『ワープ』で商館の横までいくぞ」
『ワープ』で移動して四日ぶり? の商館へ到着。今度は入口でもたつかないようにスマートにノックをする。すると、待ち構えていたのかと思うほどのタイミングで開いた扉から万能秘書風のサーベスが顔を出す。
「これはユータ様、いかがなさいました? 当店で販売した奴隷に不備でも?」
「とんでもない! 二人は値段以上によく働いてくれている」
後ろでこそこそと二人で喜んでいる声が聞こえるが、今はいちゃついている場合ではないのでスルー。
「では、新しい奴隷をお求めですか?」
「さすがに数日では手持ちがない。もっとも全くアテがない訳でもないがな」
「ほう、たった数日で……さすがでございますね。主人アレクの見る目は正しかったようです」
「迷宮探索者たるもの舐められないようにハッタリをかましているのかも知れんぞ」
「それならそれで、ですよ。相手に本当だと思わせればその者の勝ちでございましょう?」
「なるほど、違いない。だが、今日は商談をしに来たわけではなくてな。宿を引き払って家を借りることにしたのでその挨拶だ」
サーベスとの気の置けないやり取りも嫌いではないが、さすがに店の入口でいつまでもやるものでもない。引っ越し先だけを伝えられれば目的は達せられる。
「そうでございましたか、すみません。こんなところで話し込んでしまって、今日は今のところ来客の予定もありません。どうぞお入りください」
「そうか? では少しだけお邪魔させてもらおう」
サーベスに案内された部屋は二人を買った時と同じ部屋のようだ。二人もわずか数日でも懐かしいのか、きょろきょろと室内を見回している。ていうかファンナは、ずっと眼鏡なしだったから、はっきり見える状態でこの部屋にくるのは初めてか。じゃあ仕方ない、好きに見回すがいい。怒られることはないだろう。
「お待たせしましたユータ様」
「すまないな、呼び出したみたいになって」
「いえ、問題ありません。この時間は来客予定さえなければ比較的に空いている時間ですから」
俺が座ると同時くらいに入ってきたナイスミドルダンディ奴隷商人アレクが颯爽と入室してくる。なんというか一つ一つの動作がサマになる男だ。羨ましい。
「今日は家を借りたのでその報告にな。新しい奴隷に関してはすぐに買える訳ではないが、いい奴隷が入った時に知らないまま機会を逃すのは惜しい。連絡先くらいは教えておいた方がいいだろうと引っ越しの挨拶を兼ねて寄らせてもらった。手土産は忘れてしまったがな」
「それはそれは、当店の奴隷にご期待頂いているということですね。これは当店も期待を裏切らぬよう良い商売を心掛けなければなりませんね」
「以前も言ったが感覚の鋭い者を頼む。嗅覚、聴覚、視覚、直感力、気配察知能力だな。それに」
「見目麗しい女性ならさらに最高、でしたね」
俺は笑って頷く。数日前に伝えていた俺の条件を正しく覚えていたらしい。さすがだな、アレクん。
「引っ越し先は案内中にセリナからサーベスに伝えておいた」
「はい、伺っております。クラタールならば連絡は取りやすいですので条件に合う者が入りましたら一度ご連絡させていただきます」
「よろしく頼む」
さて、用事は済んだしそろそろと席を立とうとした俺をアレクが視線で止めたような気がして、ゆっくりと座りなおす。その気配をアレクも察したのか躊躇いつつも口を開く。
「……実は他の街から買い取りを打診されている者がいます。まだ交渉中ですし、買い取ったとしても各種教育もまだですのですぐにお売りできる訳ではないのです。それに奴隷になった経緯も現状は濁されていまして、詳細も不明です。ただ、外見は美しく、引き締まった細身の身体、性奴隷を了承した処女であることは間違いなさそうです」
「なるほど……だが、そのわかっている条件だけなら他にも候補はいるだろう? まだ買い取ってもいないその奴隷を俺に薦めようとしているのは何故だ」
結局その奴隷について判明しているのは容姿が優れていて、性奴隷となることを了承しているということだけ。それだけならこの商館だけでも対象の奴隷はいくらでもいる。俺に勧めようと思ったのはもう一つなにか気になることがあったはずだ。
「そうですね……考えてみればいろいろ思うところはあるのですが、奴隷を扱う商売をしてきた私の直感、でしょうか。この話を聞いたときにユータ様のことが思い浮かんだのです。数日前に会った人をたまたま思い出すということもあるでしょう。ですが、この商売をしていくにあたってこういうことがあったときは無視しないと決めているのですよ」
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